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何だかとても肌寒さを感じる朝だった。

9月の上旬でまだ残暑は厳しいけど。

しっかりと季節は移り変わってるんだなって思う。

私は昨日。

初めて告白をしてもらえて。

初めて告白を断った。

胡桃ちゃんはあの後。

私が泣き止むまでそばにいてくれた。

私よりずっとずっと悲しいはずなのに。

私がそんな気分にさせてしまったのに。

でも……。

そんな私を好きだって言ってくれた。

告白して良かったって言ってくれた。

私の悲しむ表情を見たくないって言ってくれた。

ずっと笑顔でいてくださいって……。


「私が落ち込んでたらきっと胡桃ちゃんも落ち込む」


私は言った。

隣で歩くカナは。

静かに私の話を聞いてくれた。

時折聞こえる相づちの声が。

私の言葉を少しずつ引き出してくれて。

もやもやとしていた私の気持ちを。

絡まった紐を解くみたいにすっきりさせてくれた。


「私は落ち込んだ胡桃ちゃんを見たくないって思う」


もしかしたら。

私に告白しない方が良かったって思うかもしれない。

2人とも落ち込んでたら。

昨日のことが嫌な出来事になる気がした。

勝手かもしれないけど。

私は昨日のことを。

大事な思い出にしたいって思ってる。


「だから私も落ち込んでちゃいけないよね」


私は胡桃ちゃんが好きだと思う。

でも……。

恋人にはなれないとも思った。

同じ好きでも。

きっと色々なものがあるって知った。


「もし今日胡桃ちゃんに会えるなら元気な姿を見せないとね」


「だねっ!」


カナは言いながら。

にこって微笑んでくれる。


「わたしもいっちゃんにはずっと笑顔でいてほしいなっ!」


「ありがとね」


「どういたしてましてっ!」


カナは軽い足取りで歩く。

私が落ち込んでないからかも。

何だかカナは機嫌が良さそうに見えた。

私はカナの横顔を見ながら思う。

もしも……って。

私が胡桃ちゃんと恋人になれなかったのは。

私が胡桃ちゃんに告白できなかったから。

言おうとしたけど、声に出せなかったら。

だから……。

もうすでに私が告白した人達なら恋人になれるのかなって。

私の秘密を知ってる人なら大丈夫なはずだって。

私の秘密を知ってるのは4人。

カナとアイコとたまことナツミ。

この4人の誰かなら恋人になれるんじゃ……。


「ん?」


私がじっと見てたのに気づいたんだって思う。


「どうかしたの?」


思わずどきりとしてしまった。

カナと恋人になった時のことを考えてしまったから。


「ううん、何でもないよ」


だから私は慌てて言った。


「……もうすぐ文化祭だね」


「だねっ!」


文集は順調に出来てる。

千歳さんはもう書き終えてて見直してる最中。

私の原稿ももうちょっとで書き終わる。

奈央ちゃんはちょっと苦戦中。

そんな感じ。


「最後の文化祭なんだよね」


「そうだよね」


「でもね。今までで1番いい文化祭になりそうだって分かる」


今年は2人じゃないから。

屋上に行くこともないって思う。

もしかしたら……。

みんなでキャンプファイヤーにも参加するかもしれない。


「だからすっごく楽しみなんだ」


「わたしもだよっ!」


カナの笑顔はいつも通り素敵で。

……ううん。

何だかいつもよりずっと素敵に見える。


「カナ……手をつないでもいい?」


思わず言って。

私はカナに手を差し出す。


「うんっ! いいよっ!」


カナはすぐに私の手を握ってくれた。

いつものことのように。

もし私とカナが恋人になったら……。

どんな時でもこうやって手をつないで歩くのかな?

そんなことを考えてしまう。

カナと手をつないで歩くのは当たり前のこと。

でも、やっぱり。

何だかいつもよりドキドキした。


……

…………

………………


いつもの場所に行くとたまこがいた。

お弁当箱を持ったまま。

ぼんやりとした感じで私を待ってる。

寝不足なのかも。

小さく欠伸をしてる姿がなんだか可愛かった。


「おはよう、たまこ」


私が声をかけると。

ぼんやりした表情がぱっと明るくなる。


「おはようございますっ!」


言いながらぴょこんって飛び跳ねる。

そんな仕草はとっても愛らしくて。

思わず抱きしめちゃくなっちゃう。

そんな気がした。

可愛いって思うのはいつものことだけど。

抱きしめたくなるのは初めて。

何だか胸の鼓動を感じて。

体が少し熱くなってるのが分かる。


「はいっ! 今日のお弁当ですっ!」


差し出されるお弁当。

今日は可愛い猫の風呂敷につつまれてる。


「いつもありがとね」


「いっくんに食べて貰えてたまこも嬉しいですからっ!」


にこにこな笑顔。

きらきらな瞳。

今の私には眩しすぎて。

何だか真っ直ぐ見れないような気がした。

そんな私がちょっと変だって思ったのかも。


「どうかしましたか?」


覗き込むように私を見るたまこ。

くるりとした目が私を捉えてる。


「えっとね……」


何だかカナとも似たようなやり取りをしたなって思いながら……。

何か言わなくちゃいけないよねって思いながら……


「そういえばね」


「はいっ!」


「今日、美香はいないんだね」


私は言った。

いつもは階段に座っておにぎりとかを食べてる美香。

今日はその姿がなかった。

来た時から気づいてたし。

理由もなんとなく分かってたけど……。


「部活のミーティングとかかな?」


恥ずかしさを紛らわすために。

思わず言ったって感じ。


「ですっ!」


私のドキドキに気が付かないで。

無邪気にたまこは笑ってる。


「美香ちゃん達、全国大会に行きましたもんねっ!」


「そうだよね」


行くって宣言してて。

本当に全国大会に行くのは凄いなって思う。


「あの美香がって凄く思っちゃうよ」


髪を染めてて、派手に化粧してて。

そして……。

危ないことをしたり、たまこをいじめてたり……。

あの時の美香は好きじゃなかったって今も思う。


「美香ちゃん、凄くいっくんに感謝してるって言ってましたよっ!」


「そうなの?」


「はいっ!」


たまこが言ってることだから本当だって分かる。

けど……。

あの美香が私に?って思うところはあった。


「部活をするようにすすめたことかな?」


「それもありますっ!」


それも……。

ってことは別のことでも感謝してるみたい。


「他になにかあったかな……」


ちょっと考えるけど……。

やっぱり思いつかないって思った。

でも……。

考えたおかげで。

そっちに集中できたおかげで。

ドキドキも小さくなったのが分かった。


「考えても思いつかないつかなかったよ」


だから私はまっすぐたまこを見ることができた。


「でも感謝してるならそう直接言えばいいのにねって思う」


「きっと恥ずかしいんですよっ!」


「美香って素直じゃないもんね」


たまこにはすっごく優しくて素直だけど。

私にたいしては相変わらず。

というか……。

私に何だかいろいろと厳しいような気もする。

本当に感謝してるのかな?

って思っちゃうぐらいに。


「そろそろ時間だね」


ずっとこうやってたまことお喋りしたいけど。

もうすぐ教室に入らないといけない時間。

違うクラスってやっぱり不便だなって思う。

みんなと同じクラスなら嬉しいけど。

そうそう都合がいいことはないってことだよね。


「お昼はどこで食べるの?」


「今日は美香ちゃんと食べる予定ですっ!」


「そうなんだね」


私は部室で食べる予定。

誰が来るかは分からないけど。

きっと誰かが来てくれるって何となく分かってる。


「それじゃお弁当箱は放課後に返すね」


「はいっ!」


「何が入ってるかすっごく楽しみだよ」


「今日もいっくんの好きなものをたくさん入れてきましたっ!」


「たまこが作ったものなら何でも好きだけどね」


「ありがとうございますっ!」


言いながらたまこはぺこりってお辞儀をする。

美味しいものがつまったお弁当。

こんなに小さな箱が私を幸せにしてくれる。

たまこの料理って本当に凄いって思う。

もしたまこと恋人になったら……。

お弁当だけじゃなくて夕ご飯とかも……。

何てことを思わず考えてしまう。

やっぱり今日の私は変だなって思ってしまった。


……

…………

………………


「疲れた……」


私はそう言いながら背伸びをした。

1時間目の休み時間。

何だか今日は変な感じがして。

あんまり授業に集中できないでいる。

まだ1時間目なんだよね……。

って思わずため息をつきたくなった。


「やっほー」


そんな私に。


「昨日は本当にありがとね~」


綾里さんが話しかけてきた。

いつものにこやかな表情とのんびりした雰囲気。

こうやって見てるだけだと…‥。

とても演劇部を全国大会に導いた人には見えないなって思う。


「お礼を言われるようなことはしてないよ」


「なんで~」


「だって告白断っちゃったし」


「もしかしてそれを気にしてるとか~」


「ちょっとだけだけど……」


「それなら気にしないでいいよ~」


綾里さんはぽんぽんって私の肩を叩きながら言った。


「胡桃は前より張り切ってるしね~。振られたショックとかはないっぽいよ~」


「そうなの?」


「うん~。むしろすっきりしたみたいな~」


「そうなんだね」


胡桃ちゃんが元気だって聞いて安心した。

本当に強くていい子だよねって思う。


「だからいつきさんは自分の恋とかを頑張った方がいいよ~」


「うん。そうだね」


といっても。

やっぱり私は。

恋とかよく分かってないんだって思う。

今日は何だか変で。

朝からドキドキしてるけど。

本当の恋って1人にだけするものだって思うから……。


「ちょっと聞いてもいい?」


「ん~? どうかしたの~?」


「綾里さんは恋ってしたことあるの?」


「そうだね~。一度だけね~」


聞いておいて酷いかもだけど……。

綾里さんが恋したことがあるのって何だか意外な気がした。


「高校1年の時にちょっとだけ~」


「相手は先輩だったの?」


「うん~。まぁそれぐらいだよ~」


言いながら楽しそうに微笑む。

きっと。

その先輩とは楽しい思い出がたくさんあるんだろうなって思った。


「朋代っ! ちょっと来てっ!」


綾里さんを呼ぶ声が聞こえた。


「ん~。今行く~」


綾里さんはのんびりと言って私を見た。


「それじゃね~。あ~。そういえば胡桃からの伝言があったんだ~」


「伝言?」


「文化祭のステージはぜひ見に来てください、だって~」


「もちろんだよ」


行かないわけがないよねって思う。

きっと演劇部のステージはとっても人気で。

たくさんの人が体育館に集まるんだろうな。


「とっても楽しみにしてるって伝えといて」


「らじゃ~」


そう言い残して。

綾里さんは呼ばれた方にふわふわと歩いて言った。


「結局、振っちゃったのね」


そして綾里さんと入れ替わりで来たのがアイコ。

どうやら私と綾里さんの会話が聞こえてたみたい。


「そうなるね」


「てっきり流されて付き合っちゃうって思ったわ」


「そうかな?」


「秋野胡桃のことも何だか凄く気に入ってたみたいだったから」


「でも恋人になるのは難しいって思ったんだよね」


「やっぱり……あのせい?」


あのせいっていうのは……。

きっと私が宇宙人だってことだと思った。

ここにはみんながいるから。

はっきりとは言えないことだって分かってくれてる。


「うん。それが1番大きいかな」


「あんたも色々と大変ね」


「私がもっと強かったら良かったんだけどね」


胡桃ちゃんに告白できるぐらい私が強かったら。

もしかしたら今日はもう2人で並んで学校に来てたかもしれない。


「まぁアタシとしては……」


そう言って。

アイコは不自然な感じで黙ってしまった。


「アタシとしては?」


「何でもないわっ!」


「そう?」


「そうよっ!」


何だか凄く誤魔化そうとしてるのは分かる。


「というかいっきはアタシのことが大好きなんだら断って当然だわっ!」


いたずらっぽくアイコは微笑む。


「そうだね……」


ここで私が大好きっていうのが定番のやり取り。

アイコが恥ずかしそうにするまでがワンセット。

でも……。


「私はアイコのことが……」


大好きって言おうとしたら……。

アイコの表情を見てたら……。

何だか恋人になった私とアイコのことを想像しちゃって。

上手く言葉が出てこなくて。

凄くドキドキしちゃって。

こんなにアイコって可愛かったかなって思ってしまって。

何だか変な間ができてしまった。


「ちょっとっ! 何をそんなに顔を赤くしてるのよっ!」


「私の顔、赤い?」


「物凄く赤いわ」


「……何だか照れちゃったみたいで」


私とアイコが恋人になったところを想像した。

なんて言えるはずがなかった。


「いっきは今までそういうので照れたことなんてなかったじゃない」


「そうなんだけど……」


「何か変な空気になってるじゃないっ!」


「ごめんなさい」


「謝らないで欲しいわ……」


言いながらアイコはため息をつく。

本当に変な空気……。


「初めて告白されたせいで変なことになってるのね」


「うん。きっとそうだと思う」


「いっきももうすぐ受験なんだからさっさと気合を入れなさいよ」


「分かってる」


きっと今は胡桃ちゃんの恋の熱にのぼせてる。

何度か眠れば前みたいに戻っていくはずって思う。

でも……。

少なくとも今日はずっと続きそうだなって分かった。


……

…………

………………


お昼休み。

私は部室でお弁当を食べてた。

楽しくお喋りしながら。

ゆっくりとお弁当を楽しむ。

いつものお昼休みはそんな感じ。

たまこが作ってくれたお弁当はとっても美味しいけど……。

でも、今日は何だか変な感じがした。

そして……。

変なのはお弁当じゃなくて。

私の方だってことも十分に分かってた。

部室にいるのは私とナツミのふたりっきり。

カナ、たまこ、アイコの順でドキドキした。

だから次はナツミかも……。

って思ってたところだったから。

ただナツミと一緒にお弁当を食べてるだけで。

私は凄くドキドキしてる。

変な想像をしてる。

他の3人と一緒。

もしナツミと恋人になったら……。

ってことを思わず考えてしまう。


「でねっ! 体育でたまこちゃんと同じチームになったんだけどっ!」


そんな私の心の中をナツミはもちろん知らない。

楽しそうに体育での出来事を話してくれる。

私はそんな話を聞きながら。

いつものようにしてるつもりだった。

でも……。

よく人を見てるナツミは。

何だか私が変だってすぐに気づいたみたい。


「いつき、どうかしたの?」


顔は笑ってるけど。

声は真剣な感じがした。


「調子が悪いとか?」


「そんなんじゃないと思うけど……」


「顔、赤いよ?」


真剣な表情になって。

ナツミは私のおでこに手を伸ばす。

そして……。

気がついた時にはもうナツミの手が私のおでこにあった。

びっくしちゃったけど……。

恥ずかしいかもって思ったけど……。

ナツミの素早い動きに私は何もできなかった。

ひんやりと冷たくて。

何だか柔らかい感触が伝わってくる。

おでこから。

私のドキドキが伝わらないか心配……。


「熱は……ないみたいだね」


真剣な表情から。

またいつもの笑顔に戻った。


「だるいとかそいうのもないの?」


「うん。全然平気」


お弁当だって美味しく食べれてるしね。

体の方はとっても元気だって思った。


「それは良かったっ!」


言いながらにかって笑うナツミ。

その笑顔のせいで心の方は変な感じとはもちろん言えなかった。

アイコの言う通り……。

今日の私は昨日の出来事から熱が冷めきれてないんだって思う。

宇宙人だから付き合えないって思ったから。

宇宙人だって知ってる人なら付き合えるかも。

そう考えちゃったから。

みんなで変な想像とかしちゃったんだと思う。

誰かに会うたびにドキドキしてたらとれもじゃないから身が持たない。

だから……。

早くこの熱が冷めないかなって思った。

みんなは私と恋人になるなんて想像もしてないだろうしね。

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