37
夏休みの最後の日だった。
今日は去年と同じように家でのんびりする日。
昼間で寝て、漫画とか小説読んで、だらだらする。
そんな予定だった。
「いっくんっ! おはようございますっ!」
スマートフォンから聞こえるたまこの声。
元気でとっても明るい感じ。
きっと充実した夏休みだったんだろうなって分かった。
「どうかしたの?」
ちょっと声が寝起きな感じだった。
なんだか油断してたから。
「今日は部活は休みですか?」
「そうだよ」
「えっとお願いがあるんですけど」
「大変なことじゃなければいいけど……」
そうは言ったけれど、だいたいのお願いなら聞いてあげたいって思った。
たまこのお願いパワーは強い気がする。
「文化祭の出し物のことで来れる人を集めてるみたいで」
何だか言いづらそうな感じだった。
それに来れる人を集めてるって……。
私が想定してることより大変なことかもしれない。
でもまだ何をするか決まってないんだよね……。
少なくとも私はまだ知らなかった。
準備自体も始業式が始まってからだと思うし……。
「たまこも行くんだよね?」
「はいっ!」
「部活で疲れてないの?」
ちょっと聞くだけでも料理部の活躍は凄いものだった。
どの部活からも感謝の声しかない。
きっと今一番学校に貢献してる人達に間違いないって思った。
「部活の合宿は中頃で終わりましたから、最後の方はのんびりしてました」
「そうなんだね。でも疲れたでしょ?」
「疲れたけど楽しかったですっ!」
「本当にそうみたいだね」
私はたまに見かけた。
忙しく走り回ってる姿が多かった。
私はその姿を見守ってただけ。
だからあんまり話とかはしなかった。
「はいっ!」
話しているとたまこと会いたくなる。
だから行こうって決めた。
明日は始業式。
そこで絶対に会える。
でも1日早く会うのも良さそうって思った。
「私も学校に行くから、またね」
「はいっ!」
私は着替えてお母さんに報告する。
何があるのかちょっと心配。
でも楽しみだなって思った。
……
…………
………………
教室には思ったよりもたくさんの人がいた。
雰囲気的には急に集められた感じ。
私も今日のたまこの電話で聞いたぐらいだし。
でも先生はいない。
だからきっと委員長が主体でみんなを集めたんだって分かった。
「おはよう」
私はたまこに話しかける。
なんだか懐かしい感じがした。
「おはようございますっ!」
たまこの笑顔もこうやって近くで見るのは久しぶり。
なんだかほっとした気分になる。
「今日は何でみんな集められたのか知ってる?」
私の質問。
学校に来る途中に考えてた。
でも全然思いつかなかった。
「たまこも全然知らないです」
たまこも私と同じみたい。
顔をふるふるって振って言った。
「そうなんだね」
「もうすぐ委員長に教えてもらえると思いますっ!」
「文化祭の出し物のことなんだろうけど……」
私がそんなことを言った時だった。
教室の前の方で数人と話してた委員長。
ふとこちらの方を見た。
目があった。
ちょっとの時間だけど。
はっきりと。
「こっちを見てましたね」
「うん。何だろうね」
たまたまかもしれない。
何か私に用事があるのかもしれない。
たまこに用事ってこともある。
「そういえばいっくんはクラスの方もできるんですか?」
「そのつもりだよ」
とりあえず小説も最後まで書ききった。
今はカナとアイコに読んでもらってる。
それから意見を聞いて、書き直したり、書き足したり……そんな感じ。
だから今年はクラスの方も頑張りたいって思ってる。
そっちの方が絶対に楽しいはずだから。
「たまこもクラスの方もやりますっ!」
とっても張り切った声だった。
やるぞっていう気持ちが凄く伝わってくる。
「でも美香ちゃんは厳しいっぽいですね」
「何だか大変そうだもんね」
今日も来てないみたいだし……。
「美香ちゃん熱出したみたいです」
「そうなんだ。頑張りすぎたせいかな?」
「みたいですね。それがなければ今日は来るつもりだったみたいです」
「美香がね……」
やっぱり随分と変わったなって思う。
それもとってもいい感じに。
きっと私も同じなんだろう。
入学したての頃は他人が怖かった。
でも今はそうじゃない。
……後で美香にメッセージを送ろうって思った。
喜ぶかどうかは微妙だけど。
でもそうしたいって感じになってる。
藍姫さんも教室にいなかった。
メッセージを送ってみるとすぐに返事がきた。
漫画研究部で約束があったみたい。
夏休みの最後の日にみんなで遊園地とかカラオケとか。
アイコもちゃんと参加してるみたいでほっとした気分になった。
「みなさん、おはようございます」
そして私が教室に入って5分ぐらい。
委員長が前に立ってみんなに言う。
雑談してた人も椅子に座る。
授業とかじゃないからそれぞれ好きな席にって感じ。
私もたまこの横の席に座った。
クラスの7割ぐらいの人が教室にいる。
とっても高い参加率って思った。
それだけクラスの雰囲気がいい証拠。
「急な連絡でも来てくれてありがとうございます」
まず委員長がお礼を言ってくれた。
「先日に委員長会議で文化祭の出し物について話し合いがありました」
文化祭の出し物はまず各クラスで希望をとる。
それで委員長が会議に持っていく。
問題がなければそれをすることになる。
でも出し物自体に問題がある場合は他のをしなくちゃいけない。
でもこれで変わることはあんまりない。
多いのは他のクラスで被ること。
その時は話し合いとかじゃんけんとか生徒会が決めて決定するみたい。
「うちのクラスの第一希望は執事喫茶なんですけど……」
きっと他のクラスと被ったんだなって思った。
定番といえば定番の出し物だから。
「2年の他のクラスも第一希望にしてるところがありました」
予想通りだった。
でもみんなが予想してたって思う。
だからあんまり自慢にはならない。
「それで生徒会長が……」
生徒会長。
去年の私達のクラスの委員長。
「クラスの代表を2人出して似合ってる方を優先させるって……」
これにはみんな驚いた感じだった。
私もちょっとびっくり。
そんな感じで出し物のクラスを決めるのは予想外。
「生徒会室で今日の昼に行うそうです」
しかも今日の昼っ!
でも明日からは準備に入るから当たり前といえば当たり前か……。
「審査委員は生徒会長、副会長、会計の3人がするそうです」
「なんだか大変な感じになりましたね……」
「そうだね」
というか生徒会長にそんな遊び心っていうかいたずらごころがあるって知らなかった。
なんだかすっごく真面目っていうイメージだった。
でもちょっと違うのかもしれない。
「執事服は生徒会が準備するそうです」
言いながら委員長はみんなを見回す。
とっても真剣な表情。
なんだかここからが本番って感じがした。
「それで代表を3人決めたいと思うんですけど誰かやってくれる人はいませんか?」
「やってもいいよっ!」
そう言ってビシって手を上げたのは亜里沙だった。
「っていうかやりたいっ!」
とっても笑顔でいう。
そういえば亜里沙が1番のりのりだったなって思い出す。
軽音部に入ってるから目立つのとか好きなのかもしれない。
それに亜里沙は執事服とかすっごく似合うんだろうって思う。
「ありがとうございます」
委員長は凄くほっとした顔をした。
誰も出ずにしーんとなるのが1番嫌だったんだろうって分かった。
「他にやってくれる人はいませんか?」
でもさすがに亜里沙みたいな人はいないみたいだった。
誰も手をあげなくてちょっと教室が静かになる。
「誰もいない場合は私が……」
そんな空気の中、委員長が言う。
「代表として行きたいと思います。私で勝てるかは不安ですけど……」
本当に不安そうな声と表情だった。
委員長はそういうのが得意じゃない。
しかもそれにクラスの出し物のがかかってる。
きっと委員長としての責任で言ってるんだって分かった。
生徒会長ならそうならないように根回しとかしてただろうなって思った。
その点、委員長は真面目で真っ直ぐ。
優秀なのは生徒会長だって分かる。
でも委員長のやり方も好きだなって思った。
「他薦したい人がいるけどいいかな?」
亜里沙がまた手を上げていった。
「すっごく似合いそうな人がいるんだけどっ!」
それって誰だろう。
でもすぐに手を上げた亜里沙の推薦。
きっとその人に決まるだろうって思った。
執事喫茶をやりたいってわけじゃない。
でも頑張って欲しい。
そう思ってると……
「いっくんっ! 見てますよっ!」
小声でたまこが言った。
それで私は気がついた。
亜里沙がこっちを見てることに。
「いつきなんてどうかなっ!」
えっっっっ!
私は思わず出そうになった声を飲み込んだ。
「いつきはそういうのすっごく似合いそうな気がするんだけどっ!」
その言葉に教室がざわざわって感じになる。
「ボーイッシュだしいけるかもね」
「見てみたいしね」
「この2人なら勝てそうっ!」
「はいっ! みんな騒がないでっ!」
委員長が言う。
「私もいつきさんが似合うかもって思ってたけど……」
だからあの時に私を見てたんだなって分かった。
「でもいつきさんはどうでしょうか? いつきさんが駄目なら……」
「大丈夫だって思う」
私は言った。
前なら絶対に断ってたって思う。
でも私はもう前じゃないから。
それにできるだけクラスの出し物に協力したいって思ってたし。
「私で大丈夫かは不安だけど……」
「いつきなら大丈夫だって思うなー」
そう笑顔で言ったのはうっちーだった。
「そうですよっ! 大丈夫ですよっ!」
たまこも大丈夫って言ってくれる。
「私がきっちり着せてあげるからっ!」
そう言ったのは前川さん。
「アタシとぱーっと行ってちゃちゃっと決めて来ようっ!」
自信満々に亜里沙が言う。
みんなが応援してくれる。
クラスのために頑張れる。
なんだかとってのやろぞっていう気持ちになってた。
これなら大丈夫だろうって分かった。
……
…………
………………
「負けちゃったね」
私は言った。
もう執事服から制服に着替えてる。
「あれは反則だよなー」
亜里沙が言った。
意気揚々と生徒会に行ったけど、とぼとぼと教室に戻った。
これは負けたな……。
そう思ったのは生徒会室に入った瞬間だった。
身長が高くてきりっと格好いい執事姿の2人がいた。
バレー部の小日向さん。
バスケット部の小鳥遊さん。
2人とも名字に小がつくけどとっても大きい。
亜里沙も背が高い。
でもそれはあくまで一般的な女子と比べて。
2人は男子と比べても高い方だった。
それに毎日運動してるせいか凄くスタイルがいい。
執事姿が似合わないわけがなかった。
「いつきさんは同じクラスだったけど……」
挨拶とかお茶の注ぎ方とかの勝負があった。
そこでもあたふたとする私達。
対象的に2人はきっちり見事にこなしていた。
生徒会長はすっごく楽しそうに見てた後、嬉しそうに言った。
「執事喫茶は小鳥遊達のクラスに決定するわ」
「よりによってあの2人が同じクラスだったなんてね……」
がっくりと前川さんが言った。
でもクラスの雰囲気が悪くなかった。
第一希望は通らなかったけど。
でもあの2人が相手ならしょうがないよねってしか言いようがなかった。
「それでは残念でしたけど第二希望の占いの館に決定できました」
委員長の言葉にみんなが拍手する。
占い……。
きっといい方だって思う。
「それでは今日はお集まりいただきありがとうございました」
言いながら委員長は頭を下げる。
「また明日から頑張りましょうっ!」
その言葉にみんで返事をした。
第一希望にはならなかった。
でもみんな頑張ろうって思ってる。
それがすぐに分かるような雰囲気だった。
……
…………
………………
「それで執事喫茶になったんだ」
「そういう感じ」
廊下を歩いてる途中。
家へ帰っている最中。
ナツミの声が聞こえた。
それに小鳥遊さんの声。
「でもすっごく可愛かったな」
「相手の人?」
「そう。執事ってよりメイドにして可愛がってあげたい感じかな」
なんだか聞いてドキッとした。
それって……私のこと?
思わずそう考えてしまう。
でもきっと違う。
亜里沙の方だって考えを修正した。
「小鳥遊ってみんなにそういうでしょ」
「言わないって。可愛い子にだけ」
「あたしは言われたことないんだけどなっ!」
「ナツミは初対面が中学の試合だったから」
「小鳥遊は試合中でもナンパしてたでしょっ!」
声がどんどん近くなってくる。
曲がり角でばったり出くわしそう。
そう思ってると……
「あっ! いつきっ!」
回れ右をしたところで声をかけられた。
ナツミと小鳥遊さんがいる。
ナツミも思わず声をかけてしまったみたい。
なんだかちょっと気まずそうな顔。
「今は1人?」
「……そうだよ」
「そうなんだねっ!」
ほっとした表情。
カナがいなくて安心したみたい。
「あっ! さっきのっ!」
言いながら私を見る小鳥遊さん。
やっぱり凄く背が高い。
それに格好いい。
見られると思わずどきりとしてしまう。
「もしかしてさっきの話聞いてた?」
「うん……」
「そうなんだっ! いつきちゃんだっけ?」
「そうですけど……」
なんだか上手に話せなかった。
「いつきちゃんってすっごく好みなんだっ!」
やっぱり私だったんだっ!
面と向かってそんなことを言われたのは初めてだった。
「あ、ありがとうございます……」
「気にしないでいいよ」
そう言ったのはナツミ。
「みんなにそう言ってまわってるんだから気をつけて」
「気をつけてって言われても……」
「そうだぞ。それにそれじゃ私がただのナンパ女じゃないか」
「実際にそうでしょっ!」
「でもいつきちゃんにはびびってきたっ! なんだかドジっ子属性もありそうだしっ!」
言いながら私の手をとる。
小鳥遊さんの手は大きくて、でもすべすべと綺麗だった。
「今から一緒におでかけ……」
「いきなり何してるのっ!」
言いながらナツミが小鳥遊さんのお腹を殴る。
私は驚いたけど、小鳥遊さんはそんなことなさそう。
「ちょっとデートに誘っただけじゃない」
「いつき怖がってるじゃないっ!」
「そういう姿も可愛いよねっ!」
「これからミーティングがあるかたもう行くよっ!」
ナツミが小鳥遊さんの服を引っ張る。
「分かってるって。でもいつきちゃんって……」
小鳥遊さんは少し考えた後に……
「ああっ! そういえば名前聞いたことがあるって思ったけどナ……」
「わーーーーーーーーーー!」
ナツミがいきなり大きな声を出す。
そっちの方に凄くびっくりしてしまった。
「そんなにしてるから進展しないんだぞ」
「進展しなくていいのっ!」
なんだかよく分からない会話をする2人。
「そもそも小鳥遊は恋人いるでしょっ!」
恋人っ!
突然の単語にびっくりする。
さっきから私は驚いてばっかり。
「そうなんだよね」
「チクるよっ!」
「それは困るなー」
「それじゃ行くよっ!」
「はいはいー」
ナツミは小鳥遊さんを引きずって移動する。
「いつき待たねっ!」
そして手を振ってくれた。
だから私も手を振り返す。
「またね」
って言いながら。
……
…………
………………
カナが立ってた。
いつもの待ち合わせ場所。
私が家に帰る途中。
当たり前だけどカナは私服だった。
「学校だったの?」
「うん。クラスの出し物の話し合いで」
「そうなんだね」
つぶやくように言う。
「カナはどうかしたの?」
「……電話しても出なかったから、ここにいたら会えるかなって」
私はスマートフォンを見た。
カナの着信やメッセージがあった。
学校で色々あったせいで気が付かなかった。
「ごめん。気が付かなくて……」
私は何だか申し訳ない気持ちになった。
クラスの出し物は大事。
でもカナが会いたいって言うなら、そっちを優先したいって思った。
「ううん。会えて嬉しい」
でもカナは優しく言ってくれる。
カナは私を責め合いから。
「小説読んだんだ。その感想を言いたくて」
「……どうだった?」
悩んでいた最後。
私は主人公が月を故郷だって思う終わり方にした。
地球に行こうって思わない。
そういう感じ。
それが今の私の思いだったから。
「いいと思う。いいお話だって思う。でも……」
カナが言葉につまる。
カナの気持ちは分かった。
カナは小説の主人公を私をモデルに書いてた。
だから私がこの終わり方にした意図も分かってる。
「ちょっとだけ寂しいかもって思った」
私は変わった。
正体がバレるかもって怯えなくなった。
人が怖くなくなった。
目立つことも誰かのためなたしたいって思うようになった。
そしてその始まりはカナだった。
カナがいてくれたからこそ、私は変われた。
カナの気持ちを考えるとなんだか皮肉だなって思う。
「大事なところは変わらないから大丈夫だよ」
私はカナの手をにぎる。
「カナが大事な人だってことはずっとずっと変わらない」
「うん。それはすっごくわかってる」
でもカナは寂しそうに言う。
「今日は星が見えるまでこうしてよう」
「いっちゃん……」
夏の昼は長い。
星が見えるまで凄く時間がかかる。
でも私とカナにはちょうどいい時間って思った。
「のんびり星が出るのを待つのもいいって思う」
「……うん。素敵な時間だって思う」
カナが微笑んでくれた。
その表情を見れて私も嬉しい。
「夏休みの最後だしね」
「そうだね。そうしよう」
それから私とカナは手をつないだまま空をながめた。
太陽が落ちて、夜になって、星が出るまで。
今日は凄く騒がしい1日だったって思った。
夏休みもすっごく騒がしいかった。
私は夏休みの出来事を思い出す。
本当に色々あって、とってもいい夏休みだった。
そして一番素敵な時間をカナと待ってる。
こうやってカナと2人でゆっくり過ごす時間に、私は幸せを感じた。




