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「今日のお弁当なんだか豪華っぽいね」


いつもとは違うお弁当箱。

大きめの入れ物にお母さんがいろいろ詰め込んでいる。


「今日は球技大会でしょ。たくさん食べて体力つけないとっ!」


「球技大会ってよく知ってたね」


少なくとも私が言ったことはなかった。

わざわざ報告するような用事でもないって思ったし。


「子供の学校行事ぐらい全部把握してるわよ」


ってお母さんは自慢げに言う。

そして多分、本当に覚えてるって思った。

もしかしたら私より詳しいかもしれない。


「すぐに負けたら午前中で終わりだけどね」


「出るなら優勝目指さないとっ!」


なんだかお母さんの方が気合が入っているように見える……。

私はどっちでもいいって感じだし。

なんならすぐに負けたほうが楽かもしれないなんて思ってるぐらいだし。

やったらやったで頑張ってしまうんだろうけど。


「私もできたら応援に行きたいぐらいだわ」


「体育祭じゃないんだから……」


私は中学生の時を思い出す。

中学2年生の体育祭。

転校してすぐだった私は少し浮いた感じだった。

でも徒競走でビリだった私をとても大きい声で応援してくれて、お母さんはとっても目立っていた。

そのおかげかしらないけど、その後私はクラスに溶け込むことができた。

いつきさんのお母さん、とっても凄かったね。

って感じで。

恥ずかしかったけど、嬉しいとも思った。

でもさすがに今日は応援に来られても困るけど……。


「いっちゃんの高校って体育祭がないから残念だわ」


ため息をつきながら言う。

お母さんはスポーツとか見て応援するのが好きみたい。

テレビではドラマとかバラエティよりスポーツ中継を見てる時間の方がずっと長い。

ナツミとすごく合いそうだなって思う。

さすがにお母さんは知らない人の草野球は見ないだろうけど……。


「体育祭はないけど文化祭はけっこう凄いみたい」


なんて言うけど私は詳しくは知らない。

でも体育祭より文化祭の方が好きだなって思った。

走ったりするより、何か模擬店とかする方が性にあってる。


「そっちはそっちで楽しみだけど。そういえばいっちゃんは部活入らないの?」


「うーん。そいうの入ろうって思ったことなかったから……」


「それもそうね。でももう転校はないみたいだから考えてもいいんじゃない?」


「ないって決まったわけじゃないでしょ」


「お父さんが転勤になったら単身赴任してもらいましょう」


なんて笑いながら言うお母さん。


「女2人での生活も楽しいかもしれないわよ」


……どこからどこまで冗談なのか分からないのが怖いって思った。

でもカナの家に住むっていうよりはずっと現実的っぽい。


「それじゃお父さんがかわいそうだよ」


「あれだけ言い切ったんだからそれぐらいはやってもらわないと」


「……それもそうだね」


確かに転校ばかりのことを考えてもしょうがないかもって思った。

今までは考えて来なかったけど、何か部活を考えてみるのもいいかもしれない。


「できたら運動部に入って欲しいわっ!」


「お母さんが見に来たいだけでしょっ!」


私の運動神経のなさを考えてほしいって思った。


「入るなら文化系かな」


「そっちの方がいっちゃんっぽいけどね」


って言われるのもなんだか嫌な感じがする。


「お母さんは何か部活とかしてたの?」


「私?」


「うん」


あれだけスポーツが好きなんだから何かに入ってたと思う。

バレー部?

卓球部?

ソフトボール部?

なんだろう?

って考えていると


「何も入ってなかったわ」


なんてことを言うお母さん。


「あんなにスポーツ見てるのにっ!」


私が思わず大きな声を出しちゃうのもしょうがないことだって思った。


「私は見るのが好きなだけ。やる方は苦手だったんだから」


言いながらお弁当を私に差し出す。

どうやら運動神経の方は私と似た感じだったっぽい。


「今思えばマネージャーぐらいやってればよかったわ」


「マネージャー……」


選手のためにあれこれ雑用をする人っていうイメージ。

そして私は誰かのために一生懸命雑用をするってことはできないと思った。


「すすめられてもマネージャーはやらないからね。多分、入るとしても文系って決めたから」


「好きなことをするのが1番だしね」


私は受け取ったお弁当箱を鞄の中に入れた。


「カナさんを待たせちゃいけないから、ちょっと急いだ方がいいかもね」


「そうだね」


「負けてもいいから頑張ってね」


「分かった」


「いってらっしゃーい」


「いってきます」


言いながら私は外に出た。

外はちょっと暑くて、今来ている冬服じゃちょっときつい感じ。

早く衣替えになって欲しいって思う季節。


「おはよう」


私はカナにいつものように挨拶をする。

こうやってカナと学校に行くようになって2周間ぐらいが経過してる。

そろそろこれが当たり前に思えてきた。

きっと1人で登校する時があったらすごく違和感があるって思う。


「おはよう、いっちゃん」


そしていつものようにカナはにこりと微笑む。

とても可愛い笑顔。

見るたびに私はちょっとどきりとしてしまう。

美人は三日で飽きる。

なんて言葉は嘘だって分かる。


「最近暑いよね」


「そう? わたしはちょうどいいって思う」


「体温が違うのかな?」


「いっちゃんって暖かそうだもんねっ!」


「ちょっと汗かきやすしね……」


私のちょっとしたコンプレックス。

私の故郷が地球より寒かったせいかもしれない。


「でもそんないっちゃんも素敵だって思うよっ!」


「あ。ありがとう……」


喜んでいいのか、ちょっと分からない……。

どこが素敵なのかよく分からないし。


「今日は球技大会だから汗たくさん出そう」


運動があんまり好きじゃないのは苦手だからっていうのもあるけど、汗が出やすいのも理由。

女子しか周りにいないといっても、やっぱり恥ずかしい。


「暑くなったら下敷きで涼しくしてあげるねっ!」


「それは助かるって思う」


「任せといてっ!」


なんだかいかにも球技大会はやる気ないって感じの会話。

でもカナは意外と運動神経がいい。

意外っていうかとても。

もちろんばりばりに運動をやってるナツミと比べたら下。

だけどクラスでも上位の方かもしれない。

だから、もしかしたら、今日の球技大会でも上の方にいっちゃう可能性もある。

……まぁカナとなら勝てたら嬉しいかも。

って私は思った。

だから私もちょっとは頑張ろうって思う。

お母さんも豪華な弁当を作ってくれたし!

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