02
始業式が終わってまた教室。
始業式ではいつものように校長先生の話があった。
校長先生の話を聞くのも今年が最後だなって思うけど。
でも……。
やっぱり長いって思ってしまって。
内容とかはほとんど覚えてない。
まぁそういうものだよね。
卒業式ぐらいはきちんと聞こうって思う。
多分だけど。
「私がこのクラスを受け持つことになった三河だ」
ハキハキとした声が聞こえる。
とても聞きやすい感じ。
おっとりしてる杉森先生。
のぺーとしてる乙女先生。
そのどちらとも対極みたいな雰囲気の声だった。
「ここからの1年で人生が決まる大事な年だといっても過言ではない」
三河先生はあんまり背は高くないけど。
でも短い髪にきりっとした表情の先生。
厳しいけど……でも評判はいい方。
どこかの運動部の顧問をしてるってのは知ってる。
部室にいるとたまに声が聞こえるから。
きっと外でする部活の顧問をしてるんだろうってぐらいには。
でもどこの部活なのかまでは知らなかった。
「あくまで教師はサポートしかできない。頑張るのはお前たちだ」
一言、一言がなんだかやる気に満ちてる気がする。
何だか乙女先生とは大違い。
乙女先生もどこかの教室で話してるのかな……。
最後まで担任を受け持つのを嫌がってたけど。
乙女先生が担任の先生じゃなかったのはちょっと残念。
「全員が第一目標を達成できるように頑張って欲しいっ!」
その言葉で三河先生の最初の挨拶が終わった。
私の気持ちは何だかぽわぽわとした感じだったけど。
ちゃんとしないと駄目って思うようになれた。
第三志望ぐらいの大学なら今のままでも大丈夫だろうけど。
でも第一志望の大学に合格するにはもっと勉強が必要だって思う。
あの大学に推薦で合格した一三屋先輩って頭が良かったんだね。
それからは自己紹介。
1人、1人がその場に立って自分の名前とか趣味とか言っていく。
たくさん喋る人、名前と趣味だけの人……。
人によってやっぱり個性とか出るんだなって思う。
私は前より自己紹介を聞くのが好きになった。
入学したてのことはほとんど聞いてなかったんだけど。
でもいまはしっかり聞いてる。
自分はとっても無難に自己紹介するのは変わらないけど。
「アイコです。趣味は読書です」
アイコはそれだけ言って座る。
ぶすっとした表情で。
なんだかとっても不機嫌そうな感じ。
たまこは自己紹介とか苦手そうだった。
去年のたまこの姿が思い浮かぶ。
でもアイコは嫌いなんだなって思った。
みんなと仲良くとかそういうタイプじゃないしね。
カナも割とそんな感じだけど。
でももっと上手に隠すよねって思った。
「全員が仲良くするのは無理だがする努力はするように」
全員の自己紹介が終わって三河先生が言った。
全員が仲良くするのは無理。
そう断言する先生って珍しい気がした。
でも仲良くする努力をしないといけない。
そうも付け足すところに。
なんだか三河先生の本質が分かるような気がした。
現実を見つつ努力をするっていう考え方。
きっと本当にいい先生なんだろうなって思う。
「この後は入学式の準備が~」
って感じで。
三河先生は説明をする。
去年と同じ。
クラスから何人かが入学式の準備にいく話。
私は運良く選ばれることはなかった。
アイコも同じ。
そういえばって思う。
去年は本当は美香が行くはずだったけど……。
でもたまこが変わりに行ったことを思い出した。
あの頃の美香は本当に不良っぽかったもんね……。
目つきが怖いのは今も変わらないけど。
でも今は中身が全然違うって思う。
今ならちゃんと自分が入学式の準備に行くって分かる。
たまこは元に戻ったって言うんだろうけど。
「それでは今日はここまで」
言いながら三河先生は全員を見回す。
「泣いても笑っても最後の1年」
最後の1年。
来年の今頃はもう高校生じゃないんだ……。
当たり前のことなんだけど。
でも当たり前じゃないように思える。
「最後に笑って終われる1年にしよう」
そのためにたくさん頑張らないといけないって思う。
自分の勉強のことだけじゃない。
球技大会とか文化祭とか……もちろん部活も。
全部が最後なんだから。
自分のことでも。
1年後のことは分からない。
でもこうありたいっていう自分はある。
だから……。
そんな自分に少しでも近づけれるように頑張ろうって思った。
……
…………
………………
「はろー」
三河先生が教室を出ていってすぐに声をかけられた。
のんびりとしたその声はもちろん聞き覚えがある。
さっきみんなの自己紹介を聞いたから……。
ってわけじゃない。
もっと前から知ってる声。
「えっと……彩里さんだよね」
彩里朋代。
美香を演劇部に誘った人。
そしていつも映画とかを一緒に見てる人。
凄くのんびりした感じとしか印象になかった。
今日始めて名前を知った。
「朋代でいいよ~。わたしもいつきさんって呼ぶから~」
「うん。朋代さんね」
「ありがと~」
本当にのんびりした話し方だなって思う。
でも何だか自然とペースに合わせてしまう。
他人を自分のペースに巻き込んでいく感じ。
美香もこれに巻き込まれて演劇部に入ったんだなって思う。
でも……。
きっと美香は演劇部が1番合ってたんだって分かる。
「いつきさんとは前から話をしたいって思ってたんだ~」
「そうなの?」
「うん。そうなの~」
「でも私ってそんな興味を持ってもらえるような……」
「ううん。そんなことないと思うけどな~」
「あ、ありがとう」
「やっぱり同じ物書きとしては気になるしね~」
「物書き?」
「わたしは演劇部の脚本と演出担当なんだ~」
「じゃ文化祭の脚本も……」
「うん。わたしが書いた~」
文化祭の時に見た劇。
不思議のアリスをモチーフにした内容。
すっごく面白かったのを覚えてる。
「あれすっごく良かったよっ!」
「本当~。ありがと~」
「美香のアリスも凄く良かったっ!」
本当に美香って凄いんだなって思った。
ファンクラブができたのはそのすぐ後だった。
「美香のおかげでできた劇だからね~」
「やっぱり美香って凄いんだね」
「うん。凄いね~」
たまこが聞いたらきっと凄く喜ぶだろうなって思う。
後で伝えようって思った。
「何もしなくても目立つのがいいね~」
「人を惹き付けるみたいな感じ?」
「そうだね~。演劇に凄く真面目だしいい拾い物だったよ~」
「でも愛想が悪いのが玉にキズだと思うけど」
「それはあるね~。でも基本的には優しいと思うよ~」
「うん。それは分かる」
「あっ~。そういえばいつきさんが美香に部活をすすめたんだよね~」
「それはそうだけど……」
「本当にありがとう~。おかげで凄く演劇部が良くなったよ~」
「川島さんも入りましたしね」
「それも大きかったね~。あの子はもうちょっと練習しないとだけど~」
「演劇部って凄いね」
演劇部がどれだけ頑張ってるか。
それは美香を見てれば分かる。
「でも楽しいからね~。わたしは裏方だけど毎日文化祭やってるみたい~」
「そんな感じなんだ」
「うん~。喧嘩したりとかもあって大変だけどね~」
「人数多いとやっぱり大変なの?」
「それもあるし~。やっぱりみんな目立つ役をやりたがるとかかもあるしね~」
「自分がやりたいことをやれるわけじゃないしね」
「そうだね~。でも今は美香っていう大きな柱があるから前よりは楽~」
「そんなに期待されてるんだ」
「秋の新人戦で県大会までいけたのも美香の力が大きいしね~」
「そういえばそんなことあったね」
美香がみんなの前で表彰されてた覚えがある。
凄く不機嫌そうな表情で。
「講評で脚本はボロクソに書かれてたよ~」
「あれでもボロクソに書かれるんだ……」
何だか思ったよりもレベルが高そう。
ぬくぬくのんびりってと小説書いてた私とは大違いの環境。
そういうのがちゃんと評価されるってことなのかなって思った。
「主役に頼りすぎみたいな~」
「そんなことも書かれるんだね」
「自覚があっただけにぐさりと来たよ~」
「私なら落ち込んで泣いちゃいそう」
「今度は最後の大会になるしてっぺんまで行きたいんだけどね~」
のんびりした声から。
凄く大きな目標が語られる。
でもきっと。
それは本人達には手が届く目標に見えてるんだろうって思う。
夜空に浮かぶ星とは違って。
「美香だけじゃなくてもっとみんなを活かせる脚本を書きたいよ~」
みんなを活かせる脚本を書きたい。
それはきっと小説を書いてるだけじゃ出てこない思い。
「演劇はみんなで作る楽しさがあるんだね」
「そのかわりにみんなで作る大変さもあるんだけどね~」
楽しいのと同じぐらい大変さもある。
当たり前な話だって思う。
きっと私には分からない苦労がたくさんあるはず。
「いつきさんの小説も読んだけど面白かったよ~」
「本当?」
「うん。嘘をつくわけないでしょ~」
「それはそうかもだけど」
私が言うと朋代さんは楽しそうに笑った。
「わたしは面白くないものははっきりと言うしね~」
「そうなんだ」
なんだかちょっと意外な気がする。
「いつきさんの文章って繊細で綺麗だよね」
「そうかな?」
「何だか歌詞を読んでるみたいな感じっていうのかな~」
そう言われたのは初めて。
何だか凄く嬉しい。
「透明感があって凄く好きだよ~」
「ありがとうっ!」
「わたしの方こそ良い小説を読ませてくれてありがとうだよ~」
言いながら朋代さんは頭をぺこりと下げる。
本当に不思議な人だなって思う。
この人が中心に演劇部は動いてるんだなって分かる。
「わたしの文章って本当に脚本って感じだから憧れるよ~」
「そんなっ! 私だって朋代さんみたいな脚本を書けないし……」
みんなのことを考えて。
演劇のことを考えて。
本当に色々なことを考えないといけないって思う。
自分が好きなようにかける小説とは違うって。
「今は小説書いてるの~」
「うん。一応ね」
「できたら読ませて欲しいな~」
「もちろんだよ」
「あとね~。わたしが書いた脚本も読んで欲しいな~」
「いいの?」
「お願いしたいぐらい~」
「それなら喜んでっ!」
私は演劇とかのことを知らないけどいいのかなって思う。
「ありがとう~。いつきさんと同じクラスで良かったよ~」
「私も嬉しい」
さっそく新しい知り合いが増えた。
やっぱり凄く嬉しい。
「アイコさんだっけ~」
「アイコ?」
「うん。あの人の漫画も好きだけど~」
「どうかしたの?」
「近づくなオーラが凄くてちょっと話せないや~」
「あー。あれは教室ではあんな感じらしいから」
今もぶすっした表情で座ってる。
きっと私を待ってるんだろうって思う。
「それじゃわたしは部活に行くね~」
「新入生勧誘の準備とかあるしね」
「うん。今年は短い劇をやるつもりなんだ~」
「それは楽しそうだねっ!」
きっと体育館での部活紹介でするんだろうって思う。
私達も体育館での部活紹介をするつもり。
「うん。その最終調整とかで忙しいんだ~」
「いい新入生が入るといいね」
「うん~。新入生じゃなくても大歓迎だよ~」
「私は流石にね」
誘われるのは嬉しいけどね。
「言ってみただけだしね~。それじゃまた~」
「うん。またね」
朋代さんは荷物を持って教室を出る。
部活紹介の劇
きっと美香も出るはず。
何だか凄く楽しみだなって思った。
「お待たせ」
私は椅子に座っていたアイコに声をかける。
「大人気で羨ましいわ」
ぼそりってアイコが言う。
全然そんなこと思ってないくせに。
不機嫌が最高潮みたい。
「今日はどっちでご飯食べるの?」
「漫研部で食べるわ」
「今年は新入生勧誘を手伝うんだ」
「去年もやったわよっ!」
「そうだっけ?」
何だか不機嫌そうな表情で座ってた記憶しかない。
「それじゃ今年はアイコもコスプレ……」
「するわけないでしょ」
「しないんだ」
少し楽しみだったのに残念。
「アタシは勧誘用漫画を書いたからそれで十分よ」
「そうなんだ」
どんな漫画なのかちょっと気になる。
「体育館では何もしないの?」
「漫画研究部が体育館で何をするのよ」
「それもそうだね」
体育館でコスプレしたら本当に何部が分からなくなるしね。
「天文部は体育館で何かするんでしょ」
「うん。準備してたしね」
「部室で何かごそごそたってたわね」
「アイコ手伝ってくれなかったね」
「アタシは天文部じゃないし」
「あれだけ部室に来てるのにね」
「それはいつきが寂しそうにしてるかよ」
「そうかな?」
「そうに決まってるわ」
決まってはないと思う。
「それじゃアタシは部室に行くから」
「先に言っててもよかったのに」
なんで私を待ってたんだろうって思う。
「いつきが寂しくないようによっ!」
「それぐらい平気に決まってるじゃない」
言いながら荷物を持つ。
ちょうどスマートフォンが震えた。
「ちょっと待って」
「カナから?」
「そうみたい」
メッセージを見ると……。
今年も入学式の準備に選ばれたから遅くなるっていう内容。
もしかしなくても部室に1人?
カナがいないのは去年も同じだったけど……。
でもその時にはアイコがいた。
乙女先生も忙しいだろうからきっと来ないだろうって思う。
1人でお弁当を食べるぐらい平気。
寂しいなんてことはない……はず。
入学式の準備が終わったらカナが来てくれるし……。
「どうかしたの?」
アイコが私を見て言う。
そんなアイコを見ると……。
「カナが入学式の準備でいないみたいなの」
思わず言葉が出てくる。
「寂しいから一緒に部室でご飯を食べない?」
入学してすぐの私なら……。
絶対に出てこなかった言葉だろって思う。
でも今の私は出てくるし、言ってしまう。
やっぱり私は弱くなってる。
人に頼ってしまうぐらいに。
でも同時に。
人に頼れるぐらいに強くなってるのかもしれない。
「いつきが寂しいならしょうがないわねっ!」
アイコの表情が明るくなる。
私も嬉しい。
「どうせなら藍姫も呼ぼうかしら」
「そうだね」
藍姫とは同じクラスだっから何もしなくても顔を合わせてた。
でもこれからはそうじゃない。
違うクラスになったからこそご飯とか誘いたいなって思った。
私は鞄を持って教室から出る準備をする。
教室にはまだ何人かが残っててお喋りをしてる。
全員が仲良くするのは無理だがする努力はするように
先生の言葉を思い出す。
本当にその通りだなって思った。
私はできるだけ色々な人と話をしたいなって思う。
色々な世界にふれたいなって思う。
それも入学してすぐには思ってもいなかったこと。
私は逃げることばっかり考えてたから。
地球人を怖いとしか考えてなかったから。
「またぼけっとしてるわね」
アイコの声。
ちょっとびっくり。
「何か考え事でもしてたわけ?」
「うん。ちょっとね」
「相変わらずって感じだわ」
「うん。そこらへんは変わらないって思う」
「自覚があるなら努力しなさいよ……」
「ちょっと難しいかな」
「林檎の皮剥きぐらいできるようになりなさいよ」
「それはもっと無理かな」
「そんなんじゃ受験失敗するわよ」
「試験にりんごの皮剥きはできないだから大丈夫」
私は歩き出す。
卒業まであと1年。
あと1年で変るところも変わらないところもあるって思う。
とりあえず……。
帰ったら塾に行きたいってお母さんに言おうって決めた。
最後はやっぱり笑顔がいい。
そのためにできることはやりたいなって思った。




