33
文化祭の日。
早起きした私。
準備も終わっちゃたから。
ちょっと休憩。
そんな感じの時間。
「今日も早起きね」
ちょっと眠そうなお母さんが言った。
お父さんはぐっすり眠ってるんだろうって思う。
「文化祭だからね」
3年生になってからは早起きすることが多くなった。
でも、今日は。
やっぱりいつもより早起きしてしまう。
睡眠時間はいつもより少ないけど。
あんまり眠さとかはなかった。
「何だか今年の文化祭が1番わくわくしてるよ」
「今年で最後だものね」
「それもあるよね」
って言ったけど……。
何だかまだ最後だって実感はあんまりない。
ずっとこのままずっと学校生活が続いて。
来年もまたねこじょで文化祭をする。
そんな気さえしてる。
受験勉強を頑張ってしてるのに。
3月で卒業だって分かってるのに。
何だかふわふわとした。
変な夢見心地な感じでいる。
「今年もちゃんとお父さんと見に行くわよ」
「天文部は今までで1番いいのになってるよ」
「それは楽しみだわ」
嬉しそうに微笑むお母さん。
お母さんとお父さんにもプラネタリウムの披露を見てほしいって思ってる。
だって……。
「1年生がとっても頑張ってくれたんだ」
「いい人が入ってくれたのね」
「うん」
「部活をしてよかったでしょ」
「そうだね」
思えば天文部を作ったきっかけはお母さんだった。
お母さんが何か部活をしたらって言ってくれたから。
色々考えてカナと天文部を作った。
しばらくは2人でのんびりしてたけど。
今では他の部活の人を呼んで天体観測をしたりとか。
始めたころには想像してなかった本格的な部活になってる。
それに……。
部活を始めたから出会えた人。
部活をしてたから仲良くなれた人。
そういう人達がたくさんいる。
もし、部活をやってなかったら……。
って思うとちょっと怖くなっちゃうぐらいに。
だから私は部活をやってよかったって思ってる。
「いっちゃんもしっかり楽しまないとね」
「うん。たくさん楽しみたいって思ってる」
見たいものはたくさんある。
見なきゃいけないものも同じぐらい。
軽音部のライブと演劇部の舞台は絶対に外せないよね。
演劇部の舞台はとっても人が集まりそうだって聞いた。
今までは1回だったのを今日と明日の2回に増やすぐらいに。
全国大会に行くぐらい凄いんだから。
みんなみたいって思うのも当たり前だよねって思う。
今日と明日の舞台。
私は明日の方を見に行く予定。
2回に増やしても……。
もしかしたら体育館が溢れるぐらいに人が来るかも。
だから明日は早めのうちに体育館に入っておきたいって思ってる。
演劇部以外にも凄いステージはたくさんあるから。
天文部の方は今日が私達がメインで。
明日は1年生たちがメインでお留守番。
4回するプラネタリウムの披露はできるだけみんなが集まろうっていう感じ。
「もう少しゆっくりしていく?」
「そろそろ出ようって思う」
待ち合わせ時間には早いけど。
今年もきっと。
カナも早く来てくれるって分かってるから。
「今年も差し入れよろしくね」
「人数が増えてるみたいだから多めに買っていくわ」
「ありがと」
私は持っていくものを確認して。
お母さんに言った。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
お母さんが小さく手をふる。
私も同じようにした。
今日と明日が最後の文化祭。
私はそう心に言い聞かせる。
そうするのは。
ああすればよかったとか。
あれを見ればよかったとか。
そんな風に後悔する文化祭にしたくないから。
少し遠くから聞こえるテレビが今日の天気を教えてくれる。
今日も絶好の文化祭日和だねって思った。
……
…………
………………
「おはよう、カナ」
「おはよう、いっちゃんっ!」
いつもの朝。
いつもの挨拶。
そして今日は。
特別な日。
「文化祭だね」
「そうだねっ!」
カナは明るい笑顔。
心の底から文化祭を楽しみにしてたって分かる。
「何だかあっという間に、って感じがするよねっ!」
「うん。何だか凄く分かる」
「文化祭もあっという間に終わっちゃうんだろうね」
「楽しいことだからね」
「うん」
楽しい時間はあっという間に終わっちゃう。
何だか凄く理不尽なことのように思える。
ずっと、ずっと。
同じ日が続けばいいのにって思うのに。
心の中では続くって思ってるのに。
そうじゃないって分かってるのがちょっとだけ寂しい。
……何だかちょっとだけ湿っぽくなっちゃった。
それをカナも感じ取ったんだって思う。
「だからずっと心のに残るぐらい楽しい文化祭にしようっ!」
明るく、励ますような声。
私が好きな。
カナの声。
「思い出はいつまでも残るからねっ!」
終わっても、終わりじゃない。
カナはそう言いたいんだろうって思う。
「うん。そうだよね」
「早く学校に行って準備しようっ!」
「うんっ!」
カナは凄く嬉しそうな表情で。
カナは凄く楽しそうな足取りで。
学校へ向かってる。
その横を歩く私も。
きっと、同じ感じ。
何でも無い瞬間何だけど
大事な思い出になるよねって分かった。
……
…………
………………
「おはようございますっ!」
部室に入ってすぐ。
奈央ちゃんの元気な声が聞こえた。
「おはようございます」
「おはようございます……」
その後に続いて。
千歳さんと景子ちゃんの声も聞こえる。
職員室に部誌がなかったから。
きっと1年生が運んでくれたんだろうって思ってたけど。
どうやら正解だったみたい。
「おはよう」
私とカナは挨拶をしながら机に向かう。
もうほとんど準備はできてるみたいだった。
思えば……。
職員室にある部誌を……。
1年生の時は竹之内先輩が運んでくれたし。
2年生の時は藍姫が運んでくれたし。
そして今年は1年生が運んでくれた。
私達は1回も部誌を運んでないことに気がついた。
そういうこともあるんだなって思うし。
久しぶりに竹之内先輩のことを思い出して嬉しくもなった。
竹之内先輩と会って話をしたのはあの時だけだけど。
何だか凄く印象に残ってる。
竹之内先輩がアイコにひとりぼっちの天体観測を見せてくれたから。
アイコとの付き合いがあるんだしね。
竹之内先輩は今も漫画を書いてるのかな?
書いてて欲しいなって思った。
知ってるか分からないけど。
アイコに聞いてみるのもいいかもねって思う。
「準備しようって張り切ってきたけど」
カナは周りを見ながら言う。
「もうすっかり終わってるね」
「うん。そうだね」
楽なのはいいけど。
ちょっと拍子抜けしちゃった感じ。
でも気がついてないだけで。
まだ準備が終わってないことがあるかも。
「何か私達がやることってあるかな?」
「そうだねっ! 何かすることがあるならやりたいなっ!」
「そうですね……」
そう言ったのは千歳さん。
「あと残ってるのは当日用のポスターを張りに行くのと漫研部に部誌を届けるぐらいですね」
「それじゃ私達がそれに行くね」
「いいんですか?」
「うん。まだ時間があるしね」
それに文化祭が始まる前の学校を。
のんびりと歩くのもいいなって思った。
「そう言っていただけると助かります」
言いながら千歳さんは奈央ちゃんを見る。
「プラネタリウムの紹介の練習をしときたいですしね」
……何だか千歳さんの目が光った気がした。
奈央ちゃんが一瞬びくってしたのは見間違いじゃないって思う。
「あんなに練習したんだからいいじゃないかな」
「練習はしすぎるってことはないはずよ」
「オーバーワークって言葉、知ってるよね?」
「知ってますけど、何か?」
「本番で声が出なくなったら困らない?」
「そこまでするつもりはさらさらないでしょ」
……何だか変な空気になったから。
「まぁ本番でミスするよりはいいんじゃないかな」
私は慌てて言った。
千歳さんだって加減はしっかり分かってるだろうしね。
「いつき先輩がそう言うんなら……」
言いながら奈央ちゃんは鞄からなにか冊子を取り出す。
きっと台本なんだろうなって思った。
「それじゃ私達はポスター貼りと漫研部にいけばいいんだね」
「よろしくお願いします」
「あの……これがポスターです」
「ありがとうっ!」
カナが景子ちゃんからポスターを受け取る。
プラネタリウム鑑賞会の告知ポスターが1番上にあった。
奈央ちゃんが作ったプラネタリウムをみんながみてる絵。
それに開始時間が書いてある。
これを見てたくさんの人が来てくれるといいなって思った。
「部誌はこれです」
千歳さんが箱から部誌を取り出す。
20冊ぐらい。
「ちょっと重いから気をつけてください」
「うん。ありがとう」
私は部誌を慎重に受け取った。
重さが何だか心地良いなって思う。
「これが今年の部誌なんだね」
表紙に書かれたカナの可愛い絵。
それに……。
ひとりぼっちの天体観測 第3号って文字。
もう3冊目なんだねって思うと同時に。
……これが私達が関わる最後の部誌なんだね。
って。
不意に思ってしまった。
分かってしまったっていうのが正確なのかも。
本当に今年で文化祭は最後なんだねって……。
それは悲しいことだなって思うけど。
でも、大丈夫。
さっきのカナの言葉を思い出せるし。
天文部には千歳さんも、奈央ちゃんも、景子ちゃんもいるから。
私達は最後かもだけど。
ひとりぼっちの天体観測はずっと続くって分かってるから。
この悲しい気持ちだって。
きっと、いいことなんだよねって。
そう考えることにした。
そうやって世界は回ってるんだろうからね。
って。
……
…………
………………
「値段表がないんだけど」
「あっ! 部室に忘れてるっ!」
「えー。ちゃんと確認してっていったじゃん」
「ごめんっ! 今は手が離せないから取ってきてっ!」
「しょうがないわね」
「あとついでにコスプレで使う眼帯もっ!」
「あんた忘れ物しすぎ」
コスプレ衣装に着替えてる人に頼まれて。
制服の人が勢いよく廊下に飛び出した。
漫研部が使う教室は慌ただしい雰囲気だった。
販売物の準備とか。
コスプレ衣装に着替えたりとか。
まったりとした天文部とは大違いだなって思った。
「部誌持ってきてくれたんだ」
騒がしい中でのんびりとしてる藍姫。
私達に気づいて話しかけてきた。
「もうちょっとしたら取りに行くつもりだったんだけど」
「私達は暇だったからね」
「暇と言ったら私もだけどね」
「周りは凄く忙しそうだけど」
「こうやってのんびり見てるのも3年生の特権だから」
「そうなんだね……」
まぁ私達も準備のほとんどは1年生がしてるからね。
どこの部活も同じだろうって思う。
本当に大変な時は手伝うんだろうしね。
こうやって早く部室に来てるぐらいなんだから。
「天文部に渡す用の部誌ってどこにあるんだっけ?」
「これですっ!」
藍姫が言ってすぐ。
下級生の女の子が20冊ぐらいの部誌を持ってきた。
もしかしたら私達の話を聞いて。
すぐに出せるように準備してたのかも。
そう思ってしまうような早さだった。
「はい。交換」
藍姫が言うのに合わせて。
私は部誌を渡して、部誌を受け取った。
これであとはポスターを張りにいくだけかな。
そう思ってると……
「おはようございますっ!」
そんな元気な声がいくつも聞こえた。
まるで活気がいいお店に来てるような。
そんな錯覚さえするような挨拶だった。
そしてみんなが挨拶したのは。
アイコが来たから。
「おはよう」
みんなの声とは対象的に。
アイコの声はぼそっとした小さなもの。
でもみんな不満そうな感じがなくて。
すぐにまた自分達の準備を再開した。
「いっき達、ここで何してるの?」
「部誌を届けに来たんだっ!」
アイコの言葉にカナが返事をする。
「そして部誌を受け取りに来たってところ」
続けて私も言った。
「そういえばそんなのもしてたわね」
言いながらアイコは欠伸をする。
文化祭が楽しみで寝不足なのかも。
本人はそういうのは絶対に認めないだろうけ。
「アタシはこっちの留守番はしなくていいんだよね」
「うん。3年生はコスプレ組以外はしないしね」
「藍姫もコスプレするの?」
「そのつもり」
「アイコさんは?」
「するわけないでしょ」
素っ気なく言うアイコに藍姫は深くため息をつく。
「最後なんだしすればいいのにね」
「最後だからとかは理由にならないと思うわ」
「いつきだって見たいでしょ?」
「私?」
「そうっ! アイコだっていつきにお願いされたらきっとすると思うんだ」
「見たいのはあるけど……」
私がお願いしても。
きっとアイコはしないんだろうなって思った。
実際……。
「いっきもするならしてもいいわ」
にやりと微笑んでアイコは言う。
きっと、そう言うと。
私ならしないって言うと思ってのことなのかも。
でも……。
「それなら私もしてもいいかな」
って私は言った。
最後なんだしそういうのもいいよねって。
「本当にっ! これをするわけっ!」
驚きながらアイコが指差すのは。
コスプレして写真を撮るというサービスの看板。
コスプレして写真に残そうっ!
っていう企画みたい。
「カナだってしたくないわよねっ!」
「わたしはいっちゃんがするなら一緒にしたいかなっ!」
「……そういえばあんた達はそういう人種だったわね……」
「アイコと一緒にコスプレして写真撮れたらすっごくいい思い出になると思うんだよね」
もしかしたら数年後に見たらすっごく恥ずかしくなるかも。
でも……。
そういうのも絶対にいいことだよね。
「だから一緒にしたいな」
私の言葉にぐっと考え込むアイコ。
「……そこまで言うなら分かったわよ」
数秒して観念するように言った。
さすがに自分が言った言葉は覆せなかったみたい。
そしてその言葉を聞いて……。
「言ったわねっ! ばっちり聞いたからねっ!」
テンションマックスな感じで藍姫が言った。
何だかすごく興奮してる。
「あー。どんなコスプレがいいかな。アイコならこれが……」
うきうきでコスプレ写真を見ていく藍姫。
何だか藍姫に上手く誘導された感じがする……。
というかそんなにアイコがコスプレするところ見たかったんだね。
「そういえばナツミもコスプレしてみたいって言ってたんだ」
「ナツミ?」
「友達。バスケ部だった人」
「それならその人も連れてきたら?」
「うん。あとはたまこも誘ってみようかな」
「いいねっ! たまこもコスプレすっごく似合いそうだからねっ!」
今度はたまこが似合いそうなコスプレを吟味し始めた。
なんというか……。
かなり目つきが怖いよねって思ってしまった。
「こんな変態は放置でいいわよ。放置で」
呆れ顔で言うアイコ。
「こっちの顔出しも終わったからそっちに移動するわ」
「うん。そうだね」
「その前にっ!」
カナが持ってるポスターを私達に見せる。
「これを貼りに行かないとっ!」
「そういえばそうだったね」
コスプレの話題ですっかり忘れてた。
「こんなのちゃちゃっと終わらせて部室でのんびりするわよ」
「そうだねっ!」
文化祭時間までは余裕あるけど。
私も部室で漫研の部誌を読みたいなって思ってる。
今年はどんなんだろうなって。
すっごく楽しみにしてたから。
「藍姫達も頑張ってね」
「うん。コスプレのやつちゃんと来てよねっ!」
「分かってるって」
「絶対だよっ!」
「念を押しすぎだって……」
忘れたらずっと恨まれそう……。
うっかりしないようにちゃんと予定にいれないとねって思った。
……
…………
………………
私達はポスターを貼った後。
部室に戻って部誌を読んだり、お喋りをしたり。
そんな風にして過ごした。
そして今は。
かちかちと動く時計に注目してる。
もうすぐ9時。
あと少しで文化祭が始まる。
「もうすぐですね……」
奈央ちゃんの声が聞こえる。
すごく緊張してるって分かった。
何だか私達が1年生だった時のことを思い出すよね。
私もすっごくドキドキしてた。
そして……
「みなさん。おはようございます」
9時になった瞬間。
スピーカーから聞こえる声。
文化祭が始まる前も。
文化祭が始まった後も。
みんな好き勝手に動き回るけど。
この時間だけは違う。
みんなが生徒会長の言葉を聞いてるから。
「今日と明日。2日に渡って行われる文化祭がいよいよ始まります」
「知らなかった人の才能に出会うことができる時間」
「知ってる人の才能をみつけることができる時間」
「それが文化祭です」
「私は文化祭でたくさんの才能をみたいと思います」
「色々なものを食べ、見て、感じることができると思うと凄く興奮しています」
「みなさんもたくさんのものにふれ、たくさん興奮してください」
「みんなで盛り上げ、みんなで興奮の波を作りましょう」
「そしてその波で色々なものを飲み込みましょう」
「それができるのが私達の才能だと思います」
「生徒会長、甘木薫」
放送が終わって。
私はすぐに拍手をした。
そして同時に。
部室が拍手の音でいっぱいになった。
それはみんなが拍手をしてるから。
去年はしてなかったカナとアイコもしっかりと拍手をしてる。
それは他のところも同じ。
学校中で拍手が響いてるんだって分かる。
大きな興奮の波を作りましょう。
生徒会長が言ったけれど。
今まさに。
その大きな波ができてるよねって思った。
そして大きな波ができてることが。
ねこじょが本当にいい学校だっていう証明に思えた。




