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演劇部の舞台が終わって少しして。

体育館は少しずつ人がいなくなっている。

ステージ上は演劇部の人たちがあっという間に片付けてしまって。

今あるのは私が見慣れたステージ。

なんだか凄くがらんとしてて。

ついさっきまであんなに凄いことがあってたなんて。

まるで夢みたいだなって思った。

私は自分の胸をぎゅっと抑えた。

頭の中にはなんだか良く分からないものがごちゃごちゃってしてて。

そのごちゃごちゃが私を焦らせるような。

なにかやらなきゃって思ってしまうような。

そんな不思議な気持ちに包まれている。

それは、絶対に。

あの舞台のせいだって思う。

演劇部の舞台は凄いって知ってた。

だって、全国大会に行くぐらいなんだから。

でも……。

さっき見ていたものは。

何だか想像以上っていう言葉が陳腐になるぐらいに。

本当に凄いものだった。

見終わって、時間が経って。

改めて考えると余計にそう思う。

あれを作り上げるためにどれだけ苦労したんだろうって。

私も部誌の小説を書くのに手を抜いたわけじゃない。

頑張って書いたってもちろん言える。

だけどもっと書けたんじゃないかって。

そう思うような。

今すぐ何か書きたいって。

そう考えさせられるような。

そんなものを見せられて。

私の胸は高鳴っている。

私もあんな風に。

誰かの心を動かすような物を作りたいって。

同じ高校生ができたんだから。

私にもできるんじゃないかって。


「分かるわよ」


後ろから声がした。

振り返ると、アイコがいた。


「小説を書きたくてたまらないって感じでしょ?」


やっぱりアイコは。

意地悪そうに微笑んで私に言う。


「凄く興奮して何かやらなきゃって気持ちになってるでしょ?」


「……うん」


私はそのままの言葉を言った。

そうすることしかできないって。

心の底から分かっていたから。


「でも、どうして分かったの?」


「決まってるでしょ」


アイコは嬉しそうに笑ってるけど。


「アタシも同じ気持ちだからよ」


どこか悔しそうでもあった。

それは私も同じだよねって思う。

ううん、私とアイコだけじゃない。

あの舞台を見て……。

同じような気持ちになった人はたくさんいるって思う。


「正直言って演劇部のことを舐めてたと思うわ」


「私もだよ」


ふーと大きく息をはいた。

心を落ち着かせるために。


「でも今は文化祭を楽しまなくちゃね」


演劇部の舞台だって色々なものを取り込んでできたんだって思う。

文化祭を楽しむのは、今しかできないこと。

その今しかできないことを積み重ねて。

小説にぶつけないといけないよねって思った。


「興奮で焦って傑作がかけるわけでもないしね」


言いながらアイコはぐっと背伸びをする。

きっとアイコも気持ちを落ち着けたいんだって分かった。


「次はどこに行くっ!」


ナツミの声が聞こえた。

私達の会話を聞いてたか、聞いてなかったのか。

どっちかは分からないけど。

何だかいいタイミングだなって思えた。


「あたしは小腹が空いたから何か食べたいなっ!」


お腹を抑えながらナツミは言った。

軽音部のライブも演劇部の舞台も。

どちらも夢中になってたけど。

時計を見るとしっかりと時間が過ぎていて。

確かに何かを食べるのにちょうどいい時間だよねって思った。


「そうだね」


文化祭のパンフレットを見ながらカナは言う。

ナツミも覗き込むように見ていた。

たまこは私の横で……まだ泣いている。

どうやら舞台を見て感動しちゃったみたい。

きっと、たまこにしか感じられない何かがあったんだろうって思う。

だいぶ前に美香が私に言った。

たまこを泣かせたら許さないって。

でも……。

美香の方がたまこを泣かせてるよね。


「クレープが美味しくて評判らしいね」


「クレープ、いいねっ!」


ナツミはたまこの肩を叩いて言う。


「たまちゃんもクレープ好きだよねっ!」


「はい……たまこ……好きです……」


涙で声も顔もぐちょぐちょだけど。

その涙は悪いものじゃないって知ってる。

だからたくさん泣かせてあげたいなってみんな分かってる。

だから私達は。

たまこが大丈夫になるまで体育館にいて。

それからみんなでクレープを食べに行った。


……

…………

………………


「クレープとっても美味しかったですねっ!」


すっかり元気になったたまこ。

クレープもとっても美味しそうに食べていた。


「あんなに美味しいクレープって初めて食べましたっ!」


「クレープってどれも同じって思ってたけど違ったっ!」


ナツミも嬉しそうに言う。

確かにあのクレープはすっごく美味しかった。

クレープは大きいのを想像してたけど。

小さいのを安く売ってる感じで。

色々な味を楽しめるのがとても良かった。

小さくても生地はしっかりしてて。

ちゃんとクレープっ!っていう感じなのが凄いよね。

でも……。

もちろんその美味しさにも代償があった。


「美味しかったけどあんなに並ぶとは思わなかったわ……」


「わたしも列に並ぶとか好きじゃないから……」


列を見た瞬間にカナとアイコが凄く嫌そうな表情をしてた。

逆にたまことナツミは嬉しそうに列に並んでた。

綺麗に2つに別れて面白いなって思った。

2人に頼んでも良かったんだろうけど。

私達はみんなで並んでクレープを買った。

さっきの体育館でのこととか。

これから何をするかとか。

話すことはたくさんあるしね。

だからクレープを食べ終わった後のことも決まってる。

今日はずっとみんなで行動してたけど。

ちょっとの時間だけ別行動。

それぞれ行きたい場所に行って。

それから玄関に集まる。

その後は……カナのとっておきの場所にみんなで行く予定。


「いっくんはCDを買いに行く予定なんだよね」


「うん。ちょうど亜里沙がお留守番してるってメッセージが来たからね」


CDに亜里沙のサインを貰うのもいいかもなって思った。

もしかしたら……。

将来、そのCDがとっても高くなるかもしれない。

誰がどうなるかなんて今は誰にも分からないからね。


「カナはどうするの?」


「わたしはちょっと見に行きたいところがあるんだ」


「友達のところ」


「うん。美術部で絵を展示してるみたいなんだ」


「そうなんだね」


私はカナの友達と会ったことがない。

その友達に見せるのは私が知らないカナだよね。

きっとみんなも同じなんだろうって思う。

当たり前だけどみんな私が知らない友達がいて。

みんな私が知らない世界を持ってる。

そういうのって何だか素敵だなって思う。


「遅刻しないようにねっ!」


ってナツミは言う。

私はしっかり時計で時間を確認する。

急ぐってほどじゃないけど。

でもお喋りとかしてたらあっという間に時間は過ぎるから。

忘れないようにタイマーをセットした。

まぁ遅刻するとしたらアイコなんだろうけどね。


……

…………

………………


「遅いわよっ!」


待ち合わせ場所についたらアイコが怒ってた。

待ち合わせ時間に5分遅れただけなのに……。

タイマーを40分にセットしたつもりだったけど。

1時間40分になってたのが敗因だったと思う。

面倒くさがらずにタイマーじゃなくてアラームの方が良かったなって。

今更ながら後悔中。

まさかアイコが遅れずに来るとは思わなかったし。


「アタシが珍し時間前に来てたのに何でいっきが遅れてるのよっ!」


「アイコさん凄く早く来てましたからねっ!」


「20分前にはいたわよっ!」


「行くところがなかったの?」


「その通りよ。文句ある?」


睨まれた。

それに何だか悲しい気持ちになる。

遅れて凄く申し訳ない気持ちになった。


「とりあえず天文部と漫研部に行ってそれからはここにいたわっ!」


私も天文部に行ったけど。

カナとはそこで一緒になったけど。

アイコとは会わなかった。

きっと私達より早い時間に顔を出したんだって思う。

というか行くところがないなら一緒に行動すれば良かったのに……。

私は時間が余ったから近くの出し物とか見たけど。

アイコは誰かと一緒じゃないとそんなことしないみたい。

成長したよねって思うことも多いけど。

やっぱり変わらないこともあるよねって思う。

ちなみに軽音部はライブの雰囲気のまま元気にやってたし。

天文部のほうが終わりが近くてちょっとだらけ気味だった。

今日もプラネタリウムの鑑賞会をしてたから。

疲れとかもあるよねって思う。

疲れ切った乙女先生がぐったりしてたのも。

そういう雰囲気になってた要因かもだけど。

文化祭は先生も大変なんだねって思った。

プラネタリウムも全部売り切れたみたいだから。

天文部は大成功っていっていいかもしれない。


「それでこれからどこに行くのっ!」


ぴょんって飛び跳ねる感じでナツミは言った。


「何だか特別な場所に行けるみたいだけどっ!」


私は何となく分かってた。

カナが連れて行ってくれる場所はあそこだって。

去年は行けなかったけど。

今年をあそこで過ごすのもいいよねって思う。


「のんびりできて文化祭の雰囲気も楽しめる場所だよっ!」


カナはにこりと微笑んで言う。

そして鍵の束を取り出した。


……

…………

………………


「今年から鍵をかけるようになったんだね」


「うん。去年にここにいて見つかった人がいてね」


「……カナじゃないよね」


「わたしじゃないっよ!」


屋上の扉の前。

カナが鍵で鍵を施錠して扉を開ける。

一歩外に出たら。

何だかとっても懐かしい感じがした。

1年生の時はカナと2人でここに来たよねって。

そんな感じの懐かしさ。


「ここから外のステージが見えますねっ!」


「本当だっ!」


ナツミとたまこがはしゃぐように言う。

はしゃぎすぎてここにいることが見つからないよね……。

ちょっと不安だったけど。

そこらへんは2人も分かってるだろうって思う。

私達は焼きそばとかたこ焼きとかカレーとか。

屋上に向かいながら買ったものを広げた。

ここで食べたりお喋りしながらのんびり過ごそう。

みたいな雰囲気。

またクレープ食べたいってたまこが言ったけど。

行ってみたらクレープは売り切れていた。

あのクレープが食べれて運が良かったんだなって思う。


「本当にいいところですねっ!」


たこ焼きを食べながらたまこが言う。

そとのステージでは物まねカラオケ大会があってて。

歌とか聞いてるだけでも何だか凄く楽しかった。


「でもよく鍵を持ってたわね」


アイコはカレーを食べている。

私がお昼に食べてたのと同じもの。


「盗んだの?」


「前の生徒会長に頼んだんだ」


「前の生徒会長?」


「うん。前の生徒会長は今の生徒会長に」


「コネを使ったってわけね」


「このために選挙管理委員会とか風紀委員を頑張ったんだからねっ!」


「カナってやっぱり怖いわね……」


そう言いながらも何だかアイコは嬉しそう。

私も嬉しい。

みんな一緒にここで過ごせることが。


「楽しかったよね」


ぽつりとナツミが言う。


「文化祭もそうだけどさ……」


言いながらナツミは何かを飲み込んだ。

飲むこまないと、我慢しないと。

思わず涙が出そうになっちゃったのかも。

そして……。

ナツミは笑顔で言う。


「学校生活全部がさ」


「うん。そうだね」


文化祭がもうすぐ終わる。

そして……。

この学校生活も。


「凄く楽しかった」


「何を湿っぽくなってるのよ」


「そうだよっ! 学校生活はまだまだ続くんだからねっ!」


ぱんぱんってカナが手を叩く。


「これからだってたくさんの思い出が作れるって思うっ!」


「カナさんっ! 凄くいい言葉ですっ!」


「それに……」


にやりとアイコは微笑む。


「カナといっきは大学受験もあるしね」


「大学受験はアイコも同じでしょ」


「アタシは余裕でA判定だから」


「……何だかむかつく」


もちろんアイコが凄く頭がいいこともとっても勉強してるのは知ってるけど。


「だから終わりそうって嘆くより今を頑張りなさいってことよ」


「アイコさんのもいい言葉ですっ!」


たまこが感激したようにアイコを見てる。

たまこは影響を受けやすそうなのはちょっと心配。


「たまこも卒業までにもっと料理を上手になりたいですっ!」


「いっきももっと頑張りなさいよっ!」


「分かってる」


絶対に第一志望大学に合格したい。

その気持はずっと前から変わらないけど。

今、改めて強く思った。


「それに卒業までもたくさん楽しまないとねっ!」


「うん。そうだね」


頑張るところは頑張る。

楽しむところは楽しむ。

短い高校生生活。

充実したものにしたいならそれしかないよね。


「あたしも何か頑張らなくちゃねっ!」


ってナツミも言う。

ナツミは受験勉強もないから。

割と時間が余っちゃう感じだって思う。


「卒業までに……なにかするっ!」


「あやふやね」


「とりあえず何かするか決めるねっ!」


「私はみんなでやりたいことがあるんだ」


「みんなで?」


カナが言う。

みんなでって言葉が気になったのかも。


「うん。みんなで天体観測に行きたいんだ」


1年生の時にカナと行った天体観測。

今度はみんなで行きたいなって。

本気で思ってる。


「それが私の1番の目標かな」


みんなはどう思うんだろう。

ちょっとドキドキしちゃったけど……。


「いいですねっ!」


「あたしは賛成だよっ!」


「受験勉強の息抜きにちょうどいいわね」


「いっちゃんと一緒ならどこにでも行くよっ!」


みんなすぐに言ってくれた。

ドキドキは本当に杞憂だった。

本当に私は素敵な友達ができたって思う。

入学前を考えると信じられない。

私に信じることができる人ができるなんて。

それも、4人も。


「楽しみが増えたし学校生活もこれからってことだねっ!」


「うん。これからもよろしくね」


私の言葉にみんなが笑顔を浮かべる。

私達は屋上でお喋りをして。

文化祭の終わりの花火を見ようって。

そんな約束をした。

文化祭ももう少し残ってる。

学校生活もまだ終わってない。

だから……。

卒業までこんなふうにみんなで過ごせたらいいなって。

私は思った。

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