20
部室をもらえてから私とカナはそこが居場所になった。
お昼休みと放課後はそこでお喋りをするのがいつものこと。
周りに誰もいない。
誰も来たりしない。
そんな安心感は思った以上に大きかった。
本棚にあるものは星の関係の本に入れ替えたりもした。
元々あった本は図書室へ。
だんだんと天文部っぽくなっていってるのがなんだか嬉しい。
部室で天文部っぽいことをしてるわけじゃないけど。
いつもはただのお喋り。
あそこのパフェが美味しい。
授業が難しい。
体育が嫌だな。
みたいな軽い感じのもの。
それでもとっても楽しい。
でも今日は天文部っぽい会話をした。
「星って見る場所で全然違うんだねっ!」
前に車で遠くまで星を見に行ったことを話すと、カナはちょっと驚いた声を出す。
「うん。やっぱり街中じゃ星ってあんまり見えないんだよね」
「学校の屋上とかでも駄目なの?」
「公園とかよりはましだろうけど、でも街灯の光とかで星が見えなくなっちゃうからね」
だから実際のところは私が家とかでやってる天体観測もあんまり良くない。
でも眠れないからってそんなに遠くへ行くわけにもいかない。
だからしょうがないかなって思う。
それに街中で天体観測を楽しんでる人に、
そんなんじゃあんまり意味ない。
ってことも言わない。
本当に綺麗に見えるところで見てほしいって思うけど……。
「あと季節も冬の方がよく見えるんだよね」
「寒い方がいいの?」
「寒さより空気の乾燥具合かな」
「冬っていうとそっちもあるねっ!」
「水蒸気って意外と天体観測の邪魔になるんだよね」
「空気を曇らせるみたいな?」
「そんな感じかな。あと光の関係とか」
「光? 月が影響するみたいな感じかな?」
「月も影響するよ。満月の日より新月の方がずっといいよ」
「月じゃないなら……太陽かな?」
「うん。太陽が沈んでもすぐに光がなくなるってわけじゃないんだよね」
「だから冬の方が早く暗くなって天体観測に向いてるんだねっ!」
「そうそう。だから冬の乾燥した日、新月の日、そして街灯とかない田舎の方がいいんだよね」
なんだかカナの理解力がとっても早くてびっくりした。
こういう人が頭がいいっていうんだろうなって思う。
「いっちゃんはそういう時に星を見た時あるの?」
「うん。空中に星があってね。でも星の周りは真っ暗でなんだか吸い込まれそうな感覚になるの」
私は中学生の時にお父さんに連れて行ってもらったことを思い出す。
とっても寒くかったのを覚えてる。
でも手足の寒さを忘れてしまうぐらい、星が綺麗に見えた。
「カナにも絶対に見て欲しいな!」
「うんっ! 今年の冬、一緒に行こうっ!」
「こっちで星が綺麗に見えるところ、探しておくよ」
「その時は泊まりになるよねっ!」
身を乗り出すよううにカナは言った。
大きな声だったのでちょっと驚いてしまった。
「……多分。けっこう田舎の方の遠くまで行かないといけないし、夜遅くだからね」
「田舎なら温泉とかあるよねっ!」
「そうだね。お父さんと行った時も温泉がある場所だった」
その時はあんまり温泉とか興味なかったからあんまりよく覚えていない。
だから今度は露天風呂で星を眺めながらゆっくりするのもよさそうって思った。
「いっちゃんとお泊りでそれに温泉だなんて……」
「どうかしたの?」
「うんうんっ! 天体観測とっても楽しみだなってっ!」
とってもテンションが高い。
きっと温泉とかお泊りとか好きなんだなって思った。
そういうところがカナの大人っぽいところに思える。
わたしみたいに星が見れるってだけではしゃいだりはしなさそうな感じ。
でも本当に楽しみだなって思った。
カナと一緒に満天の星空を見る。
想像しただけでとってもロマンチックだなって思う。
今日にでもお父さんにどこがいいか聞いてみようって思った。
「でも空気が乾燥する方がいいなら砂漠とかの方が星が綺麗に見えるのかな?」
「そうみたいだね」
私はスマートフォンを取り出して検索する。
砂漠 星空 でいいのかな?
……でたっ!
スマートフォンにはありえないぐらい綺麗な星空が見える。
なんだか嘘みたいに綺麗すぎて、現実のものとは思えない。
「本当に凄いねっ! ファンタジーの世界みたいっ!」
私と似たようなことをカナも思ったみたい。
「きっと私の故郷の星空も綺麗なんだろうね」
でもどんな星空が見えるのか確かめることはできない。
想像することしかできない。
「カナは星空とか覚えてない?」
「あんまり興味なかったかし、それにあんまり覚えてないんだよね」
なんだか謝る感じでカナは言う。
「夢で見たこととぐらいで、星の名前とかも分からないの。もっと思い出せればいっちゃんの力になれるんだけど……」
「ごめん……」
あんまりよくない質問だったって思った。
この世界に転生したんだから、あんまり記憶は残ってなくて当然なのに。
「いっちゃんが謝ることじゃないよっ!」
慌てる感じの声が聞こえた。
「でもきっと素敵な星空が見えてたって思うっ!」
「そうだといいんだけど……」
「いっちゃんの故郷なんだからそうに決まってるよっ!」
「……ありがとう」
「それにね。いっちゃんのお母さんの顔は覚えてるの」
「そうなんだね」
なんだか気になるような、気にならないような。
「とっても美人で気品がある人だったよ。でもしっかりと優しさもあって本当に素敵な人」
なんだか私とは大違いだなって思う。
でもカナは……
「いっちゃんもそんな感じの人になるって思うっ!」
って言ってくれる。
カナには私がどんな風に見えてるんだろう……。
そう言ってくれるのは嬉しいけど。
チャイムの音がなる。
ちょうど18時になるチャイム。
そろそろ帰りましょう。
って感じで流しているって聞いた。
私とカナもこのチャイムに合わせて帰ることにしている。
「今日も楽しかったねっ!」
いつものようににっこりと微笑んでカナが言う。
「うん。そうだね」
って私もいつものように返事をする。
カナの笑顔は本当に素敵だなって思う。
そんなカナにとびっきりの星空を見せてあげたいって思った。
……
…………
………………
「もうすぐ夏休みだねっ!」
「だね」
家に帰ったらナツミから電話があった。
学校ではあんまり話さないのに、わりとよく電話してくる。
逆にカナは学校では話すけど、電話はあんまりしたことがない。
待ち合わせの時にちょっとするぐらい。
カナはあんまり電話が好きじゃないみたい。
でもなんだか気持ちは分かる。
相手の顔が分からないで会話するのはちょっと不安な気持ちがある。
「部活ばりばりできるから楽しみっ!」
「今でも十分やってると思うけどね……」
「夏休みは朝からできるしっ!」
「どんだけ動きたいのよ……」
1ヶ月で私の一生分ぐらい運動してそう。
なんだかそれだけ頑張ってるって思うと1回ぐらい応援に行ってもいいかもって思う。
カナは絶対に行かないだろうけど……。
クラスのみんなが応援していた球技大会のも行かなかったぐらいだし……。
「でもその前に部活禁止期間があるのが嫌なんだよねっ!」
「部活禁止期間?」
「テスト前は部活しないで勉強しなさいっ! って感じっ!」
「そういうのがあるんだね」
「中間テストの時もあったけどねっ!」
「そういえばなんかテンションが低かった時があったね」
中間テスト前。
なんだか調子が悪そうなナツミの姿を覚えてる。
テストとか勉強が嫌なんだって思ってた。
でも今から考えると部活ができない苦しさ。みたいな方が正解な気がした。
「それで勉強の方は大丈夫なの?」
「なんとかなるって思うっ!」
私の言葉にナツミは楽観的に返事をした。
でもなんだかナツミならなんとかしそうな気がするから不思議。
「むしろいつきの方が大丈夫なの?」
「私は……」
「特に数学とかっ!」
数学……。
実に嫌な言葉だなって思った。
なんだか部室でのロマンチックな夜空の会話から一気に現実に引き戻された感じがする。
「赤点は取らないと思うっ! ……多分」
「志が低い上にあやふやだねっ!」
「それぐらい理解できてないんだよね」
「せっかく部室で一緒なんだからカナさんに教えてもらえば?」
「部室であんまり勉強とかしたくないんだよね」
天文部の部室は私の好きなもので満たして欲しいって思っている。
そこに不純物が入るのはあんまりよくない。
数学とか勉強とか。
「むしろナツミが教えてくれないの?」
「あたしが教えてるのがバレたらカナさんに怒られるからっ!」
「カナはそんなことで怒らないと思うけどな」
むしろなんでカナが怒ると思ったのか不思議だった。
「こうやって電話してるのもちょっとドキドキなんだからねっ!」
「私のことが好きだから?」
なんて言ってみる。
「そうじゃないけどっ! 言葉にすると難しいっていうか……」
なんだか珍しい反応。
「っていうかあたしは部活が忙しいしっ!」
「それもそうだね。それにナツミに教えてもらうってなんか嫌だし。屈辱的で」
ナツミは私よりの人間だと思ってた。
でもカナよりの人間だって分かったのがちょっとショックだった。
「何でよっ!」
「あっ! お父さんが帰ってきた。用事あるから切るねっ!」
電話からはなんだか大きな声が聞こえる。
でも私は迷わず通話を切った。
後で軽くごめんねメッセージを送っておこうって思う。
ナツミとの会話は楽しい。
きっとこんなに親しいって感じの会話ができたのはナツミが初めて。
なぜか学校では話しかけてこないけど。
私の方もカナに言われたことが気になって話しかけづらい。
だからこうやって電話で仲良くしているぐらいがちょうどいい距離感なのかもって思った。
……
…………
………………
「おかえりなさいっ!」
リビングでお父さんを出迎える。
いつもはよりちょっと早い帰宅。
「ただいま」
ちょっと疲れ気味の声。
いつも頑張って働いてるんだなって思う。
いつかは私も同じように働かないといけない。
……でもまだ先だから。
って私はちょっと生まれた考えを頭の隅に追いやった。
「お父さん、聞きたいことあるんだけど」
「どうかしたのか?」
「ここらへんで星空が綺麗に見える場所ってあるかな?」
「ちょっと遠いけど、いい感じのところがあるぞ」
「本当っ! そこに冬、天体観測行きたいなっ!」
「もちろん連れて行ってやるぞ。でも冬まで待たなくてもいいって思うんだが……」
まぁ夏休みが近いし普通はそうなるよね。
でも……。
「高校でできた友達にとびっきりの星空を見せてあげたいんだ」
「友達ってカナちゃん?」
台所の方からお母さんの声が聞こえた。
「うん。一緒に星空を見に行こうねって約束したんだ」
「いいじゃないっ! それなら一番綺麗な時期に見せてあげたいわね」
「でしょっ!」
最初にとっても綺麗な星空を見せてあげることができたら、一生の思い出になるって思った。
私にとっても、カナにとっても。
だから絶対に冬に行きたい。
「まぁ冬の方が綺麗に見えるしな」
「そうね。私も行きたいしちょうどいいわね」
2人とも前から星に興味があったわけじゃない。
私が星空を見たいってお願いしていって、2人とも好きになった感じ。
「冬の休みの日だな。予定開けておくよ」
「新月の日にねっ!」
「分かってるって」
「やったっ!」
なんだか冬がとっても楽しみになった。
期末テストとか夏休みとか文化祭とか全部スキップして冬になって欲しい。
本気でそう思うぐらいに。
「それでいいところってどこなの?」
「星野村ってとこだ」
「星野村……」
初めて聞く名前。
でもなんだか素敵な響きの名前だなって思った。
「娘が星空を見るのが好きだって言ったら教えてくれたんだ」
「なんだか星を見るためにあるって感じがするねっ!」
「でっかい望遠鏡があるらしいぞ」
「知らなかったっ! 宿とか温泉もあるの?」
「みたいだな」
「ちょうどいいねっ!」
温泉があるならカナもとっても喜びそうだなって思う。
なんだか私とカナのために用意してくれた場所のように感じた。
「冬に絶対に行こうねっ! 星野村っ!」
なんだかもう気分は他のとこじゃ駄目っ!って感じになってる。
「夏休みにどこにも行けないかもしれないから、ちょうどいいかもな。母さんも行くだろ?」
「私も行くけど……。いっちゃんは数学で赤点を取らなかったら許可するわ」
「赤点を取ったら……」
「その時のお楽しみねっ!」
顔は見えないけど嬉しそうな表情をしているお母さんが思い浮かんだ。
普段は勉強のこととか全然言わないのに……。
勉強をさせたいっていうより、困らせたいっていう感じに思えた。
お母さんは時々そういうことをするのが好きだ。
赤点を取らないっていうのは条件としてはとってもゆるいけど。
でもその条件ですら厳しいのが今の私。
本当にカナに教えてもらおうかなって思った。




