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演劇部が全国大会に行くことが決まって最初の日曜日。

だから今日はデートの日。

待ち合わせ場所へと向かってる私は。

とっても心臓がドキドキしてる。

私は今も。

あの日の嬉しさを思い出すことができる。

胡桃ちゃんからメッセージが来た、あの瞬間を。

でも……。

あの学校で、あの瞬間で。

1番嬉しかったのはたまこだって知ってる。

私が胡桃ちゃんからメッセージを貰ったみたいに。

授業中に美香から全国大会へ行けたってメッセージを貰ったって。

どんな内容なのかは分からないけど。

こっそり見たたまこは。

感極まっちゃって。

思わず泣いちゃったって。

ナツミが言ってた。

授業中だから。

本当はスマートフォンを見ちゃいけないから。

たまこは一所懸命に泣くのを我慢してたけど。

耐えきれずに涙をぽろぽろ流したって。

とってもたまこらしいなって思う。

今日、たまこは。

美香とお出かけするって言ってた。

もしかしたらデートなのかもって思う。

そう思うのは、きっと。

私が今から胡桃ちゃんとデートするから。

2人で遊びに行くことをデートっていうけど。

今日のデートは今までとちょっと違う。

だって今日のデートは。

胡桃ちゃんと恋人になるのか決めるんだから。

私はまだどうするか決めれないでいる。

あの後も学校で。

何度か胡桃ちゃんとお喋りすることもあった。

ちゃんとおめでとうって言えた。

胡桃ちゃんはとっても嬉しそうに。

小さく微笑んでくれて。

その表情は凄く印象に残ってる。

そして……。

胡桃ちゃんと会う度に。

胡桃ちゃんとお喋りする度に。

新しい胡桃ちゃんを発見できて。

前よりずっと好きになってるのが自分でも分かる。

だから普通なら悩むこともないよって思う。

あんなに素敵な人が。

私を好きだって言ってくれてるんだから。

私の恋人になってくれるなんて。

とっても夢みたいなことだって思うから。

だけど私の頭の中には。

何だか上手く説明できないようなもやもやがあって。

それが答えを出すのを邪魔していた。

そうやって考えてるうちに。

私は待ち合わせ場所に着いてしまった。

そこはカナとお出かけするときに。

いつも待ち合わせ場所にしてるところ。

そこがいいって私が言ったから。

私はとっても早く家を出た。

自分でも呆れちゃうぐらいに。

でも……。

待ち合わせ場所にはもう胡桃ちゃんがいて。

じっと正面を見て私を待ってるみたいだった。

何だかずっと、ずっと。

私を待ってるように思える。

そんな姿だった。

胡桃ちゃんの表情はどこまでも真剣で。

本気で今日の日を迎えてるって思えた。

そんな胡桃ちゃんを見て、私は決める。

恋人になるにしても、ならないにしても。

今日、ちゃんと結論を出そうって。

分からないからって。

ずるずると先延ばしにするのは良くないよねって。

私にとっても、胡桃ちゃんにとっても。

そして……。

今日をめいいっぱい楽しまないとって思った。

結論を出すにしても、その後だよねって。

私はそう心に決めて。

胡桃ちゃんに声をかけた。


「おはよう、胡桃ちゃん」


とっても集中してたのかも。

それか反対にぼんやりしてたのかも。


「お……おはようございます」


胡桃ちゃんはちょっと驚いた感じ。

声をかけるまで。

私が来たことに気づいてないみたいだった。


「早いですね、いつき先輩」


「そうだね」


本当の待ち合わせ時間の30分前。

普通ならぼーっと待ってる時間。


「2人とも早く来すぎちゃったね」


言いながら思わず笑みが溢れる。


「ですね」


胡桃ちゃんも小さく微笑んだ。

何だかとても。

幸せな瞬間だなって思う。

何気ないけど。

そんな何気ないことが、私は好き。


「いつき先輩はいつも待ち合わせ時間には早く来るんですか?」


「うん。そうだね」


あんまり朝早いと起きれなかったりするけど。

基本的には早くつく方だって思う。


「そわそわしてじっとしてられなくなるからね」


「胡桃も今日はそんな感じでした」


「いつもは違うの?」


「はい」


胡桃ちゃんは小さく頷く。


「いつもは5分前に着くようにしてます」


5分前。

早すぎず、遅すぎず。

ちょうどいい時間だよねって思う。

けれど、今日は違ったみたい。


「今日はいつき先輩とデートって思うとドキドキして落ち着けませんでした」


言いながら胡桃ちゃんは自分の胸を抑える。

とっても冷静そうに見えるけど。

いつもと同じようにしか見えないけど。

もしかしたら心臓は破裂しそうに鼓動してるのかのしれない。


「だから早く着いちゃったんだね」


「はい。普段はあんまり待つのとか好きじゃないんですけど…‥」


「うん」


「でも今日は不思議と待ってる間も嫌じゃなかったです」


その気持ちは凄く分かるって思う。

だから私はいつも早く着いちゃうんだよねって。


「それに早く着いたからこそこうやって早くいつき先輩の顔を見れました」


胡桃ちゃんは真っ直ぐ私を見てる。

ちょっと恥ずかしいけど。

私も胡桃ちゃんの目を見てる。

吸い込まれそうな、真っ黒の瞳を。


「だから早く来てよかったって思ってます」


「私もだよ」


「そう言ってもらえて幸せです」


思わずどきりとしてしまう表情。

胡桃ちゃんの顔がちょっと赤くて。

照れてるんだなって分かった。

きっと、私も。

同じような感じになってるって思う。


「それで……」


私は言った。


「今日は何しよっか」


恥ずかしかったから。

ちょっと早口になってしまう。


「今日は胡桃が誘ったから胡桃が考えようって思ったんですけど……」


言いながら鞄から本を取り出す。

それはコンビニとかで売ってる情報誌だった。

本にはたくさん付箋が貼ってあって。

いっぱい勉強したんだなってすぐに分かった。


「美香先輩とか彩里先輩に聞いてもいつき先輩の好きなものとかあんまり分からなくて……」


「そうなんだね」


あの2人とは学校で話すけど。

仲良しってわけじゃないからねって思う。

私も2人の好きな食べ物とか知らない。

一応、連絡先を交換はしてるけど。

メッセージのやり取りはしたことないみたいな付き合い。


「胡桃ちゃんは行きたいところとかないの?」


「胡桃が……ですか?」


「うん。今日は胡桃ちゃんのことをもっと知りたいからね」


それに……。

胡桃ちゃんとならどこでも楽しいって分かってるから。

どこだっていいよねって思う。


「胡桃が行きたいところでいいんですか?」


「胡桃ちゃんが行きたいところが私の行きたいところだよ」


「分かりました」


言いながら情報誌を開く。

とっても真剣な表情で見ている。

私が楽しめそうなところを探してるんだろうなって分かる。

そんな胡桃ちゃんの姿を見るのは。

とっても嬉しいなって思った。


「えっと……これなんてどうでしょう」


胡桃ちゃんがページを開いて私に見せる。

そこにはマリンワールド海の中道ってあった。


「水族館です。のんびりできそうだなって……」


紹介ページには綺麗な写真がたくさんあって。

色々な魚とかを見れるって書いてあった。

胡桃ちゃんの言う通りのんびり楽しめそう。

綺麗な水族館の中を。

胡桃ちゃんとまったりお喋りしながら歩く。

とっても素敵だなって思った。


「どうでしょうか?」


胡桃ちゃんは上目遣いで私を見てる。

きっと不安なんだろうって思う。

自分が選んだところを。

私がどう思うとか、そういう風に。


「凄くいいと思う」


だから私は素直な気持ちを言った。


「どこがいいんだろうって私も考えてたけどね」


胡桃ちゃんが見せてくれたページを見た瞬間に。

何だかびびってくるものがあった。


「何だかここしかないっていう感じなったよ」


「ありがとうございます」


はにかむように胡桃ちゃんは微笑む。


「いつき先輩と水族館デートできるなんて夢みたいです」


胡桃ちゃんは持ってた情報誌を鞄に戻す。

そして……


「お願いがあります」


言いながら。

私に手を差し出した。

私のすぐ前に。

胡桃ちゃんの小さな手がある。

その手が小さく震えてるのが分かった。


「デートですから……。手を……」


「うん。そうだよね」


私は震える手を包み込むように。

胡桃ちゃんの手が壊れないように。

そっと握りしめた。


「デートだもんね」


胡桃ちゃんの手はひんやりと冷たかった。

何だか心地良いって思えるような感じがした。


「手をつながなくちゃ始まらないよね」


「ありがとうございます」


「ううん。私がしたくてしたんだからね」


「胡桃……。誰かと手をつないで歩くのって初めてです」


胡桃ちゃんはじっと見てる。

つながっている2つの手を。


「何だか不思議な感じです。とっても安心します」


「私もだよ」


私はすぐ不安になってしまう。

だから……。

誰かと手をつなぐのが好きなんだろうなって思う。


「水族館行こっか」


「はい。どこまでも、いつまでもお供します」


私達は並んで歩いた。

デートは今日の夕方5時まで。

その時間に返事をするって決めてる。

あと8時間近くあるけど。

でもすぐにその時間はきちゃうんだろうなって思う。

時間ほど残酷なものはないよねって。

思わず考えてしまった。


……

…………

………………


そして……。

思ったとおり……。

約束の時間はすぐにやってきた。

水族館に行って。

のんびりとお喋りをしながら色々なものを見た。

たくさんの魚がいる水槽でびっくりしたり。

ご飯を食べてるラッコを見て可愛いねって言ったり。

ふわふわ泳ぐクラゲを見ながら癒やされたり。

時間を忘れて楽しんだ。

胡桃ちゃんの話をたくさん聞いた。

私の話もたくさんした。

今日、初めて。

胡桃ちゃんがペンギンが大好きって知った。

ペンギンのぬいぐるみをじっと見てたから。

私はそのぬいぐるみを買ってあげた。

ちょっと高かったけど。

でも、胡桃ちゃんの笑顔が見れるなら安いよねって思う。

胡桃ちゃんはペンギンのぬいぐるみを見て。

嬉しそうだったり、泣きそうだったり。

色々な表情を見せてくれた。


「こんなに幸せでいいんでしょうか」


そんな風にぬいぐるみを持ってつぶやいていた。

私達は街を歩いてる。

胡桃ちゃんは右手で大事そうにぬいぐるみが入った袋を持ってる。

逆の手はしっかりと私の手を握りしめていた。

ちょっと痛いぐらいに握られた手から。

胡桃ちゃんの思いが伝わってくるような気がした。

胡桃ちゃんは可愛くて、頑張り屋で、本当にいい子って思う。

宇宙人の私には。

こんな私には本当に勿体無いよねってて思うぐらいに。

そして……。

そう思うことで……。

私は自分が持ってるもやもやに気がついた。

ううん、本当はずっと前から気づいてた。

私は胡桃ちゃんに告白できるのかなって。

私が宇宙人だって。

胡桃ちゃんに言えるのかなって。

気づいてたけど、ずっと見ないふりをしてた。

言いたいって、告白したいって。

そういう気持ちはもちろんある。

恋人になるのなら。

ちゃんと言わないとって分かってる。

でも……。

声に出そうとすると。

頭の中のもやもやが。

胸にの中にある不安が。

私をきつく締め上げている。

言えないって分かった。

告白できないって分かった。

したいのに……。

できるって思ってたのに……。

どうして……。

何で……。

考えれば考えるほど。

胸が苦しくなっていった。


「いつき先輩、大好きです」


そんな私に。

胡桃ちゃんは言った。


「最初は一目惚れでした」


あの天体観測の時。

胡桃ちゃんは私を見つけてくれた。


「今はもっともっと好きになってます」


胡桃ちゃんがぎゅって私の手を握る。


「こんなに誰かを好きになったのは初めてです」


私は……何も言えないでいた。


「いつき先輩のおかげで九州大会頑張れました。いつき先輩のおかげで全国大会にいけました」


胡桃ちゃんは私を見てる。

真っ直ぐな瞳で私を見てくれてる。

でも……。

私は胡桃ちゃんを見れなかった。


「今日だけじゃなくてずっとずっとこうやっていつき先輩の隣を歩きたいです」


そう言ってくれるのに。

私を必要としてくれてるのに。


「いつき先輩、愛してます」


私は胡桃ちゃんに告白できない。

私は臆病で卑怯者だ。

何で私はこんなんなんだろう。

今まで忘れてたことだけど。

みんなが忘れさせてくれたことだけど。

こんな時に自分の本質に気が付かされた。

目から涙が溢れるのが分かる。

止めなくちゃ、止めなくちゃ。

涙を見せたら。

きっと胡桃ちゃんが傷つく。

だから……。


「いつき先輩、泣かないでください」


優しい声が聞こえた。

吹き荒れる嵐を治めてくれるような。

そんな声だった。

私は胡桃ちゃんの顔も見れなかった。


「胡桃は大丈夫ですから」


私は何も言ってないけど。

でも……。

きっと色々なことが伝わったんだろうって思う。


「どんな結果でも受け入れるつもりできましたから」


私より傷ついてるはずなのに。

とっても悲しいはずなのに。

私が悪いのに。

私が泣いて、胡桃ちゃんが慰めている。


「ごめんなさい……」


言葉が溢れた。

涙と同じで。

どうしても止めれなかった。


「ごめんなさい……。本当に……ごめんなさい……」


「謝らないでください」


「だって……私……」


「胡桃、嬉しいですから」


胡桃ちゃんはぱっと手を離す。

そして……。

ぎゅっとペンギンのぬいぐるみを抱きしめる。


「いつき先輩は本当に素敵な人で、好きになったのは間違いなかったって」


言いながら。

私の顔を見ながら。

胡桃ちゃんは微笑む。


「こうなったのは胡桃に何かが足りなかったからです」


「そんなことない……。悪いのは……」


「いつき先輩は何も悪くないです」


はっきりとした言葉。


「いつき先輩のおかげで恋を知りました。好きなものが増えました。今度演劇部で星を見に行くんです」


胡桃ちゃんの声は軽やか。

こんな胡桃ちゃんの声を聴くのは。

きっと最初で最後。


「いつき先輩、幸せな時間をくれて本当にありがとうございます」


涙が止まらなかった。

どうしても止めれなかった。


「だから最後に言わせてください」


こんな情けない私にも。

胡桃ちゃんは言ってくれる。


「いつき先輩、愛してます」


だから……。

私も言わなくちゃいけない。

はっきりと。

胡桃ちゃんを気づけるって分かってても……。


「ごめんなさい……」


私は顔を上げる。

涙で上手く見えないけど。

ちゃんと胡桃ちゃんを見なくちゃって思った。


「私は胡桃ちゃんの恋人になれない」


私の言葉に。

胡桃ちゃんは小さく頷いて。

笑顔で言ってくれた。


「それでも胡桃はいつき先輩に出会えて、いつき先輩に告白できて、とっても幸せです」


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