75
「お待たせっ!」
「遅くなりましたっ!」
カナとたまこが家に着いたのは。
3時を過ぎたぐらいで。
予定してた時間よりだいぶ遅い時間。
でも遅くなるって連絡くれてたから心配とかはなかった。
「たくさん買って来たんだね」
って私は2人を見て言った。
2人の両手は買い物袋でふさがっている。
私は料理のこととかよく分からないけど。
でもそれは5人一食分にはとても多い量に思えた。
2人はとりあえずって感じで。
持ってた袋を置いた。
「たくさんあるのは明日のお昼の分まで買って来たからなんだっ!」
「おやつの分もありますよっ!」
「そこまでしてくれるんだ……」
てっきり今日の夜だけだって思ってた。
いろいろ買ってたから予定より遅くなったのかも。
「大変じゃないの?」
料理を一食分作るだけでも重労働だって思う。
頭も体力も使うし……。
でもたまこは嬉しそうに言う。
「そんなことないですよっ!」
って。
「むしろ料理を作ってる方が気晴らしになって楽しいですっ!」
「わたしもじっとしてるよりお菓子作ってた方がいいかな」
「ですよねっ!」
カナとたまこは何だか通じ合ってるみたい。
買い物もとても楽しかったんだろうなって思う。
あれを作ろう。
これを入れたら美味しいよ。
みたいな感じで。
「むしろここまで運んでくる方が大変だったよね」
「ですねっ!」
「そうだよね」
見るからに重そうな荷物。
「呼んでくれたら運んだのに」
「そんな悪いですよっ!」
首をふるふる振る。
何も荷物もないのに私を呼んだアイコとは大違い。
「買いたくて買ったものですからっ!」
「こういうのも含めて料理なんだよっ!」
「そうなんだね」
きっと……。
移動とかも含めて天体観測。
みたいな感じかな。
普通なら面倒だなって思うことも。
その後に楽しみがあるならあんまり苦じゃなくなる。
「いっちゃん。冷蔵庫借りていい?」
「うん。いいよ」
「明日の分の材料を入れておくんですっ!」
言いながら2人は冷蔵庫まで荷物を運ぶ。
そしててきぱきと食材を入れ始めた。
私も何もしないわけにもいかないよね。
そう思って私も手伝う。
といってもできることは袋から取り出して渡すだけだけど。
「いっちゃんの家の冷蔵庫はとっても整頓されてるねっ!」
感心するようにカナは言った。
それはたまこも同じに思ったみたい。
「ですねっ! 古い食材とかの使い忘れがないようにって工夫されてますっ!
「そうなんだ」
全然知らなかった。
「いっちゃんのお母さんって几帳面?」
「うーん。そうかもね」
普段はおおらかっていうか適当だけど。
こういうところはもしかしたら几帳面なのかもしれない。
「そういえばお父さんがレシートをもらっておいてって」
「ちゃんとあるよっ!」
言いながら財布からレシートを3枚。
それぞれ別の店。
「1つの店で買ったわけじゃないんだ」
「うんっ! 探し物もあったし色々見て回りたかったからねっ!」
「やっぱり店によって置いてあるものとか微妙に違いますよねっ!
「あと値段もね。野菜が安いとかお肉が安いとかそれぞれ違うんだ」
「そうなんだね」
そっちも全然知らなかった。
スーパーはどこも同じだって思ってた。
お使いとかってほとんどしたことないし……。
「こんなもんかな」
「今日の夜に使う分はこっちに置いておきますねっ!」
「そうだね」
何だかあっという間に終わった気がする。
本当に2人は手際がいいんだなって思った。
たくさんあった食材も綺麗に冷蔵庫に収まってる。
私が1人でしたらもっとぐちゃぐちゃってなってたと思う。
「そういえばさ……」
カナは私に近づいて。
小声で話す。
「どうかしたの?」
「アイコさんとナツミさん、仲良くなったの?」
2人を見ながら言った。
2人はずっと流れてるアニメを見ながらあーだこーだ言ってる。
確かにとっても仲良さそうに見える。
……ううん。
実際にとっても仲がいいんだろうって思う。
「昨日も教室では全然話とかしてなかったのに」
「ちょっと色々あったんだよ」
「色々って?」
「それは言えないかな」
「気になるねっ!」
ってカナは言う。
でもカナはこういう時にあんまり深追いしないって分かってる。
「でもきっといいことだったんだろうね」
「うん。仲良くなれたんだしね」
みたいな感じで。
カナと2人を見ながら話してたら。
きっと見られてたことに気が付いたんだって思う。
アイコは私達の方を見る。
「お腹がすいたんだけどっ!」
いきなりそれなの……。
思わずがっくりってなりそうになる。
「……お昼はちゃんと食べたでしょ」
食べてるところはしっかり見てた。
「もうそれは三時間も前のことだわ」
「それじゃわたしが買ってきたシュークリーム食べよっか!」
アイコの隣のナツミが言う。
冷蔵庫を指さしながら。
「シュークリームあるの?」
「うん。ナツミが買ってきてくれたんだ」
「カナ達も疲れたわよね。食べましょう」
自分が食べたいだけなのに……。
「あれは夕ご飯の後に……」
「あっ! 大丈夫ですよっ!」
って言ったのはたまこ。
ぴょこんって主張するように体が動く。
「今日の夕ご飯のデザートにはカナさんがムース作る予定ですからっ!」
「ほらっ! ちゃんと準備してるみたいだからっ!」
「アイコは何もやってないでしょ」
「アタシは食べる係だからいいのよ」
……本当にわがままだって思う。
でも……。
何だか憎めないのがアイコのずるいところだって思う。
「それじゃ食べよっか!」
「そうだね」
私も気になってたといえば気になってたし……。
夜には別のデザートがあるいっていうし……。
でも……食べすぎが心配になってくる。
「たまこはコップとか持っていきますねっ!」
「私はシュークリーム持っていくから……」
「わたしは飲み物を持っていくねっ!」
「うん。お願い」
そんな役割分担で。
私達はおやつの時間の準備をした。
「美味しそうだねっ!」
「シュークリームなんて久しぶりに食べるわ」
「思ったよりも大きくてびっくりしましたっ!」
「なんか高そうな感じだよね」
「美味しくて有名なお店だよ」
さすがカナはお菓子に詳しいなって思った。
「あそこのケーキ美味しいですよねっ!」
「うん。わたしも好き」
「そうなんだねっ! あたしは初めて行ったよっ!」
みんなのところにシュークリームがいきわたったみたい。
本当に大きなシュークリーム。
これだけでお腹いっぱいになるかもって思った。
テレビではずっとアニメが流れてる。
どうしようようかって迷って……。
「消した方がいい?」
カナとたまこに聞いてみた。
2人は顔を見合わせて……
「わたしは大丈夫だよ」
「たまこもアニメ見ないので何だか新鮮ですっ!」
「たまこってアニメ見ないんだ」
「はいっ! 映画は美香ちゃんと見るようになりましたっ!」
「アニメ見るなら面白いのおすすめするよっ!」
ナツミがたまこを見る。
すすめたくて仕方がないって感じがした。
「面白いのがあったら教えてくださいっ!」
ってたまこはにっこり微笑んで言う。
「美香ちゃんと見てみますっ!」
美香はアニメ見るのかな……。
でも美香も演劇部だし声の演技とか気になるかも。
それにたまことなら何でも見そうだなって思った。
「それじゃ食べよっか」
飲み物も全員のコップに入ってる。
お菓子の時間の準備は万端。
「それじゃ……」
の次に言葉を続けようとした。
でも……
「美味しいわね。これ」
「アイコっ!」
アイコがもう食べてたっ!
「何を大きな声を出してるのよ」
「こういうのはみんな一緒に食べるんだよっ!」
中学生のころかた周りに合わせたりしてた。
すっかりそれが染みついてる。
そういうのを無視するのもアイコっぽいんだけど……。
「とっても美味しそうだから我慢できなくなりますよねっ!」
「もう食べちゃおっか!」
「そうだね」
って感じでみんなシュークリームを食べていく。
本当にみんな優しいんだなって思った。
私もみんなに続いて1口……
「んっっ!!」
美味しいっ!
思ったよりも記事がさくってしててっ!
それにカスタードはもちろん甘いけど甘すぎなくて……。
「美味しいっ!」
って声に出すぐらいに美味しいっ!
「ですよねっ! たまここの味好きですっ!」
「お母さんの言うとおりに選んでよかったっ!」
美味しいものを食べるとみんな笑顔になる。
食べ物って本当に凄いなって思う。
「でもこんなの美味しいとさ」
カナもおいしそうに食べてる。
でも何だか真剣な感じもあった。
「どうやって作ってるんだろうって思うよね」
「ですねっ!」
って答えたのはもちろんたまこ。
「この生地ってどうやって作ってるんだろう」
「うーん。高温で一気にって感じですかねー」
「あんまり固くなりすぎても駄目だし難しそう」
「あとカスタードの作り方も気になりまっ!」
「市販のだけじゃこんな味にならないよね」
「やっぱり何か秘密があるんだって思いますっ!」
「意外なものを入れたりしますよね」
「うん。動画見ると実際に試したくなるよね」
「分かりますっ! 何かおすすめの人の動画ってあります?」
「それなら……」
……何だか難しいことを話してるような気がする。
カナのお菓子もとっても美味しい。
でも。
もっともっと美味しいお菓子を作りたいみたい。
「今度の誕生日ケーキはここがいいってお願いしようかなっ!」
そう言ったのはナツミ。
もうほとんど食べ終わってる。
さすが運動部だなって思う。
関係あるのかは分からないけど。
「私もケーキも食べてみたいな」
でも誕生日もクリスマスもずっと後になるんだよね。
「……アイコさん、どうかしたの?」
カナの声で。
私もアイコを見た。
アイコはさっきまでは美味しそうに食べてたけど。
今は少しだけ寂しそうな感じがある。
「こういう美味しいものを食べるとお母さんにもって思うわ」
お母さん。
私は1度だけあったことがある。
とても優しそうな人だったって。
「いつも何も買えないからって美味しいものを出されると絶対に持って帰ってきてたの」
「そうなんだね……」
アイコはとってもわがまま。
でもやっぱり根は優しんだなって思う。
「それならシュークリーム余ってるから持って帰るといいよっ!」
ナツミが言った。
確かに箱にはあと2つあった。
箱に戻して今は冷蔵庫の中。
「でも……」
「そっちの方がシュークリームを喜ぶって思うよっ!」
シュークリームが喜ぶ。
何だか変な表現だなって思った。
でもぴったりな表現。
「そうだね」
だから私も言うことにした。
アイコのためってわけじゃない。
何だかアイコに持って返って欲しいって思ったから。
「うちに置いてても賞味期限的に厳しいしね」
「そこまで言うなら……」
何だかいつものアイコらしくないって思った。
いつものアイコなら……。
それなら持って帰ってあげるわっ!
ぐらい言いそうなのに。
「話変わるけど」
指についてたカスタードをぺろりと舐めてカナは言った。
どうやらカナも食べ終わったみたい。
「ちょっといっちゃんにお願いがあるんだけどいいかな?」
「お願いにもよるよね」
カナならうんっ!って即答する場面なんだろうけど。
でも流石に私にはそこまでの覚悟はなかった。
「いっちゃんの部屋を見せてもらいたいなーって」
「私の部屋?」
「うん。駄目かな?」
身を乗り出してカナは言う。
何だか居ても立っても居られないって感じ。
「どんだけ気になってるのよ」
アイコは呆れ顔。
「でもいっちゃんの部屋だよっ! 気になるでしょっ!」
「そんなに断言するようなことなの?」
「もちろんだよっ!」
何だかそう言われると恥ずかしくなる。
「むしろいっちゃんの部屋を見たくて来たっていっても過言じゃないよっ!」
「カナさんって本当にいつきのこと好きだね」
ナツミも苦笑いな感じ。
「うんっ! 大好きっ!」
「…………」
ナツミは楽しそう。
アイコは呆れてる。
たまこは恥ずかしそう。
カナは堂々としてる。
何なんだろうこの空気……。
さっきまで少ししんみりしてたよね。
「いっき、見せない方がいいわよ」
アイコがぼそりと言った。
「絶対に変なことするから」
「するわけないでしょっ!」
「いやー。その勢いだと怪しいねっ!」
「ナツミさんまでっ!」
「ほらあたし達は中学生のころのカナさん知ってるわけだしさ」
「今までは大人しかったけどぶり返しがきてるって思うわ」
「何だか中学生のころしたことをとても後悔してる……」
「黒歴史ってやつね」
「何で教室の机を全部赤くしてたりしてたんだろう」
「そんなことやってたの……」
「でもそのおかげでこうやって仲良くなったわけだしね」
カナが校庭にでっかく書いた
わたしはここにいる。
あれがなければ今のこの状況もなかった。
「だからよかったことだって思うよ」
「だよねっ!」
「それでいっきの部屋見に行くの行かないの?」
「アイコまで乗り気になってるの?」
「そりゃ見れるなら見たいわよ」
「そんなもの?」
友達同士で部屋を見せ合うみたいな?
そういえば私はアイコの部屋は見たことあるよね。
その時はどんな感じとか見る余裕はなかったけど。
「それじゃ2人で見てくれば?」
「いいのっ!」
「あんまりあさったりしないでね」
「もちろんだよっ!」
「あとお父さんとお母さんの部屋に入るのは……」
「もちろんしないって」
「というか自分の個室があるっていうのが羨ましいわね」
「それじゃいってくるっ!」
「場所はここを出て~」
って私は説明する。
部屋を見せることもあるって分かってたから。
お母さんと片づけをしといてよかったって思った。
だから堂々と見せることができる。
一昨日までの部屋だったら絶対に嫌だなって思った。
「分かったっ!」
「アタシもカナが変なことをしないか見張っておくわ」
「だからしないってっ!」
って言いながら部屋を出る。
何だかとても仲良しに見えた。
「なんでそんなに私の部屋を見たいんだろうね」
カナの部屋を見れるなら見たいけど。
「それは……」
「実はたまこも……」
ナツミとたまこ。
2人も何だかそわそわしてる。
もしかして……
「2人も私の部屋を見に行きたいの?」
そう言ったらぱっと表情が明るくなった。
どうやら言いたくて言えなかったみたい。
「本当っ!」
「い……いいんですか?」
「うん。私はここにいるから」
さすがに5人も入ると狭くてめんどくさそう。
「あの2人が荒らさないか見てて欲しいしね」
特にアイコは遠慮がなさそうだから。
「分かったっ!」
「それじゃお言葉に甘えて……」
言いながら2人も移動する。
一気にがらんってなった部屋。
アニメの音だけが聞こえる。
とっても楽しいなって思った。
でも。
まだお楽しみはたくさんある。
そう思うと凄くわくわくして。
こんなに幸せでいいのかなって思ってしまうぐらいだった。




