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インターフォンがなった。
時間はお昼の1時を過ぎたぐらい。
今日からお父さんとお母さんが旅行に行ってる。
前から企画していた沖縄旅行。
天気にも恵まれてていい旅行日和。
2月はとっても寒い。
でも沖縄なら暖かそうでいいなって思った。
「本当に大丈夫?」
ってお母さんは凄く心配そうにしてた。
私を一体いくつだって思ってるのかな。
「今日はお友達もくるんだから大丈夫だろ」
ってお父さんは笑ってた。
やっぱり私1人じゃ心配みたい。
「何かあったらすぐに電話をしなさいね」
そう念を押すように言って。
お父さんとお母さんは家を出た。
そしてつい先ほど。
その扉から誰かが来たってお知らせ。
待ち合わせの時間は2時。
1時間ぐらい早い。
たまことカナは一緒に夕ご飯の材料を買ってくるから少し遅くなる。
そう言ってた。
どんな料理を作ってくれるのか凄く楽しみ。
私は立ち上がって扉まで移動。
郵便とかかな……それとも……。
そんなことを考えながら扉を開けた。
「こ、こんにちはっ!」
そして開けた扉にはナツミがいた。
何だか少し緊張してるみたいな雰囲気。
「こんにちはー。早かったね」
「家にいたらそわそわしちゃって……」
「そうなんだね」
私もよくそんな風になる。
だからナツミの気持ちは凄く分かる。
「ここはすぐに分かった?」
「うんっ! ナビを使ったからねっ!」
「やっぱりスマホって便利だね」
電話だけじゃなくてナビにもなる。
むしろもう電話機能の方がおまけのように思える。
「けど大きな家だよね」
「そうかな? 普通だと思うけど」
って言うけど。
アイコの前じゃそんな風には言いづらいって思った。
「もしかしていつきの家ってお金持ち」
「そんなことないよ」
少なくともお金が余って仕方ないってことはない。
それならもっとお小遣いを上げて欲しいし。
「ここにいても何だし中に入ろうか」
「うんっ!」
ナツミは嬉しそうな感じで。
でも何だかそろそろっとした感じで。
靴を脱いで家の中に。
私はこうやって人を家に招待することはあんまりない。
だからちょっと緊張してる。
ナツミはそういうことになれてそう。
そう思ってたけど……。
案外、そういうわけでもないのかもって思った。
「カナさんとたまこちゃんは?」
「あの2人は買い物中。2時過ぎぐらいに着くんだって」
「そうなんだねっ!」
「2人で夕ご飯を作ってくれるらしいよ」
「楽しみだねっ!」
「うん。凄く楽しみ」
「……あたしこんなに早く来て迷惑じゃなかった」
「そんなことないよ」
早く来てくれるのはむしろ嬉しい。
そんな風に気を使ってくれるのがナツミらしいって思った。
それに……
「アイコがもう来てるからね」
言いながらナツミを居間に案内する。
居間では我が物顔でアイコが漫画を読んでる。
かなりリラックスした感じ。
まるでアイコの家みたいだ。
「アイコさんもう来てたんだ」
「うん。朝の10時に来たよ」
「そんなに早くっ!」
「うん。無駄に早かった」
しかも途中で迷ったからと電話をして呼びにいかないといけなかった。
おまけに当たり前のようにお昼ご飯を一緒に食べた。
カップラーメンなんだけど。
「アイコさんっ! こんにちはっ!」
ってナツミは明るく言う。
にこやかで爽やかな笑顔付き。
私ならそれを見ただけで。
何だか凄く嬉しい気分になれるって思う。
なのに・・・・・・。
アイコは漫画から顔を上げて……。
またすぐに戻した。
むっとした表情はいかにも不機嫌オーラを漂わせてる。
私にも原因があるとはいえその態度にはカチンとくるものがあった。
「アイコ。挨拶ぐらいしたら?」
「…………」
「いいよっ! あたしは別に……」
「アイコ、それぐらいできるでしょ」
「こんにちは・・・…」
ってぼそりとアイコは言う。
何だか反抗期の娘をしつけてるみたいだなって思う。
「アイコさん、機嫌悪いの?」
「実はさっき喧嘩しちゃって……」
といっても。
喧嘩というほどでもない。
ちょっとした言い合いみたいな……。
きっかけも話したくないぐらいにくだらないものだし。
「アタシってアイコさんに避けられてる気がするんだよね」
「アイコはほとんどの人を避けてるから大丈夫だよ」
「……それって大丈夫って言わないと思うんだけど……」
「私もそう思うけどね」
でもそれがアイコの生き方っていうならしょうがない。
最近は乙女先生とも凄く仲がいいし。
人付き合いが全部嫌いってわけじゃないことは分かってる。
「飲み物取ってくるけど何がいい?」
冷蔵庫にはジュースも牛乳もお茶もある。
お母さんが準備してくれていた。
「何でもいいよっ!」
「アタシはオレンジジュース」
「それじゃアタシも同じのでっ!」
「うん。分かった」
「あっ! お土産でシュークリーム買って来たんだっ!」
「本当っ! ありがとうっ!」
「お母さんがおすすめしてくれたお店なんだ」
「そうなんだねっ!」
「夕ご飯の後に食べようっ!」
「うん。冷蔵庫に入れておくね」
私はシュークリームが入った箱を受け取る。
そのまま冷蔵庫に入れて、交換でオレンジジュースを持つ。
コップも1つ持って2人がいるところへ。
私とアイコのはすでにあるから。
「アイコさんはここまでどうやって来たの?」
「歩いて」
「それじゃけっこう近くに家があるんだねっ!」
「1時間以上歩いてきた」
「そ、そうなんだっ! 歩くのって健康にいいからね」
「うち貧乏だからあんまりお金を使いたくないだけ」
「節約上手なんだねっ!」
「節約しなくても暮らせる人よりはね」
ナツミは笑顔だけど。
何だか凄く困った感じになってる。
ナツミはアイコと仲良くしようってしてる。
でもアイコは漫画に目を向けたまま。
凄く淡々って感じで対応してる。
きっと教室ではずっとこんな感じ何だろうって思った。
部室でのアイコとは大違い。
でもそんな対応されても楽しそうに話してるナツミは凄いって思う。
「あっ! DVD持ってきたけど見る?」
「うん。時間もあるしね」
夜は映画を見る予定。
だからナツミが持ってきてるアニメは今見ようって思った。
「レンタルにあって良かったよ」
言いながらDVDを渡してくる。
私はそれを受け取った。
化物語って書いてある。
吸血鬼になった主人公と怪異に出会う少女の話。
原作の小説はナツミに借りて読んだ。
だけどアニメは見てなかった。
「アニメのDVDって高いもんね」
ネットの通販で見た時にびっくりした。
「うん。高校生で買うのは難しいよね」
私はDVDをプレイヤーに入れる。
リモコンを操作して見れるようにした。
アイコを見ると漫画を置いていた。
「アイコも見るの?」
「一応。見たことはあるけど」
「そうなんだ」
アイコはちらりとナツミを見てる。
どうしたんだろうって思ってると……。
「こういうの見る人なんだ」
ぼそりと呟いた。
独り言なのか話しかけてるのか。
とっても分かりづらい言葉。
それにナツミは笑顔で答える。
「うんっ! すっごく好きっ!」
それはとても真っすぐで明るい。
何だか太陽みたいな声と表情。
「私もナツミに教えてもらったんだよ」
あれは1年の夏休みだった。
すでに思い出になってるような、昔のこと。
まだアイコとも出会う前なんだよね。
「何だか意外だわ」
「そうかなっ!」
「でも今は陽キャリア充もアニメ見るって言うし……」
「私もちょっと意外って思ったしね」
「そうかなっ!」
「……何かきっかけとかあるわけ?」
相変わらずぼそりと言うアイコ。
でも……。
何だかナツミに興味を持ってるような様子だった。
「好きだから見てるっ! って言いたいんだけど……」
「違うの?」
「中学生のころに膝を怪我したって言ったじゃない?」
「うん。聞いた」
それで将来の目標を決めたことも知ってる。
「今じゃ思い出として話せるけど当時は落ち込んだっていうか……」
「うん」
「もうこの世の終わりってぐらいに思ったんだよね」
「この世の終わり……」
アイコはナツミを見てる。
今はとっても明るくて、友達が多くて、部活を頑張ってて、太陽みたいなナツミ。
そんなナツミがこの世の終わりって思うだなんて……。
「正直言ってさ。もうバスケできないって思ってたから」
「そんなに酷かったの……」
「それなりに。でもそれ以上に気弱になってたのかもね」
相変わらずナツミの声は明るい。
だからこそ。
当時のナツミが想像できて、でも想像したくなかった。
「リハビリすれば大丈夫って言われても信じられなくてね」
テレビからは音が聞こえる。
アニメが始まってる。
でも……。
私もアイコもナツミの話を聞いてた。
「何でこんなにきつい思いをしなくちゃいけないのって……」
そこでナツミはため息をついた。
当時の自分を思い出してるのかもしれない。
「死んじゃえばこんな思いをしなくてすむのにって考えたこともある」
「そんなことって……」
そんなに重いことだって。
ナツミは死にたくなったことがあるだなんて。
何だかとても信じられることじゃなかった。
でも……。
本当のことなんだって分かった。
「そんな時にね。友達がお見舞いに来てくれたの」
「その中の人にすすめられたの?」
アイコが言う。
アイコがナツミのことをナツミ個人として見てるって分かった。
「うん。その子は大人しくて部活もやってなくて1人で本を読んでるような感じだった」
「ナツミとは仲良かったの?」
「少し話すぐらい。話すのとか苦手そうだったしね」
「でも来てくれたんだ」
「うん。当時のあたしは荒れてて酷いこともたくさん言って……」
「……誰でもそうなるわよ」
ぼそりとつぶやくアイコの言葉。
ちゃんとナツミの耳に届いたみたい。
「ありがとっ!」
って凄く嬉しそうに言うナツミ。
「別にお礼を言われることじゃないわよ」
「そうかもねっ! でも嬉しかったからっ!」
「それで……どうなったのよ」
アイコは話の続きを促す。
きっとお礼を言われて恥ずかしかったんだって思う。
「そうだね。荒れてて自業自得だけど見舞に来てくれる人は減ってそれでまた荒れて……」
きっと中学生の私なら。
一回酷いことを言われたらもう行かなかったって思う。
「でもその子はずっと来てくれた。諦めずに毎日来てくれた。ぞばにいてくれた」
「いい子なんだね」
「うん。引っ込み思案だったから病院に行くだけでも勇気が必要だったって思う」
きっと世界を救うのは。
そんな人なんだろうな。
って何だか場違いなことを思った。
「それである日、アニメのDVDとポータブル再生機を持ってきて一緒に見たいって」
「言ってくれたんだね」
「うん。最初は何で見なくちゃいけないのって思ったけどさ」
「酷いこと思うわね」
「思ったことはしょうがないじゃない」
「それもそうね」
って2人は仲良さそうに笑った。
アイコはさっきまでまともに挨拶もしなかったのに。
「それで見るようになってライトノベルも貸してくれて読むようになって……」
「うん」
「何だか少しずつ頑張ろうって思うようになってきたんだ」
「前向きになれたってこと?」
「そんな感じかな。アニメとかライトノベルの登場人物も頑張ってるし……」
それにってナツミは言葉を続ける。
「隣にいてくれるこの子も頑張ってるんだって。あたしのために勇気を出してるって気づいたんだ」
「ナツミはその子のために頑張ろうって思えたんだね」
「それも大きいかもね」
もしその子がいなかったら。
その子がナツミのお見舞いにいかなかった。
ナツミに酷いことを言われて諦めてしまったら。
今のナツミはいなかったのは間違いない。
それどころか……。
きっとナツミはその子に救われたんだって思う。
私がカナに救われたみたいに。
「それからアニメとかラノベが好きになったんだっ!」
「それでその子今は……」
「高校は違うけど今もとっても仲良くしてるよっ!」
きっと自慢の友達なんだろうなって思う。
「あっ!」
ってナツミは大きな声を出す。
テレビの方を見てた。
「すっごく進んでるねっ! 気が付かなかったっ!」
「巻き戻ししようか」
「長話になっちゃったねっ!」
でも聞けて本当に良かったって思ってる。
「ごめんなさい……」
アイコが言った。
ナツミに向けて言ったのは分かった。
でも何に対して謝ってるのか分からなかった。
「どうかしたの?」
って言われたナツミも少し驚いてる。
きっとナツミも謝る理由が分からないって思った。
「アタシ……あんたのこと苦労もしたことがないリア充だって思ってた」
その声は凄く真剣で。
何だか後悔とかが含まれてる気がした。
「……ナツミのこと知りもしないで知った気になってた」
「それで謝ってるの?」
ナツミが言うと。
こくりと小さく頷くアイコ。
アイコがこんなに素直に謝るだなんてっ!
私はそっちに凄く驚いてしまった。
「だから……ごめんなさい」
「人は見せないだけでみんな苦労とかしてるってだけだよっ!」
って明るく言えるのは。
きっとナツミの凄くいいところだって思う。
「それにアイコさんって凄く素直なんだねっ!」
「はっ! 意味が分からないわっ!」
「それにめちゃくちゃ可愛いっ!」
「可愛いって何よっ! ふざけてるのっ!」
アイコが大きな声を出す。
でもそう言われて嬉しいって思ってる。
アイコは意外と単純だから凄く分かる。
「やっぱりナツミみたいなリア充は苦手だわっ!」
アイコは言うけど。
全然説得力がないなって思った。




