77
「おなかいっぱいっ!」
ナツミが満足そうに言った。
スープにサラダにオムライス。
さらにデザートのムース!
これで満足しないって言う方が嘘だって思う。
私もお腹いっぱいでもう何も食べれないってぐらい。
でも……。
カナとたまこが作ってくれたものなら。
まだ食べれるんじゃないかって思えるのが凄いって思う。
「本当に美味しかったよね」
私は味を思い出しながら言う。
どれも本当に美味しかった。
美味しい食事って本当に幸せになるよねって思う。
明日の朝ごはんも昼ごはんも2人の料理が食べれるなんて……。
毎週お泊まり会をしたいって思うぐらいだった。
でも……。
そうしたら絶対に太るよねって思う。
「満足してもらえてよかったっ!」
「ですねっ!」
2人は食べ終えてすぐに後片付けを始めて。
あっという間に終わらせてしまった。
手伝おうかって言ったけど……。
きっと本当に手伝ってた邪魔になってただけだって思う。
「こんなにたくさん食べたのは久しぶりだわ……」
苦しそうにアイコは言う。
最後のムースは本当に無理して食べてるみたいだった。
本当に美味しそうに食べてたけど。
「こんなに美味しい料理も初めてだったしね」
「ありがとっ!」
「料理ができるっていいわね」
「ですよっ! 少ない材料でも美味しいものができますしっ!」
「ふーん」
アイコは何か考えてるみたい。
「家で食べるものが美味しくないって思ってたけど……」
そしてため息をつきながら言った。
「結局は自分の努力不足だったってわけね」
そこで努力不足って言葉がでるのが。
何だかすごくアイコらしいって思った。
でも少し落ち込んでるようにも見える。
だから……
「料理をしようってあんまり思わないもんね」
って私はフォローする。
「包丁でじゃがいもの皮とか剥くのとか全然できない」
「さすがにそれぐらいできるわよ」
「フォローしたつもりだったのに……」
「いっきって林檎の皮も剥けないタイプ?」
「それは……」
できない。
包丁とか使うのやっぱり怖いし。
「できないのね……」
呆れ顔のアイコ。
なんか悔しい……。
「いっちゃんはできなくていいのっ!」
「ですよっ! りんごとか食べたいときはたまこが剥いてあげますっ!」
「2人ともありがとうっ!」
「それって喜んでいいのかな……」
ってナツミも呆れ顔になってる。
「みんながいっきを甘やかすから駄目なのよ」
ってアイコはまた大きくため息。
「でも何だかいっちゃんってほっとけないっていうか……」
「何かしてあげたくなりますよねっ!」
カナとたまこは顔を見合わせて微笑み合う。
嬉しいけど……少し複雑な気分。
「本当にいつきはお姫様って感じだねっ!」
「いつもぼんやりしてるからね」
「褒められてる気がしないんだけど……」
「褒めてないからよっ!」
「でもそれがいっちゃんのいいところだからっ!」
「カナはあんな風に言ってるけど……」
「カナはいっきのことを全是正するからサンプルにならないわっ!」
「何だかんだ言ってアイコさんも……」
「ご飯食べたら映画見るんでしょっ!」
って強引に話題を変えるアイコ。
私も何だか居心地悪い話題だった。
なのでそれに乗っかることにした。
「えっとアイコが映画借りてきたんだっけ?」
「そうよ。お金は後でちゃんと割り勘してもらうからねっ!」
「分かってるよ」
「映画はどこにあるんですか?」
たまこがきょろきょろと見回す。
アイコは持ってきた自分のバックに手を入れて……。
1枚のDVDを取り出した。
「これよっ!」
アイコは自信満々に言う。
「……ホラー映画だね……」
ナツミが呟く。
「だね。ちょっと予想外」
カナがDVDを手に取る。
「ホラー映画って……」
私は何だか嫌な気がする。
「ホラー映画何ですねっ!」
意外にもたまこはウキウキとした感じ。
「アイコってホラー映画を見る趣味でもないでしょ」
「そうよっ!」
「じゃあ何で持ってきたのっ!」
「こういうときにはホラー映画がいいって聞いたから」
「誰に?」
「藍姫に決まってるじゃない」
「そうだよね……」
後で藍姫に文句言ってやろうって思った。
「ホラー映画でもこれってスプラッタ系だね」
「スプラッタ系って?」
ってナツミは言う。
ナツミはあんまり実写映画は見ないんだっけ?
「血が沢山出るの」
「えー。それ本当に見るの?」
ナツミは嫌そう。
私もあんまり血とかは得意じゃない。
「それしか持ってきてないからねっ!」
「まぁいいんじゃないかな」
カナはパッケージを開けてDVDを取り出す。
カナはそういうの平気そう。
あと時に包丁を持ってたぐらいだし。
「いっきとナツミは怖いの苦手なんだ」
何とも言えない意地悪そうな表情。
もちろん、アイコの。
「あたしは……まぁ得意ではないかな」
「私も心霊とかはそんなにだけど……」
「いっちゃんは大きい音が駄目なんだよねっ!」
「うん。心臓に悪いのとか本当に駄目」
「へー。そうなの」
「知らなかった!」
「何だか可愛いですねっ!」
可愛いたまこに可愛いって言われてしまった……。
「去年の遊園地を思い出すよっ!」
カナは嬉しそうに言う。
私も何となく思い出してた。
カナにくっついてお化け屋敷を歩いたことを。
「いっちゃん私にしがみついてて本当に可愛かったっ!」
「何それ」
「いいですねっ!」
何がいいんだろうって思う……。
「その時のお土産貰ったのを覚えてるっ!」
「そういえばあげたね」
「ラングドシャだったよねっ!」
「よく覚えてるね」
あげた私が覚えてなかったのに。
記憶力いいんだなって思った。
「でもあの時いっちゃんはお土産……」
「どうかしたの?」
「ううんっ! 何でもないっ!」
「そんなことより早く見ましょうっ!」
アイコが意気揚々と言う。
私とナツミが得意じゃないのが分かって嬉しそう。
でも……。
って私は思う。
たまこは大丈夫なのかな?
何だか凄くホラーとか苦手そうなんだけど。
主に見た目がなんだけど。
さっきは平気そうにしてたけど……。
きっとやせ我慢してるに違いないって思った。
たまこってそういうところで我慢しちゃうタイプだし‥…。
「それじゃ入れるねー」
カナが言う。
DVDを入れた後に駆け足で戻ってきた。
ホラー映画。スプラッター系。
正直言ってとても苦手なジャンルだって思う。
でも私は凄くわくわくしてる。
だってみんなと初めて映画を見るんだから。
……
…………
………………
映画が終わった。
スタッフロールを見終えた後……。
カナがDVDを取り出して元の場所に戻す。
たまこはスタッフロールになった瞬間に部屋を出ていった。
我慢してたのかも。
途中で行かなかったってことは面白いって思ったのかな?
でも……。
私なら1人でトイレに行かないって思う。
「意外と面白かったわね」
カナを見ながらアイコが言った。
アイコじゃなくてDVDを見てたのかもだけど。
「そうだね」
って言うのはカナ。
パッケージに戻したDVDを見てる。
「思ったよりもずっと話がしっかりしてたね」
「上手く伏線が張ってあったわ」
「そうくるんだって驚いちゃった」
って感じで。
2人はとても満足そうな感じ。
「意外と掘り出し物だったね」
「アタシが選んだから面白いのは当然よ」
「そんなにいい映画だったの……」
ナツミが青い顔をして言う。
血とか出るたびに大きな声を出してたナツミ。
「ナツミさんはホラーが本当に駄目なんだね」
「自分が思ってたより駄目だった……」
あーとかうーとか言ってる。
何だか本当に気分が悪そう。
「ナツミの叫び声でなかなか臨場感があったわよ」
「いっちゃんはナツミさんの声に驚いてたよねっ!」
「うん……。映画より気になったかも」
「本当っ! ご、ごめんっ!」
「いいよ。おかげで映画の怖さが薄れたって思うから」
「いっきがびくびくしてて面白かったわ」
「人が怖がってるのを面白がらないでよ……」
「そうよっ!」
カナがびしっと言う。
「面白いんじゃなくて可愛いんだからっ!」
「可愛いっていうのも何だか複雑……」
といっても私だって。
きゃーきゃーいってるナツミを可愛いって思ったから。
おあいこかなって思った。
「でもたまこさんが平気だったのはちょっと意外だったね」
扉を見ながらカナは言った。
まだたまこが帰ってくる気配はない。
廊下は電気をつけてないからか薄暗い。
どうやらつけずに行ったみたい。
私ならしっかり電気をつけた上誰かと一緒に行くよねって思う。
それだけでもたまこが平気だったって証拠だと思う。
「本当よね。っていうか2人がびびりすぎだけな気もするけど」
「怖いものは怖いんだからしょうがないじゃないっ!」
ナツミが言う。
「大きな音でびっくりするのも普通だって思う」
私も言う。
どっちかというと私達が正しいって思う。
「精神力は弱いのよ。精神力が」
「精神力でどうにかなるものなの?」
「当たり前よっ!」
「いっちゃんが怖くてもわたしがそばにいるから大丈夫っ!」
「ありがとうっ!」
「えーっ! あたしはーっ!」
言いながらナツミはアイコを見る。
それにアイコは……。
ふいって顔をそむけた。
何気に酷い。
「ただいまです」
「たまこちゃんっ!」
そしてちょうど帰ってきたたまこに抱きついた。
「えっ! いきなりどうしたんですかっ!」
「ホラー映画からあたしを守ってっ!」
「怖かったんですねっ!」
「そうだよー。怖かったんだよー」
「よしよし」
たまこはナツミの頭を撫でる。
何だか手慣れた感じがする。
それになんだかちょっと羨ましいかも……。
「アイコさんってホラー映画平気なの?」
「苦手じゃないですねっ!」
って笑顔で言う。
「血とかドバーってでるところも瞬きしないで見てたわね」
「そういうのも苦手じゃないですっ!」
「料理してるからかな?」
「それは分からないですっ!」
「たまこさんって鶏を捌いたことはあるの?」
「ありますよっ!」
「鶏を捌くね……。アタできないって思うわ……」
私もできないって思う。
技術的にも、精神的にも。
さわるのも何だか怖い。
「でも血抜きもしますしあんなに血は出ませんけどねっ!」
「血抜きって首を斬るんだっけ?」
「ですねっ! ぶら下げて首を切って抜くんですっ!」
「それ……たまこちゃんがやったの?」
相変わらず抱きついてるナツミが言う。
何だか恐る恐るっていう感じの声だった。
「もちろんですっ!」
そしてたまこは自信満々に言った。
ぶら下がってる鶏の首をスパって切るたまこ……。
何だか想像するとほんわかをホラーが上回ってる気がした。
「たまこちゃんが首斬るとか血を抜くとか怖いこと言ってるよーっ!」
「料理の話ですよっ!」
「料理の話じゃなかったらびっくりだよっ!」
「びっくりどころの話じゃないわ」
私的には料理の話でもびっくりなんだけど。
「それならホラー映画が苦手じゃないのも納得だねっ!」
「でも料理人が全員スプラッター得意なわけじゃないと思うわ」
「血が苦手な料理人っているのかな?」
ふと出てきた疑問。
いたとしたらとっても大変そうだって思う。
「中にはいるんじゃない?」
「後輩の子が血が苦手って言ってましたっ!」
「あっ、やっぱりいるんだ」
「まぁ普通に料理する分にはそんなに血って見ないからね」
「ですねっ!」
「料理が得意な人って逞しく見るものね」
「たまこはホラー映画は昔から平気でしたよっ!」
「そうなの?」
思わず反応してしまった。
今は平気かもしれないけど。
何だかたまこはホラー映画をとっても怖がってそうだったから。
「はいっ! 美香ちゃんの方がずっと苦手でしたねっ!」
「美香が?」
むしろ美香の方が平気で見てそう。
「ホラー映画を一緒に見て怖くて帰れなくなって泊まっていったこともありますっ!」
「へー。美香もそんな可愛い時があったんだね」
今のあの目つきの悪さからは考えられないって思う。
きっと小さくて可愛かったんだ……
「確かあれは中学1年生の時でしたっ!」
「意外と最近だね……」
小学校の低学年とかそのへんを想像してた。
と言うか私もナツミも中学1年生のころだったら家に帰るぐらいはできたと思う。
想像以上にホラーが苦手なんだな。
今度からかってやろうかなって考えたけど。
でも後が怖そうなのでやめとっこって思った。
「そろそろお風呂入るよね」
いつまでもホラーが怖い怖くない話もしてられないって思った。
楽しかったけど。
「どういう順番で入る?」
「てきとうでいいんじゃない?」
「私は最後でいいよ」
最初に入るのも、途中で入るのも変な感じがした。
だからきっと最後が正解なんだろうって思う。
「じゃわたしも最後に入るねっ!」
「なんでしれっと一緒に入ろうとしてるのよ……」
アイコの言葉で。
そういうことかって分かった。
てっきりカナが最後に入りたいって言ったのかと思った。
「でも2人入ると流石に狭いって思うよ」
「大丈夫っ!」
「大丈夫じゃないっ!」
なんでアイコが必死に否定してるんだろう……。
そのままの勢いでアイコは言う。
「カナが最初、次がたまこ、その次がナツミ、そしてアタシ、最後にいっきっ!」
1人、1人を指差しながら。
「これでいいでしょっ!」
「順番に希望とかないからねっ!」
「ですねっ! びしっと決めて貰えると嬉しいですっ!」
「私もそう思う」
こういうことでぐだってなるのも。
何だか勿体無いなって思うから。
こういう時のアイコは頼りになるんだなって思った。
「それじゃわたしは最初と……」
「最後には入らないでいいわよ」
「えー。でも修学旅行でも一緒に入れないのに」
カナは不機嫌そうに言う。
もうすぐある修学旅行。
2月の半ばぐらい。
行き先は北海道っ!
やることはスキーかスノボー。
どっちもできなさそうだけど、難易度が低そうなスキーにしてる。
お風呂は確かクラス別だった気がする……。
「そういえばもうすぐ修学旅行なんだね」
ってナツミが言った。
何だかしみじみとした感じ。
「そっちのクラスは班決めってもう決まってる?」
「たまこ達はまだですっ!」
「今度の火曜日までに提出だっけ?」
といっても。
ほとんど班は決まったようなものだけど。
「そうですっ!」
「それじゃあたし達のクラスと一緒だねっ!」
「いっちゃんとたまこさんは同じ班なの?」
「はいっ!」
「あと愛姫と美香が同じ班」
「何だか予想通りのメンバーね」
「予想外のメンバーと班を組むほど社交的じゃないから」
「それもそうね」
「そっちの3人はみんな同じ班?」
「んー。まだ決まってない感じかな」
って言ったのはナツミ。
そのままアイコに向かって言う。
「どうせなら一緒の班がいいよねっ!」
きっとカナはもう誘ってるんだろうって思った。
「まぁなりたい一緒になりたい人もいないし……なってあげてもいいわよ」
「ありがとうっ!」
「何でそんなに嬉しそうなのよ」
「嬉しいからっ!}
「……やっぱりナツミを相手にしてると調子狂う気がするわ」
「後1人いないと駄目なんだよね」
「そこはどうとでもなるでしょ」
「だねっ!」
「でも……」
はぁってカナがため息。
「たまこさんが羨ましいな」
「どうせいっきと同じ班が良かったって言うんでしょ」
「当たり前じゃないっ!」
当たり前なんだ……。
まぁカナはそう言うって分かってたけど。
「同じ部屋で寝て同じご飯を食べて同じお風呂に入って一緒にスキーできるんだよっ!」
「力説してるねっ!」
ナツミは楽しそう。
アイコは呆れた感じ。
たまこはちょっと困った様子。
「本当に羨ましいっ!」
「何だかちょっと吹っ切れてきてない?」
アイコが私も少し思ってたことを言う。
あの時からちょっとずつ私への感じが変化してる。
前は守ろうって感じが強かったって思う。
今はもっと違う何かになってる。
もちろん、それはいいことだって思う。
多分だけど……。
「お風呂はこっそり入ればバレないんじゃないかな」
ナツミからカナへアドバイス。
部活の先輩たちから色々話を聞いてるのかも。
「入る時間とかばらばらでチェックとかもなかったって言ってたしね」
「本当っ! それじゃ修学旅行は一緒に入ろうねっ!」
「うん。いいよ」
「やったっ!」
「余計なことを教えなくていいのに……」
「余計なことじゃないよっ!」
「ほらそれはもういいからさっさとお風呂に入ってきなさい」
アイコがカナの背中を押していく。
「修学旅行は本当に楽しみですねっ!」
「うんっ! 怪我だけはするなって言われてるけどっ!」
「骨折とかしたら洒落にならないからね」
どう考えたって部活の方が大事だろうしね。
「だから気をつけながら全力でやらないとっ!」
「たまこは怖そうだからのんびり楽しみたいですっ!」
ホラーは平気だけどそういうのはちゃんと怖そうって思うんだ。
何だか前よりずっとたまこのことが分かった気がする。
「カナすっかり浮かれてたわよ」
部屋に戻ってきてアイコは言う。
どうやらちゃんとお風呂に入ったみたい。
「修学旅行楽しみだもんねっ!」
「たまこもすっごく楽しみですっ!」
「アタシは何で寒い中スキーをしなくちゃいけないのよって思ってるわ」
「アイコらしいね」
でもきっと。
滑ったら滑ったで凄く楽しむんだろうなって思う。
アイコはそういう人だから。
もうすぐ修学旅行。
みんなで楽しめる。
ここにいる人だけじゃない。
藍姫とか美香とか亜里沙とかとも。
本当に楽しみだなって改めて思う。
スキーがちゃんと滑れるか。
それはとっても心配だけど。
でも滑れなくても大丈夫だろうって思う。
滑れなくても絶対に楽しいって。
今日もすっごく楽しい1日だった。
そして明日も、その次の日も。
ずっと、ずっと楽しい日が続いていく。
みんなと一緒に過ごしていく。
でも……。
当たり前だけど永遠に続くわけじゃない。
それは分かってるけど……。
でも何だかまだ実感できてない気がした。




