15
教室に入ってすぐ。
カナさんは真っ直ぐ委員長のところに歩いた。
そして単刀直入って感じで言う。
「わたし、球技大会やっぱりバレーに移りたいんだけど」
にっこりと微笑むカナさん。
でもそれは自分の意見を聞いてほしいっていう威圧に見えた。
委員長は友達と話していて、いきなりのことに驚いた表情を見せる。
「カナさんはソフトボールだったよね?」
「でもやっぱりバレーがいいなって思ったの」
委員長は少し渋い表情を見せる。
これは無理っぽい……。
その表情を見ただけでなんとなく無理っぽそうなのが分かる。
私ならこの時点で諦めてるかもしれない。
「でももう紙を出しちゃったし……」
「どうにかならないの?」
強めの口調で言うカナさん。
少し怖いって思ってしまった。
周りの人達が何事かとカナさんと委員長を注目する。
でもカナさんはそんなことで動じることはなかった。
「絶対に提出した人達でしなくちゃいけないわけでもないでしょ」
「変わってくれる人がいるならいいと思うけど……」
ため息をつきつつの言葉だった。
委員長と言っても希望を聞いて割り振って報告するだけ。
だから誰か分かってくれる人を探してというのは最善だと思った。
「分かった」
言いながらカナさんは委員長から離れる。
ほっとした表情が見えた。
なんだかちょっと申し訳ない気分。
でも問題はこれから。
カナさんと変わってくれる人はいるだろうか?
そう考えるとちょっと難しそうって思う。
おおよそみんなグループ単位で競技を決めている。
そのグループから抜けて自分は違う競技に移るって人はあんまりいなさそうだって思った。
「どうかしたの?」
朝のHRが始まる直前。
教室にナツミが入ってきた。
ちょっと汗をかいている感じがする。
「カナさんがやっぱりバレーがいいって言ってるんだ」
とわたしは説明する。
「だから誰か変わってくれる人を探してるみたい」
カナさんは1人、1人に変わってくれないかとお願いして回っている。
でもみんな断ってるみたい。
「そういえばカナさんと一緒に学校来てたよね」
「よく知ってるね」
「朝練の途中で見かけたからっ!」
「こんなにぎりぎりになったのは朝練をしてたからなんだね」
「そうっ!」
汗をかいているみたいだったのは遅刻しそうだったからじゃないみたい。
「一緒に来るってことは告白がOKされたんだねっ!」
「告白じゃないけど……」
でも似たような感じかなって思う。
もしかしたら普通の告白よりも重いかもしれないし。
「だからカナさんがバレーがいいって言ってるんだね」
「そうみたい。私がソフトボールでもいいんだけどね」
「それならっ!」
ナツミが手を挙げる。
「委員長っ! あたしがソフトバレーするからカナさんをバレーにしてあげてっ!」
とても明るくて通る声だった。
私は少し前の出来事を思い出した。
あの時もナツミはこうやって委員長に言っていた。
「本当にいいの?」
委員長がナツミに言う。
「もちっ! 急にソフトボールやりたくなったしねっ!」
そのやり取りを見ていたカナさんはこちらに向かってくる。
すごく嬉しそうな表情をしていた。
「ありがとうっ! これでいつきさんと一緒に参加できるねっ!」
ナツミにお礼を言いつつ私に笑顔を見せる。
あんまりナツミのことを見ていない気がした。
気のせいかもしれないけど……。
「いいのっ! 仲いい人たちで出るのが一番だしねっ!」
「ナツミって案外いい人なの?」
「どっからどうみてもいい人だよっ!」
いい人ってのは知ってたけどね。
でもあんまり褒めると調子にのるタイプみたいな感じがする。
「2人ってとっても仲いいんだねっ!」
私とナツミのやり取りを見てカナさんは言った。
にっこりとした笑顔。
明るい声色。
それはいつもと同じだった。
でもなんだかちょっと棘があって、チクリとするような言葉だった。
そしてその直後にチャイムが鳴ってみんな自分の席に移動した。
カナさんはあんまりナツミのことが好きじゃないのかな?
座りつつぼんやりと思う。
確かにずけずけと入り込んできそうなナツミとカナさんはあんまり相性が良くなさそうに思えた。
でも2人ともとってもいい人。
だから仲良くなってくれたら嬉しいって私は思った。




