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えっと……確かここらへんに……。

私は本の題名を真剣に見ていく。

これじゃない……。

これでもない……。

あっ、あった!

図書室の中にはたくさんの本がある。

その中から目当ての本を探すのは、何だか宝探しをしてるみたいだなって思った。

私はお目当ての本を手に取る。

本を探す。

いつもは自分が読むためにすること。

でも今日は違った。

今持ってるのはおすすめコーナーに持っていく本。

今年から図書室では毎月おすすめコーナーを作ってる。

私も何度かそのコーナーで本を借りたことがあった。

何か読みたい。

でも、これっていうのが思いつかない。

そんな時に便利だなって思っている。

4月はボーイミーツガール

5月は昭和文学

6月は結婚物語

7月は密室ミステリー

そして今月、8月はタイムトラベル。


「夏はタイムトラベルな季節だよね」


って杉森先生は笑顔で言った。

私はよく分からなかったけど、杉森先生が言うならきっとそうなんだろうって思う。

夏休みでも本を借りにくる人はそれなりにいるらしい。

だからおすすめコーナーもちゃんとする。

でも夏休みだから図書委員の集まりが悪い。

だからカナがいなくて暇だった私も手伝うことにした。

お昼ごはんも食べてすぐだったし、ちょうどいい運動になると思う。

リストの本に載ってる本を探しておすすめコーナーに移動させる。

それだけの作業。

そんなに時間がかかることはなかった。

むしろ図書室の奥でポップみたいなのを作ってる図書委員の人達のほうが大変そう。

さすがにあっちの方は部外者な私が入るとことじゃないって思う。

来年はってちょっと思うけど。

夏への扉、リプレイ、時をかける少女、サクラダリセット……。

並べられたたくさんの本。

読んだことある本、読んだことない本。

タイムトラベルというテーマでこれだけたくさんあるんだって思った。

でも……。

って私は思う。

中には今まで図書室で見たことがない本も何冊かあった。

私は図書室によく来ている方だって思う。

だけど、もちろん全部の本を知ってるわけじゃない。

なので見たことがない本があるのは当たり前だけど、当たり前。

でも前のおすすめコーナーでも似たように思ったことが何度かあった。

もしかしたらって私は考える。

この中にある本のうちの何冊かは杉森先生の私物じゃないかって。

そう思いつくと、なんだかそれ以外ないって感じがした。

杉森先生ならきっとそういうことをするだろなって分かった。


「お疲れ様。本当にありがとう」


考えていると声がした。

振り返ると杉森先生が立っている。

いつものにこやかな笑顔を浮かべて。


「手伝ってもらえて本当に助かったわ」


「いえっ! そんな大変でもなかったですし、それに今日は暇だったので……」


「そういえば今日はカナさんと一緒じゃないのね」


そう言いながら杉森先生は視線を動かす。

私もつられて見た。

杉森先生は図書室の奥を見ているみたいだった。

奥の席には誰もいない。

でもそこはいつもカナが座ってる場所。

カナは杉森先生と話すことはほとんどない。

でも杉森先生はちゃんと見てくれてるんだなって分かった。

なんだか嬉しい。


「はい。用事があるみたいで」


「それで今日は1人なのね」


杉森先生に頷きで返事をした。

どうやら私とカナで1セットみたいな感じだったみたい。

それで合ってるといえば合ってるんだけど。


「本当に仲が良いのね」


「はいっ!」


高校生になって……。

特に2年生になって友達も増えた。

でもやっぱりカナが1番の友だちだって思う。

それにカナがもしいなければ、絶対に今の私と違う自分になってた。

中学生までの私は勇気がなかった。

誰かを信じるっていう勇気が。

そして、そんな私が初めて心から信じれたのがカナ。

カナがいなかったら、今もずっと誰も信じれないままだっただろうって思う。

でも私に友達ができることをカナが喜んでないのがちょっと残念だけど。


「いいわね。そういう友達がいるのって」


静かに微笑む杉森先生。

なんだか懐かしさを感じているように思えた。

当たり前だけど、杉森先生はずっと先生なわけじゃない。

私達と同じ高校生だったこともある。

なんだかそれが不思議に思えた。


「でも……」


言いつつ軽くため息。

でも深刻な感じはしなかった。


「私はカナさんに嫌われてるみたいなのが気になるわ」


杉森先生は笑顔のまま言った。


「そんなことは……」


あるって分かってた。

でも私は言う。


「ないと思いますけど……」


「そうだといいんだけどね」


やっぱり杉森先生は軽い感じでいう。


「私はカナさんのことが好きだけど、向こうがどう思うかは自由だしね」


なんだか大人だなって思った。

やっぱり私はそんな杉森先生に憧れる。


「えっとですね……」


思わず私は言う。


「図書室の先生になるにはどうしたらいいんですか?」


今まで将来のことなんて全然考えたことなかった。

進路指導のアンケートもとりあえずの進学。

まだ2年生だからなのか先生もあんまり言ってこない。

もちろん、お父さんやお母さんも。

あの2人は3年生になっても似たようなままな気がするけど……。


「司書になりたいってことでいいかしら?」


「はい」


「そうね。とりあえず資格は必須になるわ」


「資格がいるんですね」


そんなことも知らない私だった。

本当に思いつきで言ったって自覚する。

でもそんな私に杉森先生は真剣に教えてくれた。


「大学とか短期大学の司書を目指せるコースがあるところがあるの」


杉森先生はいくつかの大学とかの名前を上げる。

将来のことを考えてなかった私。

どれも初めて聞く名前だった。


「そこで勉強して資格を取るって感じね」


でも……。

と杉森先生は言葉を続ける。


「資格を取ってもなれるわけじゃないのよ。定員があるからね」


「それはそうですよね」


図書室、図書館は無尽蔵にあるわけじゃない。

当然、なりたくてなれないひともたくさんいるんだろって思う。

きっと私が思ってるよりずっと難しい職業なんだろう。


「でも目指したいなら目指してみるべきだって思うわ」


杉森先生は優しく私に言う。


「もしかして私を見てなりたいって思ってくれたの?」


「そうですね」


「本当っ! 冗談で言ってみたんだけど」


そう言う杉森先生の笑顔はいつものとちょっと違った。

少しだけ子供っぽく、でも素敵な笑顔だった。


「その、私も杉森先生みたいな大人になりたいなって……」


「私なんて大したことないわよ」


言いながら1冊の本を私に差し出す。

私はその本を受け取った。

私は題名を見る。

星の海にむけての夜想曲


「私ができることはこうやって本をおすすめすることだけ」


「杉森先生は本当に本が好きなんですね」


私が言うと杉森先生は小さく首を振る。


「本っていうよりね。物語が好きなの」


「物語……」


「うん。物語は時代も国も全てを超越するものだからね」


私は思い出す。

私もそんなことをカナに言った気がする。


「星座の物語……とかですか?」


「そうね。ずっと昔から、文字がないころから語りつ続けられたもの」


それが物語。


「それにみんなが持ってるものでもあるの」


「みんなが?」


「うん。みんなそれぞれに物語を持ってる」


「そうですね」


私は図書室にいる人達を見る。

みんな知らない人ばかり。

きっとこれから私と関わることはないんだろうって思う。

でもみんな自分の物語を持っている。

そう思うとなんだかそこにいる人以上のものを感じた。

それは駅で見たたくさんの人達もそう。

地球人。

そう私は一括りで見てたのかもしれない。

だから不必要に怯えてたのかもしれない。


「だから私は物語が好きなの」


にっこりと微笑んで話をしめくくる。

そんな杉森先生はやっぱり素敵だなって思う。


「ありがとうございます。なんだかいい話を聞けた感じがします」


「何だか語っちゃったね。ちょっと照れくさいかも」


「そういえば」


って私は改めて杉森先生を見る。


「杉森先生はどうして図書室の先生になったんですか?」


私の質問に杉森先生は優しく言ってくれた。


「もちろん、いつきさんみたいな人に出会うためよ」


……

…………

………………


なんだか私は気分がよかった。

足取り軽く廊下を歩いた。

図書室に来て良かったって思った。

図書室の先生か……。

さっきは思いつきで言ったもの。

でもだんだんと本当になりたいって思えるようになった。

私も物語が好きなんだなって思う。

だから物語を誰かに伝えれる人になりたい。

杉森先生みたいに。

でもその前に、文化祭の部誌を作らなくちゃいけない。

月に住む女の子の話。

私に似た少女の物語を書き上げないといけない。

部室に帰ったら早速書こうっ!

そう思いながら廊下を歩いている。

ちょっとだけいつもより早足。

すると前方から1人の少女が歩いてくるのが分かった。


「あれは……」


思わず私はつぶやく。

アイコだった。

夏休みだけど、部活があるから学校にいるのは当たり前。

でもアイコは……泣いてる?

なんだかそんな感じがした。

足取りもすごく重い。

私と反対な感じ。

きっと嫌なことがあったんだろうって分かる。

そして私のことにも気がついてない。


「アイコ」


私は声をかけた。

なんだか凄く久しぶりのような気がする。

アイコは私の声にびっくりしたように反応した。

はっきり見えるその目からはやっぱり涙が流れている。


「どうかしたの?」


そう言いながら思い出すのは1学期最後の日のこと。

漫画研究部で聞こえた言い争いのこと。

きっと今日もそうなんだろう。

でもアイコが泣くなんて……。


「な……なんで……い」


アイコはぼそぼそと言う。

うまく聞き取ることができなかった。

だからもう1度私はたずねた。


「何かあったん……」


「なんでもないって言ってるのっ!」


私が言い終える前にアイコは言った。

それは叫びに似た声だった。

言いながらアイコは振り返ろうとする。

きっとこの場を立ち去ろうとしてるんだろうって分かった。


「待ってっ!」


私は思わずアイコの腕を握る。

とても細くて、脆そうな腕だった。

想像よりずっと。


「どこにいくの?」


「どこでもいいでしょっ!」


アイコは私の手を振りほどこうとする。

でも私は離さない。

私はお人好しでおせっかいだから。

それにとっても心配性。

美香が私を評価した言葉。

でもそれに当てはまるのは私だけじゃないって思う。

きっとアイコも……


「逆の立場だったら……」


私は言った。

アイコの目をじっと見つめて。

気恥ずかしい気持ちもあった。

でも私は見続けた。


「もし私が泣いててアイコが私の腕をつかむ」


アイコは涙を浮かべたまま私を見る。

いつも強気なアイコ。

いつも自信満々なアイコ。

でも今は違った。

弱気で頼りない表情。

そんなアイコを見るのは初めてだった。


「アイコはその腕を離すの? 離すなら……」


やっぱりアイコは私が言い終える前に言った。


「は……な……い」


「なんて言ってるのか……」


「離さないって言ってるのよっ!」


その言葉を聞いて私はほっとした。

離すって言われた時のことを考えてなかったから。

それにアイコも私のことを友達だって思ってくれてるみたいで嬉しかった。


「今日はカナがいないんだよね」


「……そう」


「だから寂しいんだ。ちょっとだけね」


「あんたって寂しがり屋っぽいもんね」


涙が止まってる。

でもまだ表情はいつもの感じじゃない。


「うん。実はそうなんだ」


かっこ悪いとは思うけど。

でもそういうのを含めて自分だって思える。

アイコに隠したってしょうがない。


「今から部室に来て話し相手になってくれない?」


「アタシにきて欲しいの?」


「そう言ってるじゃない」


「それなら……」


アイコは袖で顔を拭った。

私はアイコから手を離す。

もう握ってなくて大丈夫だって思ったから。


「行ってあげてもいいわよっ!」


アイコはいたずらっぽく微笑む。

とてもアイコっぽい笑顔。


「そんなにお願いするならしょうがないわねっ!」


「うん。お願いしたいな」


「……本当に寂しがり屋なのね」


「だからお願いしてるんでしょ」


私とアイコは並んで歩き始める。

いつもそこにはカナがいる場所。

でも今日はアイコがいる。

でも不思議とそんなに違和感がないことに私は気がついた。

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