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先日に投稿物を大幅に書き直しましたので編集ではなく再投稿しました。
「夏休みだからって浮かれないようにっ!」
なんて先生の言葉もみんなあんまり聞いてない感じの教室。
だってもうみんな浮かれ気分だから。
そして私もそのうちの1人。
この前にあった期末試験。
カナに勉強を教えてもらったおかげで見事、赤点を回避できることができた。
あんまり褒められた点数じゃないけど……。
でもこれで星野村での天体観測に一歩近づけて嬉しいって思う。
「それじゃまた登校日に」
そう言って先生は教室を出て行く。
前は先生も生徒と同じぐらい夏休みがあるって思ってた。
でも本当はそうじゃないらしい。
生徒がいない時もたくさん仕事があって大変みたい。
「あたし部室で食べるからっ!」
鞄の中に色々入れているとナツミの声が聞こえた。
別に私に言ったわけじゃない。
でも大きな声だったから思わず見てしまう。
ナツミはいつもの明るい笑顔。
たくさん部活ができるのが嬉しいって感じ。
まるで散歩を待っている犬のように見えた。
そしてナツミはダッシュで教室を出て行く。
ナツミの姿が見えなくなってから私はカナを見た。
鞄を持ったカナが席に近くに来ている。
なんだかとっても嬉しそう。
やっぱりカナも夏休みは嬉しいだなって思う。
私も夏休みは嬉しい。
といっても夏休みがこんなに楽しみに思えたのは今年が初めて。
何もせずに家でだらだらと過ごして、結局何にもなかった。
っていうのがいつもの感じ。
休みなのは嬉しいけど、あんまり特別感はなかった。
けど今年は違う。
だってカナと一緒だから。
「夏休みだねっ!」
カナがとっても嬉しそうに言う。
「だねっ!」
だから私も同じように言った。
「夏休みっていっても学校に来るんだけどねっ!」
「うん。でも嬉しい」
9月の終わりにある文化祭。
そのために文化部は夏休みから準備をするって先生から聞いた。
運動部やクラスは出店が多い。
私達のクラスでも出校日に何をするか話し合って、9月から本格的に始める。
きっとナツミが入ってるバスケット部もそんな感じなんだと思う。
でも文化部は、特に大会とかない天文部みたいな部活は文化祭が大事みたい。
文化祭で出したもので来年の部費とかも変わるとか、変わらないとか……。
だから私達も夏休みは学校に来て文化祭の準備をする予定。
でもずっとカナと作業とかすればいいからとっても楽しみ。
「今日は部室に行くんだよね?」
「うん。文化祭で何をするか決めたいな」
2人だからあんまり凝ったものはできないって思う。
でも何か形に残るものをしたいって考えていた。
カナは何がしたいんだろう。
考えてもあんまり思いつかない。
「とりあえず部室に行こうっ!」
「うんっ!」
鞄を持って、部室へ向かう。
なんだか充実した夏休みになりそうな予感があった。
……
…………
………………
「やっぱりここって落ち着くよね」
私は部室を見回して言った。
昼休みと放課後はいつもここにいる。
だからなんだか部室っていうより自分の部屋みたいな感じに思える。
「わたしもそう思うっ! 教室は人が多いからね」
「カナも人が多いの苦手なの?」
「苦手っていうか……」
ちょっと言葉をつまらせた後に、
「嫌いかな。なんか息苦しいっていうか……」
「駅とか特にそうだよね」
ここにいる人達全員がもし私の秘密を知ったら……。
そんなことを考えてしまう時がある。
それに人が多いと、それだけなんだか自分が1人ぼっちだということが分かって嫌だった。
でももう1人ぼっちじゃない。
カナがいるから。
だから前よりは人混みは苦手じゃなくなってるかもしれない。
「文化祭も人が多いみたいだからちょっとやだな」
ぼそりって感じでカナは言う。
この学校の文化祭はそこそこ盛り上がるみたい。
人混みが嫌いなら、あんまり気分的によくなさそう。
「カナはあんまり文化祭とか好きじゃなさそうだしね」
「うん」
はっきりとカナは言った。
普通なら躊躇することもカナはずばりって言う。
そういうところはクラスとかじゃ浮いてしまう。
クラスで浮くのが怖いって思う私にはできない行為。
「みんなで頑張ろうとか嫌いだしね」
「私もちょっと苦手」
嫌いと苦手。
その2つが私とカナの違いなんだって思う。
「でも今年はたぶん好きだって思う」
「文化祭?」
「うん。だっていっちゃんと一緒にできるからっ!」
私もカナと何かできるのがすっごく嬉しい。
みんなとは頑張れなくても、カナとなら頑張れるって思う。
「当日もここでのんびりしてればいいしね」
どんなことをするかまだ決めてない。
でも天文部の部室にたくさん人が来るってことは想像できないって思った。
「その文化祭だけど、何をするのがいいかな?」
「うーん。どうだろうね」
ちょっと考えてカナは言った。
「何か調べてでっかい画用紙に書いて見てもらうとかかな」
「そういうのもあるよね」
「いっちゃんは何かしたいことってあるの?」
「私は部誌みたいなのを作って配布するとかどうかなって思ってる」
印刷代とかは申請すればもらえるみたいだし。
それに部誌なら片付けとかも楽そうだし、残っても来年また使えるし。
「部誌っ! なんかいいねっ!」
「でしょっ!」
カナが褒めてくれたのでなんだか嬉しい気分になる。
「わたしってちょっと絵を書くのが好きなの」
そう言って近くにあった紙にさらさらと絵を書いていく。
書き上がったのは三等身の可愛いキャラクター。
ふんわりした感じで、なんだかカナっぽいって思える絵だ。
なんだか簡単そうに書いてたけど、とっても上手。
「凄いねっ!」
だから思わずって感じで声が出た。
カナにこんな特技があったなんて知らなかった。
「それほどでもないよっ! あんまり人に見せたこともないしね」
「私が文章とか書くから、カナさんが挿絵を書くってどうかな」
いいものができそうって思えた。
なんだかわくわく感が体の奥から湧き出てくるような感じがした。
「それがいいと思うっ! なんだか素敵だなって思うっ!」
一緒に部誌を作る。
そのことにカナが喜んでくれているのが嬉しい。
「でも部誌の内容をどうするかが問題だよね」
「だねっ!」
「読んでて楽しいっていうか、少なくとも無駄だった!って思わないようなのがいいな」
「わたしはいっちゃんと何かできるならそれで満足っ!」
「カナはそう言うって思った」
「わたしって天文関係とか詳しくないからどんなのがいいとかも思いつかないしねっ!」
「でもだいたいの人ってあんまり興味ないって思うんだよね」
お父さんとお母さんもそうだったし。
「だから読んだら天体観測がしたいっ! って思えるようなのはどうかな」
「なるほどねっ!」
うんうんって感じでカナはうなずく。
「それなら天体観測について書いたのはどうかな?」
「天体観測のやり方みたいなの?」
「うんっ! この前に天体観測の話をいっちゃんに聞いて、わたしって全然知らなかったんだなって思ったんだ」
私はちょっと前の出来事を思い出す。
冬に一緒に天体観測に行こうって約束した日のことだった。
「だからそういうのとか、どういう道具がいるかとかまとめたのがあったら便利かなって思う」
「なんかいい感じだねっ!」
何をするかとってもぼんやりした感じ。
数分前まではそうだった。
でも今はなんとなくどんなのがいいかっていう形が見えてきた。
なんだかもういい感じの充実感がある。
まだ何かしたってわけじゃないけど。
「それじゃそんな感じで申請するねっ!」
「うんっ! いっちゃんがどんなの書くか楽しみにしてるねっ!」
「カナの絵と比べたら、そんなにいいの書ける自信はないけど……」
「そんなことないって思うっ!」
とっても力説するようにカナは言った。
「いっちゃんって作文とか上手だしねっ!」
「ありがとう……」
なんだかちょっと照れくさい。
でも作文とか書くのは好きだった。
たまに先生からも褒めてもらうことがある。
同じようにカナに褒められてとっても嬉しい。
そしてみんなからも褒めてもらえたらさらに嬉しくなるはずだって思えた。
「だから自信を持って書いてほしいなっ!」
「そうだねっ!」
いいものはできるか分からない。
頑張ったら何でもできるわけじゃないことを知ってるから。
だってどんなに頑張ったって、私は自分の故郷に帰ることもできない。
でも……
「1人でも天体観測をする人が増えるように頑張るねっ!」
なんだかすっごく頑張ろうって思えた。
今まで願じたことがない熱いものがあった。
なんでナツミはあんなに部活を頑張るんだろう。
私はそう思ってた。
でもなんだかナツミの気持ちがちょっとだけ分かった気がした。




