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「格好良かったですねっ!」
「うん。凄かったね」
食堂でお昼ご飯を食べて私達は。
予定通りみんなで体育館に来て。
だいたい真ん中あたりに座ってステージを見た。
私達が体育館に着いて少しして軽音部のライブが始まって。
ついさっき終わったところ。
今は軽音部の人達が片付けをして。
それが終わったら演劇部の人達が準備を始める。
今は見てる人も休憩っていう感じの時間。
私達は5人一列に並んで座ってて。
真ん中にアイコが、その左右にたまことナツミ。
そしてたまこの横に私。ナツミの横にカナ。
という感じで並んでる。
だから私はたまこと話をしていた。
「たまこ、こういうのって初めて見ましたっ!」
目をキラキラさせてたまこは言う。
初めて見るライブに興奮してるみたいだった。
「音が凄く大きくてみんな楽器とか上手で凄かったですっ!」
「亜里沙も凄く良かったよね」
「はいっ!」
たまこは亜里沙がちょっと苦手みたいだったけど……。
「凄く格好良かったですっ!」
やっぱりたまこは嬉しそうに言う。
「たまこはバントとかよく分からないですけど素敵でしたっ!」
「亜里沙が聞いたら凄く喜ぶと思うよ」
亜里沙はたまこのこと気に入ってたしね。
だから苦手にされてるのはちょっと気にしてた。
これをきっかけに仲良くしてもらえたら私も嬉しいなって思う。
でも……。
たまこの言う通り亜里沙は本当に格好良かった。
亜里沙達のバンドは最後の1つ前に出番があって3曲を演奏した。
全曲オリジナルをするって張り切ってて。
作詞とか作曲とか練習とか。
バンドメンバーみんなですっごく頑張ってるって聞いてた。
だから亜里沙達がどんなライブをするかとっても楽しみにしてた
そして亜里沙達は本当に想像以上のライブをしてくれた。
前の方にいる人達も凄く盛り上がってて。
亜里沙は2曲目が終わった後のMCで泣きそうになってたけど。
最後の曲も堂々と歌ってた。
オリジナル曲も亜里沙の世界観がよく出た歌詞で。
後でちゃんとCDを買わなくちゃって思うようなものだった。
私の勝手な感想かもだけど。
亜里沙の3年間を凝縮したような3曲だった。
今頃、亜里沙はどうしてるんだろうって思う。
泣いてるのかな?
みんなで笑い合ってるかな?
もしかしたら……。
両方なのかもしれないって思った。
今日はバンドの人達と一緒にいるだろうから。
文化祭休みが終わった後の学校で。
ちゃんと格好良かったって伝えようって思った。
「人が増えてきましたね」
後ろの方を見ながらたまこは言う。
軽音部のライブの時から人は多かったけど。
演劇部の出番が近づくにつれて。
体育館にはたくさんの人が移動してるみたいだった。
みんな、演劇部の舞台を見に来てるんだって分かる。
去年は軽音部にもも先輩がいたから。
軽音部にたくさんの人が来て。
演劇部の時には人が減ってたけど。
今年はやっぱり演劇部の方が注目されてるみたいだった。
もしかしたら……。
体育館に入れない人が……。
って心配になっちゃうぐらい。
体育館は人でいっぱいになっている。
去年は本番前に美香と話をした。
でも今年はそんな余裕はなさそうって思った。
「みんな美香ちゃん達を見に来てるんですよね……」
ステージの方に顔を戻してたまこは言った。
その声はちょっと震えていて。
たまこも緊張してるんだなって分かった。
「こんなたくさんの人の前で演技するって凄いですよね」
「うん。本当に凄いよね」
私だったらきっと何もできない。
頭が真っ白になっちゃうよね。
でも、美香達は。
この文化祭の舞台よりずっと。
プレッシャーがある大会を勝ち抜いてきてる。
だから今日も大丈夫だよね。
そうは思うけど。
やっぱり心配になっちゃうのが本音。
たまこは私以上にそう思ってるんだろうな。
演劇部の舞台まで後15分ぐらい、
ステージ上は軽音部のライブの雰囲気から。
すっかり演劇部の舞台の雰囲気に変わってる。
たまこは真剣な表情でステージを見ている。
私は約束の時間になったから。
スマートフォンを取り出して電話をする。
本当はここを離れてしたかったけど。
こんなに人が多くなったら立って移動することも難しい。
だからその場で電話をすることになった。
私が電話したことに気づいたのはたまこだけで。
他の3人はお喋りに夢中みたい。
何だろうって感じのくりっとした目の視線を感じる。
やっぱり何だかか恥ずかしいけど。
約束だから仕方ないよねって思う。
私が電話したのは胡桃ちゃん。
胡桃ちゃんはすぐに電話に出てくれた。
「もしもし……」
周りの声で消えてしまうような。
か細い声が聞こえる。
「いつき先輩、電話ありがとうございます」
「ううん」
私は首を振りながら言う。
「私も胡桃ちゃんの声が聞きたかったから」
胡桃ちゃんは私達が見えないところで出番を待っている。
震えてる小さな声を聞くだけで。
どんな思いで時間を待ってるのか分かる。
「いつき先輩の声が聞けてとても嬉しいです」」
「今日は胡桃ちゃんを見に来てるからね」
「だから凄く頑張ります」
それははっきりと聞こえる。
決意がこもった声だった。
「だから見ててください」
「うん。しっかり見てる」
そしてちゃんと。
最後から最後まで。
しっかりと目に焼き付けておきたい。
「もうすぐ集合ですので……」
「あ……ちょっといいかな?」
たまこの視線で思いつたことがあった。
「どうかしましたか?」
「近くに美香はいる?」
「はい。おにぎりを食べてます」
本番直前におにぎりを食べるんだ……。
ずいぶんと余裕があるんだなって思ったけど。
多分、食べてるおにぎりはたまこが作ったもの。
もしかしたら心を落ち着かせるために食べてるのかも。
「美香と話したい人がいるから変わってくれない?」
「美香先輩と?」
「うん。たまこって言えば分かるから」
自分の名前が出てたまこは少し反応した。
びっくりした感じで私を見てる。
「分かりました。すぐに変わりますね」
「ありがとう」
そう言って。
私はたまこにスマートフォンを差し出す。
「美香と少しお喋りしたら?」
「いっくん……」
たまこはおそるおそるという感じで手を伸ばす。
その手に私はスマートフォンを置いた。
「えっと……美香ちゃん?」
そして小さな声で話を始める。
でも……。
その表情には緊張が減って。
何だか嬉しそうな感じがした。
きっとすぐに美香の声が聞けたんだって思う。
「うん。見に来てるよ。いっくん達と一緒に」
きっと美香も同じだろうって思う。
美香だって本番前にたまこの声を聞きたかったよね。
美香は自分からそういうことは言えなさそう。
「そう。いっくんが。……本当に楽しみにしてる」
ぼそぼそとした感じで話をしてる。
終わったら家でご馳走を作るってたまこが言ってる。
きっと、それは。
美香にとって何より嬉しいものだろうって分かった。
「頑張ってね、美香ちゃん。……うん、分かった。伝えておくね」
それで通話が終わったみたい。
たまこからスマートフォンを受け取る。
「えっとね。美香ちゃんがね」
「うん」
「いっくんにお礼を言っておいて……って」
「美香が?」
「うん。ありがとうって」
「そうなんだね」
美香が私にお礼を言うなんて珍しいって思った。
でも……。
それぐらい直接言えばいいのにとも思った。
そういうのもやっぱり。
何だか美香らしいよねとも思うけど。
「舞台、楽しみだね」
「はいっ!」
もうすぐ舞台が始まる。
私とたまこは静かにステージを見てその時を待った。
……
…………
………………
体育館の電気が消える。
ステージだけが明るくて。
まるでそこだけが別世界みたい。
予定の通りの時間に。
美香達の舞台が始まった。
「私は何かを探しにここに来た」
「でも、その何かは私は知らない」
そんな言葉で始まる物語だった。
ステージには木や草が生えていて。
ライトは優しいぐらいに薄暗くて。
そこが夜の森の中なんだって分かった。
ステージに立ってるのは川島さん。
どうやら今回の舞台では川島さんが主人公みたい。
川島さんは学校の制服を着ていて。
凄く怯えてるのがすぐに分かった。
「あら、あなたもここに来たの?」
こつこつと足音を出しながら出てきたのは美香。
堂々とした佇まいは本当に美香らしいと思った。
「偶然ってあるものね」
「先輩っ! 何でここに?」
「捜し物があるのよ」
「それは……私もです」
「偶然ってあるものね」
「でも何を探してるのか分からなくて……」
「偶然ってあるものね」
「先輩も何ですね……」
言いながら小さく微笑む。
その表情で先輩というキャラに行為を抱いてるのが分かった。
そこは実際と同じなんだねって。
ちょっとだけ面白いなって思った。
それからは2人は探しものを求めて歩く。
ずっと森を歩くと思ってたけど……。
2人が端に移動して暗転してる間に場面は変わっていた。
森から図書室だったり。
図書室から路地裏だったり。
場面が変わってる間も話は進んでいて。
2人の話し声がずっと聞こえて。
何だか不思議な感じがした。
そして場所ごとに2人は色々な人と出会う。
胡桃ちゃんもその1人だった。
胡桃ちゃんがいたのはベッドがある……病室。
胡桃ちゃんは病衣を着て、頭に包帯を巻いて……。
と見るからに不気味な感じだった。
「私はもうすぐ死ぬの」
胡桃ちゃんは呟くように言う。
呟く声だけど。
しっかりと私の耳に届いている。
「頭の中のねずみが大きくなって、それで死ぬの」
その話を聞いて川島さんは悲しそうな表情になる。
「なんで悲しんでるの?」
「だって……あなたが死んじゃうから」
「死って悲しいものなの?」
「死は永遠の別れだから」
「あなたはそう考えるのね」
「みんなそう考えると思うけど」
「みんなの中には私は入ってなかったみたいだわ」
言いながら胡桃ちゃんは微笑む。
その微笑みは何だかぞくりってするような。
不気味だけど、素敵な笑みだった。
それから2人は話をして……。
「青は赤より淡い色……この言葉を覚えておいて」
「覚えるとどうなるの?」
「私が死んでも私はあなたの中でずっと生き続ける」
「……うん。分かった。ずっと覚えておく」
そして2人はまた歩き出す。
また場所が変わって……最終的にたどり着いたのは最初の森だった。
「捜し物は見つけれた?」
優しい声で美香が言う。
微笑む表情はとっても慈悲に溢れてる感じがして。
何だか美香を見てるだけで涙が出てきそうだって思えた。
「見つけました」
溢れるような言葉。
「でも……そんなのいらない」
「いらないことはないでしょ」
「だって私はずっとずっと先輩と痛いからっ!」
「そんな寂しいこと言わないでよ」
ため息をつきながら美香は言う。
「これからのあなたは幸せに生きていくんだから」
「嫌ですっ!」
川島さんの目から涙が溢れている。
「先輩っ! どこにも行かないでくださいっ!」
きっと、私も、みんなも同じ。
「どこにも行かないわよ」
言いながら。
美香はにかって微笑む。
それは、私が好きな。
美香の笑顔だった。
「私の好きな言葉、覚えてるでしょ?」
「はい……」
「その言葉をずっとずっと忘れないで」
「はい……」
「ありがとう」
その言葉でステージが暗くなる。
「私は探しものを見つけた」
川島さんの言葉が広がる。
「そして私は生きる。この世界を生きる。先輩がもういない世界を生きる」
「私はもうあの場所に行くことはないだろう」
「だって大事な言葉が私の中にあるから」
「先輩と同じぐらい大事な人に」
「その言葉を伝えるまで私は生きる」
「それが、私の全てだから」
……
…………
………………
暗いステージが明るくなる。
私の頭の上のライトもついて。
体育館全体が昼に戻る。
ステージ上には演劇部の人が並んでいて。
みんな同時に礼をした。
体育館にいる人みんなが。
演劇部の舞台に心を動かされたみんなが。
ステージに向かって拍手をした。
私ももちろん、その1人。
最後の涙を拭って、拍手をする。
隣のたまこは涙が止まらずにそれどころじゃないみたい。
だから私はたまこの分も拍手をした。
ステージ上にいる胡桃ちゃんと目が合った。
胡桃ちゃんは微笑んで手を振ってくれる。
すっごく良かったって。
本当に感動したって。
ちゃんと言葉で伝えようって。
私は思った。




