31
今日は登校日。
久しぶりの教室。
なんだかとっても騒がしい感じがした。
夏休みに入ってからは真っ直ぐ部室に行くのが当たり前になってた。
だからちょっとだけ違和感がある。
部室に行くのが当たり前って感じがして。
今日も思わず部室に行こうとした。
「いっちゃん、そっちじゃないよ」
ってカナが嬉しそうに微笑んだことを思い出す。
なんだかとっても恥ずかしい記憶。
知ってる人に見られなくてよかったって思った。
アイコに見られてたら放課後とかに馬鹿にされそう。
「おはようございます。いっくん」
何人かに挨拶しつつ机位鞄を置くとたまこがやってきた。
とっても元気な感じ。
「久しぶりって感じですねっ!」
たまこはニッコリして言う。
久しぶりに見た笑顔はいつものたまこの笑顔だった。
なんだかほっとした気分になる。
「そうだね。久しぶりな感じがする。2週間ぐらいなのにね」
夏休みの最初にたまことは顔を合わせた。
でもそれからは会うことはなかった。
ちらっと見ることはあった。
忙しそうに早足でぱたぱたって歩き回る姿を。
でも話しかけたりはしなかった。
忙しそうだし、邪魔しちゃいけないって思って。
私は部室と図書室を行き来してた。
そして少しずつつ部誌のとか、新聞部の原稿を書いてる。
今のところ順調。
とってもいい感じ。
「たまこは夏休みはどんな感じなの?」
「えっとですねっ!」
私が聞くとたまこはぴょんって飛び跳ねる。
それだけでいい感じなんだなって分かった。
「とっても充実してますっ!」
予想通りの答えが返ってきた。
とっても可愛い笑顔と元気がいい声。
なんだか私も同じ気分にしてくれる。
「忙しいみたいだね」
「はいっ! でもそれがなんだかとっても楽しいですっ!」
色々な人にご飯を作る。
それをしながら文化祭の準備。
本当に大変だろうって思った。
でもたまこは楽しいって言う。
心からそう思ってるって分かって、凄いなって思った。
「いっくんはどんな感じですか?」
「順調かな。のんびりやってる」
「そうなんですねっ! 部誌楽しみにしてますねっ!」
「うん。文化祭で渡すね」
「はいっ!」
私も料理部が開催する料理コンテストを見たいって思った。
もちろん、でるつもりは全然ないけど。
私が出ても悲惨なことになるだけだし……。
でもそれよりも私は見たいものがあった。
見なくちゃいけないと思ってるものがあった。
それは……。
私は教室を見回した。
「どうかしたんですか?」
「美香まだ来てないなって」
演劇部に入ってからはいつも私より早く来てた。
でも今はいないみたい。
「寝坊してるのかな?」
「とっても疲れてましたからねっ!」
「そうなの?」
「はいっ! 昨日まで合宿してました」
「それはお疲れみたいだね」
美香がいる演劇部のステージは見なくちゃなって思ってる。
私が部活をするのをすすめたんだし。
それに美香がステージに立つ姿を見るのは純粋に楽しみ。
……時計を見るともうすぐ時間。
もしかしてサボり?
そう思ってると扉が開いた。
ガラリという音。
なんだか見る前から美香が来たって分かった。
美香は眠そうにあくびをしながら教室に入ってくる。
本当に疲れてるみたい。
目の下にはくまっぽいものがあった。
「おはようっ! 美香ちゃんっ!」
「おはよう」
私とたまこは美香に言う。
クラスではまだ美香は微妙な立場。
だから挨拶するのも2人だけ。
美香はあんまり気にしてなさそう。
「おはよう」
また大きなあくび。
「眠いの?」
私が言うと美香はうなずいた。
思ったよりも素直な反応。
「演劇部、とっても頑張ってますからねっ!」
「張り切り過ぎなんだよ……」
不満そうな声だった。
「朝は基礎練、昼は演劇の練習、夜は自主練や話し合いとか……」
はぁって感じでため息をつく。
「休む暇なんてなかったよ」
美香を見るとなんだか日焼けをしてる。
それに全体的に細くなってる気がした。
きっと外で走ったりしたんだろうって思う。
痩せたんだろうって分かった。
なんだか凄く健康的になってる。
体重が少し気になる私はちょっと羨ましい。
でも同じ事はきっとできないって確信できた。
「でも合宿は昨日までだったんでしょ?」
「そうだけど?」
「それなら昨日の夜はぐっすり眠れたんじゃない?」
私なら家に帰ってすぐ眠ってしまうって思った。
でも美香は寝不足って感じ……。
どうしてだろうって思った。
「……あのあほが家に来たからな」
あのあほ……?
少し考えた。
そして終業式の時に美香を呼びに来た人を思い出した。
「あの人が遊びに来たんですねっ!」
たまこも思い出したみたい。
嬉しそうに美香に言った。
私はなんだかちょっと意外って思った。
「うちに来たいって言って無理やりついてきた」
「無理矢理なんだ……」
私は思わずつぶやき声で言った。
たまこもちょっと苦笑いっぽい感じ。
「おすすめの映画とかアニメとかのDVDを持ってきて……」
「鑑賞会だったんだねっ!」
たまこの言葉に美香はうなずく。
「おかげで2時間ぐらいしか寝てない」
言いながら大きなあくび。
だからぎりぎりになったんだな。
だからこんなに眠そうなんだな。
納得できてすっきりした。
「本当にあのあほはどうにかして欲しい……」
私は改めてあの子のことを思い出す。
確かのんびりしたイメージだった。
でもマイペースで引張力が強いんだなって思う。
やっぱりそういう人が美香にあってるのかもしれない。
知らない間に自分のペースに持っていける人。
いい部活、いい人を見つけたんだなって思う。
美香の場合は見つかったっていう方が正確かもだけど。
「そういうわけでアタシは寝てるから。話し合いとか聞き流すから」
美香ははふらふらと自分の席へ向かう。
そして座って……寝た。
なんだか静かな寝息が聞こえて来そうな感じ。
「演劇部で忙しいでだろうしね……」
「ですね……」
今日クラスで話し合うことは文化祭でのクラスの出し物。
この様子だと美香がクラスの出し物に参加するのは難しそう。
っていうか参加するっていっても止めたほうが良さそうだなって思った。
「いっくんは大丈夫ですか?」
「うん。去年はばたばたして難しかったから、今年はしっかり参加したいなって思う」
「たまこも二学期からはそんなに忙しくないので大丈夫ですっ!」
部活動が盛んになる夏休み。
合宿の料理を担当する料理部。
夏休みが1番忙しい部活になりそうだなって思った。
「いい文化祭になるといいね」
「はいっ!」
そこでチャイムの音が聞こえた。
たまこは小走りで戻っていく。
本当にいい文化祭になるといいなって思った。
……
…………
………………
「えっと文化祭で何かしたい人はいますか?」
委員長がみんなに言う。
私のクラスの委員長は小柄でリボンを頭につけた、可愛い感じの人。
去年のいかにも仕事できます。って感じの人とは感じが違う。
ちょっとおどおどした感じ。
でもしっかりとした口調で話し合いをすすめていた。
去年は委員長……今の生徒会長が段取り良くすすめていた。
それに不満がある人達ともめてたのを思い出す。
でも今年はてきぱきと進まないかわり、みんな仲良くできそうって思った。
今思うけど生徒会長はきっと委員長向きじゃなかったんだな。
きっと生徒会長が1番の適任だって思う。
「お化け屋敷がいいですっ!」
「喫茶店がやりたいっ! コスプレ喫茶!」
「ステージで何かするにいいかもっ!」
「ダンスとかっ!」
「模擬店の方がいいと思うな」
「出し物系は練習が大変そうだしね」
みんなそれぞれやりたいこととかを言っていく。
雑談してる人たちもたくさんいて賑やかな感じ。
私も近くの席の人と話をしてた。
「私は模擬店がいいかな」
「そうなの?」
「うん。目立つのとか好きじゃないし……」
「執事喫茶とか良さそうっ!」
「執事喫茶?」
「いつきさんとか超似合いそうっ!」
「だから目立つのとか好きじゃないから……」
できるだけ目立たないの……。
そう考えるとなんだか難しい。
演劇とかできないなって思う。
私はちらりと美香を見る。
美香はてっきり寝てるって思った。
とっても寝不足だし、興味なさそうだし。
でもちゃんと起きてた。
ぼんやりとした感じで黒板を見てる。
特に意見とかは言わないって感じだけど、起きてるって偉いなって思った。
たまこは私と同じように近くの席の人と話をしてる。
何だか運動部っぽい人達が周りに多いような気がした。
とっても楽しそうに話をしてる。
きっと夏休みの間に仲良くなったんだろうって思う。
あの人達の中にたまこのご飯を食べた人がいると思う。
ナツミがたまこは人気あるって言ってた。
そうやって見ていると、ふととある人と目があった。
それは藍姫さん。
あんまり話したことない人。
セミロングぐらいの髪で、メガネを掛けた大人しそうな人。
目があってすぐに藍姫さんはすぐにそらした。
なんだか私を見てたって感じの反応。
でもどうして見てたのかは分からなかった。
……気のせいかな?
私はそう考えてまた話に戻った。
「執事が嫌ならメイドはどうかなっ!」
「そういう問題じゃないからっ!」
……
…………
………………
「それでは出た意見を元に話し合いで決まると思います」
色々な意見が出た。
収集つかなくなりそうなぐらいに。
なので投票で決めた。
それで決まったのが
1.執事喫茶
2.占いの館
3.ダンス披露
って感じだった。
それから委員長が話し合いに参加するみたい。
そこで各クラスが何をするか決定するって感じ。
……占いの館がよさそうだなって思う。
1番目立たなそうだし。
どこから出た意見なのかよく分からないけど……。
気がついたら黒板に書いてあった。
そしてそこそこの票を獲得して2番目になった。
なんだか意外な感じ。
もしかしたらそういうのが好きな人が多いのかもしれない。
大事な話は終わったので先生の話が少しあった。
それで今日は終わり。
部活の人は部活。
ない人は帰る。
そんな感じ。
「たまこはどれがいい?」
今度は私がたまこの席まで移動した。
たまこは同じクラスの運動部の人達に手を振ってた。
ちなみに美香は眠ってる。
先生が教室を出た瞬間から。
起こすのもためらうぐらいにぐっすりと。
きっとあの人が起こしに来てくれるだろうって思ってる。
「たまこは……執事喫茶がいいなって思います」
「そうなんだ」
「なんだか喫茶店って楽しそうですしっ!」
「楽しいかな?」
「お菓子作って食べてもらったりしたいですっ!」
「たまこはそっちで考えてるんだね」
確かにたまこはそっちの方で活躍しそうって思った。
たまこが作ったお菓子は食べてみたいって思う。
カナが作ってくれるお菓子は美味しい。
きっとたまこのも同じぐらい美味しいはず。
「いっちゃんは執事ですねっ!」
そんなたまこは嬉しそうに言う。
なんだかいつもより目がキラキラしてる気がした。
「私も裏方がいいんだけどな」
といってもお菓子作りは難しそう。
だから飾り付けとか?
でもそれはみんなでやりそうだし……。
そんなことを考えていると、
「いっくんは執事じゃないと駄目ですよっ!」
なぜか力を込めてたまこは言う。
ちょっとたまこのキャラとは違う気がした……。
「私より似合う人はたくさんいるって思うけどな」
例えば美香とか似合いそう。
なんだか目つきが悪いところか。
基本は美人なんだし、どんなのでも似合いそうだけど。
「美香ちゃんもいいけど、いっくんのを見たいですっ!」
なんだかキラキラした目。
よく分からない期待を感じてしまった……。
「……考えておくよ」
その目に根負けして私は言った。
なんだか言質を取られた気分。
この発言を後悔する日が来そうな気がした。
「ありがとうございますっ!」
「お礼言うことじゃないと思うんだけどな……」
まだやるって言ったわけじゃないんだし。
でもこのままだとやらされることになりそう。
部活が忙しいってもう使えないし……。
ここは占いの館になることを祈ろうって思った。
「それじゃたまこは部活に行きますねっ!」
「うん。私も行こうかな」
たまこは立ち上がると美香を見た。
「まだ起こさない方がいいですよね?」
美香はぐっすりと眠っている。
「うん。きっと演劇部の人が起こしに来るって思う」
「ですねっ! しばらくしたらたまこも見に来ますっ!」
たまこはそう言って部活へ向かう。
私も行かなくちゃ。
カナが待ってるし……。
そう思ってると、
「いつきさん。ちょっといい?」
後ろから声をかけられた。
振り返ってみると藍姫さんが立ってた。
どうやら私に用があるみたい。
あの時に目があったのは偶然じゃなかったみたい。
でもやっぱりどういった用事なのか分からなかった。
「どうかしたの?」
「えっと……アイコって知ってるよね?」
「アイコ……」
私は自信満々の表情を思い浮かべる。
「うん。知ってるけど……」
「天文部によく行ってるって本当かな?」
「うん。たまにね」
アイコはほとんど毎日部室に来てた。
ちょっと雑談。
漫画を書くのがメインって感じ
女が三人寄れば姦しい。
なんて言葉がある。
でも部室は基本的に静か。
黙々と作業をしてる。
そして部室を出たらいつものように私とカナは一緒に帰る。
アイコは気を使ってるのかわからないけど、少し早く帰る。
カナはこんな感じになるって分かってたのかもしれない。
だからアイコがゲストで原稿を書くのをいいって言ってのかも……。
でもなんでアイコが部室に来ることを藍姫さんが気にするんだろう?
もしかして……
「藍姫さんって漫画研究部なの?」
私が言うと藍姫さんは気まずそうに頷いた。
「そうなんだよね。……部長をしてるんだ」
「部長なんだ……」
何だかイメージと違った。
「それで私はアイコにできたら戻ってきて欲しくて……」
「そうなんだね」
アイコは喧嘩して、飛び出して、漫画研究部を辞めた。
でもちゃんと戻ってきて欲しいって思ってる人がいる。
そのことで私はなんだかほっとした気分になれた。
「アイコは私の事避けてるみたいで……」
「でも私は漫画研究部のことよく知らないんだよね」
「そうだよね……。えっと夕方は時間ある?」
「うん。大丈夫だよ」
「ちょっと長くなりそうだからその時に話すね」
言いながら藍姫さんはスマートフォンを取り出す。
アニメのキャラのカバーだった。
私も見たことがあるアニメ。
マスコットキャラのものなので女の子っぽい可愛さがある。
「そのキャラ私も好きだよ」
って思わず言ってしまった。
なんだか藍姫さんの漫画研究部っぽいところを初めてみた。
「そうなんだね」
静かな感じ。
でもなんだか嬉しそうに言った。
「いつきさんがアニメ見るって知らなかった」
「意外?」
「うん。ちょっとだけ」
「連絡先交換するの?」
「……駄目かな?」
「ううん。全然いいよ」
そうやって藍姫さんと連絡先を交換した。
「後で連絡するから」
言いながら藍姫さんは教室を出る。
漫画研究部に向かうんだろうって思った。
私もスマートフォンを鞄に入れて、教室を出た。
教室を出てすぐのところにカナが立ってた。
ちょっとだけ不機嫌そうな表情。
そんなカナは言った。
「今の人と仲良しなのかな?」




