02
用事があるってカナから連絡がきた。
だから今日は部室でのんびりするんじゃなくて、家でのんびりする日。
小説を読んだり、アニメを見たりする1日。
いつも通りといえば、いつも通りの日常。
そうなる予定だった。
「いっちゃん、暇ならお願いがあるんだけど」
ってお母さんに言われるまでは。
「お願いって?」
「買い物して来てくれない?」
お母さんが買い物を頼んで来るのは珍しいことだった。
お母さんはそういうの好きな方だから。
お母さんは料理の買い物とかも楽しそうに行ってる。
何を買うか決めるのとかが楽しいって言ってた。
「どうかしたの?」
だから私は何かあったのかなって思った。
そうじゃないと私に頼まないはずだから。
何か用事ができたか、もしかして……
「ちょっと具合が悪いっていうか、調子が悪いっていうか……」
「大丈夫なの?」
私が言うとお母さんはくしゃみをする。
よく見ると少し目が充血していた。
それを見て心配な気持ちになったけど、でもそこまで深刻そうな雰囲気でもない。
「なんだか近頃、目が痒いし鼻がむずむずするのよね」
言いながらまたくしゃみ。
お母さんがくしゃみをするのはあんまり見ない。
なんだか今日は止まらないって感じみたいだけど……。
「熱はないし、喉とかも痛くはないんだけど……。何かしら?」
熱はない。
喉も痛くない。
目が痒い。
鼻がむずむずする。
それって……
「……花粉症じゃない?」
私が言うとお母さんはなるほどねっていう表情を見せる。
「これが花粉症なのね」
「今までなかったことないの?」
「そうなのよ。今年いきなりだから何なのか分からなかったわ」
もう1度くしゃみ。
今日はたくさん花粉が飛んでるのかもしれない。
花粉は目に見えない。
でもこんなに人に影響を与えたりするから凄いし怖いなって思った。
それに突然なるなんて。
私もいつなるか分からない。
今まではなんだか他人事みたいな感じだった。
けど、身近な人がなっちゃうと、自分もって思ってしまう。
後で予防方法とかあれば調べようって思った。
「大丈夫なの?」
さっきも同じことを言ったなって思った。
「そんなに重症じゃなさそうだからね。でもあんまり外を出歩く気分にはなれないわ」
「うん。代わりに私が行ってくるよ」
どうせ今日は暇だったし。
花粉症なら家の中のほうがひどくならなそうって思った。
「ありがとう。いっちゃんって本当に良い子ね」
「これぐらい普通だと思うけど……」
「私が同じ年齢だったころは意味もなく親に反抗してたりしてたわ」
親に反抗してたお母さん。
どうしても想像できなかった。
でも本人が言ってるんだし、きっとそうなんだろうって思う。
「私にも反抗して欲しい?」
言いつつ私は思う。
親に反抗するって何をするんだろうって。
「そんなわけないじゃない。いっちゃんが私に似なくてほっとしてるわ」
本当の親子じゃないからね。
なんて思ってももちろん言わない。
私がお母さんから生まれてきたのは本当のことなんだし。
「それで何を買ってくればいいの?」
「ホームセンターに行って欲しいの」
「なんだか珍しい場所だね」
それに少し離れた場所にある。
てっきり近所のスーパーへの買い物だって思ってた。
だから少し面倒くさいなーって思ってしまう。
もちろん今更、断ることはないけど。
「買って欲しいものは紙に書いてるから」
言いながらお母さんは1枚の紙を渡す。
私は紙を受け取って見ないでポケットに入れた。
「紙なくさないでね」
「なくしたら電話するから大丈夫」
「何が大丈夫なのよ……」
「文明の利器は活用しないとね」
「買い忘れがないようちゃんと頼むわよ」
「良い子だから大丈夫だって」
「いっちゃんは良い子だけどどこか抜けてるからね……」
言いつつため息をつく。
最近のみんなの反応で自分の中の
私はしっかり者。
っていうイメージは間違ってたんだって分かってしまっている。
「買い物ぐらい大丈夫だって」
「あっ! 昼過ぎると思うからお釣りでお昼ごはん食べてきていいわよ」
「本当っ!」
「買い物してくれたお駄賃みたいな感じね」
「やったねっ!」
何を食べようかなって私は考える。
もちろん1人で外食ってちょっと難しい。
食べてる途中にあの不安な気持ちになったら大変。
だから買い物を終えたらカナに……
あっ、カナは用事があっていないのかな。
それならナツミに連絡を取ってみようって思った。
ナツミも駄目だったらコンビニとかで買って家で食べよう。
あんまり自分で外食とかするお金はないからこういうのはなんだか嬉しい。
「それじゃ行ってくるね」
私はなんだかテンションが高くなった。
頑張ってお使いをしようって。
そしてご褒美に美味しいものを食べようって。
そんな私にお母さんは言った。
「いっちゃんっ! 大事な文明の利器を忘れてるわよっ!」
……
…………
………………
家を出た私はとりあえずバスセンターへ向かう。
ホームセンターの場所はスマートフォンで調べた。
やっぱり思った通り遠い場所にある。
遠い場所に行くのは久しぶりな気がした。
私の行動範囲は天体観測以外ではとても狭いから。
私は最近に遠くに出かけた場所を思いだした。
12月に行った天体観測。星野村。
3ヶ月前のことだって思えないぐらいに、はっきりと覚えている。
空気の冷たさとか、夜の暗さとか、星の綺麗さとか、カナの手の感触とか。
帰りの車はぐっすり眠ったことも。
カナは起きてたみたい。
ずっと寝顔を見られたと思うとちょっと恥ずかしい。
でもすごく楽しかったし、心にずっと残る思い出になった。
いい天気だな。
私はなんとなく空を見て歩いた。
雲はいくつかあるけど、太陽はばっちり姿を見せている。
夜晴れてたら窓から星を見てもいいなって思った。
1人ぼっちの天体観測は続けてる。
でも意味合いは前と変わってた。
前は眠れない時にするものだった。
不安で、不安でたまらない時に心を落ち着かせる行為だった。
でも今は違う。
単純に星を見るのを楽しんでいた。
星座を探したり
好きな星を探したり
故郷の星を探したり
そんな感じでのんびりとする時間になっていた。
今日は1番星を見つけるのもいいかもしれない。
1番星は単純に最初に見える星。
もっというなら自分が最初に見つけた星。
のことをいうのかもしれない。
でも後の私は見たいって思ってるのはそれとはちょっと違う。
私が見たいのは宵の明星。
日が沈んだ後に見える金星。
金星は太陽や月を除くと1番明るく見える星。
だから明るい星、明星って言われるみたい。
とても明るいから空気や天気の条件がよければ昼でも見えたりする。
宵の明星とは逆に日の出前に見える金星を明けの明星っていう。
夜の始まり、夜の終わり。
その2つで輝くことを繰り返す惑星。それが金星。
もうすぐ宵の明星から明けの明星に変わる。
だから宵の明星の見納めをしようって思った。
今度は明けの明星を見るために早起きをするのもいいかもしれない。
もっとも私は早く起きるのが苦手。
寝る前はそんなに眠くなくても、起きる時にはとても眠いのが不思議。
だから明けの明星を見るのは私にとってちょっとした難題だ。
少しは早起きできるようにならないとな。
私ももう高校2年生なんだし。
いつまでもお母さんに起こしてもらってちゃいけないって思う。
目覚まし時計だけで起きれるようにならないとっ!
私は心の中で決心する。
確か高校生になる時も似たようなことを考えてた気がするけど……。
……
…………
………………
バスに乗って20分ぐらい。
歩いて5分ぐらいで目的の場所に着いた。
ホームセンターはとても大きい。
駐車場も、店自体も。
だからちょっと街から離れた場所にあるのかもしれない。
私は家族で何度か来たぐらい。
だからあんまりホームセンターの大きさに慣れてないのかも。
思わずおおって見てしまう。
なんだかちょっと圧倒される感じがする。
それは大きさだけじゃなくて、売ってあるものにも感じるのかもしれない。
駅の近くには大きな家電量販店がある。
あそこは割りとよく行くし、売ってるのもなんだか身近な物。
でもホームセンターはそうじゃないイメージがある。
それに家電量販店は縦に伸びてて、ホームセンターは横に広い。
そこが雰囲気の違いかもしれないって思った。
駐車場にはそこそこの車が止まっている。
家族連れが多い感じがした。
私はなんだかドキドキしながらホームセンターの中に入った。
中は明るくて、床もぴかぴかしている。
色々なコーナーがあって、様々な物が売っている。
そういえばホームセンターにはペットコーナーがあった気がする。
犬とか猫とかいるところ。
確かハムスターとか熱帯魚とかもいた気がする。
なんだかちょっとした動物園のように思えた。
買い物が終わったら見に行こうかなって思った。
動物は可愛いい。
見るのもさわるのも好き。
本当はすぐにでも行きたいって思った。
でもそうするとここに来た目的を忘れる可能性もあった。
だから先に買い物を終わらせよう。
私は紙を確認しようって思った。
何を買わなくちゃいけないのか書いてある紙。
確かこっちのポケットの中に……。
あれ……。
こっちだったかな……。
……あれ……あれ?
……
ぴりりりりりりり
って言う電子音が聞こえる。
ノーマルな呼び出し音。
少し前は呼び出し音を好きな曲に変えてたりした。
でも今はそういうことをする人も減ったなって思った。
多分、面倒くさいし自分の趣味とかをおおっぴらにするのが恥ずかしいって気づいたんだろう。
私は意味もなくそんなことを考えた。
少し待って、お母さんの声が聞こえた。
「いっちゃん、どうかしたの?」
「……紙なくしちゃった」
ポケットをいくら探しても紙はなかった。
財布を出した時に落ちちゃったかな?
そもそもポケットに入れてなかったのかな?
もしかしたらお母さんが渡しそびれたのかな?
紙だけ盗まれた可能性だってある。
多分、確率だけで言うなら盗まれた可能性が一番高そう。
それなら私が悪いわけじゃないし。
盗んだ人が悪いんだし。
そう思うことにした。
「そんなことになりそうだなって思ってたわ」
電話の向こうからため息が聞こえる。
「これで携帯電話を忘れてたらどうしようもなかったわね」
「その時は公衆電話を使って……」
「私の電話番号暗記してるの?」
「してないです」
しようって思ったこともなかった。
自分の電話番号は覚えてるけど。
家とかでなくすことが多くて、何度もお母さんの携帯電話で探したりするから。
「それじゃ言うからちゃんと覚えなさいよ」
「それよりメッセージで送ってくれた方がよくない?」
言葉で言われても忘れる可能性があった。
少しだけだけど、本当に少しだけだけど。
でも確実な手段があるならそれを使わない手はないって思った。
「文字打つの苦手なのよね……」
「そこは根性でっ!」
「それならいっちゃんに根性で覚えてほしいわ……」
「それはそれ、これはこれ」
私が言うとくしゃみをする音が聞こえた。
「なんだか花粉症って自覚すると辛くなってきたわ」
「横になってれば治る?」
「そういうものでもないと思うわ」
「何か薬とかいる?」
「しばらく様子を見るわね。薬とか飲むのあんまり好きじゃないし」
っていうお母さんは体が丈夫な方。
風邪とかを引いてるのもあんまり見たことがない。
だから花粉症がとっても辛そうに思えた。
「それじゃメッセージ送るからちょっと待ってて」
どうやら私の要望が通ったみたいだ。
最初からこっちにしとけばよかったのに。
って思ったけど、私は自分が携帯電話を忘れそうになったことを思い出した。
何事も予備とかプランBとかが大事なんだな。
「待ってる間に携帯電話を落とさないでよ」
「さすがにそれはないよっ!」
こんな状況で携帯電話を落とすなんてさすがにありえない。
いくらお母さんとはいえ失礼だなって思う。
「流石に大丈夫よね。それじゃ切るわよ」
「うん。またね」
「あんまり遅くならないようにね」
電話が切れた。
私はしっかりポケット中に携帯電話を入れた。
これで大丈夫。
誰かに盗まれたりしない限りは。
待ってる間、何しようかな。
って私は考える。
お母さんは本当にスマートフォンで文字をうつのが苦手。
だから紙にメモしてたし、さっきも口で伝えようとしてた。
もしかしたらメッセージが来るのに10分ぐらいかかるかもしれない。
その間、ぼけっとしてるのも疲れそう。
だからちょっと見て回ろうって思った。
ホームセンターの中には本当に色々な物がある。
だから見て回るだけで10分ぐらいはすぐに過ぎそう。
あっちの方に行ってみようかな。
私はぼんやりと行くところを決めて、歩いた。




