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高校生に2度目の夏休み。

多分、一番のびのびできる夏休みだって思う。

もちろん補修がなければだけど。

そして私は補修を……ぎりぎり受けないでよかった。

直前にカナに教えてもらったおかげ。

教えてもらって解けるようになった計算問題。

それを間違ってたら補修を受けないと駄目だった。

だんだんテストは難しくなってる。

だからそろそろ危険かもって思っている。


「夏休みですねっ!」


先生が教室を出た後。

たまこが私の教室に来た。

いつものとたとたっていう足取りで。

その後ろには美香。

何だかもう2人セットっていう感じになってる。

前も一緒にいることは多かった。

でもその時とは全然雰囲気が違う。

今はとても仲良しだって分かる。


「そうだね。文化祭の準備をしなくちゃだけど」


「ですねっ!」


たまこはとっても嬉しそう。

夏休みで部活を頑張れるのが嬉しいかもしれない。

反対に美香はそんな感じじゃなかった。

なんだか不機嫌そう。

こちらは部活漬けになるのがちょっと憂鬱なのかもしれない。


「天文部は今年も部誌を作るんですか?」


「そうだね。そのつもり。料理部は?」


「一般参加ありの料理コンテストをしますっ!」


「料理コンテスト?」


「はいっ!」


「どんな感じなの?」


「えっとですねっ!」


たまこはにこにこってした感じで説明をする。

美香はまだ不機嫌な感じを続行中。

何が美香をそんな表情にしてるのか分からなかった。


「お題を出して料理部とあと飛び入り参加の人で料理勝負するんですっ!」


「なんだか漫画でよくある感じだね」


「はいっ! 1年生の人がぜひやりたいって提案してくれましたっ!」


「でも料理勝負だと料理部が有利じゃない?」


バスケット部とバスケット勝負。

そう考えるとなんだか勝負にならないような気がした。


「あっ、それはですねっ!」


どうやら説明が足りなかったところがあったみたい。


「料理部は実際に料理しないんですっ!」


「じゃあ……どうするの?」


「飛び入り参加の人にアドバイスをして料理を作ってもらうんです」


「そういう感じなんだね」


料理部と飛び入り参加者の勝負。

料理部VS飛び入り参加者だって思った。

でも本当は料理部、飛び入り参加者VS料理部、飛び入り参加者だったみたい。

たまこから指示を受けて料理をする。

何だか楽しそうだなって思った。

でも私がだめだめで全然うまくいかない。

そしてたまこに凄くがっかりされる。

そんな場面が容易に想像できた。

でも見てる分には凄く面白そうだって思う。


「なんだか楽しそうだね」


「はいっ! どんな料理を作るかも当日分かりますしっ!」


「夏休みはずっとその準備をするの?」


「部屋の飾りつけとかですねっ! 見学者とかもいれるって言ってました」


「人前で料理するんだね」


「たまこはしないんですけど……でもそこがちょっと不安ですね」


「かもね」


思わず笑みが出る。

なんだか飛び入り参加者よりたまこの方があたふたしてそう。


「だから人前で料理できるように練習中なんですっ!」


張り切りが分かる声だった。

でもどんな練習をしているかは全然分からない。


「あとですねっ! 夏休みは料理部で他にもすることがあるんです」


「他に?」


「合宿する部活ってあるじゃないですか?」


「そう聞くね」


運動部とかが学校に泊まって練習したりする。

きっとナツミのバスケット部もそうだろって思う。


「その人達が食べるご飯も料理部が作ることになったんですっ!」


「みんなの分を?」


「はいっ!」


なんだかとっても大変そうだって思った。

きっと料理部の人数が増えたからできたことだろうって思う。

もう普通の部活は3年生は引退してる。

だから1年生がいなければ料理部はたまこ1人だった。

1人ではそんなこと難しいっていうより、無理だって思う。

料理部に1年生が入ってくれて本当に良かったって思う。


「栄養とか考えてたくさん作るんですっ!」


「難しそうだね」


「でもとても楽しみですっ!」


本当にそんな感じだった。

まるで散歩前の犬みたい。

とってもうきうきしてる感じが伝わってきた。


「たくさんの人に食べて貰える機会ってなかなかないですからっ!」


「それはそうだね」


私がたくさんの人にコラムとかを読んでもらえて嬉しいっていうのと同じだろうって思う。

それに運動部の人は凄くお腹を空かせてるって思う。

だからたくさん、美味しそうに食べてくれるはず。

作った料理をそんな感じで食べてくれたら、とってもたまこは喜ぶだろう。

そんなたまこを見てみたいって思った。


「今日からはメニューとか買い出しで忙しいんですっ!」


「頑張ってね」


メニューを考えるのも、買い出しも凄く大変そう。



「はいっ!」


でもたまこは全然そんなことを感じさせない。

私もたまこの料理を食べてみたいって思う。

でも天文部は合宿する予定もない。

星空観測とかいって申請してもよかったなってちょっと後悔。

学校に泊まれる機会なんてあまりないんだから。


「美香ちゃんの部活も合宿をするみたいだから、張り切って作りたいですっ!」


「そうなんだ」


私は美香を見る。

演劇部は毎日のように朝練をしている。

だから合宿をするのも当たり前のことかもって思った。


「頑張ってるんだね」


私は美香に言った。

美香は朝練を1度もサボってないみたい。

いつも私が教室に着く頃には机に座っている。

とっても疲れているのか、寝ていることも多いけど。

でも本当に凄いって思う。


「こんなに練習があるなら入らなかった」


不機嫌そうな声で美香は言う。

でも、それで辞めるなんてことはないって分かった。


「美香ちゃーん」


いきあり声が聞こえた。

教室の外。

なんだかのんびりとした声だった。

そちらを見ると扉のところで1人の少女が立っていた。

ちょっと長めの髪をお下げにした感じ。

目がとろんとしてる半開き。

何だかのんびりして掴みどころがない性格みたい。

はっきりした感じの人が多い私の周りの人。

だから何だか珍しいタイプのように思えた。


「部室でごはん食べるよねー?」


どうやら演劇部の人みたい。


「後で行くから先に行ってて。いちいち来なくていいのに」


なんだかトゲトゲを感じる言葉。

嫌ってるわけじゃなさそう。

でもなんだか苦手そう。

そんな感じ。


「えー。せっかく来たんだからここで待つよー」


「通り道だから覗いただけだろっ!」


「わたしにとって教室を覗くのは重労働なんだよね」


「じゃあ待つのも重労働だろ」


「待つのは好きだから大丈夫だよ。心配してくれてありがとー」


そう言って教室の扉のところでこちらをじっと見る。

あんまり目が開いてないからどこを見ているのかいまいち分からない。

でも美香を待っているのは分かった。


「……うざいだろ」


美香がぼそりと言う。

多分、あの人に聞こえないように。

それを聞いた私とたまこは顔を見合わせて苦笑い。

あの人が美香を演劇部に誘った人みたい。

私は何だかナツミみたいな人を想像してた。

元気で、明るくて、目がぱっちりしてて、はきはきしてて……。

って感じ。

でも扉でのんびりと欠伸をしている人は全然違う。

とても美香を多少強引に演劇部に誘った人には見えない。

きっとあのマイペースな感じに引っ張られたんだなって思う。

怒鳴られてもへこたれなさそうだし。

案外、美香と相性がいいのはああいう人かもしれない。


「あいつ本当にずっと待つ気かよ……」


美香は廊下の方を見て言った。


「目立つのも嫌だし部活に行く」


「うん。美香ちゃん、またね」


たまこが美香に小さく手を振る。

美香も微笑んで手を振った。

そのまま扉のところまで行って何か話してる。

何を言ってるのかとかは分からない。

不機嫌そうな表情。

でもやっぱり楽しそうに見える。

2人はそのまま教室を離れていった。


「私達も部活に行こう」


「はいっ!」


たまこは鞄を持って私を見る。


「いっくんもまたねっ!」


急いで部活に行きたいんだって思う。

たまこは小走りで教室を出た。


……

…………

………………


教室を出るとカナがいた。

いつも通り待っててくれていた。


「お待たせ」


私はカナに声をかける。

私に気づいたカナの表情がぱっと明るくなる。


「夏休みだねっ!」


「そうだね。夏休みだね」


「試験大丈夫だった?」


カナはそう言う。

でもあんまり心配してる感じじゃなかった。


「バッチリだった」


って私は答える。

数学と理科以外は平均以上。

理科は平均よりちょっと下。

数学は赤点よりちょっと上。

つまりいつも通りの感じってところ。


「すぐに夏休みを始めることができるよ」


そういえば美香も赤点を取ってなかった。

停学中に勉強したおかげか、それとももともといいのかは分からない。

でもすぐに部活を頑張れるのはいいことだって思う。

美香が演劇部でどんな感じなのかは想像もできないけど。


「それはよかったっ!」


カナは歩き始める。

部室へ向かって。

私もその横を歩いた。

まだ学校は静か。

グラウンドにも誰もいない。

みんなお昼ごはんを食べてる最中だろうって思う。

もう少ししたらみんなが頑張り始める時間。

大会に向けてとか、文化祭のためにとか。


「部誌にどんなの書くか決めたんだ」


歩きながらカナに言った。

カナに書いて欲しい絵がある。

だからどんな小説を書くか早く教えたいって思った。

カナにも満足ができるぐらい、時間をかけて書いてほしいから。


「もう決めたんだねっ!」


「うん。去年は迷ったからね」


でも去年のおかげで今年はもっとうまくいきそう。

クラスの出し物にも参加できるかもって思う。

去年はほとんどできなかった。

でも今年は同じクラスで仲がいい人がいる。

できたらそちらも頑張りたい。


「どんな内容なのかな?」


わくわくって感じが伝わってくる。

表情とか、声色とかで。

それが私はとても嬉しく思えた。

やっぱり楽しみにしてくれる人がいるのはとても嬉しい。


「えっとね。題名は月面生活日記っていうんだ」


「月で暮らすんだねっ!」


「うん。月で生まれて、月じゃないと生きれない人が主人公なんだ」


本当は地球で生まれるはずだった。

でも間違って、運命のいたずらで月に生まれた女の子。

私と似た境遇の主人公。


「その女の子が書いた日記ていう感じだね」


例えば月で暮らすことについて。

例えば月で出会う人達について。

例えば月から見える星について。

例えば月で行う散歩について。

例えば月から見える地球について。

例えば月で暮らさないといけない自分について。


「なんだか面白そうな感じだねっ!」


「きちんと書けるか分からないけどね」


「いっちゃんなら大丈夫だよ」


にこやかな笑顔。

私をとても信頼してる。

そんな意思表示に思えた。


「私も頑張って絵を書くねっ!」


「すごく楽しみにしてる」


「うんっ! 任せてっ!」


カナが挿絵とか表紙を書いてくれる。

それだけでいい部誌ができるって思った。

去年作った部誌、ひとりぼっちの天体観測。

あのおかげで新聞部の人と出会うことができた。

図書室の杉森先生とも仲良くなれた。

1つの小説で世界を広げることができた。

頑張ったご褒美だって私は思う。

だから今年も頑張ろう。

何かのご褒美があるかもってことは期待してないけど。


「だからみんなで決めたでしょっ!」


大きな声。

怒鳴り声が聞こえたのは突然のことだった。

私はびっくりして周りを見た。

でも廊下を歩く人達もみんな私と同じようなリアクション。


「あの部屋からだね」


カナがぼそりと言う。

カナの視線の先にある扉。


「そんなことやりたいって言ってるのあんた1人じゃないっ!」


また聞こえる怒鳴り声。

もう1つの声がぼそぼそと聞こえる。

でもそちらはなんて言ってるのか分からない。


「それなら1人でやればいいじゃないっ!」


明らかに何か揉めているような感じ。

良くない空気が扉越しに伝わってくる。

みんなおそるおそるという感じで扉の前を歩いていってる。

でも私は思わず立ち止まる。

だってあそこは……。


「行こっか」


そんな私の手をカナは握る。

暖かい手の感触で我に帰った。


「いっちゃんが気にすることじゃないって思う」


「そうだけど……」


あそこは漫画研究部の部室。

なんだか揉めてるのはアイコと誰かのような気がした。

そして大きな声で怒鳴っているのは明らかにアイコじゃなかった。

それなら怒鳴られてるのはアイコってことになる……。


「いっちゃんっ!」


カナは私に強く言った。。

きっと警告してるんだって思う。

私のために言ってくれてるんだと分かった。


「あの人、口が悪いからそれで喧嘩してるだけだよ」


私を説得するようにカナは言う。


「ちょっとした喧嘩。そんなのどこだってあることでしょ?」


「それも……そうだね」


私は去年のことを思い出した。

ナツミがいるバスケット部でも揉めて大変だったって言ってた。

揉めた後も仲良くしてるみたい。

きっと私が知らないだけで、カナの言うとおりかもしれない。

気にする必要のない、些細なこと。

それに怒鳴り声の内容から、文化祭でやることで喧嘩してるって分かった。

いじめられてるとか、そういうのじゃない。

だから私が何かをすることでもない。

冷静になって考えるとそう思えた。


「ごめんね。立ち止まったりして」


漫画研究部の部室ではまだ何か言い合いがあってる。

終えたらバスケット部みたいに仲良く戻って欲しいって思った。

仲良くみんなで文化祭に参加してほしいって思った。


「ううん。そこもいっちゃんのいいところだからねっ!」


「私達もあんな風に喧嘩したりすることもあるのかな?」


想像してみた。

怒鳴り合う私とカナ。

……なんだかすぐ言いくるめられて怒鳴り合いとかにならなさそうって思った。


「どうだろうね」


カナは笑顔のまま言う。

そんなことにならないって思ってそう。


「きっと大丈夫じゃないかな?」


「そうだね」


喧嘩になるとしてもほんの些細なことかもって思った。

例えばカレーに合うお肉の話とか。

私は断然、鶏肉が好き。

でもお母さんは牛肉。

だからなかなか私が好きなカレーを作ってもらえない。

もっとも牛肉のカレーもとっても美味しんだけど……。


「カナはカレーに合うお肉って何だと思う?」


「いきなりな話題だねっ!」


驚きながらも嬉しそうなカナ。


「ちょっと気になったんだ。ちなみに私は鶏肉かな……」


「じゃあ私も鶏肉が好きっ!」


やっぱり嬉しそうにカナは言う。


「私はいっちゃんが好きなものが好きだからっ!」


そんな風に答えるカナを見て私は思う。

カナとは些細な喧嘩とかもしないかもって。

でもそれはずっとずっと仲良くしていけるってこと。

それが私は凄く嬉しく思えた。

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