30
部誌は全部で29冊も売れた。
残ったのは16冊。
来年も部活として参加するなら、次の部誌と一緒に販売する予定。
またあの大変な作業をするのかって思うと、ちょっと憂鬱だけど。
そして今日は2日目の文化祭。
予定通り、私とカナはのんびりと校内を回っていた。
昨日みたいに作ったものを販売するのも楽しかった。
でもこういう風にのんびり歩いて回るのも楽しい。
1日しかなかったら、どっちかしか楽しめなかったかもしれない。
生徒会長はみんなが色々と楽しめるように2日にしたんだと思う。
本当に感謝しないと。
会う機会はないだろうけど……。
「次、どこいこっか?」
って私はカナに言う。
カナは飲み終えたジュースの空をゴミ箱に捨てていた。
ゴミが散らからないよう、いたるところにゴミ箱がある。
こういうのも生徒会の配慮だろうなって感じた。
「うーん。あんまり歩き回るのも疲れるよね」
「そうだね」
「今日は昨日よりも人が多いみたいだしね」
「みたいだね」
本当に昨日より人が多いかもしれない。
歩き回ってるからそう思うだけかもしれない。
どっちにしろ、歩いてたら疲れることには変わりない。
「何か買ってステージの方を見てくる?」
「それもいいかもね」
なんだかいつもより小さな声。
疲れてるのかな?
私はそう思った。
カナは1日中部室にいて、本を売ってくれた。
その疲れが残ってるのかもって思った。
「ステージは体育館と外でやってるのがある」
パンフレットを見ながら私は言った。
「体育館の方が演劇部とかクラスの出し物とか吹奏楽部の演奏とか」
「外の方は?」
「えっと……なんか色々イベントをやってるみたい。ラムネ早飲み大会とか」
「体育館の方が良さそうだね」
カナはそっちを選ぶよねって言いながら思っていた。
だから当たってちょっと嬉しい。
「私もそっちの方がいいって思う」
イベントとかは知ってる人がいないとあんまり面白くなさそう。
それに何かの拍子でステージに上げられるかもしれない。
そんな風に目立つのは絶対に嫌だなって思った。
「それじゃお昼に食べるのを買って行こう」
「そうだね」
…………。
やっぱり何か調子悪そう。
体育館でゆっくりしてたら治るかな。
「私、焼きそば食べる」
「わたしはたこ焼きにしようかな」
って感じで2人ともそれぞれ食べたいものを買った。
そして体育館へと向かった。
……
…………
………………
体育館の中はたくさんの人がいた。
色々な人がステージを見たり、見なかったりしてる。
ここは外より涼しいし、休憩で来ている人も多いかもしれない。
今はステージ上で演劇部の発表があってる。
途中からなので話とかは全然分からない。
でもとても真剣にやってるのは分かった。
「どこに座ろうか?」
「後ろの方でいいと思う」
「そうだね」
後ろの方でのんびりしてるのが私とカナに合ってるって思った。
私が先導する感じで歩いて、あんまり人がいないところを選んだ。
入り口からはちょっと遠くなったけど。
「ここでいい?」
「うん。ちょうどいいって思う」
私とカナが場所を選んで、座った時に劇が終わった。
ちょうど終わりのところで入ったみたい。
みんな拍手してる。
さすがに私はできないなって思った。
次は何かな……。
私はパンフレットを見た。
カナはあんまり興味ないのかぼんやりとステージを見ている。
「次は……バンド演奏だって」
軽音部が4組演奏するみたい。
演劇部っぽい人たちがステージ上のものを片付けていく。
みんなテキパキと動いて、あっという間に綺麗に片付いた。
片付けとかの練習もしているのかな?
って思った。
私ならあんなにテキパキって動ける自信がない。
そして片付けが終わったら軽音部だと思える人が黒いスピーカーみたいなのを運んできた。
あれって何だろう。
スピーカー的なのってのは分かるけど……。
「うるさいのは嫌だな……」
カナはそれを見ながら不満そうに言った。
バンド演奏だからとても大きな音が出るのかもしれない。
私もびっくりするような音だったら嫌だな。
そう思ってると……
「こんにちは~」
ギターを持った人がステージに出てきた。
持ってるのはフォークギター?みたいなの。
エレキギターじゃないのはさすがに私でも分かる。
「えっと~準備がもうちょっと時間がかかるっぽいから歌いますね~」
なんだかのんびりとした人だなって思った。
遠いからよく分からないけど、表情とか髪型もぽんやりってした感じ。
「もも先輩っ!」
客席から声が飛ぶ。
それも1つだけじゃなく、あちらこちらからステージに向かって声が飛んだ。
どうやらステージに立ってる人はももって名前みたい。
なんだかそれっぽいなって思った。
それにとっても人気がある人なんだなって。
「ありがとうございます~。じゃちょっと季節外れになりかかってる曲歌いますね~」
ぱちぱちと拍手の音が聞こえる。
なんだかわくわくした気持ちになってきた。
ふとカナを見ると、あんまり楽しくなさそう……。
こういうの、カナ嫌いなのかな?
「それじゃいくね~」
こほん、っていう小さな音が聞こえた。
「駐車場の猫は~」
ゆっくりとしたギターに合わせてもも先輩が歌う。
この曲知ってるって思った。
でも男性が歌ってる曲だし、もっと早い感じだったはず。
もも先輩は本当にのんびりとした感じ。
にこやかな感じで歌う感じが素敵だった。
さっきまでステージに声を飛ばしていた人達も黙って聞いてる。
それどころかあんまりステージに興味なさそうだった人もそう。
みんながもも先輩を見ていた。
私もそう。
なんとなく体育館に来た。
でも今は真剣にもも先輩の歌を聞いていた。
ギターとマイクと声。
それだけで体育館のたくさんの人を魅了していた。
みんなに注目されながらも、もも先輩は堂々と歌っている。
そして1曲歌い終わった。
「どうもです~」
体育館中から拍手する音が聞こえた。
私も思わず拍手する。
中学生の時にも文化祭でバンドの演奏を聞いた。
でもこんなに凄くなかった。
高校生って凄いんだなって思った。
「じゃ次の曲行きますね~」
それからもも先輩は全部で5曲歌った。
2曲知ってて、3曲知らなかった。
それもそのはず……
「オリジナル曲はどうだったでしょうか~」
もも先輩が作詞作曲したものだったから。
でもすっごくいい曲でびっくりした。
プロの人を呼んだって言ってくれた方が信用できるって思う。
「気に入られたら軽音部の物販が~……どこにあるんだっけ?」
ステージの端にいる軽音部の人に声をかける。
温かい笑いがあちらこちらから聞こえた。
「そうそう。2-3の教室でさっきの曲が入ったCDは買えるからよろ~」
CD欲しいって思った。
あんまりCDとか買ったことないけど、もも先輩のは欲しい。
後で買いに行こう。
「じゃ次からも演奏とかあるから聞いてね~」
そう言ってもも先輩は歩いてステージから離れていく。
その姿にみんな再度拍手をした。
「すっごく良かったねっ!」
自分で声が興奮気味だなって分かった。
でもしょうがないよねとも思う。
「うん。そうだね。よかったって思う」
「高校生のバンドって凄いんだねっ!」
「さっきのはバンドじゃないよ、いっちゃん」
「1人だから?」
「うん」
実際、次は4人ぐらい出てきた。
みんなギターとかギターみたいなのとかを線でスピーカにつなぐ。
そしてなんだか凄い音を出した!
うわっ!って感じで私はびっくりした。
大きな音を出すなら出すって言って欲しい……。
カナもなんだか不満そうな顔に戻っている。
「どうも!!」
もも先輩とが違ってはきはきした声。
でもちょっとうるさい感じ。
まぁこういうのの方がなんかバンドって感じがするけど。
もも先輩の時はあちらこちらから声が飛んでたけど、今の人は1部から声が聞こえる感じ。
でも声をかけてもらえるだけ凄いなって思う。
ステージで演奏とか歌ったりするのも、単純に凄い。
私なら緊張とかして、歌えない。
それに地球人じゃないってバレちゃだめだから、目立つのも駄目だしね。
「それじゃいくねっ!」
そして4人の演奏が始まった。
もも先輩の後だからどんなのだろうってわくわくした。
でもすぐに……あれ?って思う。
一生懸命にやってるのは分かる。
でも凄い!っていうよりなんかうるさいっていう方が勝ってる。
私が偉そうに思うのも恥ずかしいけど……。
体育館の人たちももも先輩の時は違ってなんだか真剣さがない。
演奏している人の友達っぽい人達が盛り上がっていて、そこだけ別空間な感じがした。
なんだか中学生の時に見たバンド演奏を思い出した。
高校生だから凄いんじゃなくて、もも先輩が凄いんだな。
まぁそれはそうだよねって思う。
高校生だからってみんな凄いわけじゃない。
凄いのはほんの1部。
私だって凄くない人代表だしね。
凄くないと駄目なら私だって部誌作れないし……。
「どうもありがとうっ!」
ぼんやりしている間にバンドの演奏が終わった。
私は慌てて拍手をする。
満足そうな感じでバンドの人達が帰っていった。
残りの3組はみんなそんな感じで終えた。
多分、もも先輩で期待値が上がりすぎたんだと思う。
あんなに凄いのの後だったら、誰でもやっぱり見劣りするはず。
「次は何かな……」
「ねぇ、いっちゃん」
私がパンフレットを見ているとカナが言う。
「ここでない? 疲れちゃった」
「うん。いいけど……」
私的には休憩のつもりでここに来た。
ここならそこまで暑くないし、ぼんやりとステージだけを見ていればいいから。
でもカナはそうは思わなかったみたい。
「どこにいくの?」
「ここじゃないところ」
カナは立ち上がった。
そして人の間を流れるように歩いて行く。
私もそれを追った。
どこに行くのか、どこに行きたいのか。
全く想像もつかなかった。
……
…………
………………
廊下を歩き、階段を登っていった。
上の方に行くからだんだん人が少なくなっていく。
カナは割りと早足なのちょっと疲れた……。
「ど、どこまで行くの……」
「もうちょっと!」
気がついたら1番上まで来てた。
あとは屋上しかない。
「屋上って……」
閉鎖されてるはず……。
そう思ったけど
「やっぱりっ!」
がちゃりと音がした。
鍵はかかってなかった。
カナはそのまま屋上に出る。
「いっ、いいのかな……」
おそるおそる私も続く。
開いてるからって入っていいわけじゃなさそうだし。
でも……
「気持ちいいねっ!」
にこやかに微笑むカナ。
その笑顔を見るとまぁいいやって思えた。
見つかったら怒られるかもしれない。
でもそれでもいいって。
「うん。静かだしね」
昨日の部室も静かだった。
でもここはそれよりずっと静か。
すぐ下には人がたくさんいて、みんな楽しんでいる。
でもその声も屋上までは届いてこない。
「やっぱりわたしは賑やかなところって嫌いだな」
「私もだよ」
「そうだよね。一緒だよね」
「うん」
胸がずきっとした。
また嘘をついたから。
私とカナは一緒じゃないのに、うんって言ってしまった。
嫌いと苦手。
だんだんとその2つの違いが分かってきてしまった。
「でもなんでここって空いてたの?」
「文化祭の終わりに花火があるんだよね。それの準備のために開けておくんじゃないかって思ったの」
「それじゃここに人が来るんじゃない?」
「準備は夕方ぐらいだから大丈夫だよ」
そういえば文化祭自体は夕方まで。
その後は自由参加の後夜祭があるのを思い出した。
その時に花火も使うんだろう。
「カナは後夜祭には出るの?」
「いっちゃんが出るなら……」
多分、出たくないんだなって思った。
だから私は言った。
「私は出るつもりないよ」
みんなで仲良くキャンプファイヤーって感じでもないし。
「だから文化祭が終わったら一緒に帰ろう」
「うんっ!」
それから私とカナは屋上で話をした。
いつも部室でしているみたいに。
何気ない、いつでもできる話を。
下では特別なことが起こっている。
今日しかできないことをみんなやっている。
ここはいつもの日常。
でもそれが幸せだなって思った。
祭りより、カナとの日常の方が大事。
文化祭は思ったよりも楽しかった。
素敵な人に出会えたし、凄い人を見ることができた。
でもみんなカナにはかなわないって思う。
「わたしね」
カナは言った。
「いっちゃんといるのが好き」
「私もカナといるのが好きだよ」
「他のことはほとんど嫌いだな」
「他のこと?」
「いっちゃんといること以外のこと」
「そうなんだね」
喜んでいいのか、よくないのかよく分からなかった。
きっとカナは私のも同じでいて欲しいんだって思う。
カナといること以外、嫌いって言ってほしいのは分かる。
でもそれは言えないって思った。
屋上は静かな風が吹いている。
外にいるけど、全然暑くない。
もう秋なんだから。
夏は通り過ぎて行ったから。
「もうすぐ秋だね」
「うん」
「すぐに冬がくるよ」
「冬……」
「天体観測楽しみだね」
「うん。すごく楽しみ」
きっと素敵な星空が見えるんだろうな。
私とカナは天体観測のことを考えてる。
みんなより一足先に私とカナの文化祭は終わった。
CDは買えなかったけど、いいやって思う。
私はなんとなく空を見た。
当たり前だけど、星は全然見えなかった。




