36
ある日の出来事。
「9月の星座も面白かったっす!」
電話の向こうから元気がいい声が聞こえる。
くるるからの電話。
私は面白かったって言葉が聞けてほっとしてる。
自分じゃよく書けたかどうかいまいち分からないし。
「これで部誌に載せるのはバッチリですねっ!」
「何だか長ったような気がする」
一三屋先輩に頼まれて1年。
最初からテーマを決めてかけたからそこまで大変じゃなかった。
でもなんだか凄くやりきったって感じがして充実してる。
「本当にお疲れ様っすっ!」
「ありがと。一三屋先輩にもお礼を言わないとね」
「いつき先輩がお礼を言うんですか?」
「うん。書かせてもらったんだからね」
書くのはもちろん楽しかった。
みんなに読んでももらえるのもとても嬉しかった。
それに星座について改めて勉強できる機会があったのはよかったって思う。
「一三屋先輩も喜ぶと思うっす!」
「一三屋先輩と会うことってある?」
「うーん。今はそんなにないっすねー」
「部活を引退してるから?」
「そうっすね。元々積極的に交流する人でもなかったっすから」
「それはそうだね」
「そういえば次に書いてもらうコラムっすけど……」
「10月から載せる分だっけ?」
「その予定っす。何か書きたい物とかあるっすか?」
「そうだね……」
くるるに言われて私は考える。
書きたいもの……書きたいもの……書きたいもの……。
そう言われるとなんだか難しい。
書きたいものがないってわけじゃない。
でもなんだか口には出てこない。
そんな感じ。
「天文部では小説を書いてるからそれ以外がいいかなーとは思うな」
「そうっすね。スペース的にも小説はちょっと難しいかもですし……」
「くるるは何か書いてほしいものとかないの?」
逆に私は聞いた。
今度はくるるが考える番だった。
「そうっすねー。……書いてもらうのとはちょっと違うけど……」
「何かあるの?」
「えっとわたしってあんまり天体のこととか知らないっすよ」
「うん」
「だからこう色々聞きたいこととかあるっすよね」
「そうなんだ。例えば?」
「宇宙の広さとかっす!」
「宇宙の広さ……」
「宇宙は広いって言うじゃないっすかっ!」
なんだか興奮気味にくるるは言う。
「でも実際にどれぐらい広いのかとか分からないじゃないっすか」
「そうだね。調べたことないとそう思うかもね」
「そういう疑問とかを毎月に1つ聞くので教えてもらうってのはどうっすか?」
「なんかいい感じのアイデアだって思う」
素直に感心してしまった。
あんまり天体とかに詳しくないっていうくるる。
だからこそ自然な疑問とか質問が出てくる。
それはきっと天体をあんまり知らない人がちょっと気になることかもしれない。
興味を持ってくれる題材の可能性が高いって思った。
「こうやって電話でっすね。インタビュー形式でしてわたしが編集するのがいいと思うっす」
「私が書くんじゃないんだね」
「そうっすねっ! ……いつき先輩が自分で書きたいとかあるなら……」
「そんなことはないよ。インタビュー形式っていうのも楽しそうだし」
それに色々悩んだりしなくて良さそうだなって思う。
くるると話すきっかけになりそうだし。
「ぜひそれでお願いしたいな」
「ありがとうございますっす!」
とっても明るい声が聞こえた。
自分の案が通って嬉しいんだろうって思う。
「では10月から毎月初めにこうやって電話でインタビューさせていただくっすねっ!」
「うん。でも何を聞くかは事前に言ってほしいな」
分からなくて何も言えなくなるのはさすがに恥ずかしいし。
「了解っす! さっそく企画書を書いて会議に出すっす!」
「なんか格好いいね」
企画書とか、会議とか、とっても本格的っぽい。
実際、とってもしっかりしてる。
校内新聞はよく読むようになった。
色々な記事とかインタビューとかあって凄い。
読んでて素直に面白いって思う。
「部長がとっても厳しいっすからね」
「そうなんだ……」
なんだかちょっと不安になる。
「もしかしたら企画が通らないなんてこともあったりするの?」
「それは大丈夫だって思うっす!」
自信ありっていう感じの声だった。
「部長はいつき先輩の書いてたコラムとか褒めてたっすから」
「そうなんだ……」
新聞部の部長。
同じ学年だけど会ったことはない……はずだって思う。
もしかしたら私が知らないだけで、向こうは知ってるかもしれない。
クラスと部活じゃ別人って人もいるみたいだし。
「だから企画も大丈夫っす! 多分っ!」
多分って……。
なんだか急に弱気になった。
「ではそんな感じでお願いしますっす!」
「うん。くるるは文化祭の準備で忙しいの?」
「そうっすねっ! 部誌やいつもの他に文化祭を特集したやつも作りますからねっ!」
「いつもの3倍ぐらい忙しいんだね」
「そうっすね! 合宿で頑張ったっす!」
「合宿したんだ」
「はいっす! 料理が超美味しかったっす!」
色々な部活が合宿をしてるんだなって思った。
本当に合宿すればよかったって後悔してる。
なんだかすっごく楽しそう。
「大変だろうけど頑張ってね」
「はいっす!」
くるるの元気がいい声が聞こえた。
来年は絶対に合宿をしようって決めた。
……
…………
………………
ある日の出来事。
「いっちゃん最近それよく食べてるね」
「うん。お気に入りなんだ」
15時ぐらい。
おやつの時間。
学校から帰ってた私とカナは途中でコンビニで買い物した。
私はお気に入りのムースアイス。
袋に入ってるなんだか懐かしい感じがする味。
亜里沙に教えてもらって食べてからすっかりはまってしまった。
軽音部でもブームになってるみたい。
カナはコーヒーを飲んでる。
それもいつもの定番って感じのもの。
「足大丈夫?」
私を見ながらカナは言った。
「まだ傷んだりする?」
「ううん。全然大丈夫」
ナツミの治療がよかったおかげだって思う。
足の腫れや痛みはすぐになくなった。
元気に走れ回れるかどうかは分からないけど。
そんな機会なんて私には全然ないし。
「そういえばさ」
って感じで私は言った。
疑問に思ってたことがあった。
ちょうどいいからそれを聞きたいなって思った。
「アイコを追いかけた時にね」
「うん」
「カナは私に下の階を探すようにって言ったじゃない」
「そうだね」
「あれってやっぱりアイコは下に行ったからなの?」
「そうだよ」
あっさりとカナは言った。
やっぱりカナは凄いなって思う。
「あの時にアイコを連れ戻せそうだったのはいっちゃんだったからね」
「だから私に一番いそうな場所に行かせたんだ」
「うん」
「うまくいってよかった」
「そうだね」
言いながらにっこりと微笑む。
本当に嬉しそう。
カナも目的を果たせた。
そんな雰囲気に見えた。
「でもいっちゃん、目立っちゃったね」
「うん。恥ずかしかった」
カナが知ってる目立つっていうのは追いかけっこのこと。
アイコと手をつないで歩いたことは知らない。
……と思う。
「でも前よりは嫌ってわけじゃないんだ」
「目立つこと?」
「うん」
「そうなんだ……」
……ちょっと寂しそうな表情。
でもすぐに……
「よかったねっ! 成長してるってことかな」
さっきまでの明るい笑顔に戻った。
多分、そんな風に見えただけだろうって思う。
「どうだろうね。成長してるといいな」
「うん。そうだね」
言いながらカナはまたコーヒーを飲む。
こくりって飲み込む音が聞こえた気がした。
もしかしたらコーヒーと一緒に何かを飲み込んだのかもしれない。
「でも暑いのが苦手そうなのは相変わらずだね」
「……そうだね」
私はちょっとずつ移動して今は完全に日陰の場所にいる。
カナは日差しの中にいても涼しげに見える。
やっぱりそういう姿はなんだか羨ましい。
でも成長してどうにかできるものでもないかもって思った。
「早く冬になって欲しいな」
「うん。わたしもそう思う」
私は照りつける太陽を見ながら言った。
前よりは夏も嫌いじゃない。
……
…………
………………
ある日の出来事。
「ちゃんと進めてるっ」
アイコが部室に来た。
朝の11時ぐらい。
きっと起きるのが遅かったんだろうって思う。
「順調だよ。私もカナも」
「それはいいことねっ!」
言いながらいつも座ってる椅子へ。
当たり前のように座った。
原稿用紙とかを取り出して書き始める。
アイコは漫画研究部に戻った。
基本はそっちの部室に通ってる。
それはとってもいいことだって思う。
天文部で書いてた漫画はどうなるんだろう。
ちょっとだけ気になってたこと。
戻ったのだからてっきり漫画研究部の部誌に載せると思ってた。
でも……
「ちゃんとそっちの部誌に載せるわよっ!」
ってアイコは言った。
どうやら漫画研究部の部誌には漫画のレビューを書くみたい。
そして漫画は予定通り天文部の部誌に。
だからたまにふらっとこっちに来ては作業したりする。
進み具合的に漫画研究部の部室とか家でもしてるみたいだけど。
「…………」
なんだかそのことに不満そうなカナ。
やっとお邪魔虫がいなくなったって思ったのに。
そんな表情をしてる。
でもそれなら最初に断らなかったんだろうって思った。
私もカナに言われたならアイコが部誌に漫画をかくのを断ってたって思うけど……。
カナ本人にも聞きにくいし……。
「いっちゃんどうかしたの?」
「あっ……考え事してた」
「そうなんだ」
「小説の内容でちょっと……」
「でももうほとんど書いちゃてるよね?」
「うん。でも最後で悩んでるんだ」
主人公が本当の故郷……地球に行きたいと願うのか。
それとも今いる月を故郷だって思うのか。
前の私ならきっと前の方を選んでたって思う。
私も故郷の星に帰れるなら帰りたいって思ってたから。
でも今は……。
私はカナが書いてる挿絵を見る。
そこには日記を書く主人公の姿が見える。
私をモデルにした主人公……。
「いっちゃんが好きに書くのが1番だって思う」
カナならそう言うよねってことを言った。
カナはいつでも私を優先に考えてくれるから。
それは嬉しい。
けれど、相談相手には向いてないときもたまにある。
「そうだよね」
……私が書きたいこと。
「もうちょっとだけ考えてみるよ」
「うんっ! 時間はとっても余裕あるからねっ!」
「決まったら見せるね」
「楽しみにしてるっ!」
私はまた小説を書く作業に戻る。
今日は書くってより修正だけど。
読み直して気になる表現とか誤字脱字を直していく。
地味で面倒くさいって思うような作業。
でも直すたびに小説が良くなっていくと思うとなんだか楽しくもある。
私を見てカナも作業に戻る。
またいつもの静かな部室になった。
……
…………
………………
ある日の出来事。
「いつきさん」
後ろから声をかけられた。
振り返ると藍姫さんがいた。
図書室から部室へ帰る途中だった。
「今日も部活?」
「うん。藍姫さんも?」
「そうだよ。コスプレ衣装の準備とかしてる」
「コスプレって手作り?」
「そいうのもあるよ」
「凄いねっ!」
ちょっと気になってコスプレについて調べたことがある。
なので自分で衣装を作る人がいるのも知ってた。
でも実際に聞くと、やっぱり凄いって思う。
「私はあんまりできないけどね。お手伝いするぐらい」
「それでも凄いって思う」
私はきっと手伝いもできないって思う。
ただぼけっと見てるだけになりそう。
「アイコもちょっと手伝ってくれてるんだ」
「そうなんだ」
ちょっと意外な気もした。
アイコはコスプレは本当にやる気なさそうだったから。
「デザイン画をかいたりね。イラストも上手だから参考になるみたい」
「うまくいってるんだね。アイコ」
「うん。前より良くなってるって思う」
それはよかったって思う。
もちろん、みんながアイコのことを受け入れてるわけじゃないってことも分かってる。
でも凄く嬉しいって思った。
「でも……」
ちょっと苦笑いの藍姫さん。
「私は振られちゃった」
軽い感じの口調だった。
ちょっと失敗した。
そんな雰囲気。
「振られちゃった?」
「うん。……私、アイコに告白したでしょ?」
「そうだね」
私は思い出す。
あの日のことを。
やっぱりあれは本当の意味での告白だったんだって分かった。
そして振られちゃったってことは……
「アイコ、好きな人がいるみたい」
「そうみたいだね」
その事自体は私も聞いてた。
てっきり藍姫さんのことかと思った。
でも違うみたい。
「……悲しかった?」
告白した、された。
振った、振られた。
そんな体験を今までしたことがなかった。
そんなことを真剣に話すぐらいに仲良くなれた人はいなかったから。
だからそんな陳腐な質問しかできなかった。
「どうだろうね」
でも藍姫さんは真剣に考えてくれた。
考えて、藍姫さんは笑みを浮かべる。
その表情は何だか意外で、不意をつかれたような気がした。
「ショックはショックだったかな。……でも言えてすっきりした」
藍姫さんは本当に嬉しそうだった。
なんでアイコは振っちゃったんだろう。
そう思ってしまうような笑顔だった。
もちろんアイコがそういうのが駄目ならしょうがないって思う。
でもそうじゃないなら……
「アイコって本当にその人のことが好きみたいなの」
「…‥それって誰のことか分かる?」
「それは教えてくれなかったな」
「そうなんだ……」
なんだか残念な気分。
もっとも知ったところで私に何かできるってわけでもないんだろうけど。
でもアイコが真剣に恋をしてるなら本気で応援したいって思う。
アイコはどんな告白をするんだろう。
ストレートにずばって言いそう。
なんだか回りくどい告白をするかもしれない。
淡白な感じで言いそうでもある。
ロマンチックな告白をしそうでな雰囲気もある。
なんだかこれっていうのが思いつかなかった。
やっぱりアイコはカナの言うとおり分かりにくい人なのかもしれない。
真っ直ぐなようで捻くれてるし。
でもアイコに告白される人が羨ましいなって思う。
……ちょっとだけだけど。




