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ある日の出来事。


文化祭が終わって。

10月になって。

いつの間にかみんなが冬服を着てる。

そんな季節になった。

もう夏服の制服を着ることはないんだねって思うと。

何だか少し……。

ううん、とっても寂しい気持ちになる。

もう学校での大きな行事は卒業式だけだから。

そんな寂しい気持ちになってるのかもって思う。

でも……。

寂しがってるばかりじゃいられないのが本当のところ。

だって、受験があるから。

受験勉強をしないでいい人もいるけど。

クラスの半分以上は受験勉強を頑張ってる。

私もその1人。

塾に行ってるおかげで第一志望の大学ももうちょっとでA判定。

とっても順調だって思う。

もちろん油断はできないけど。

合格するまでが受験勉強なんだから。

それはみんなきっと同じ。

昼休みに勉強してる人がたくさんいる。

その中に……。

ちょっと意外な人がいた。

それは亜里沙。

亜里沙は珍しく真剣な表情で勉強をしてるみたい。

テスト前だって全然してなかったのに。

赤点の常連なのに。

専門学校だから受験勉強しなくていいって喜んでたのに。

どうしてなんだろうって疑問に思う。

勉強の邪魔をしちゃいけないよねって思ったけど。

亜里沙はちょっと疲れたのか背伸びをして休憩って感じみたいだから。

私は席を立って話しかけた。


「急にどうしたの?」


近づいた私に気がついて亜里沙が顔を上げた。

上目遣いで私のことを見ている。


「勉強なんていきなり始めちゃって」


「あたしもそういうお年頃なんだよっ!」


「そういうのはいいから」


なんで無意味にドヤ顔なんだろう……。

亜里沙らしいといえば亜里沙らしいけど。


「専門学校の試験は誰でも通るんじゃなかったの?」


そう亜里沙自身が言ってたしね。

もちろん本当の意味で誰でもじゃないかもしれない。

でも、亜里沙は一応ねこじょに入学できたんだから。

そこまで壊滅的じゃないって思う。


「もしかして大学に希望を変えたとか?」


「その質問の答えはノーだねっ!」


「じゃあどうして?」


「専門学校の試験で良かったら入学金から10万円とかひかれるんだっ!」


「そんなのあるんだね」


「うんっ! それでその半分のお金をお祝いでくれるって!」


亜里沙の目がキラキラしてる。

10万円だとして……半分だから5万円。

確かに5万円貰えるなら……。


「だから勉強を頑張ってるわけね」


「そうっ!」


不純物な動機かも知れないけど。

勉強を頑張るならいいのかもね。


「それとためたお金でギター買うんだっ!」


「卒業してもバントは続けるんだ」


「うんっ!」


やっぱり亜里沙の目はキラキラしてる。


「ゆかっち先輩とまたバンドするんだよっ!」


ゆかっち先輩。

亜里沙が憧れてる人。

この様子だとまだとっても大好きみたい。


「亜里沙の作った曲は好きだから続けてくれるのは嬉しいかな」


って言うのはお世辞じゃない。

文化祭の時に買ったCDはお気に入りでたまに家で聞いたりしてる。

詳しい人が聞いたら歌詞とかが稚拙だったりするのかもだけど。

そういうのも亜里沙らしくていいよねって思っちゃうような感じ。


「だからライブする時とかは教えてね」


「もちろんだよっ!」


言いながら亜里沙がにっこりと微笑む。


「2ヶ月に一回はライブしたいって思ってるんだっ!」


「できるだけ全部見に行くね」


「ありがとっ!」


今は毎日のように会ってるけど。

会うのが当たり前だけど。

もうすぐ会わないのが当たり前になる。

だから、たまにでいいから。

会うきっかけができるのは嬉しい。


「そういえばっ!」


閉じてた問題集を亜里沙は開く。


「分からないところがあるから教えてっ!」


「私が分かることならね」


私は亜里沙の横に移動して。

隣の席の人の椅子を借りて座った。

ふわりとしたシャンプーの匂いがした。


「それでこの問題なんだけど」


亜里沙が教えてって言ったのは数学だった。

でも……。

その問題は大学入試と比べたらずっと簡単なもの。

高校受験に近い感じ。

だから私でも教えることができた。

私の説明を聞きながら。

亜里沙は真剣に頷いて理解しようとしてる。

思えば亜里沙とは2年生の時からの付き合い。

最初亜里沙を見たときはこんなに仲良くなるとは思わなかった。

卒業しても亜里沙と他人になるわけじゃない。

会おうと思えばいつでも会える。

ライブにだってもちろん行くつもり。

でも、やっぱり……。

この当たり前がなくなるはとっても寂しいよねって。

私は亜里沙を見ながら思った。


……

…………

………………


ある日の出来事。


「明後日ですねっ!」


たまこが興奮気味に、嬉しそうに。

今にも飛び跳ねそうな感じで言った。


「全国大会っ!」


そんなたまこを見てると。

私も何だか嬉しい気分になる。

美香も私には見せてくれない笑顔。

おにぎりを食べながらたまこを見てる。


「応援に行けないのが残念だけど……」


「それはしょうがないよ」


美香の優しい声。


「会場は神奈川県だからね」


「新幹線で行くの?」


って私は聞いた。

邪魔しちゃいけないかもって思うけど。

黙ったまま立ってるのも何だか変だよね。


「そう」


美香は機嫌良さそうに言う。

私に対してそうなんだから。

本当にとっても機嫌がいいんだろうって分かった。


「今日の昼に出発して明日はリハーサル」


「お泊りだね!」


「うん。お土産買ってくるね」


「ありがとうっ!」


きっと美香はたまこの好みとか。

そこで買える名物とか珍しいものとか。

一所懸命に考えて選んでくるんだろうな。

……私もお願いって言いたいけど。

それはぐっと我慢。

言ったら睨まれるに決まってるからね。

もっとも私は胡桃ちゃんに買ってきてもらうんだけど。

どんなお土産をくれるのか楽しみだし。

本当に全国大会を楽しんできて欲しいよねって思う。

胡桃ちゃんとは昨日に会って話をした。

緊張してるみたいだったけど。

思いつめてるとかそういうのは全然ない。

何だかちょうど良さそうな感じに見えた。


「でもまだ実感がわかないんだよね」


独り言みたいな感じで美香は言う。

さっきまでたまこに向けてた視線も。

今は何だか遠くの方を見ている気がする。


「次の舞台で終わりだって」


全国大会。

だから次はない。

正真正銘、最後なんだよね。


「今日の朝練で練習は終わりでさ」


思わず。

ぽつりって。


「朋代が何か喋っててみんな泣いてたけど」


言葉が溢れるように美香は話す。


「アタシは何だか今がずっと続くような気がしてさ」


それは何だか凄く共感できて。

悲しいぐらいに美香の気持ちが分かる気がした。

カナと学校に向かう時とか。

たまこと図書当番してる時とか。

ナツミとアニメの話をしてる時とか。

アイコと廊下を歩いてる時とか。

ずっとずっと。

この時間が続くような。

そんな風に思えることがある。


「でもそうじゃないんだよね」


美香がため息をつく。

ため息と一緒に色々なものが吐き出された気がした。


「こうやって3人でここに集まることも今日で最後だし」


3人で……。

そう美香が言ったのは意外だった。


「別に最後ってわけじゃないでしょ」


だからってわけじゃないけど。

私は美香に行った。


「部活が終わってもこうやって集まっていいわけだしね」


「ですっ!」


張り切ってたまこは言う。


「たまこはこれからもずっと美香ちゃんにお弁当とか作りたいっ!」


「たまちゃん……」


美香が目元を拭う。

そんな美香は初めて見た。

きっと、色々と思うところがあるんだろう。


「たまこはずっとずっと美香ちゃんの幼馴染だからっ!」


学校を卒業しても。

ずっとずっと何年後でも。

たまこと美香が幼馴染ということは変わらない。

何だか2人がずっと一緒にいる姿は簡単に想像できて。

そういうのはやっぱり羨ましいよね。

私もこれから。

そんな関係の人ができるといいなって思った。


……

…………

………………


ある日の出来事。


「勉強の方は順調?」


図書当番が終わって。

教室に帰ろうとすると声がした。

振り返ると杉森先生がいて。

いつもの優しい笑顔で私を見ていた。


「順調だと思います」


この前の模試が良かったから。

自信を持って言えたのが嬉しかった。


「それはよかっわ」


って杉森先生は嬉しそうに言ってくれる。


「でも勉強も大事だけど息抜きも同じぐらい大事よ」


そう言って杉森先生は本を差し出してくれた。


「ありがとうございます」


私はその本を受取る。

杉森先生はたまにこうやって本を貸してくれる。

図書室の本じゃないからきっと杉森先生のもの。

いつもその人にあったぴったりの本を選んでくれる。

だから……。

自分が持ってる本がとても重いし、大事なものに思える。


「たまこさんもね」


そう言ってたまこにも本を差し出す。


「ありがとうございますっ!」


たまこも嬉しそうな笑顔。

たまこはあんまり小説を読まなかったけど。

図書委員になって。

杉森先生と話すようになって。

よく小説を読むようになった。

自然に本をおすすめしてくれる感じなのが杉森先生。

そういうところに私は憧れたし。

私も図書室の司書の先生になりたいって思った。


「いつ返してもいいからじっくり読んでね」


「はいっ!」


って私とたまこは同時に言った。

すぐに読みたいけど、それは我慢。


「それじゃ残りの授業も頑張ってね」


「はいっ!」


また2人の声が重なる。

杉森先生は振り返ると奥の部屋へ移動する。


「素敵な先生ですよね」


「そうだよね」


大人で、しっかりしてて……。

やっぱり杉森先生みたいになりたい。

そう改めて私は思った。


……

…………

………………


ある日の出来事。


「おはよう、カナ」


「おはよう、いっちゃんっ!」


いつもの朝。

冬も近づきてきていて。

少しずつ寒くなってきてる。

カナはいつもの笑顔。

軽い足取りで学校へ向かってる。


「カナ……」


そんなカナに私は声をかける。

少し小声になっちゃって。

カナに届いたのか心配になったけど……。


「どうかしたの?」


ってカナは私を見ながら言ってくれた。

その表情は、その声色は。

私が好きないつものカナ。

だから私は……。


「ううん、何でもないよ」


そう言った。

本当は聞きたかったんだけど……。

昨日、アイコと喧嘩した理由について。

……本当に喧嘩だったのかも分からないけど。

部室の外までアイコの声が聞こえた。

私は色々あって昼休みの終わるちょっと前に部室に行った。

そこでアイコの声を聞いた。

でも……。

何を言ってるのかまでは分からなかった。

私は思わず扉を開ける手が止まった。

何だか開けるのが怖くなったから。

それからカナの声とかナツミやたまこの声も聞こえた。

どうやら4人で部室にいるみたいだった。

どんな話をしてたかはやっぱり分からない。

どうしよかって迷ったけど。

私は扉を開けて中に入った。

何だか気まずい雰囲気だった、。

アイコは怒ってるみたいだったし、カナはうつむいていた。

そして、私を見るとカナは笑顔を見せてくれたし。

みんなとお喋りすることもできた。

でも、何があったのとかは聞けなかった。

そして、今日。

カナはいつものように元気で明るい。

だからこそ余計に聞きにくいよねって思った。


「いっちゃん、どうかしたの?」


どうやらまた考え事をしてぼんやりしてたみたい。

カナが覗き込むように私を見てる。


「寝不足とか?」


「ううん、何でもないよ」


きっと何かあったら相談してくれるって思う。

相談がないってことはきっと大丈夫。

アイコとだってちょっと揉めただけだよね。

アイコはちょっと我が強いところがあるから。

カナも意思が強いところがあるから。

だから……。

すぐにまた仲良くしてくれるよね。

だから私も聞かないようにしようって思った。


……

…………

………………


ある日の出来事。


昼休みの教室。


「全然気合が入らない~」


うめくような声。

彩里さんは机にべったりなってる。

演劇部も引退して。

彩里さんも晴れて受験生の仲間入り。

なんだけど……。


「これは完全に燃え尽き症候群だね~」


全く勉強に集中できないみたい。

赤点を取ったら部活ができないから。

前は授業中をしっかり聞いてたみたいなんだけど。

今はそれもなくなって授業中も寝てたりしてる。


「アタシが教えてるんだからしっかりしなさいよっ!」


言いながらアイコが頭にチョップする。

何だかいい音が教室に響いた。

痛そうだなって思ったけど。

彩里さんはあんまり反応とかしないでぐったりしたまま。

燃え尽き症候群っていうけど。

全国大会が終わってもうそこそこ過ぎてる。

それに美香はすぐに切り替えてたみたい。

美香とは毎朝いつもの場所で話をしてる。

全国大会が終わって2日後から勉強を始めたって言ってた。

志望大学は、私と一緒。

一緒だねって言ったら凄く嫌そうな表情をされた。


「こりゃ駄目だわ」


首を振りながらアイコは言う。

どうやらさじを投げたみたい。


「全国大会に行ったんだからどこか推薦でも貰いなさいよ」


「推薦?」


「何を初めて聞いた言葉みたいな顔してるのよ」


「あ~。その手があったか~」


にやりと微笑む彩里さん。

どうやら推薦入試の存在自体忘れてたみたい。

それだけ演劇に集中してたんだねって。

いい方向に考えようって思った。


「さっそく三河先生に相談してみるよ~」


「推薦入試の出願はもうすぐだから急ぎなさいよ」


「そうだね~」


言いながら欠伸をする。


「推薦でも小論文とかあるから……」


「まぁどうにかなるでしょ~」


「推薦だって落ちることはあるわよ」


「大丈夫~。だって全国大会に行っただから~」


「そう余裕ぶっこいてると……」


「昨日映画見すぎて眠いから寝る~」


ただでさ寝てるのに近い格好だったのに。

今度は本当に眠ってしまった。


「これは浪人まっしぐらね」


そんな姿を見てアイコはため息をついた。



……

…………

………………


ある日の出来事。


「本当にいいんですか?」


「うん。むしろ嬉しいぐらい」


放課後の時間。

私は部室にいた。

毎月恒例のインタビューの時間。

だからくるると一緒。

部室には1年生3人がいて私達の近くに座ってる。


「みんなも聞きたいみたいだしね」


私の言葉に3人は同時に頷いた。

受験が近くなってるからくるるは遠慮してたけど。

私の方からお願いして部室まで来てもらった。

今日は塾もお休みだからのんびりできるし。

こうやって誰かに宇宙のことを話すのは凄く楽しい。


「それじゃお言葉に甘えて……」


言いながらくるるはノートパソコンを取り出す。

いつもの、可愛いの。

ずっとずっと大事にしてるんだなって思う。


「でもいつまもこうやって……ってわけにもいかないっすよね」


「それはそうだね」


いつまでもしたいけど。

さすがに新聞部の邪魔になっちゃうしね。

私が卒業した後も出しゃばるのも何だか恥ずかしい。


「卒業前っていうと2月までかな」


「でも3年生は2月は学校に……」


「来ちゃいけないってわけじゃないからね」


「来てくれるっすか?」


「もちろんだよ」


きっかけを作らないと来にくいだろうしね。


「それでも……後4回になるんだね」


後4回で新聞部との関わりは終わり。

そう考えるとあっという間だったねって思う。

あの扉を一三屋先輩が叩いたのが始まり。

それから今までずっと。

私の書いた原稿とか話した宇宙のこととかが新聞に載ってた。

それがなくなるのはやっぱり寂しい。

それはくるるも同じだったみたい。


「後4回しかないっすか……」


静かにため息をつきながら言った。


「何を聞きたいかとかちゃんと決めとかないとね」


くるるから来る質問は意外なものが多くて楽しい。

今日はどんなのだろうって毎回どきどきしてる。


「あと少しだからいい記事を作ろうね」


「そうっすねっ!」


どうやら気合が入ったみたい。

話すのは私だけどまとめるのはくるるのお仕事。

くるるの記事を作る力は凄く上がってるって思う。

くるるの書いた宇宙の話を読めて私は幸せだよね。

だから……。

後4回で終わりっていうのが凄く寂しいと思う。

でも、だからこそ。

今まで以上に頑張って話そうという気になる。


「それで今日聞きたいことっすけどっ!」


「うん」


少しでも宇宙に興味を持つ人が増えるように。

後4回頑張ろうって気合を入れた。

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