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「おはよう、カナ」


「おはよう、いっちゃん」


文化祭2日目。

天文部の方は1年生がしてくれるから。

学校を歩き回って。

色々な物を食べて、色々な物を見る。

そんな日にする予定。

1年生の時も、2年生の時も。

2日目はカナと2人だったけど、今年は違う。

ナツミ、たまこ、アイコの3人も今日は自由って言ってたから。

一緒に食べたり見たり遊んだりするつもり。

最初はいつも通り2人で……って予定だったけれど。

カナがみんなで周ろうって提案して、みんなを誘ってくれた。

最近のカナはいつもそんな感じ。

何をする時もまずはみんなでって言ってくれる。

そういうのはやっぱり嬉しいよね。


「今日で文化祭最後なんだよね」


ぽつりとカナが言った。

昨日のカナは元気だったけど。

今日はちょっと違う感じがする。

文化祭が今日で終わりだから。

しんみりした気持ちになってるのかもしれない。

きっと、私も。

カナと同じような気持ち。

ううん……。

私とカナだけじゃない。

3年生のほとんどがきっとそんな感じなんだろうなって思う。

文化祭が終わっちゃったら。

もうこういう行事はほとんどなくて。

後は受験勉強を頑張りながら。

最後の高校生生活を楽しむぐらいしかできない。


「わたしね」


静かな目で私を見ながら。

カナは言葉を続ける。


「ずっと謝らなくちゃいけないって思ってたんだ」


「謝る?」


カナの言葉に思わずって反応した。

だって……。


「カナが私に謝らなくちゃいけないことはないよ」


本当にそう思ってるから。

むしろ私がカナにたくさん言わなくっちゃいけない言葉がある。

ありがとうっていう言葉。

今の私がいるのは。

地球人を信用できるようになれたのは。

やっぱりカナがいてくれたおかげだって分かってるから。

でも……。

カナは私の言葉に小さく首を振る。


「去年の文化祭とその後のこと……」


「去年の文化祭?」


「うん。2日目にわたしはいっちゃんを置いて……」


そういえばそうだった。

カナに言われて思い出した。

去年の文化祭2日目。

軽音部のライブを見た後。

私はカナに体育館を出ようって言われた。

1年生の時みたいに。

また屋上に行こうって誘われた。

そして私はそれを……。


「それじゃ文化祭の後のことって……」


「うん。いっちゃんが考えてる通りだよ」


文化祭が終わって、いつも通りの日常を過ごした。

でも……。

カナはアイコ、それにたまこを脅迫して私から離れさせようとした。

アイコはそれで学校に来なくなった時期があった。

それにたまこは絶対に私から離れたくないって言ってくれたから。

一歩間違えたら取り返しがつかないことになってたって思う。

何だか凄く遠い昔のことのように感じる。

それに……。

それからはずっとみんな仲良くしてたから。

すっかり私は頭の隅の方に記憶を置いていて。

カナに言われるまですっかり忘れていた。

けれど、カナは違う。

カナにとってはついこの前のことで。

ずっと頭の真ん中に存在してたんだって思う。


「みんなと仲良くなってね」


「うん」


「みんなの気持ちを知って本当に酷いことをしたって分かったんだ」


だからだって分かった。

カナがみんなに拘るのは。

あの時の謝罪の意味もあるんだって。

もしかしたら……。

私が知らないところでみんなにたくさん謝ってるのかもしれない。

カナは知ってるから。

私よりも、私以外の人を傷つけたって。


「だから許されなくて当たり前って思ってるんだ」


「大丈夫だよ」


って私は言う。


「だってみんな今のカナが大好きだから」


今のカナは前より世界を好きになってて。

私以外の人にもちゃんと関心があって。

そして、前からいいところはそのまま。

そんなカナをみんなが好きだって分かってる。

私がカナを好きなのと同じぐらいに。


「それにね」


「うん」


「みんな嫌いな人と仲良い振りをするほど器用じゃないって思うよ」


私は知ってる。

お昼休みのお弁当の時間。

あの部室に私がいなくても。

みんな仲良くお喋りとかしてるって。


「だから今日の文化祭も、文化祭が終わった後も」


ずっとずっと学校は続く。

卒業式の日まで。


「仲良くみんなで遊んだりしよう」


過去のことを悔やんで暗くなるより。

もう最後だからってしんみりしちゃうより。


「今を楽しむのが1番だって思うからね」


きっと……。

ナツミもアイコもたまこもそう思ってる。

だからカナの誘いを断らない。


「いっちゃん……」


言いながらカナは目元を拭った。

もしかしたら不意に涙が溢れたのかもしれない。

私もそんなことはよくあるから。

カナの気持ちは凄くよく分かる。


「早く学校に行こう」


私はカナに手を伸ばした。

それが私がカナにできることだから。


「みんなが待ってるよ」


カナは私の手を少しの間見た後……。


「うんっ!」


カナはにっこりな笑顔を見せて。

しっかりと私の手を握ってくれた。

そして私とカナは学校へ向かう。

私はなんとなく空を見上げた。

そこにはどこまでも続く青空があった。



……

…………

………………


学校について私達は玄関で待ち合わせて。

職員室に行って三河先生に出席を報告した後に。

そのまま人が少ないところに移動した。

いつもたまこのお弁当を受け取ってるところ。

どこに行こうって迷ったら。

やっぱりこの場所になっちゃうよねって思う。

最初は私とカナの2人だったけど。

少ししてナツミが。

その10分後ぐらいにたまこが来てくれた。

アイコはまだ来てない。

何だか文化祭が始まるぎりぎりになりそうだなって思った。

ちょっと心配だから電話をしてみたら。

今起きたって眠そうな声が聞こえたから。

あんまり急ぐ様子とかなくて。

やっぱりアイコはマイペースだなって思わず笑っちゃった。

私は今いる場所を教えて電話を切った。

私達はアイコが来るまで。

文化祭が始まるまで。

ここでのんびりしながらお喋りとかをする予定。

もう学校にはたくさんの人がいて。

あちらこちらから楽しそうな声が聞こえてくる。

そんな声を聞いてるだけで何だか凄く楽しい気分になれた。


「どこに行こうって考えてたらわくわくで眠れませんでしたっ!」


ぱっと明るい笑顔でたまこは言う。

眠れなかったって言うけど元気いっぱいに見える。


「みんなで周るのは初めてですからっ!」


「だよねっ!」


ってたまこの言葉に続けて言うのはナツミ。

ナツミもきっとたまこと同じなんだって分かる。

だって私とカナも一緒だから。

寝不足だけど、とっても元気。

みたいな感じ。

もしかしたらアイコもそれで寝坊したのかもって思った。


「昨日はバスケ部の方を頑張ったから今日は全力で遊ぶんだっ!」


「たまこもですっ!」


息ぴったりな感じで2人は言う。

2人は同じクラスだし、きっと教室でもこんな感じなんだろうなって思う。

そして、私はなんとなくな感じで。

昨日の文化祭を思い出していた。

昨日はみんな部活の方を頑張ってた。

ナツミはバスケ部の3年生が中心になってかき氷屋をしてたみたい。

普段は見ないようなシロップとかを用意して人気だったって聞いた。

たまこは去年と同じで飛び入り参加有りの料理勝負。

でも今年のたまこは審査員。

1年生と2年生+参加者が作った料理を食べ比べて。

どちらの方が優れてるかを決める大事な役柄。

文化祭のちょっと前に。

自分が審査員ができるかってとっても悩んでた。

でも、昨日はちゃんと立派に審査できてた。

どの料理も良かったところとこうした方がいいところをきちんと言ってて。

それを元に順位とかを決めてた。

やっぱり料理には凄く信念を持ってるんだなって改めて思った。

だからこそあんなに美味しい料理が作れるんだよねって。

カナも料理部だから少しだけお手伝いをしてた。

私は天文部。アイコは+で漫研部。カナは+料理部。

天文部の方は想像以上に人が来てくれて。

本の方の部誌は過去のも合わせて全部なくなったった。

でも、データ販売があるから今日は1年生が頑張ってくれる。

プラネタリウムの鑑賞会もあるけど。

明日は1年生だけでやりたいって。

昨日の夕方に奈央ちゃんが言った。

だから私達は文化祭を思いっきり楽しんでくださいって。

どうしようかって迷ったけど。

私達は奈央ちゃん達の言葉に甘えることにした。

そんな出来事もあったから。

今日は絶対に楽しい日にしなくちゃいけないよねって思う。

あんまり無理しても楽しくらないって思うから。

気楽さとか、そういうのも必要だよね。


「今日の昼からは体育館に行くんだよねっ!」


ナツミが文化祭のしおりを見ながら言う。

しおりには体育館とか外のステージの時間割が書いてある。

ちょうどお昼ぐらいから軽音部のライブ。

そして少し時間があって演劇部の公演がある。

どちらも凄く楽しみにしてる。


「そうだね」


きっと、今頃は。

亜里沙も美香も緊張してるんだろうなって思う。


「だからその前に回りたいとことかあれば言って欲しいな」


「そうだねっ!」


言いながらぺらぺらとナツミがしおりを見てる。

その後ろでたまこが背を伸ばしながら覗いてるのが何だか可愛い。


「実は……」


さっきまでの勢いがある声とは違って。

何だか恥ずかしげな感じでナツミは言う。


「行きたいところがあるんだよね」


ナツミが行きたいと思ってて。

言うのが恥ずかしいところ……。

といえば1つしか思いつかなかった。

だってナツミが前からやりたいって言ってたことだから。


「漫研部のコスプレ撮影?」


私の言葉にやっぱりナツミは頷く。

顔を赤くして恥ずかしそうに。


「もちろんみんなが良ければだよっ!」


きっと……。

去年まで一緒に文化祭を歩いてた人には言いづらかったことなんだろうって思う。

今だって言うのに勇気が必要だったって分かる。

でも、言ってくれたのは。

それだけ私達に気を許してくれてる証拠だよねって。

何だか嬉しく思えた。


「わたしも行きたいなっ!」


そしてそう言ってくれたのはカナ。


「藍姫さんとも行くって約束してるしねっ!」


「そういばそんな話もしてたね」


確か……って私は思い出す。

アイコとたまこのコスプレ姿を見たいからって。

絶対に漫研のところに連れてきてって。

その話をするとたまこも行くって言ってくれた。


「たまこはあんまりそういうの似合わないって思いますけど……」


もじもじしながら言うたまこはとっても可愛くて。

どんな衣装でも似合いそうだよねって思えるぐらいだった。

藍姫もたまことアイコのコスプレが見れるなら本望だと思う。

行く時間になったらちゃんと連絡しなくちゃね。

2人のコスプレを見れなかったら一生恨まれそうだから。


「でもやっぱりアイコさんは嫌がりそうだよね」


カナが心配そうに言った。

昨日はアイコも勢いでコスプレをするって言ってたけど。

今日、改めて誘ったら。

アイコだけ断ってばらばらになるかもって心配してるのかも。

だから、私は言う。


「大丈夫だよ」


って。


「アイコはああ見えて押しに弱いからね」


優しいから最終的には頷いてくれるって分かってる。

後でいろいろ言われたり、お願い事があるかもだけど。

そういうのも何だかいいよねって思う。


「それに私もアイコがコスプレするところは見たいからね」


「とっても楽しみですねっ!」


さっきの恥ずかしそうな感じとは違って。

うきうきした声でたまこは言った。

もしかしたら今まで言わなかっただけで。

たまこもコスプレとかに興味があったのかもしれない。


「たまちゃんはどんなコスプレするっ?」


「そうですねっ!」


って感じで盛り上がり始める2人。

こうやって見てると2人を見てると。

何だか仲がいい姉妹みたいで微笑ましいよね。

そんな風に思ってる時だった。


「おはよう」


眠そうな顔をしてアイコがやって来たのは。

2日目の文化祭が始まる30分前だった。

みんなが遅れてきたアイコに挨拶をする。

アイコはやっぱり眠そうで。

いかにも寝不足って感じだった。

やっぱりアイコも今日が楽しみで眠れなかったんだなって分かる。


「さっきまで最初にどこに行こうか話してたんだ」


私が言うとアイコは何だか変な表情。

少なくとも嬉しそうな感じじゃなかった。


「何だか嫌な予感しかしないわ」


そう言うアイコの近くで。

ナツミとたまこがコスプレの話で盛り上がってる。

それでだいたいの検討はついたみたい。


「昨日のあれがまだ続いてるわけね」


「うん。……駄目かな?」


「してもいいわ」


ぼそりとつぶやくような声だった。


「昨日、いつきがするならするって言ったわけだしね」


「ありがとう、アイコ」


「いっきもアタシのコスプレをどうしても見たいだろうしねっ!」


びしっと私を指差しながら言うアイコ。

それはその通りだよねって思う。

こうやってみんなでコスプレとかするのも。

今日で最初で最後だって思うから。

文化祭みたいな勢いじゃないと恥ずかしくてできないよねって。

だからこそ……。

とってもいい思い出になりそうだねって凄く楽しみ。

ナツミとたまこ。

私とアイコで。

どんなコスプレをするのかとか時間まで話した。

そんな中、カナはちょっと離れた場所で私達を見てた。

あんまりコスプレとかアニメとかの話が分からないからかも。

でも、その表情はとっても楽しそうだったから。

私はあんまり心配とかなかった。

かちかちって時計が進んでいく。

時間が近づくとみんながお喋りをやめる。

学校全体が同じように静かになる。

みんなが色々なことを思い出したりしてるんだろうって分かる。

私は静かに時間を確認した。

もうすぐ文化祭が始まる。

私達の、最後の文化祭が。

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