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「いっちゃん、さっそく冬服なんだね」
いつもの挨拶の後にカナは言った。
カナは今日も夏服を着ている。
確かに暑くはないけど、まだ夏服でも問題ない感じ。
過ごしやすい季節だなって思う。
「うん。着てから冬服だって気づいたんだけどね」
「着てから?」
不思議そうな顔をする。
どういうことだろうって、そんな感じ。
「それはその……」
しまったって思った。
余計なことを言ってしまった。
何か自分の恥ずかしさを打ち消せる言い訳はないかな……。
少し考えたけど思いつかなかった。
「お母さんが移行期間だからって準備してくれたんだ」
だから私は素直にありのままに言うことにした。
「それに気が付かないで着替えてて、終わった後にこれって冬服だって気づいたんだよね」
「そうなんだねっ!」
カナはおかしそうに笑う。
「なんだかいっちゃんっぽい話だねっ!」
「私っぽいかな……」
「うん。いっちゃんってお世話したくなるタイプだからねっ!」
カナから私はそんな風に見えてるのか……。
ちょっと落ち込むかもしれない。
でももしかしたら私は自分で思っているよりしっかりしてないのかも。
「カナは冬服とか自分で準備するの?」
「もちろんっ!」
カナは本当にしっかりしてるんだなって思った。
「お弁当も自分で作ってるしね」
「そうだったんだっ!」
思わず大きな声が出た。
自分で弁当を作る。
私にはそうする実行力どころか、そうしようとする発想力すらなかった。
お弁当はお母さんが作るものって思い込んでた。
自分で作るっていう選択肢がこの世に存在するのが驚き。
「作るの大変じゃない?」
早起きしたり、何を入れたりするかとか考えなきゃいけない。
それを毎日だなんて、私にはきっと無理だなって思った。
そもそも料理もほとんどできないし。
「慣れだよ。慣れ」
笑顔で軽く言うカナはなんだか職人みたいに見えた。
「最初は大変かもだけど、でも好きな食べ物を入れれるから便利だよ」
「それはいいかも……」
お母さんは基本的に私の好きな食べ物を入れてくれる。
でもたまにわざと嫌いなものを入れることもある。
その時は少し気合を入れて食べていた。
ピーマンとか苦い系の野菜は得意じゃない……。
「面倒くさい時はパンとか買えばいいしね」
「なんだかそういうのってカナらしいね」
「そういのって?」
「しっかりしてて大人っぽいところ」
「確かにいっちゃんよりはしっかりしてるかもね」
「それは私が駄目なんじゃなくて、カナが凄いんだよ」
カナよりはしっかりしてなくても平均以上だって思いたい。
お弁当を作らないのも、制服を準備しているの、きっと普通のこと。
「自分でお弁当を作る人ってなかなかいないって思う」
「まぁそうはそうかもね」
「カナって本当に何でもできるよね」
「そんなことないよっ!」
「だって料理もできるし、勉強もできるし、運動もできるし、絵もかけるし……」
ことごとく私があんまりできないもの。
なんだか自分の取り柄がないって分かって悲しくなってくる……。
「でも私はいっちゃんみたいに素敵なお話は書けない」
私は冗談みたいな感じ言った。
でもカナはとても真剣に私に言う。
「私はそういうことの方が凄いって思う」
「……カナが言ってくれると、本当にそう思えるから不思議」
カナの言葉にはなんだか不思議な力があるみたい。
なんだか少し自信が持てた。
そんな私にカナは言った。
「だからいっちゃんは今のままで十分だと思うよ」
って。
……
…………
………………
放課後の時間。
部活の時間。
私はノートパソコンを開いていた。
締め切りまではもう少しある。
でも早めに書いておきたいって思った。
「何かかけそう?」
ノートパソコンを覗き込みながらカナは言った。
見られるのは恥ずかしいけど、まだ何にも書いてないから平気。
「うん。てんびん座について書こうって思ってるんだ」
「10月の星座だからねっ!」
「うん。10月17日が配布日って言ってたから、その日の星座に合わせようって思ったんだ」
これなら毎月とりあえず書くことに悩まないなって思った。
でもこれが使えるのも1年間。
星座がぐるっと回ったらおしまい。
来年からはきちんと考えないといけない。
来年も頼まれるかは分からないけど。
「でも星座って書くことあるの?」
「うん。書きたいことがあるしね」
「書きたいことがあるって凄いねっ!」
「それぞれの星座にはそれぞれの物語があるんだよね」
「物語?」
「例えばてんびん座は正義と天文の女神、アストライアーの持ち物なんだ」
「正義と天文の女神ってなんかかっこいいねっ!」
「アストライアーが人間の善悪を図るために使っていたのがこのてんびんってわけ」
「なるほどねっ!」
「てんびん座の横におとめ座があるんだけど、このおとめ座がアストライアーっていう考えもあるんだよ」
私はカナに話しながらどういうことを書こうかって頭の中にまとめていく。
口に出して話すと、なんだか頭の中を整理整頓している気分になった。
「昔の人はただ星をつなげて形にしてただけじゃないんだね」
「うん。そうやってできたもので物語を作ってたんだ」
もしかしたら物語を元に星座を作ったのかもしれないけど。
どっちが先かは私には分からなかった。
「なんだかロマンチックだね」
「とっても昔の人が考えた物語が今でも伝わってるって本当に凄いって思う」
だから私はそういうことをコラムに書きたいって思った。
星座の良さもそうだけど、物語そのものの力強さも伝えたい。
私にできるか、ちょっと不安だけど。
「わたしは応援しかできないけど、頑張ってねっ!」
「できるだけ頑張るよっ!」
私は気合を入れた。
小説を書いた時は長丁場だった。
でも書いた量も多かった。
だからあんまり見直しとかもできなかった。
今回は短い分、しっかりと見直しとかもしようって思った。
……
…………
………………
「どうかな?」
コラムの原稿を読んでるカナに言う。
さっき書き終えたばかりのもの。
1度ざっと書いて、読んで、書き直して、読んで、書き直して……。
をなんどか繰り返してようやくできた。
自分でもよくかけてるはずだって自画自賛。
原稿締切の前日、9日。
やっとできたって感じだった。
今回は初めてだし、時間も少なかったからばたばたってした感じだった。
「すごくよかった!」
原稿を読み終えたカナが言った。
「分かりやすくて、勉強になったよ」
「そう言ってくれると嬉しいかな」
分かりやすく。
読みやすく。
それが今回、1番重視したところ。
だからカナが分かりやすいって言ってくれたのは、とっても嬉しかった。
「やっぱりいっちゃんは才能あるよっ!」
「それほどでもないって!」
と言いつつなんだか満更でもない気分。
「さっそくメールで送るね」
「やり方覚えてる?」
「大丈夫。……多分だけど」
私は思い出しつつパソコンを操作する。
確か青い鳥のをカチカチってして……ファイルをうつして……。
それで題名と本文を……。
なんだかとっても慎重にやってしまう。
パソコンって何かの拍子で壊れそうだし、やっぱり怖い気がする。
カナからしたら気にしすぎだよって感じだろうけど。
「これでいいかな?」
これであってるよね?
そういう不安を抱きつつカナに言った。
「うん。大丈夫だと思う」
「送信ボタンを押してもいよね?」
「大丈夫っ!」
カナがこんなに言ってくれてるんだから大丈夫のはずだ。
私は緊張しながら、送信のところを押した。
「……これで終わり?」
「うん。終わり」
「なんだかあっけないね」
「そんなもんだよ。メール送るたびに何かあったら疲れちゃうしね」
「それもそうだね」
よく考えればパソコンだからって携帯電話とかのメールと変わるわけじゃない。
ただファイルをくっつけるか、そうじゃないかだけ。
なんだか私はパソコンのことをすっごいものとしか分かってないなって思った。
「後は一三屋先輩の返事を待つだけでいいんだよね」
「そうだね。きちんと返事をくれるか分からないけど」
一三屋先輩は読んでどんな風に感じたのか気になった。
面白いって思ってくれると嬉しい。
でも直さなくちゃいけないところがあるなら、きちんと直したい。
ぼろぼろに言われたら、落ち込むと思うけど……。
「あっ、メール来たよ」
カナがつぶやくからノートパソコンを見ると、新しいメールを知らせていた。
題名で一三屋先輩からだって分かる。
「早いねっ!」
興奮気味に私は言った。
なんだか新聞部は忙しそうだから、返事は少し遅めだと思っていた。
でも一三屋先輩はとっても早く返事をくれた。
私は急いでメールを開いた。
メールには長い文章がかかれてる。
私がメールを送ってそんなに時間は過ぎてない。
この短い間で原稿を読んで、こんなに長い返事をくれた。
あんまりがりがりって何かをするような人には見えなかった。
でも本当はキャリアウーマン的な人なのかもしれない。
さすが新聞部だなって思った。
そして書かれている内容を要約すると、
よくできてる。このまま載せる。
だった。
どこがよかったのか、とっても詳しく書いてくれている。
「これでよかったってっ!」
私は嬉しくて、思わず大きな声を出す。
「当たり前だよ」
カナは笑顔だった。
自分のことみたいに喜んでくれている。
「いっちゃんが書いたものなんだからね」
はなまる新聞は部誌よりももっとたくさんの人が読んでくれる。
読んでくれた人が少しでも楽しめてくれたら嬉しい。
読んでくれた人が星座とか星とかに興味を持ってくれたら嬉しい。
早く配布日にならないかなって私は思った。
読まれてだめだったらどうしようとか、そういうネガティブな考えはあんまりない。
私には珍しいことだなって思った。
……
…………
………………
予定通りの17日。
はなまる新聞が配布されていた。
各クラスの掲示板に1枚ずつ。
そして図書室や新聞部の部室、廊下の1部などに自由に取れるように置いてある。
私は今まであんまり興味なかったし、どこで配られているのかもしらなかった。
でも今回は廊下にあるものを2枚もらった。
お父さんとお母さんも読みたいって言ってたから。
「本当に載ってるよっ!」
「当たり前だよっ!」
「なんだかすっごく嬉しいっ!」
「みんな読んでるといいね」
「うんっ!」
なんて会話を私とカナはした。
「そういえば教室で読んでた人もいたよ」
「本当っ!」
気が付かなかった。
読んでる人を見たかったなってちょっと後悔。
そんな時にこんこんってノックする音が聞こえた。
「わたしが行くね」
私が何か反応するより早くカナが立ち上がった。
早足で扉の前まで移動する。
そしてがらってカナは扉を開けた。
そこには一三屋先輩が立っていた。
私が対応した方がいいのかな?
そう思っていると
「いっちゃんは座ってていいよ」
ってカナが言う。
任せようかなって私はカナに頼ることにした。
「どうかされたんですか?」
ちょっと威圧感があるカナの言葉。
「その……えっと……あの……」
なんだか一三屋先輩は緊張しているみたいだった。
人に会うのが苦手なのは本当みたい。
「部誌……を欲しいっていう人がいて……」
「ひまわり新聞のコラムを読んで、部誌を読みたくなった人がいるんですね?」
カナの言葉に一三屋先輩はうなずく。
本当にカナは理解が早いなって思った。
「ちょっと待って下さい」
カナはそう言って部室に戻り、0冊ほど部誌を持っていく。
そんなには必要じゃなさそうだけど……。
「とりあえず10冊渡しますので、足りなくなったら言ってください」
「わっ……分かった。ありがとう……」
「いえいえ。余ってたものですし」
そしてカナ少し小さな声で一三屋先輩に言っていた。
何を言ってるのか分からない。
「わ……分かった」
一三屋先輩は少し震えながら言った。
カナみたいなハキハキとしたタイプはなんだか苦手そう。
私はそういうところが素敵だなって思う。
でも今みたいに仲良しじゃなかったら、私の秘密に理解がありそうって知らなかったら、ちょっと怖いって思うかもしれない。
一三屋先輩は小さくお辞儀をして、どこかに行った。
「部誌減らせてよかったねっ!」
「そうだね。そういう宣伝になるって思わなかった」
「もしかしたら部誌足りなくなるかもねっ!」
「そうなるといいね」
言いつつちょっと不安な気持ちもあった。
もしかしたらこれがきっかけで秘密が……。
って思ってしまうから。
でも、
「大丈夫だよ」
カナは言ってくれた。
私は何も言ってない。
でもきっと私の心の中を読み取ったんだろうって思う。
カナは私の唯一の理解者だから。
「いっちゃんは何も心配しなくていいから」
「うん。私はカナを信じてるから」
だから私は何も心配しなくていい。
悪夢だって全然見ていない。
全部、カナのおかげ。
カナはそばにいて、私を守ってくれる。
そう心から信じることができた。




