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「今日は頑張ろうねっ!」
教室に入るとナツミの声が聞こえた。
とても気合が入っているし、楽しそう。
クラスのみんなもそんなナツミに引っ張られてか、思った以上に熱気があるみたい。
全部優勝目指そう!
って感じ。
「あっ!」
教室に入った私とカナにナツミは気がつく。
「いつきっ! カナさんっ! おはようっ!」
「うん。おはよう」
「おはよう」
私とカナもナツミに言う。
カナは話しかけられたら話はするし、挨拶も返す。
でも仲良くなろうっ!
っていう風にはならないみたい。
今も、
「私、席で本を読んでるね」
そう言ってカナは自分の席に移動し始めた。
「あたし嫌われてるっぽいねっ!」
それでもナツミはあんまり気にしてないって感じだった。
自分を嫌ってるから、自分も嫌う。
普通ならそうなりそうだなって思う。
でもナツミは違った。
そこらへんは私よりずっと大人だし、見習いたいって思う。
「今日はなんだか気合が入ってるね」
私はカナを気にしつつ話をする。
カナは椅子に座って本を読み始めていた。
「もちっ! 球技大会だからねっ!」
「ナツミは部活があるから球技大会はそこそこぐらいって思ってた」
「部活と球技大会は別物だからっ!」
「でも部活やってると学校の球技大会って遊びに思えないの?」
しっかり練習してるわけでもない。
ただなんとなくな人達を集めてのもの。
優勝してもよかったね。で終わり。
なのにナツミはとっても真剣に思えて少し不思議だった。
「いつきはなんかはっきり言うねっ!」
「真剣にするのがおかしいって言ってるんじゃないよっ!」
「分かってるっ! それに……」
ナツミは少し考えるような仕草をする。
そして言葉を続けた。
「部活と比べたら球技大会なんてって人はバスケ部にもたくさんいる。ってかそっちの方が多いっ!」
「そうなんだ」
「でもクラスのみんなに応援してもらったり、クラスのみんなを応援したりっていうのは部活じゃできないと思うんだっ!」
「それは……」
言いつつ私はちょっと考える。
確かによっぽど仲良くないと部活の応援は行かない。
高校野球ならあるかもだけど、うちの学校は女子校だし。
「そうだね」
「体育祭もないし、文化祭もみんなで頑張るけど、応援っ! ってのはあんまりないからねっ!」
「ナツミはみんなで頑張ったりするのが好きなんだね」
「うんっ! 大好きっ!」
とっても明るい声でナツミは言う。
その言葉には曇り1つない眩しさを感じて、少し頭がくらってなりそうになった。
私にはとてもじゃないけど言えないって思う。
でもそんな風に言えることが少しうらやましく思う私がいた。
なんだか私もナツミに当てられて、球技大会頑張ろうっ! って思うようになった。
ナツミみたいな人はどこの学校にでもいる。
でもナツミぐらい太陽っ!っていう感じの人は初めて見ると思った。
特別なカナを除けば、ここまで仲良く慣れたのはナツミが初めてだと思う。
「時間があったら応援に行くからバレー頑張ってね!」
「うんっ! 私もソフトボール応援に行くね」
「ホームランを打つから期待しといてっ!」
……
…………
………………
……………………
私とカナは並んで廊下を歩いていた。
カナはとっても上機嫌な感じ。
私はちょっと複雑な感じ。
優勝とはいかないまでも、できるだけ頑張ろう。
そう思ってたけど、すぐに負けちゃった。
私もミスをしたけれど、相手がとっても上手だった。
クラスメイトは不満そうだった。
けどすぐに切り替えて言った。
「ソフトボールが勝ってるみたいだからみんなで応援に行こうっ!」
どうやらバスケットの方もすぐに負けたみたい。
だから残ってるのはソフトボールだけ。
私達は着替えて、応援に行こうかなって思っていたら、
「いっちゃんっ! 行こうっ!」
「?」
どこに行くんだろうって思った。
カナが積極的に応援に行くってことはないって思うけど……。
「せっかく終わったんだから教室で2人っきりになりたいな」
「でも応援は……」
「…………」
無言の圧力を感じる……。
「……分かった」
「いつきさんがちょっと具合悪いみたいだから教室で休んでるから」
カナはクラスメイトに言う。
それは本当に自然な言葉で、私さえもなんだか信じてしまいそうだった。
クラスメイトは信じたようで、よくなったら来てねと言い残して離れていく。
「これで抜け出せるねっ!」
カナは嬉しそうに微笑む。
ナツミ達は決勝まで行くって思う。
それならまだ時間はある。
応援はそれからでも間に合うはず。
「教室でのんびりするのもいいかもね」
なんて私は言った。
確かに少しの間、教室で休むのもいいかもって思った。
「うん。行きましょう」
そうやって私達は教室に戻った。
教室の中はとても静か。
たまにソフトボールの盛り上がってる声が聞こえるぐらい。
「疲れたね」
「うん。そうだね」
「球技大会なんて無くして欲しいよね」
「疲れるしね……」
なんて私は曖昧なことを言う。
卑怯な言葉だって自分でも思う。
「応援に行きたいの?」
無意識に窓の方を見ていたのかもしれない。
私はカナに言われた。
「……少しね」
本当は行きたいって思った。
でも、少し、という言葉が私の精一杯。
「……いっちゃんは地球人と無理して仲良くしないでいいって思う」
「無理して……?」
「うん。いっちゃんは正体がバレるのが怖いから、周りから浮かないように空気を読む必要があったって思うの」
「そんな風に見えるかな?」
「うん」
カナは断言する。
きっぱりって感じで。
きっとカナがそう思えるぐらいにはそうなんだろうって思った。
自分ではあんまり意識とかしてないんだけど……
「でも正体がバレたらどうしようっていうのはずっとあるかも」
今はカナさんのおかげでその恐怖はだいぶ少なくなっている。
でも完全になくなったわけじゃない。
「いっちゃんはもっと気をつけた方がいいって思う」
とても真剣な表情でカナは言う。
「もしかしたらいっちゃんの正体を探るために仲良くしようってしてる人もいるかもしれないし……」
「それって……」
「例えばナツミさんとか」
カナが具体的な名前を出す。
私はナツミの顔が頭に浮かんだ。
とっても明るく微笑む笑顔。
「でもナツミはそんなんじゃないって思う……」
そう信じたいって思った。
「断言できる? 信じれる? いっちゃんの本当のことを言える?」
「それは……」
そう言われると困った。
ナツミのことは信じたい。
でもどこまでいっても信じたいで止まる。
信じることはできないまま。
「いっちゃんはとってもナツミさんと仲いいけど、でも裏切られたらその反動も大きいって思うの。想像してみて?」
裏切られたら。
私は不意に夢のことを思い出す。
もしナツミが……。
想像しただけで吐き気がした。
きっと夢を見たときよりナツミと仲良くなってるのが原因。
もしナツミに裏切り者って言われたら……。
それだけで立ち直れないと思った。
「そっ……そんなこと言われても……」
少し呼吸がおかしくなる。
汗は出るのに、とても寒い。
「お母さんも同じ。親子で仲いいのはいいことだけど、でも本当の親子じゃないんだよ」
「それは……しっ……知ってるけど……」
「いっちゃんはみんな信用しちゃだめ。仲良くするフリをするのはいいの。今までみたいにね」
すぐ近くにカナさんがいる。
「でも信じちゃ駄目。いっちゃんはわたしだけを信じて。わたしだけがいっちゃんを守ってあげれるから」
暖かくて柔らかいカナさんの声。
それだけが私を包む優しいものだった。
「いっちゃんの正体を知ったらみんな裏切る。みんないっちゃんを苦しめる。わたし以外のみんなが」
胸が苦しい。
目から涙が出てるのが分かる。
そしてこの苦しさから救ってくれるのは……
「わたしだけがずっとずっとそばにいてあげれる」
そしてカナさんはにっこりと微笑んでくれた。




