01
ぽかぽか陽気な朝。
昨日は寒かったけど今日は暖かい。
何だか気持ちがいい。
新しい1日が始まるにはちょうどいい日だって思う。
「1月は行く、2月は逃げる、3月は去るって言うでしょ」
「うん」
「本当にその通りだよね」
「何だかあっという間な感じだったもんね」
寒い寒いって言ってたのも。
布団から出たくないって言ってたのも。
何だかずいぶん前のような気がする。
修学旅行があって……。
卒業式があって……。
春休みがあって……。
そして今日がもう始業式。
春休みでも学校は行ってたから。
あんまり懐かしいって感じはしないけど。
「わたし達もう3年生なんだよっ!」
「うん。何だかびっくりだよね」
「ちょっと前に入学式だったような気がするよね」
「うん。でももう2年も前のことなんだね」
何だか3年生って実感はなかった。
入学した時の3年生は何だか大人に見えた。
少しでも近づけたのかなって思う。
少しぐらいは成長できてると嬉しい。
「でもドキドキするねっ!」
「ドキドキ?」
「クラス替えだよっ!」
「そういえばそんなのもあったね」
なぜか頭から抜け落ちてた。
「大事なことなのに……」
「うん。大事なことだよね」
今年はどんな人と同じクラスになるんだろうって思う。
仲がいい人がたくさんいるといいな。
「わたし今年も寝ずに夜空を見てたんだっ!」
「流れ星を探してたんだっけ?」
「うんっ!」
それはなんとなく覚えてた。
カナがすっごく喜んでたのが印象的だったから。
「今年もたくさん見れた?」
「たくさん見れたしたくさんお願いしたっ!」
「昨日は天候がよかったからね」
満月に近かったのは少し残念だけど。
月見もいいけど流れ星を探すときはやっぱり少し明るい。
「みんなと同じクラスになれますようにってお願いしたんだっ!」
「みんななんだね」
カナがみんなって言う。
何だかそのことが凄く嬉しい。
「もちろんいっちゃんと同じクラスになれるのが1番嬉しいけどねっ!」
「私もカナと同じクラスだと嬉しい」
「楽しい1年になるといいねっ!」
「うん。最後の1年だしね」
最後の1年……。
自分でいってて何だかしんみりした気分になる。
これからすることは全部最後になるんだって……。
「最後の1年何だよね」
きっとカナも同じように思ってたみたい。
「何だか寂しいような気がするよね」
「うん。何だか気が早い気もするけど」
「そうだねっ! あと1年もあるんだしねっ!」
「うん。あと1年もあるんだからね」
「楽しい1年にしようねっ!」
「うんっ!」
最初のイベントは入学式。
そして部活勧誘。
誰も入ってくれなかったら……。
私達が卒業したら天文部はなくなっちゃう。
やっぱりそれは嫌だな。
だから誰か入ってくれるように頑張ろうって思った。
そのために春休みに学校へ来て準備してきた。
あと1年。
だからこそ後悔しないようにって思った。
……
…………
………………
さわさわと聞こえる風の音。
賑やかな教室。
新しいクラス。
出て来るため息……。
「落ち込んでたね、カナ」
隣の隣のクラスにいるはずのカナ。
まだ落ち込んでるのかな?
元気にしててほしいなって思った。
隣のクラスのナツミとたまこはきっと仲良くお喋りしてるって思う。
「そりゃそうでしょうね」
アイコは言う。
本当は少し離れた席だけど。
今は私の前の……今は誰か分からない人の椅子に座ってる。
「いっきと同じクラスになれなかったんだから」
「1人だけ違うクラスだったしね」
学校に来て。
すぐにクラス分けの紙を見た。
それまで元気だったカナが……。
「いっちゃんと違うクラスなんだけど……」
みるみると元気がなくなっていったのが分かった。
私とアイコが同じクラス。
ナツミとたまこが同じクラス。
そしてカナが……って感じだった。
でもカナのクラスには藍姫がいたし、全然話す人がいないってことはなさそう。
それに……。
カナはコミュニケーション能力とかもちゃんとあるから。
アイコが1人になったとかよりは大丈夫そうって思う。
お昼休みとか放課後はいつもみたいに会えるしね。
「アタシに変わってっていったり職員室に乗り込もうとしたり……」
アイコがため息をつく。
「本当に大変だったわ」
「あんなカナを見るのは久しぶりだね」
「カナはああ見えて激情家っていうか……感情の振れ幅が凄くて疲れるわ」
「見た目はおっとりしてるのにね」
笑ってるところなんて。
本当にほわほわってしてて癒されるって思う。
「逆にいっきは体育会系って見た目だけどぼんやりしてるしね」
「それただ髪型を言ってるだけじゃないの?」
この髪型だとよく言われる。
何かスポーツとかしてるのって。
でも全然そんなことはないから困る。
運動はむしろ苦手なほうだしね。
「アイコはなんか見た目通りって感じ」
「それもそれで複雑だわ」
そんな感じで話をまったりとお喋りをしてる時だった。
「やっほーっ!」
亜里沙がどたどたってこっちにやって来た。
とっても楽しそうな表情。
亜里沙は基本的にはいつも楽しそうだけど。
「また同じクラスだねっ! これって運命? デスティニー!」
「あ、同じクラスだったんだ」
少し見たところでカナが落ち込んだから。
アイコが同じクラスなの以外は確認してなかった。
「軽いっ! 超軽いっ! 羽毛布団より軽いっ!」
「何か前よりテンション上がってない?」
「もう3年だからねっ!」
言いながらVサインを作る。
それじゃ2を表してるみたいだなって思った。
「これからはニューバージョンの亜里沙で行くからっ!」
「なんかすごくうざそう」
「うざいって言わないでよっ!」
「でも3年生なんだからしっかりしないとね」
「そうっ!」
って言いながら私を指差す。
ビシっていう音が聞こえてきそうな勢いだった。
「これからの軽音部はアタシ達にかかってるんだからねっ!」
「前より人気が出るように頑張ってね」
「それは無理っ!」
びしっと亜里沙は言った。
「何を格好つけていってるのよ」
「だってももちゃん先輩より人気が出るとか無理だからっ!」
「それはそうだね」
もも先輩の人気はちょっと異常だったしね。
あれぐらいの人気が出そうなのは……同じ学年にはいないかなって思う。
色んな意味で目立ってるのは美香だろうけど……。
でも美香はみんなに人気が出るってタイプじゃないし。
1つ下なら川島さんとかあの金髪の子とかいるんだけど……。
そう考えると私達の学年は地味なのかなって思う。
その中でも私はとっても地味な方だけど。
「ところでこの子はいつきのお友達なのかにゃー」
「何その喋り方……」
「可愛くないっ? 可愛いよねっ!」
「亜里沙には似合わなと思う」
たまこがしたらすっごく可愛いと思うけど。
「お姉ちゃんは好評だったのになっ!」
「きっといいお姉さんなんだね」
「そうだよっ! とっても優しいんだっ!」
って言ったところで。
亜里沙ははっとした顔をする。
何だか無駄に格好良く見える表情。
本当に無駄にだけど。
「そうじゃなくてこの子はいつきのお友達?」
アイコをびしっと指差して言う。
アイコは亜里沙が来た時点で私を見てなかった。
防衛機能みたいなのが働いたんだって思う。
でも亜里沙には通用しなかったみたい。
「一応ね」
「そうなんだっ! じゃアタシともお友達だねっ!」
言いながらびしっと指してた指をパーにする。
どうやら握手を求めてるみたいだけど……
「…………」
「無視されたっ!」
「亜里沙のテンションがおかしいから当たり前だよ」
ただでさえアイコは人見知りなのに。
アイコは黒板を見てる。
何を考えてるのかは分かる。
早くどこかに行ってほしい。
まるで大嵐に怯える女の子みたいだなって思った。
「アイコも困ってるしそのへんでいいんじゃない?」
「えー。可愛い女の子とお友達になりたいのにっ!」
「亜里沙には私がいるでしょ」
「それもそうだねっ!」
それでいいんだ……。
「でもいつきってあんまり可愛い女の子って感じじゃないけどっ!」
「うるさいな」
「でもアタシの作詞の師匠だからマジリスペクトしてるっ!」
「そんなのになった覚えはないんだけど……」
でも亜里沙が真剣に曲を作ったり歌詞を考えてるのは知ってる。
だから普段がどれだけ……でも許せちゃうなって思ってしまう。
「とりあえず新入生へのお披露目ライブのために新曲作らないとっ!」
「春休みで作るって言ってなかった?」
「もうちょっとなんだよっ! あっ! 名前だけっ! 名前だけでも教えてっ!」
唐突に標的がアイコに変わった。
名前教えてってうるさく言う。
「それは自己紹介で分かるでしょ。……亜里沙、何か呼ばれてるみたいなんだけど」
「あっ! 軽音部の人っ! 部長さんっ!」
「そうなんだね」
亜里沙を呼んでる人。
セミロングよりも短い髪でカチューシャをつけてる。
眼鏡をかけてるせいか何だか凄く真面目そう。
いかにも軽音部っていう雰囲気の亜里沙とは正反対。
「じゃまた後でねっ!」
「もう来ないでいいよ」
「そんなこと言わなくてもちゃんと会いに行くからっ!」
って言い残して亜里沙はまたばたばたと走っていく。
たまこの走ってる姿は可愛いのに。
やってることは同じなはずなのに。
どうしてあんなに違うんだろうって思う。
「……ナツミって馴れ馴れしいって思ってたけどましな方なのね」
亜里沙が離れてようやくアイコが私に顔を戻す。
よくあの嵐に耐えきったなって思う。
「ナツミはああ見えて人のことをよく見てるからね」
「それがよく分かったわ」
言いながらため息。
話さなくてもとっても疲れたんだって思う。
「アタシね」
「うん」
「ナツミのあのことを聞いてからさ」
多分、お泊り会の時のことだなって思った。
「人を簡単に判断しないで関わっていこうって決めたの」
「そうなんだね」
「そうしないと面白い漫画とかも書けないだろうしね」
「うん」
「でも……」
言いながらたまこは亜里沙を見る。
私もそっちを見た。
……めっちゃ怒られてる。
「あれとはとても仲良くできないって思う」
「それはしょうがないよ」
みんな仲良くするのが1番いい。
でも……。
人には合う合わないがあるからね。
友達の友達が友達である必要はないって思う。
友達がいなくても大丈夫なら。
1人でいるのが好きならそれでいいって思う。
私はそうじゃない……臆病な寂しがり屋なだけで。
きっとアイコもそんな感じなんだろうって思う。
「でもとりあえずいっきと同じクラスでよかったわ」
それはほっとしたっていうより。
本当に嬉しいって感じの表情。
「私もアイコと同じクラスでよかった」
私はゆっくりと教室を見回す。
最後の1年を同じ教室で過ごす人達を。
知ってる人もいれば、知らない人もいる。
2年生の時に同じクラスだった人ももちろんいる。
顔を知ってるけど、名前を知らない人もいる。
確かあの人は……。
私は入り口の方をみた。
そこには1人席に座って本を読んでる人。
確か去年の文化祭であの金髪の子と一緒にステージに立ってた……。
格好良く楽器を演奏してたのを覚えてる。
本を読みながら音楽も聞いてるみたい。
いかにもな感じのヘッドホンをつけていた。
何だか高そうなヘッドホン。
まるで周りを拒絶してるみたいで。
騒がしい教室の中でそこだけがまるで別世界に見えた。
他にも……。
あっ……あれは……。
演劇部の……名前は知らないけど美香の家によく泊まりに行ってる人だ。
後ろの席の人とお喋りをしてる。
あと背が高くて目立ってるバレー部の小日向さんとか。
去年の文化祭の時に執事勝負で負けたことを覚えてる。
負けてよかったなとも、負けて当然だったよねとも思う。
小日向さんは本当に背が高くてスラッとしててスタイル良くて……。
友達と笑いながら話してるだけでも何か格好いい。
何だか思わず見てしまう感じがする。
他にも……。
このクラスだけでも本当に色々な人がいる。
たくさんの世界があるんだなって思う。
最後の学年。
最後のクラス。
ここでもたくさんの思い出とかができるといいなって思った。




