29
夕方の時間。
今からお出かけ。
カナと映画を見に行くから。
今日が学校に行かずに家でだらだらっとしていた。
たまにはこんな日も大事だよね。
部屋でのんびり小説を読みながら思った。
お昼ごはんもお母さんと一緒に食べる。
そしてまた部屋でごろごろ。
でも昼から夕方にかけての時間は何だかそわそわしていた。
まだかな。
今から出ても早すぎるよね。
なんて思いつつ時計を見ていた。
少しずつ進んでいくようじ感じられる時計。
何だか読書に集中できずに過ごしていた。
途中からはベッドの上に寝っ転がって時計を見てた。
何度か眠りそうになるのを我慢しながら。
そうしているうちに時間になる。
私はぱたぱたって準備をした。
まだかな、まだかな。
そう思っていた。
でも準備はなぜか直前じゃないとできない。
不思議だなって思う。
映画館に行くのは本当に久しぶり。
お母さんは小説をよく読む。
でも映画はあんまり見ない。
私も映画を見るとしてもDVDとかが多かった。
だからなんだかちょっと緊張してる。
映画館ってどんな感じだったっけ……。
そんな感覚もすっかり忘れてるから。
「天体観測でもないのに今から出かけるって珍しいわね」
準備を終えた私にお母さんが言った。
お父さんが遅くなるそうで、まだ夕ご飯の準備はしてないみたい。
のんびりテレビを見ている。
テレビでは明日の天気予報を伝えていた。
どうやら明日もとっても熱くなるみたい。
早く涼しくならないかなって思う。
暑いのは2年生になってもやっぱり苦手。
3年生になったらちょっとは平気になって欲しい。
「そういえば初めてかもね」
「カナちゃんと出かけるの?」
「うん。映画を見に行くんだ」
「デートっぽいね」
いたずらっぽく言うお母さん。
「デートだからね」
って私は言った。
私とのお出かけはデートだって思ってる。
前にカナはそう言ってくれた。
だから私もそう思うようにしてる。
今からお出かけ。
と
今からデート。
じゃ同じことするのでも、何だか雰囲気が違う気がした。
今も何だかドキドキが大きくなってる。
それは映画を見に行くってことだけじゃないって思う。
「デートか……」
なんだか懐かしそうに言うお母さん。
「いいわねっ! そういうのっ!」
お母さんはやっぱりこういう話題が好き。
高校生の時はきっとうるさかったんだろうなって思う。
なんだかナツミをイメージしてしまう。
でもナツミが恋愛話をするイメージもあんまりなかった。
「私もまたデートしたいわね」
「お父さんと出かければ?」
「2人で?」
「うん」
「そうね。それもいいけど……」
言いながら私を見るお母さん。
何だろう?
行きたいなら行けばいいのに……。
そう思ってるとため息をつきながらお母さんは言った。
「いっちゃんを1人残して出かけるのが心配で……」
「そんな心配してたのっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
まさか高校生になって留守番の心配をされるなんて……。
そりゃ今までそんな経験ってなかったけど。
「1日と言わず3日ぐらい大丈夫だって思うけどな」
今から1人暮らしをしろって言われたもちろん無理だけど。
2週間ぐらいで台所とかひどいことになりそう。
もしかしたら1週間かも……。
「いっちゃんって寂しがり屋だからホームシックになりそうだしね」
「家にいてホームシックにはならないでしょ……」
「そういえばそうね」
って言いながらけらけらと笑うお母さん。
やっぱりからかいたいだけだって思った。
「でも夜に電話してきそう。泣きながら」
「するわけ無いでしょっ!」
「だって修学旅行の時だって……」
「あれは中学生だったしっ!」
中学生でも多分そういう人はあんまりいないって分かってる。
とっても恥ずかしい記憶。
今の高校ではそのことを知ってる人は誰もいない。
知ってる人に街でばったり会うこともない。
転校が多いことの一番の利点かもって思う。
なんだか後ろ向きな気もするけど。
「高校生だからもう大丈夫だよ」
「そうかしら?」
あくまで疑ってくるお母さん。
どれだけ信用ないのかなってちょっと落ち込む。
「それにお母さん達がいない間はカナとかを呼んでいいしね」
カナとかって言った。
でもカナを呼ぶなら他の人は来ない。
カナ以外を呼ぶならカナは来ない。
なんだか複雑な感じ。
「カナちゃんを呼ぶなら安心だわ」
嬉しそうに言うお母さん。
「帰ってきても台所が片付いてそう」
「私だって片付けるよ……」
多分だけど……。
「そんなにいつきが言ってくれるなら旅行行ってもいいかもしれないわね」
どうやらお母さんは私をからかうのも飽きたみたいだった。
「お父さんも10月は忙しくないみたいだから話してみようかしら」
「どこか行きたいところあるの?」
「そうね……。うーん。どうだろう」
お母さんは真剣に悩みだした。
机を指でこつこつって叩いてる。
「行くなら国内なんだけどね」
「そうなんだ」
何だかお母さんは海外に行きたいっ!
って言いそうだって思った。
アメリカとかヨーロッパとか。
「日本が好きなの?」
「言葉が通じないってなんだか面倒くさそうだしね」
面倒くさいが理由だった。
「移動時間とかも面倒くさそうだし」
やっぱり面倒くさいが理由。
「だから国内の方がいいかなって」
国内……。
どこがいいだろう。
ちょっと考えてぱっと思いついたのを言った。
「……沖縄とかは?」
10月の沖縄ってどうなんだろう。
まだ暑いのかな?
なんだか泳げそうではあるよねって思った。
何だか沖縄には冬ってなさそうだし。
「沖縄。いいわねー」
お母さんはタブレットを操作し始めた。
どうやら沖縄を調べてるみたい。
「どんな感じ?」
「良さそうね。沖縄か……。のんびりするにはちょうどよさそう」
っていつものんびりしてるお母さんが言う。
もっともいつも忙しいお父さんのことを考えて言ってるんだと思うけど。
そう思いたい。
「沖縄に行くなら……」
真剣な目でタブレットを見始めるお母さん。
なんだか本気って感じがした。
こうなったら私の言葉にはあんまり反応しなくなる。
私は時計を見た。
ちょっと早い。
でもちょうどいい時間。
「そろそろ行ってくるね」
私はお母さんに言った。
お母さんはタブレットを見たまま。
「うん。いってらっしゃい」
なんだかやる気がない返事。
でも旅行にやる気がいってるのは嬉しいって思った。
……
…………
………………
学校に行くときはいつもカナが先にいる。
そしてお出かけの時はいつも私が先にいる。
それがいつものパターンだった。
でも今日は違った。
待ち合わせ時間の15分前。
カナはすでにいた。
私はのんびり歩いてた。
でもカナを見つけて私は小走りでカナのところまで移動した。
「そんなに急がなくてもよかったのに」
そんな私を見て微笑むカナ。
夕方な時間帯。
でもまだ太陽はとっても元気。
気温も高い。
私はすでに汗がちょっと気になってる。
でもカナは涼しげ。
なんだか羨ましくなるぐらいに。
「カナがいたからびっくりしちゃって……」
「なんだかわくわくして我慢できなくなっちゃった」
言いながらカナは楽しそうに笑う。
「早く来たからって映画の時間が早くなるわけじゃないのにね」
「それもそうだね」
私も笑った。
なんだかとても楽しい気分。
「でもその気持はすごく分かるよ」
私も昼間はとてもそわそわしてたし。
「待ってる時間って落ち着かないよね」
「うん。今日はいっちゃんと初めて映画見に行くしね」
「私もすごく楽しみ」
「その前にご飯だねっ!」
「うん。ちょっとお腹すいちゃったな」
「わたしもっ!」
ぴょんって飛び跳ねるように言う。
「お昼食べなかったんだよね」
「そうなんだね」
「いっちゃんと美味しいもの食べたいって思ったからっ!」
それはお腹すくよね……。
私はしっかり食べてきたけど……。
「今日はオムライスでいいんだよね?」
「うん」
近くに映画館は2つある。
大きな映画館はシネコンっていうらしい。
シネマコンプレックスでシネコン。
カナに教えてもらって初めて知った。
そして今日はちょっと遠くの方に行く。
そっちの方でしか上映してないみたい。
そこまで有名じゃな映画ってカナは言ってた。
近い方は歩いていける。
でも今日のところはバスに乗る。
歩いても行けるみたいだけど……。
でもバスのほうがいいかなって思った。
安全だし。
今日行くところは映画館だけじゃなくて色々なお店とかがあるところ。
地下にオムライス屋さんがあるからそこで食べようって決めた。
なんだかお店の名前が可愛くて好きだった。
「ご飯を食べたら時間までお店とか見て回ろうね」
「うん。そうだね」
チケットはもう買ってある。
発券機でもらうだけみたい。
そういうのは全然分からないからカナにお任せ。
「それじゃ行こっか」
「うん」
私とカナは並んで歩く。
いつものように。
でもカナはなんだか私の顔を見ていた。
「どうかしたの?」
「……今日ってデートだよね?」
不安そうな声だった。
なんだか珍しい雰囲気。
どうしたんだろう……。
「そうだね」
だから私は明るく言った。
「私はデートだって思ってるよ」
「じゃあさ……」
「うん」
「手を繋いで欲しいな」
お願いするようなカナの言葉。
それも珍しいって思った。
「デートっていえば手をつないで歩くって思うし」
「……そうだねっ!」
いつもカナが手を握ってくれた。
私が不安な時、泣きそうな時。
だからこんな時ぐらいは私からつながないといけない。
私はカナに手を伸ばす。
そしてカナの手を握った。
「これからがデートの時間だね」
私は言う。
「うんっ! とっても楽しみっ!」
カナはとびっきりの笑顔で言ってくれた。
……
…………
………………
バスに乗って目的地へ移動した。
ついたのはなんだかお城みたいな大きな建物。
思わず見上げてしまうような感じ。
とっても有名だから私もここは知ってた。
でも来るのは初めて。
「そんなに人は多くなさそうだね」
「うん」
こんなところは人がたくさんっていうイメージ。
でも今日は人はいるけど、まばらにって感じだった。
もうあの時みたいなことにはならないって思う。
でもちょっと安心した気分になった。
「テレビがたくさんあるね」
中に入ってまず目に入ったもの。
奥の壁にたくさんのテレビがあった。
それぞれのテレビが色々な映像を写している。
統一されたような、されてないような。
なんだか変な感じがした。
「そういうアートみたいだね」
「へー。初めて知った」
でもよく見ると何台か写ってないのがあった。
そのことを言うと……
「もう古くなって壊れちゃってるんだよ」
って教えてくれた。
「なんだか悲しいね」
「うん。でもその悲しさがいいんだって思うな」
「そうだね」
カナの気持ちも分かる気がした。
もし最後の1個になったら……。
周りは真っ暗で1つだけ映像がながれる。
それはとっても悲しい気もする。
でもとっても印象的な感じになりそうだって思った。
「エスカレーターで移動するの?」
たくさんのテレビから視線を動かした。
「うん。あれで移動するんだよ」
エスカレーターってちょっと苦手。
乗るタイミングとか、降りるタイミングとか。
両方あるならできるだけエレベーターがいい。
エスカレーターより階段がいいかなって思う。
でも恥ずかしいからそんなことカナには言えなけど。
「映画館が1番上、オムライスの店は一番下にあるんだ」
「一番離れてるんだね」
「うん。でもそんなに移動はしなくていいかな」
「地下に行くんだよね?」
「そうだね。お腹すいたしねっ!」
私とカナは手をつないだまま。
今日はずっとつないだままだって思う。
デートだから当たり前。
私とカナはそのままエスカレーターに乗った。
後ろの邪魔にならないかな?
ちょっと気になった。
でも後ろには誰もいなくて安心した。
……
…………
………………
エスカレーターから降りてすぐ。
地面から勢い良く水が飛び出している。
水は空まで届きそうな感じで飛び上がり、雨みたいに降っていた。
「噴水だっ!」
私は思わず大きな声を出した。
何だか見た瞬間に興奮してしまった。
すぐに我に返って恥ずかしい気分になる。
恥ずかしいからドキドキが大きくなった。
多分、手からカナに伝わってるって思う。
……恥ずかしいから気が付かないでほしいな。
「綺麗だし、凄いよね」
カナは嬉しそうに言った。
「近くでみようか」
「うん」
噴水の近くは人がそれなりにいた。
若い人が多い気がする。
それもカップル。
なんだか私達を見ているような気がした。
ぼそぼそって感じで何か言ってる……。
「羨ましんだよ」
カナはささやくように言った。
「わたし達2人が羨ましいんだって思うな」
「そうかもしれないね」
カナの言葉で気が楽になった気がした。
私はやっぱり手を繋いだまま噴水を見る。
「テレビとか噴水とか色々あるんだねっ!」
ここに来た目的は映画。
でもなんだか素敵なものも見れて嬉しかった。
「うんっ! だからいっちゃんと来たかったんだっ!」
「私も来てよかったって思う」
「なんだか感動してるみたいだけど……」
噴水を見る私にカナは言う。
「本番はこれからなんだからねっ!」
「そうだねっ!」
オムライスを食べて、お店を回って、映画館!
何だかわくわくが大きくなって、心もドキドキする。
このドキドキはカナに伝わって欲しいって思った。




