19
いつもの月曜日。
いつもの朝ごはん。
いつもの挨拶。
いつものお喋り。
でも学校に着いてからは少しだけいつもと違った。
カナさんが職員室に立ち寄った。
部活動の申請用紙をもらいに。
天文部を一緒に作ろう。
昨日カナさんは言った。
そして学校に着いてすぐ、行動に移したみたい。
私はただ凄いなって思うことしかできなかった。
「お待たせっ!」
なんだか上機嫌な感じ。
職員室で良いことあったんだなって分かった。
ただ申請用紙をもらっただけじゃなさそう。
「どうだった?」
「同好会なら大丈夫かもって!」
「本当っ!」
多分、正式に決まったわけじゃない。
でもきっと大丈夫みたいな雰囲気はあった。
なんだか本当にあっさりな感じがする。
もっと色々な何かをしなくちゃいけないみたいに思っていた。
「文化祭で展示物をするのが条件だけどね」
「それはそうだよね」
学校が何も無しで部室をくれるわけがない。
何にも活動をしていない、ただのおしゃべり部はあんまりよくなさそうだし。
だから文化祭に何か出して欲しいって言われるのは当然だなって思った。
「それで部室がもらえるんなら嬉しいよね」
「うんっ! そうだねっ!」
カナはとっても嬉しそう。
私も嬉しい。
「うまくいくといいねっ!」
「うんっ!」
私とカナはうきうき気分で教室に向かう。
「これからお昼ごはんは部室で食べようねっ!」
「うん。それってなんかいいよね」
なんだか秘密基地っぽいって思った。
みんなが教室で騒がしく食べている時、私達は部室でのんびりと食べている。
想像しただけでもとっても素敵だなって思う。
秘密基地っていうとなんだか子供っぽいイメージもするから、声には出して言わなかったけど……。
それから私は少しそわそわした感じで1日を過ごした。
初めての部活。
それも私が好きな星について色々できる天文部。
おまけにカナと一緒!
テンションがあがったり、そわそわしたりするのはしょうがないって思った。
そして放課後。
帰り際にカナが先生に呼ばれた。
もしかしてっ!
って思っていると……
「今日から部室使っていいんだってっ!」
戻ってきたカナが珍しく興奮気味に言う。
「そうなんだねっ!
私も嬉しかったけど、でもカナの方がずっと嬉しそう。
「文芸部が部員いなくなっててそれでそこの部室を使っていいみたい」
「ちょうど空いてたんだね」
「これも運命だねっ!」
「うんっ!」
運命。
そう聞くとなんだか私達のために部室が用意されてたみたいな感じがした。
私達は廊下に出て、部室へと向かう。
なんだか入学式の時と同じような気持ち。
新鮮で、何か新しいことが始める予感。
「正式な部活にするなら部員5名と顧問の先生が必要みたい」
「同好会なら2人でもいいし、顧問の先生もいらないの?」
「うんっ! 部活の方が予算とかで優遇されるみたいだけど……」
そう言ってカナは私の方をじっと見る。
まるで何かを訴えるかのように。
「でもそんなに人はいらないよねっ!」
「そ、そうだね……」
カナはあんまり人が入らないほうがいいみたい。
まぁ人が増えたらいろいろと大変そうだしね。
でも私はどちらかというと人が入ってくれたら嬉しい。
星が好きな人が増えるのは、やっぱりいいことだなって思う。
「ここが部室みたいっ!」
カナさんが立ち止まる。
文芸部って書いてある部屋があった。
部室は教室からそんなに遠くない。
これならお昼ごはんもゆっくりと食べれそうだなって思った。
「入ろうっ!」
カナが扉に手をかけていう。
「うんっ!」
って私は言った。
天文部。
新しい、私の居場所。
なんだかドキドキする。
そしてカナは扉を開けた。
「……なんかいい感じだねっ!」
入ってすぐカナが言った。
部室はそんなに広くない。
でも思ったより片付いている。
部屋の真ん中に机とパイプ椅子が4つ。
ホワイトボードがあって周りの本棚には色々な資料とかが置いてあった。
なんだか昨日まで使われていた雰囲気がある。
「ここがわたしたちの場所なんだよっ!」
カナが嬉しそうに部屋を見て回っている。
「そうだね」
ここで3年間過ごす。
カナと一緒に。
そう思うとなんだかとっても素敵な場所に思える。
「家から本を持ってきてもいいかもね」
私は本棚を見ながら言った。
当たり前だけど、星に関連する本はあんまりない。
本を置けばもっと天文部っぽくなりそうだって思う。
「文化祭でいい展示物を出したらご褒美があるって言ってたよっ!」
「ご褒美……」
何だろうって思う。
予算がもらえるのかな?
それならぜひ天体望遠鏡が欲しいって思った。
個人のじゃなくて、部活のものがあればいいなって思う。
「それなら頑張らないとねっ!」
なんだかちょっと気合が入ってきた。
今まではなんとなく星を見ているだけだった。
でも展示物みたいに誰かに見せるには、それだけじゃ駄目かもしれない。
「それでね。文化祭のことなんだけど……」
「どうかしたの?」
「わたし達は文芸部で忙しいからクラスの手伝いは難しいかもなって思ったの」
「どうかな」
って私は少し考える。
確かに両方をするのは大変そうだけど……
「メインでやるのは難しいけど、手伝いぐらいならできるかもしれないし」
「そうかな。疎かになるよりこっちを頑張った方がいいと思うっ!」
なんだか本気で言っているみたいだった。
私よりもずっといい展示物を作ろうって感じに思える。
でもカナがそんなにやる気になってくれるのは嬉しい。
カナにも天体観測を好きになって欲しいし。
「そうだね」
だから私は言った。
「まだ先だけど、文化祭頑張ろうねっ!」
「うんっ!」
多分、今日が入学して2番めぐらいに嬉しいできごとだったかもしれない。
家に帰ってもお母さんに
「なんだかとっても機嫌がよさそうね」
って言われた。
それに授業中とかうきうきしてたのが表に出てたみたい。
「そういえば何かいいことでもあったの?」
家でナツミと電話中。
ふと思い出したような感じでナツミは言った。
「なんだかずっと嬉しそうな感じだっけどっ!」
「よく見てるね」
「授業中とか上の空注意報だったしねっ!」
「数学の時間に先生に当てられた時はびっくりしたよ」
その時はこっそりナツミに教えてもらって難を逃れた。
ナツミは意外とっていうと失礼だけど、勉強もそこそこできる。
中間テストでは国語以外負けててちょっと悔しいって思った。
「カナさんも同じ感じだったし、2人でいいことあったのかなって思ったんだっ!」
「うん。いいことはあったね」
「2人の仲が進展したとかかなっ!」
「そういうのじゃないからっ!」
ナツミはすぐに恋愛とかに結びつけたがるのが悪い癖だと思う。
「昨日ね、部活をしようかなってカナに言ったの」
「それで2人でバスケ部に入ろうって……」
「言うわけないでしょ」
「だよねっ!」
私も運動が得意だったら入ってたかもしれないけど……。
「カナが部活に入るなら天文部を作ったらどうかって言ってくれたの」
「天文部っ!」
なぜかナツミが興奮した感じで言う。
「なんかかっこいいねっ!」
「かっこいいかな……」
かっこよさで言えばバスケ部の方がずっとかっこいいと思うんだけどな。
体育の授業で活躍するナツミは素直に凄いなって思えるし。
「それで部活作れたの?」
「うん。部室もあって、今日の放課後見てきたんだ」
「早いねっ!」
「多分、私とカナの日頃の行いが良かったからだと思うな」
「カナさんって成績いいもんねっ!」
「……まぁそうだけど……」
もしかしたら私が申請したらもっと時間がかかってたかもしれない。
先生に数学もうちょっと頑張ろうねって言われたし……。
期末テストのことを考えるとちょっと気分が重くなる。
「あたしね、なんか文化系の部活って憧れるんだよね」
「へー。なんか意外。ナツミって運動一筋って思ってたから」
「どっちかを選べっ! って感じならもちろん運動部かなっては思うっ!」
「別に両方入ってもいいんじゃないかな?」
「それってわたしを天文部に誘ってるの?」
「まぁそうかもしれないね」
2つの部活って言っても天文部なんてそんなにたくさん活動するわけじゃない。
だからバスケ部との両立だって大丈夫そうって思う。
ナツミに天体観測ってあんまり似合わなさそう。
でもだから好きになってくれたら嬉しいかなって思う。
「それは楽しそうだけど……」
「けど?」
「わたしはいいかなっ! 誘ってくれるのはとっても嬉しいけどっ!」
「分かった。バスケ部頑張ってね」
「めっちゃ頑張るっ! 目指せ全国大会だからっ!」
とっても気合が入った声が聞こえる。
本当に全国大会を目指して頑張ってる感じが伝わってきた。
私にはない、体育会系的な熱さ。
のんびり学校生活が送れるのが理想。
でもナツミみたいなのもやってみると楽しんだろうなって思った。
だから私も天文部でできるだけ頑張ろうって思う。




