03
女の子がいた。
お母さんからのメッセージを待っている途中。
特にあてもなくホームセンターの中をぶらぶらとしてる最中。
不安そうな顔できょろきょろと周りを見てる女の子を見つけた。
おかっぱっぽい感じで横の方を小さく結っている。
1人でいるけど、とても幼く見える。
多分、今度の4月で中学生になるとかそういう感じだと思う。
少女っていうより女の子っていうほうがぴったりあてはまった。
何かを探しているのか、とても困ったような顔が印象的だった。
たまにお店の人が通り過ぎる。
でも女の子は話しかけようと
「あ、あの……」
って本当に小さな声で言う。
でも忙しいのかお店の人は気がつかないで通り過ぎていく。
その度に女の子は本当にしょんぼりとした顔を見せた。
なんだかはじめてのおつかいを見ているような気分。
実際はそんな年齢でもないんだろうけど。
でも本当に困ってるのは確かみたい。
どうしよう。
私は少し考える。
声をかけようか、かけないでおこうか。
カナならきっと声をかけないだろうって思う。
ナツミは絶対に声をかけるって確信できた。
私はどっちかというとカナに近い感じ。
知らない人に声をかけるのはあんまり得意じゃない。
秘密がバレる可能性を少しだけだけど上げることいなるし。
だからこういった時はあんまり手伝わないのが普通だった。
薄情かもしれないし、性格があんまりよくないかもしれない。
それが私の防衛手段でもあったから。
でも小動物みたいに不安気な姿を見るとなんだかほっとけない気がした。
女の子は可愛いし、変な人に声をかけられても可哀想だし。
よしっ!
って感じで私は気合を入れる。
女の子に話をかけようって。
何か私にできることをがあれば手伝ってあげようって。
「何か探してるの?」
知らない人に話しかけるのはなんだか緊張する。
転校が多かったから初対面の人と話すのは苦手じゃない。
でも自分から話しかけるってことはあんまりなかった。
転校生にはみんなが話しかけてくれるから。
「えっ……」
女の子はゆっくりとこちらを見る。
少し潤んだような瞳で私を見た。
なんだか本当に女の子って感じがした。
すごく守ってあげたくなる。
「困ったことがあるなら手伝うよ」
「えっと……その……探してるものがあるんです」
ゆっくりとした話し方は一三屋先輩と似てる気がした。
でも一三屋先輩のような不気味さは女の子には全然なかった。
「ドライバーセットが欲しいけど、でもどこにあるのか分からないんです」
「ドライバーセット……」
なんだか目の前の女の子と不釣り合いだなって思った。
自分で使うのかな?
それとも誰かに頼まれたのかな?
疑問に思ったけど、質問はしなかった。
その代わりに私は言った。
「確かあっちの方にあったよ」
私はさっきまで自分がいたところを指差した。
工具コーナーがあって電動ドリルとかを凄いなーって思いながら見てた。
もちろん、使う機会なんてないだろうけど。
その時になんか見たような気がした。
小さい箱だったから見逃すのも無理ないかもって思う。
「でもたまこあっちも探したけど……」
どうやらたまこっていう名前らしい。
そして1人称が自分の名前。
名前もその1人称もなんだかぴったりだなって思った。
なんか可愛い感じ。
私がそんな風に自分を呼んでたらきっとかなり変になる。
「見つけられなかった」
「分かりにくいところにあったからね」
私は工具コーナーの方を見た。
「一緒に行って教えてあげるね」
「あっ、ありがとうございます」
まだ怯えている小動物みたいな感じがした。
もしかしたら警戒されてるのかもしれない。
知らない人にはついていかないようにしましょう。
そう教えられるからしょうがないかなって思った。
私もたまこの立場ならとても警戒するはずだし。
私が歩くとその後ろをついてくる。
なんだかちょっとお姉さんになった気がして嬉しかった。
「ここらへんにあったって思うけど……」
私はドライバーセットを探す。
すぐに見つけることができたので取って渡した。
「これでよかったかな?」
「ありがとうございますっ!」
たまこの表情がぱっと明るくなった。
本当に可愛い笑顔だなって思った。
「こんなのところにあったんですね。たまこ探しものをするのとか苦手で……」
「私もそんなに得意じゃないからね」
ドライバーセットもたまたま見つけてただけだから迷わなかった。
もし全然知らない状態だったら、たまこみたいに探し続けてたと思う。
「なんだかしっかりしてるように見えますけど……」
「私も最近までそう思ってたけど、そうじゃなかったみたい」
でもやっぱり平均以上のしっかりさはあるんじゃないかなって思う。
「今レジが開いてるみたいだから買ってくるといいって思う」
「はいっ!」
そう言ってたまこはとたとたとレジに小走りで行く。
……なんだか見ていて心配になる。
私も後ろを歩いてレジへ向かった。
なんだかストーカーみたいだなって思ってしまった。
「1280円です」
「えっと……こっ、これからお願いします」
たまこは1500円を渡す。
そしておつりをもらっていた。
一緒にビニール袋に入ったドライバーセットも。
無事に買えてよかった。
私がそう思いながらぼんやりと見ていると……
「あっ!」
無事に買い物を終えたたまこが私の方を見る。
ついて来てると思ったなかったのか、少し驚きの表情を見せる。
「えっとその……ありがとうございましたっ!」
そしてぺこりと頭を下げる。
「うんうん。無事に買えてよかったね」
「はいっ! えっと……その……」
なんだかもじもじした感じ。
顔を少し赤くして恥ずかしそうな雰囲気だった。
「……?」
どうかしたのかなって思った。
買い物も終えた。
お礼も言ってもらえた。
後は特に用事とかなさそうだけど……。
そう考えていると……
「あのっ!」
たまこは思ったよりも大きな声を出した。
その声は今までの小さな声と全然違った。
私も驚いちゃったし、周りの人もちらりとこちらを見ていた。
「なっ、名前を教えてもらってもいいでしょうかっ!」
多分、あんまりそんなことを言うのに慣れてないんだと思う。
だから必要以上に力が入って声が大きくなったんだなって。
「うん。いいよ。私の名前はいつきって言うんだ」
「いつきさん?」
「うん。なんだか男の子っぽい名前でしょ」
でも私がたまこっていう名前でも似合ってなくて変だなって思う。
案外、この名前でよかったのかも。
「いつきさんって格好いいから合ってると思います……」
「そう言ってもらえると嬉しいな。たまこ……ちゃんも可愛くて名前に合ってるね」
「そっ、そんな! たまこはそんなに可愛くないし……」
「私は可愛いって思うよ」
「いつきさんみたいな人にそんな風に言ってもらえてうっ、嬉しいです……」
なんだかとっても恥ずかしそう。
でも嬉しそうにも見えた。
言ってよかったなって思う。
私とたまこはそのまま外に出る。
外は相変わらずいい天気。
綺麗な一番星が見れそうだなって思った。
「あのっ! お礼を何かしたいんですけど……」
ホームセンターを出てすぐにたまこは言った。
「お礼なんて、そんな大したことをしたわけじゃないんだし」
「でもでも……本当に助かりましたし……」
「それじゃ……」
私は少し考える。
もちろんお金を使うようなものはなし。
こんな小さな女の子から何かを買ってもらおうとか思わない。
相手がナツミならもちろんジュースとか買ってもらうところだけど……
「連絡先教えてくれないかな? スマートフォン持ってるならでいいけど」
「あっ! 持ってますっ!」
ぴょんって飛び跳ねるような仕草。
「この前にパパに買ってもらったんですっ!」
そう言って取り出したのは少し高めのスマートフォンだった。
可愛い猫のカバーをしてある。
なんだかとっても可愛いい。
面倒くさいからってそのまま使ってる私とは大違いだなって思った。
ちなみに私のはそんなに高くないやつ。
よく分からなかったし、そんなに使わないだろうって思って選んだ。
高いスマートフォンより、綺麗に星が取れる高いカメラのほうが欲しい。
「買ってもらったのは嬉しいけど、たまこあんまり連絡とか取る友達とかいないから……」
「私もそうだよ」
「そうなんですか?」
「うん。私も友達って少ない方だから」
「そうは見えないですっ!」
「転校とか多かったからね。だから友達になってくれると嬉しいかな」
もっとも転校が多くても友達が多い人は多いだろうって思う。
だから友達が少ないのは資質の問題。
人を信用できない私が原因。
「でもそれがお礼でいいんですか?」
ちょっと不安そうな表情。
「たまこと知り合いになっても楽しくないって思います……」
ぼそっとしたつぶやきだった。
「たまこって明るくもないし、話もあんまり上手じゃないし……」
「そんなの話してみないと分からないと思うな」
それにここでこれっきりっていうのもなんだか勿体無い気がした。
普通なら秘密がバレたくないって思うところ。
だからこれっきり会わないのがいいって。
でも今日はそうじゃなかった。
それは今日のいい天気のせいかもしれない。
または眼の前にいる人がたまこのせいかもしれない。
「私はたまこちゃんとお友達になりたいな」
自分から友達になりたいって言ったのはいつ以来だろう。
ナツミはあっちから話しかけてきた。
カナにはそういうのの前に秘密を告白した。
こうやって私から普通に友だちになろうって言うのは初めてのことかもしれない。
だんだん私も普通になってきているのかもしれない。
私が地球人じゃない限り、完全に普通になるのは不可能だけど。
「だから連絡先を交換してくれない? 今の私にはそれが一番嬉しいかも」
「あっ、ありがとうございますっ!」
「お礼を言うのはこっちの方だから」
私はスマートフォンを操作する。
なんだかお母さんからメッセージが来てる。
なんだろう? と思いつつ操作した。
「えっと……電話番号を交換すればいいんだよね?」
あやふやな感じで私は言った。
「多分……それで大丈夫……だと思います」
たまこもなんだか不安そうに言った。
2人ともこうやって連絡先を交換することが少ないんだなって思った。
「でも電話番号を交換しとけばどうにかなるよね」
「ですねっ!」
私はたまこの電話番号を教えた。
そしてたまこの電話番号を入力して電話帳に保存する。
なんだか1つ宝物が増えたみたいで嬉しい気分になった。
「えっと……パパを待たせてるから……」
たまこはちらちらって感じで駐車場を見る。
「うん。またね」
って私は言った。
なんだかまたどこかで会いそうな予感がしたから。
「今日は本当にありがとうございましたっ!」
たまこはぺこりと頭を下げてまたぱたぱたと走り出す。
なんだかいい1日になったな。
気分良くひとりぼっちの天体観測ができそう。
そういえば……。
って私はスマートフォンを見る。
さっきお母さんからメッセージが来たのを思い出したから。
何の用事だろう?
「あっ!」
私は思わず大きな声を出した。
周りの人が何事かと私を見て恥ずかしい気持ちになった。
私は回れ右をしてまたホームセンターの中に入った。
メッセージを見て今日なんで私がここに来たのかを思い出したから。




