20
ある日の出来事。
美術室から教室へ戻っていく途中だった。
選択科目は音楽か美術のどちらか。
絵を書くのも苦手。
歌ったり楽器をするのも得意じゃない。
だからどっちにするか少しだけ迷った。
どちらも得意だからって感じじゃないのが悲しいところ。
たまこにどちらにするか聞くと……
「美術にする予定です」
即答だった。
最初から決めてるって感じがした。
「絵を書くのが得意なの?」
そうたずねるとたまこは首を振る。
いつものふるふるって感じで。
「音楽ってみんなの前で何かしなくちゃいけないですから……」
「そういうのもあったね」
確かに音楽は人前で発表とかありそう。
歌ったり、演奏したり。
たまこはそういうのとっても苦手そうだなって思った。
1人ならできることも、みんなの前ならできなくなる感じ。
私はそこまで苦手ってわけじゃないけど、好きでもない。
やっぱり目立つのは嫌だし……。
「じゃ私も美術にしようかな」
「いつきさんが美術ならたまこも心強いですっ!」
たまこは笑顔で言う。
正直、何が心強いのかは分からなかった。
そんなことがあったのが4月の出来事。
美術の授業はデッサンとかが中心。
当たり前だけど上手にかけない。
まぁ下手でも怒られないし、書いてるだけなので楽な授業だった。
美術にして正解だったって思う。
「ちょっと疲れましたね」
言いながら背伸びをするたまこ。
小さな体を精一杯使ってる感じがなんか可愛いって思った。
「そうだね。今日はたまこがモデルだったもんね」
美術の授業。
今日は人物デッサンだった。
誰かみんなの前でモデルにならなくちゃいけなかった。
そしてくじで選ばれたのがたまこ。
たまこはとっても緊張した感じでみんなの前に立ってた。
ガチガチになってるのが分かった。
5分間だったけど、とっても疲れたみたい。
「お疲れさまだね」
「美術ではみんなの前に立つとかないって思ってたんですけど……」
深くため息をつく。
私もそんなのあるのって驚いたから、たまこはそれの10倍ぐらい驚いたと思う。
しかも当たりくじを引いちゃうし。
「私はくじが当たらなくてよかった」
18人が美術を選択してる。
そして今回モデルにならなければいけなかったのは4人。
確率的にはモデルになるのは少ない感じ。
でもたまこは見事に引き当ててしまった。
くじを見た瞬間に真っ青になった表情が今でも簡単に思い出せた。
「今日は朝のテレビの占いで最下位だったんですよ……」
またため息。
「そんなに嫌だったら誰かに変わってもらえばよかったのに」
「そうしたかったんですけど、でもなんだか悪いなーって思って」
言いながらちらっと私を見る。
「次にまたあったら変わってくれますか?」
まるで子犬に見つめられているような感じだった。
愛くるしい懇願。
でも……
「それは難しいかな」
本当は変わってあげてもいいんだけど……。
でもなんだかたまこの反応が見たくてそう言ってしまった。
「ですよね……」
思った通り大きくため息をつく。
こんな落ち込み方をするのはなんだか面白いって思った。
ちょっと意地悪かなって自分でも思うけど。
だから私は少し励ましの言葉を言った。
「でもくじが当たる確率は低いから次は大丈夫だよ」
「そうですよね。占いで最下位にならないようにお祈りしますっ!」
そっちを祈っちゃうんだって思った。
直接くじに当たりませんようにって祈ればいいのに……。
でもそういうのもなんだかたまこらしいって思った。
……
…………
………………
ある日の出来事。
休み時間。
私はぼけっとした感じで椅子に座っていた。
休み時間はたまこと話すことが多い。
でもたまこは真剣に本を読んでいた。
どうやら料理に関する本みたい。
その様子がとっても真剣だったから私は話しかけなかった。
そんな私に話しかけてくる人がいた。
「いつきさんってバンドとかライブとか興味ある?」
そう言ったのは同じクラスの亜里沙。
背が高くてかっこいい系の女子。
最初の自己紹介で軽音部に入ってるって言ってた。
確かにギターとかを演奏するのが似合いそうだなって思う。
「バンドはあんまり詳しくないかな……」
「あんまり音楽とか聞かないの?」
「そうだね。何を聞けばいいとか分からないし」
もちろんこの曲いいなって思うことはある。
でも思うだけで調べたり買ったりはしない。
「そうなんだねっ!」
でも亜里沙は私の返答にも明るく答えてくれた。
「あっ!」
私は思わず大きな声を出す。
そういえば私がいいなって思った曲があったのを思い出した。
「どうかしたの?」
「去年の文化祭で軽音部のライブ見てたんだ」
「そうなんだねっ! ありがとうっ!」
にこって微笑む亜里沙。
その笑みはやっぱり可愛いっていうより格好いいって感じ。
下級生とかに凄くモテそうだなって思った。
「うちもあの時出てたんだよ」
「そうなんだね」
「分からなかったかな?」
「うん。……ごめん」
「いいって! あんまり上手でもないし目立つ感じでもなかったしね」
言いながらけらけらって笑う。
「でも見てたならやっぱりもも先輩のが凄いって思ったでしょ?」
「うん。そうだね」
私は今でも思い出すことができる。
「とっても凄いって思った」
「もも先輩は別格だからね。学校に信者たくさんいるみたいよ」
「ファンじゃないんだね」
「そう。信者。熱狂的な人達たくさん」
きっと私が入り込めないぐらいにもも先輩を好きな人がいるんだろうって思う。
私みたいに学校の隅っこで生きている人間とは大違いだ。
「あっ! もも先輩の話をしに来たんじゃなかった」
言いながら亜里沙は小さく舌を出す。
「えっとね。今月の13日に1,2年生でライブするんだ」
「そうなんだね」
ライブをするって何か凄いって思った。
「文化祭じゃなくてもライブとかしてるんだね」
「やっぱりみんなに聞いて欲しいからね」
天文部と軽音部。
同じ文化部でもアクティブさは全然違うなって思った。
「どこでするの?」
「音楽室。ライブハウスはお金かかるしね」
「お金があればライブハウスでも演奏できるんだ」
「そうよ」
「プロの人しかできないって思ってた」
「小さい箱ならお金を払えば誰でも演奏できるんだよ」
「そうなんだね」
って言われても演奏とかしようって思わないけど。
「でもどうせ来るのは友達とか。それなら音楽室でちょうどいいでしょ」
「うん。そっちの方が気楽だしね」
「それでさ。今まではほっといても人がたくさん来てたんだよね」
「もも先輩目当てで?」
「そう。でも次のはもも先輩が出ないから人が集まるか心配なんだよね」
腕を組んで悩むような表情。
「だからうち達が頑張らないとって思うけど、難しくはあるよね」
「大変そうだね」
「まぁそういうのも楽しんだけどねっ!」
言いながら笑う。
「だからこうやって色々な人に声をかけてるわけ」
「人がたくさん集まるといいね」
「うん。いつきさんも気が向いたらでいいからお願いね」
「分かった。……そういえば」
って私はある出来事を思い出した。
それは4月のことのこと。
軽音部の場所を聞かれたこと。
金髪ピアスの女の子。
「軽音部に金髪でピアスをつけた人が入らなかった?」
私が聞くと亜里沙は渋い顔をする。
もしかしたら亜里沙はあの女の子が嫌いなのかもしれない。
見た目からしてかなり人を選ぶそうな感じだったし……。
「確かに入ったのは入ったけど……」
「入ったけど?」
「もう辞めちゃってるよ」
「えっ!」
意外な言葉だった。
だから驚いてしまった。
「辞めちゃってるって部活を……?」
「うん。学校ではたまにみるし」
「そうなんだね」
なんだかホッとした感じになる。
「部活で揉めちゃってね。辞めます。って言って帰っちゃった」
「喧嘩?」
「そんな感じかな」
「性格が悪かったのかな?」
でも私が話した時は全然そんな印象はなかった。
「けっこうズバズバ言う感じではあったね。ベースもとってもうまかったし……」
亜里沙の視線はなんだか遠くの方を見ていた。
「作詞も作曲もずば抜けてた」
「凄かったんだね」
「うん。りんごちゃんといつも一緒で他のメンバーを探してたけど……」
りんごちゃんっていうのは多分一緒にいた人。
なんだかあんまり印象に残ってない。
「でもやっぱり満足できる人がいなかったみたいだね」
「求めてるものが大きかったんだね」
「そうだって思う。それで揉めたのも重なって辞めちゃった感じかな」
「それで今では?」
「学校外でメンバーを募集してやってるみたい。そういえば……」
「そういえば?」
「3年生の吹奏楽部だった人を誘ったって聞いたね」
「吹奏楽部?」
「今年からかなり練習するようになったじゃない?」
「うん。放課後とかよく聞こえるね」
「その練習とかについていけなくて辞めちゃった人を誘ったって」
「なんだかいい話っぽいね」
「そうだね」
って言う亜里沙はにこやかな笑みを浮かべている。
多分だけど亜里沙はあの女の子のことを嫌いじゃないんだろうって思う。
「いきなり教室に乗り込んで誘ったらしいよ」
「それはまた無茶するね……」
「あの子らしいけどね」
確かにそうかもなって思った。
1回しか会ったことがない。
でもなんだかその場面が想像できた。
「それじゃ覚えておいたら来てね」
ちょうど次の授業が始まる時間だった。
亜里沙は自分の席に戻っていく。
音楽か……。
今まで全然そういうのは聞いたことなかった。
でもちょっとは聞いてもいいかもって思った。
……
…………
………………
ある日の出来事。
廊下を歩くアイコを見つけた。
私はたまこと教室に戻ってる途中だった。
どうしようかなって考えた。
そして5秒ぐらいして話しかけることに決めた。
たまこも一緒でもよかったんだけど……
「あれに用事あるから先に教室に戻ってて」
私はアイコを指差しながら言った。
たまことアイコはあんまり相性良くなさそうだって思ったから。
アイコはまだ私に気づいてない。
不機嫌そうな表情で歩いてる。
「分かりました。友達ですか?」
たまこもアイコを見ながら言った。
「友達っていうか知り合いかな」
「分かりましたっ! では教室でっ!」
言いながらとたとたと教室へ向かう。
私はそれをちらっと見た後にアイコを見た。
少し目を話したけど、でもすぐに見つけることができた。
私はそろそろと後ろから近づく。
そして手で目を隠しながら言った。
「誰だ」
なんだか私らしくない行動っていうのは分かってる。
でもなんだかいたずらしたい気分になったから。
てっきり驚くものだと思ったけど、アイコは冷静だった。
「いっきでしょ。何してんのよ」
「あれ? 分かった?」
私は言いながら手を話す。
くるりと振り返ってアイコは私を見た。
「アタシにそんなことするなんてあんたしかいないからね」
「そんな風にいうと私がまるでそういうイタズラが好きみたいじゃない」
私は全然そういうキャラじゃないって思った。
どちらかというとそういうのはナツミの役割。
「それで何の用なの?」
「不機嫌そうだったから何かあったのかなって思ったんだ」
「は?」
思いっきり不機嫌そうな声。
「別に普通だって思うけど……」
「それじゃナツミの言ってたことは本当なんだね」
「ナツミってうちのクラスの?」
「うん」
言って私は電話でアイコの教室での様子を教えてもらったことを言う。
「いっきってアタシのことが気になるの?」
ちょっと嬉しそうに言うアイコ。
てっきり不機嫌になるか怒るかって思ってから意外な反応だった。
「ちょっとだけね。最近は部室に来ないしね」
「まぁ天文部じゃないからね」
もっともな事を言うアイコ。
でもなんだか変な感じがした。
「でもそんなに心配なら行ってあげてもいいわよ」
「別に頼んでまで来て欲しいとは思わないかな」
私が言うとアイコは嬉しそうに微笑む。
意地悪そうな笑み。
私がよく知ってるアイコの表情。
やっぱりアイコはこの表情が似合うなって思った。
「いっきって素直じゃないわね。来てほしいならそういえばいいのに」
「私より素直な人ってなかなかいないって思うけどな」
「そういうことにしてあげるわ」
この調子なら今日の放課後にでもさっそく部室に来るかもしれない。
でも私はそれでもいいんだけど。
カナさえいいって言えば何も問題はないって思う。
「でも最近はちょっと忙しいから難しいかもね」
「そうなの?」
「そう。だからいっきにはかまってあげれないの」
なんだか私がかまってってせがんでるみたいな言い方だった。
まぁいきなり目を隠して話しかけるようなことをすれば当然かな……。
「文化祭の準備とか?」
「そう。いっき達もするでしょ?」
「するけど……。でも早いんじゃない?」
天文部が文化祭の準備を始めるのは夏休みになってからだ。
きっとそれでも遅い方じゃないって思う。
「漫画研究部ってそんなに早く始めるの?」
漫画を書くのはとっても時間かかりそうだなって思った。
だから早くから準備をしないといけないのかもしれない。
「そうね。今年は色々あるし大変なのよ」
なんだか歯切れが悪い言葉だった。
「漫画研究部ってまた部誌を作るんだよね?」
「そ、そうね。もちろんそうに決まってるじゃない」
やっぱりちょっと変だなって思った。
いつもなら当たり前じゃないっ!ってビシっといいそうだけど……。
「アイコの漫画楽しみにしてるからね」
私は言った。
もちろん、素直な気持ち。
「アタシの漫画本当に楽しみなわけ?」
「当たり前じゃない。なんかアイコ相手だと素直に言うのが嫌なんだけど……」
「どういう意味よっ!」
「そのまんまの意味」
「なんかむかつくわね」
と言いつつもなんだか楽しそうだった。
「でも楽しみって言われるのは……その……嬉しい」
ちょっとだけ。
と小声でつけくわえる。
「アイコだって素直じゃないじゃない」
「うるさいわねっ!」
「とりあえず漫画楽しみにしてるから頑張って書いてね」
「当たり前でしょ。いっきも真面目に作りなさいよ」
「ぼちぼちね」
そうこうしているうちに休み時間が終わりそうだった。
「それじゃまたね」
私は言いながらアイコと別れた。
アイコも頑張ってるんだなって思った。
アイコはいつも頑張ってるって分かってるけど。
でもそれが再確認できてよかった。
私はちょっと駆け足で教室へ戻る。
アイコの漫画が楽しみで、スキップをしたい気持ちになっていた。
もちろん、そんなことしないけど。
恥ずかしいから。
……
…………
………………
ある日の出来事。
「いっちゃん」
教室で本を読んでいるとカナが言った。
「どうかしたの?」
「いっちゃんって映画は好き?」
「映画?」
「うん」
「……普通かな」
といってもあんまり自分でDVDを借りたりしない。
映画館にもほとんどいかない。
お母さんが借りてきたのを見たり、テレビであってるのを見るぐらい。
「カナは好きなの?」
「私も普通かな」
じゃあなんで話題に出したんだろう?
そう考えていると……
「えっとね。夏休みに一緒に映画を見に行かないかなって思って」
「うん。いいよ」
もちろん断るはずがなかった。
断る理由もないし。
「何か見たい映画があるの?」
カナはスマートフォンを操作する。
見たい映画の公式サイトを出してるのかもしれない。
「これを見に行きたいかなって思ったんだ」
差し出されるスマートフォンを私は見た。
そこには高校生が主人公のSFと恋愛が混ざったような映画が紹介されてた。
私は操作して予告編を見る。
……確かに面白そうだなって思った。
「予告編見るとなんだか見たくなるよね」
私はスマートフォンをカナに渡しながら言った。
「うん。私も予告編を見てこの映画を見たくなったんだ」
カナはなんだかうきうきした感じで言う。
そんなに楽しみなんだなって思うと嬉しい気分になった。
「映画はレイトショーで見ようか」
「レイトショー?」
「うん。20時以降の作品は料金が安くなるの」
「そうなんだね」
安く見れるならそっちの方がいいって思った。
「それに夜の方が人少ないしね」
「それもいいね」
私は人混みが苦手。
カナはそれをよく分かってくれている。
「でもレイトショーって23時以降に終わるのは18歳以下じゃ入れないんだよね」
「厳しんだね」
「うん。夜はやっぱり色々あるみたいだしね」
カナの言葉に私は美香が思い浮かんだ。
美香は昼より夜の方が活動的だっただろうって思う。
どうやら今は真面目に学校に来て奉仕活動とかしてるみたい。
これをきっかけに普通の女子高生みたいな生活に戻ってほしいなって思った。
それとたまこと前みたいに仲良くしてほしいって。
「だから時間とか分かったらまたお知らせするね」
「うん。映画館って久しぶりだから楽しみ」
それにカナとお出かけするのも……。
いつもカナとは一緒にいる。
それは夏休みになっても同じ。
ほとんど毎日のように顔を合わせるって思う。
でも一緒にお出かけってなるとそれだけでいつもと違う気がした。
なんだかいつもよりドキドキする感じ。
だから一緒に映画に行くのはとっても楽しみ。
「わたしも楽しみっ!」
笑顔で言うカナ。
同じ気持ちでいてくれたら嬉しいなって私は思った。




