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「コラムですか……」


「そう……。ぜひお願いしたい……」


文化祭が終わってすぐ。

天文部は特にやることがなくてのんびりとしていた。

2人でだらだらっとするのが天文部の活動。

そしてそれは今日も同じ。

でも今はカナが職員室に用事があったから部室に1人。

図書室で借りた本を読んでいると扉がノックされた。

私は立ち上がって扉の前まで移動。

普通ならカナが対応してくれる場面。

だけど今はカナはいないから私が行かなければいけない。

さすがに居留守を使うわけにも行かないし、そこまで子供でもない。

誰だろう……。

そう思いながら開くと、とても長い黒髪の女性が立っていた。

その髪はとてもぼさぼさとしていて、顔のほとんどを隠している。

その人……一三屋先輩は新聞部のようだった。

私が想像する新聞部のイメージとは違うけど……。

新聞部の人は行動力があってコミュ力があって、文系だけど行動派みたいなイメージ。

でも目の前にいる一三屋先輩はそれとは間逆な感じがした。

そして一三屋先輩は私に月に1回、新聞部が発行する

はなまる新聞

にコラムを書いて欲しいってお願いしに来たようだ。

その手には文化祭で作った部誌が握られていた。


「部誌買ってくださったんですね。ありがとうございます!」


でも一三屋先輩を見た覚えはない。

割りとインパクトがある容姿なので見たら覚えるだろうって思う。

考えられるのは3つ。

私が買い物に行っている間に来た。

漫画研究部の方で買った。

違う人がかったもの。

……2番目かなって私は思った。

なんとなくだけど。


「私が買ったんじゃなくて、新聞部の後輩が買ったの……」


「そ、そうなんですね……」


そして見事に外れた。

三分の一って当たった試しがない気がする。

三回に一回は当たるはずなのに。


「でも私が読んで……面白いと思ったから来た……」


「そう言ってくださると嬉しいです」


「だからコラムをお願いしたらどうかって会議で提案した……」


なんだかおどおどしたような話し方。

でも自分がやりたいことを会議で発言できるから、しっかりしている人なのかもしれない。


「後輩に頼みたかったけど……自分で行けって言われたから……来た……」


「そ、そうなんですね……」


「要点をまとめて来たから、読んでくれると嬉しい……」


言いながら一三屋先輩は1枚の紙を差し出してきた。


「ありがとうございます」


私は言いながら受け取った。

ばーって感じで話されるより、こうやって必要なことを書いたものを渡してくれる方が好き。

ばーって説明されても理解できないことが多いし。


・1200~1600文字書いてほしい。

・その月の星座や星の関することが好ましい。

・メモ帳かWordで渡してくれれば大丈夫。

・手書きも可能。

・新聞が毎月17日に配布なので、10日が締め切り。

・できたら次の月のはなまる新聞から載せたい。

・打ち合わせなどはメールを使用する。


ふむふむって感じで私は読んだ。

えっと原稿用紙が400文字だからだいたい1月3~4枚。

量的にはあんまり問題とかなさそう。

それにこういう活動とかしたほうがいいかもしれないって思った。

文化祭が終わったからってずっとだらだらとしてたら、部室を没収されちゃうかもしれないし。

でも……


「えっととりあえず1つ書いてみて、それで良ければって感じでいいでしょうか?」


あんまりうまく書ける自信がなかった。

だからそういう提案をしてみる。

一三屋先輩は頷きながら言った。


「それで……大丈夫……。書いたらこのメールに送って……」


「わ、分かりました」


一三屋先輩は紙を指差す。

そこにはメールアドレスがあった。

パソコンからメールでファイルを送ったりするやり方は分からない。

だからカナに聞こうって思った。


「打ち合わせがメールっていうのは……」


「私……人と会うの……に、苦手だから……」


「そうなんですね……」


でも苦手なのにここまで来てくれた。

それほど私に期待してるのかもしれない。


「できるだけ頑張ってみますねっ!」


「書けなくてもあんまり気にしないで……。無理言ってるって思ってるから……」


「大丈夫だと思います」


私は少しやる気になっていた。

こういう風に誰かに頼まれることは初めてのこと。

だからすっごく嬉しく思えた。


「コラム……楽しみにしてる……」


そう言いながら一三屋先輩は帰っていた。

一三屋先輩と入れ違いでカナが部室に戻ってくる。


「今の誰だったの?」


なんだかぴりっとした言い方。


「いっちゃんの友達かな?」


「ち、違うよっ!」


私はなぜか弁明するように言った。

友達だったとしても、問題はないはずなのに。


「さっきのは新聞部の一三屋先輩。私にコラムを書いてくれって頼みに来てくれたの」


私はさっき一三屋先輩にもらった紙をカナに見せる。

こういう時にも紙だと役に立つなって思った。

私は説明とか苦手だから。


「月に1つ……星や星座に関する……打ち合わせとかは……メール……」


呟きながらカナは読んでいく。

私にできるか考えてるのかもしれない。

なんだか面談を受けているようで、どきどきした。


「うん。いいと思う。いっちゃんならうまくできそうっ!」


「そうかな」


どうやらカナもやった方がいいって思ったみたい。

私はほっとした気分になった。

よく考えたら、カナに相談して返事した方がよかった。

同じ部活仲間なんだし、次からはきちんとしようって思った。


「いっちゃんが書くコラム、わたしも読みたいしねっ!」


「カナも読むなら気合を入れて書かなくちゃね」


「打ち合わせはメールなんだね」


「うん。一三屋先輩が人と会うの苦手だって」


そういえばって私は思った。

カナにメールでファイルとか送る方法を教えてもらわないといけない。


「ねぇカナ」


「どうしたの?」


「メールで書いたものを送るのってどうするの?」


「そうだね。私がそこらへんはやってもいいけど……」


「一応覚えときたいな」


「分かったっ!」


言いながらカナはノートパソコンの電源を入れる。

ノートパソコンは部誌の小説を書いたもの。

文化祭が終わった後も借りてていいみたい。

愛着は湧いてたから嬉しい。

多分、今日みたいなことがあるって先生は思ったのかもしれない。


「えっとまずメーラーを開いて……」


「メーラー?」


「これのこと」


カナは青い鳥が書いてあるマークをカチカチってする。

するとなんか画面が開いた。


「これでメールの管理とかするの」


「カナって詳しいね」


パソコンを使いこさせるって大人っぽいって思った。

私も情報の授業とかでパソコンをさわったことはあるけど、いまいちよく分かってない。


「それほどでもないよ。勝手に覚えただけだしね」


「私はスマートフォンの操作でも四苦八苦してるのに……」


「そういうのもいっちゃんらくしてくいいって思うけどね」


「なんか馬鹿にされてる気がするっ!」


「そうかもね」


カナがけらけらって笑う。

私も同じように笑った。


「そういえばいっちゃんはパソコン用のメールアドレス持ってないよね?」


「メールアドレス自体使わないしね」


「今はメッセージアプリだからメアドいらない人はいらないもんね」


私の使おうかな。

そうつぶやいてぱちぱちとカナはパソコンを操作していく。

私は画面をじっと見ているけど、何が起こってるのか分からない。


「できた。えっと送りたいファイルをここにこう持ってくるの」


カナはファイルをつまにようにして、メールのところにおいた。

すると右上にファイル名とかが表示された。


「これで送れるの?」


「そうだよ。ファイル添付します。って書いて送れば大丈夫」


なんだか分かったような分からなかったような……。

でもUSBメモリにファイルをうつすのとほとんど一緒だなって思った。


「添付しますって本文に書いとけば、ファイルを添付し忘れてた時に注意してくれるの」


「なんか凄いねっ!」


これがハイテクノロジーなのかなって思った。

同じように教科書とか忘れてたら注意してくれる鞄とかないかな。

多分、ないだろうな。


「分からなくなったらいつでも聞いていいよっ!」


「うんっ! 頼りにしてるっ!」


私はとりあえずメモ帳を開いた。

Wordでもかけるけど、なんかメモ帳が好き。

シンプルだし、使いやすい気がする。

色々機能があっても、私には宝の持ち腐れだし……。


「さっそく書くの?」


「気分だけ」


まだ書くことはなんにも思いついてない。

メモ帳を開けばって思ったけど、そうそううまくいくはずもない。


「失敗しちゃったかな……」


本当に小さな声でカナは言った。

それは明らかに私に言ったものじゃなかった。

思わず出てしまった。

そんな感じの声。


「失敗したって?」


でも私は思わず聞き返した。

少し気になってしまったから。


「いっちゃんが忙しくなって大変そうだなって思ったの」


慌てるようなとかそんな感じはなかった。


「だからもしいっちゃんの負担になるなら。天文部を作ろうって言ったの失敗だったかなって」


「そうなんだね。でも大丈夫だよ」


「うん。分かってる。でもあんまり無理しちゃ駄目だよ」


言いながらカナはにこりと微笑んだ。


「いっちゃんは地球人に会うのだって負担になるんだしね」


「それもそうだね。心配してくれてありがとう」


夏休みにナツミに聞いたことを思い出す。

私と仲良くしたら呪うって書いてある紙。

あれもきっと地球人と仲良くしないよう、カナがしたものだろうって分かってる。

でも私はカナに何も言えないし、言う資格もないって思ってる。

全部、私のためにやってくれてることなんだから。


……

…………

………………


「あれ?」


寝ぼけたまま用意してある制服を着たら冬服だった。

着終えるまで全然気づかなかった。

どれだけのぼけてたんだ!

って私は自分で自分に心の中で言った。


「どうかしたの?」


私の声に反応してお母さんが言う。


「制服に何か汚れとかあった?」


「うんうん。着てみたら冬服だったからびっくりしただけ」


「着てみたら冬服だったからびっくりって……その言葉にびっくりするわよ」


ごもっともだって思った。


「今日から制服の移行期間だっけ?」


「10月1日だから間違いないわ」


「そういえば先生がそんなこと言ってたね」


ぼんやりしてたからすっかり忘れてた。


「10月1日から1週間が移行期間」


「よく知ってるね」


お母さんの方が学校に詳しいっていうのはよくあることだった。


「いっちゃんが知らなさすぎるだけ」


「それもそうだね」


でも私が覚えてなくてもお母さんが準備してくれる。

修学旅行に持っていく鞄も、知らない間に完成してたこともあった。

だから私が覚えれないのかもしれない。

もう高校生だからしっかりしないとって思うけど……。


「いっちゃんもそろそろ自分でできるようにならないとね」


「分かってはいるんだけどね」


「はい、お弁当」


「ありがとう」


「そういえばいっちゃんが書いたの読み終わったわよ」


お母さんが部誌の小説を読んでいるのは知っていた。

私の目の前で読むこともあったし。

目の前で読まれるのはやっぱり恥ずかしかった。


「面白かった?」


「そうね。面白かった。それも驚いたけど……」


「驚いたけど?」


「いっちゃんってちゃんと文章かけるのね」


「それぐらいできるよっ!」


思わず大きな声を出した。

お母さんは私の国語の成績を知ってるはずなのに……。


「いっちゃんってあんまりこう……特技は何もない的に思ってたから」


「それわりと傷つくんだけど……」


「ごめん、ごめん」


軽く明るく謝るお母さん。


「でも初めてでこれだけかけるのは凄いと思うわ。最後の方、ちょっと泣いちゃった」


「……ありがとう」


「いっちゃんプロになれると思うなっ!」


「プロって小説の?」


「いっちゃんが水泳のプロ目指してもなれるわけないでしょ」


「そりゃそうだけどっ! ってかなんで水泳なの?」


「なんとなく」


「それに小説のプロだって無理だよ。私なんて全然駄目だって思う」


「いっちゃんって基本ネガティブよね。誰に似たのかしら」


お父さんもお母さんもポジティブな性格。

私みたいにめそめそってしてない。


「でもプロってのは置いといて、何か書くの続けた方がいいと思うわ」


「うん。それは続ける。新聞部の人にもコラム書いてって頼まれたし……」


「凄いじゃない。どんなの書くの?」


「星座とか星のことについてかな」


「人に頼まれて書くって素敵ね」


「うん。すごく嬉しい」


「やっぱりいっちゃんはプロになれると思うわ」


自信満々にお母さんは言った。


「私は保証するっ!」


「……それお父さんにも言わなかった」


「言ったわよ。当たり前じゃない」


「お父さんプロになれなかったんだよね」


「綺麗さっぱりなれなかったわっ!」


……

…………

………………


「学校行ってくるね」


時計を見ると家を出なくちゃ行けない時間だった。


「うん。いってらっしゃい」


私は玄関へ向かって歩く。

プロか……。

私にはそんな発想、今までなかった。

プロっていうと自分とは何から何まで違う人達って思ってたから。

でもお母さんに言われると、なんだか目指してもいいような気分になってくる。

きっとお父さんも同じように思ったんだろうな。


「ちょっと調べてみようかな」


思わず私は呟いた。

もっと小説を書いたら目指してみるのもいいかもしれないって思った。

もちろん、進路調査とかに書く自信も度胸もないんだけど。

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