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ある日の出来事。


3時間目。

英語の授業中だった。


「それじゃここは……」


って言いながら乙女先生が教室を見回す。

誰に答えてもらおうかって考えてる。

こういう時にびしって誰かを指名できる先生じゃない。

いつも迷ってる感じがする。

乙女先生から英語を習うようになったのは2年生の時から。

前までは普通の……

分かりやすいけどちょっとやる気のない先生ぐらいにしか思ってなかった。

でも……。

天文部の顧問になってくれて。

一緒に合宿をしたり、一緒に部室で話すようになって。

何だか英語の時間が前より楽しみになった。

きっと教えてくれる人が英語の先生じゃなくて乙女先生になったから。

部活の時に教えてもらったりもするし。

前より英語が好きになったって思う。

この調子だと宇宙の本とか小説を英語で読めれるようになるかも……。

というのは難しいかもだけど、できたら凄いって思う。

でもちょっと困ったこともある。

それは今みたいに。

乙女先生が誰に答えてもらうか迷った時に。

私を見てお願いって感じで……


「それじゃいつきさん、お願いできるかしら?」


って言ってくること。

きっと隣のクラスではカナとアイコがよく指されるんだろうって思う。

授業で答えるぐらいは目立つわけじゃないし苦手じゃない。

でも……。

分からない問題の時とかはちょっと困る。

乙女先生も困ったような表情をするし。

何だか悲しませてるみたいで心が痛くなる……。

今日も乙女先生は誰に答えてもらうか悩んでる。

これは指されそうだなって思う。

でも今は英文を読むだけで単語にさえ気をつければなんとかなる。

だから大丈夫って思ってると……


「愛姫さん……眠いのは何かを言うとなくなるかもですよ」


「は、はいっ!」


右斜め後ろぐらいの席でがたって音がした。

どうやら愛姫が居眠りをしてたみたい。

愛姫は慌てて立ち上がって……


「えっと……何をすればいいんでしたっけ?」


……明らかに話を聞いてなかったみたい。


「教科書の54Pの例文を読んで下さい」


「はいっ!」


藍姫は少しつまりながらも英文を読む。

藍姫はあんまりこういうのが得意じゃないみたい。

国語のときもとっても声が小さくなる。


「発音がおかしいところがあったけど……まぁいいかな」


藍姫は静かに椅子に座って……。

またうとうとってしてる。

でもさすがに今度は我慢してるみたいだけど。


「……またゲームしてて寝不足なの?」


授業が終わった後。

私は藍姫に声をかけた。


「うん。かなーりはまってるからね」


言いながら大きく口を開けて欠伸をする。


「前からずっとやってない?」


「オンラインゲームだから」


「オンラインゲームってたまに広告見るけど……」


「たぶんそれ。基本無料のやつ」


「たくさん遊べるんだ」


「むしろ終わりがない」


終わりがない……。

というのは何だか凄い。

っていうよりそんなのあるんだって感じがした。


「終わりがないならいつ辞めるの?」


「だから辞めれないから困ってる」


言いながらまた欠伸。

生活に支障が出てそう……。


「それに課金で欲しいアイテムがあって……」


「課金って……お金がいるんだ」


「稼がないと運営できないでしょ」


「それもそうだね」


「今月限定のガチャをやりたいけどお金が……」


「色々大変なんだね」


ずっとやって寝不足になるし。

それにお金も必要だなんて。

でもやめないってことはそれだけ楽しいってことだって思う。


「それってアイコもやってるの?」


「アイコはやってない」


「誘わなかった?」


「誘ったけど動くパソコン持ってないって」


「パソコンがいるんだ」


「ゲーム機でもいいけどね」


「ふーん」


「でも他の人と協力して戦うからアイコはどっちにしろやらないって思う」


「1人で遊ぶんじゃないんだね」


「オンラインゲームだから」


確かに誰かと協力するなんて。

アイコには全然似合わないなって思う。

漫画を書かなくちゃいけないから時間もないだろうし。


「いつきもやってみる?」


「私はいいかな」


ゲームは苦手だとおもうし。

きっと足を引っ張っちゃう。


「やりたくなったら言ってね」


「紹介で何かもらえたりするの?」


「そう。よく知ってるね」


「ちょっとだけね」


アイテムが欲しいからって半強制的に登録させられた記憶。

乙女先生より愛姫の方が強欲じゃないみたい。


「眠すぎて死にそうだから時間まで寝る」


「話しかけてごめんね」


「ううん。話して少しはましになったから」


私は席に戻る。

戻って見ると藍姫はしっかり眠ってるみたいだった。

次の時間は……あっ、移動教室だ。

みんな教室を出てるからか人が少なくなってる。

たまこはすでに美香と移動してるみたい。

このままじゃ藍姫が置いていかれるかも。

……ぎりぎりまで寝かせておいた方がいいよね。

藍姫が寝てるのを見てると何だか私まで眠くなってくる。

でも流石に眠るわけにもいかない。

私は眠気をぐっとこらえてちくちくって進む時計を眺めていた。


……

…………

………………


ある日の出来事。


「あー。寂しいなー」


朝の教室。

亜里沙がため息をついてた。

いつも騒がしい亜里沙にしては珍しい感じ。

全体的にアンニュイな雰囲気。

いつもこうなら静かでいいのにって思う。

けど……


「どうかしたの?」


って思わず声をかけてえいまう。

別に元気だして欲しいってわけじゃないけど……。


「何だか元気ないみたいなんだけど」


「これこれ」


言いながら亜里沙は私に紙を見せる。

それは軽音部で行う送別パーティー。

それと同時に行う送別ライブ。

それの予定表みたいなの。

みんなの演奏を見ながらパーティーをするって凄く楽しそう。

でも……。

今の亜理砂を見るとそんな感じでもなさそう。


「やっぱり3年生がいなくなるって寂しいなー」


「それはそうだね」


「1年生の時はそうでもなかったんだけどさー」


って言いながら大きくため息。

よっぽど寂しいんだろうって思う。


「今の3年生がいなくなるって何だか考えられないよ」


「入学して今までずっと近くにいた人達だからね」


「うん。うちの部活はゆるいからずっと遊びに来てくれてた人達が多かったし」


「それは寂しくなるね」


「寂しいよー」


何だか今にも泣き出しそうな亜里沙。

今からこんなんじゃ……。

当日は号泣してまともに歌えなさそうだなって思った。


「ゆかっち先輩がいなくなるなんて考えられない」


「ゆかっち先輩?」


私が軽音部で知ってるのは亜里沙ともも先輩ぐらい。

だからゆかっち先輩っていう人は初めて聞いた。


「あたしゆかっち先輩に誘われて入ってギター習ったんだよね」


「師匠みたいな人」


「そういう感じ。おっとりしてて優しくて一緒にバンドもして夏の合宿で一緒に曲作って……」


色々思い出したのかもしれない。

亜里沙の目から1粒の涙がこぼれた。


「よしよし」


って私は亜里沙の頭を撫でる。


「その分、パーティーのライブ頑張らないとね」


私は転校することは多かったけど。

悲しいってことはあんまりなかった。

むしろほっとしたりが多かった。

でも……。

今の私なら亜里沙の気持ちが凄く分かる。


「今度からは亜里沙が3年生なんだからしっかりしないと」


亜里沙の目からはもう涙は溢れなかったけど……。

だけどやっぱりあんまり元気はない。

きっとゆかっち先輩には少し無理して元気な姿を見せてるんだろう。

本当はすっごく寂しいのに。

だから教室ではこんな感じなのかな。

何だかしばらくはこんな亜里沙を見ることが多くなりそうだなって思った。

早く元気になって欲しい。

やっぱりうるさくないと亜里沙らしくないなって改めて思った。


……

…………

………………


ある日の出来事。


「どーしーよー」


部室に入ってくるなり。

乙女先生は椅子に座って机の上にばたり。

そのまま大きくため息をついた。


「どうかしたんですか?」


って聞いたのはカナ。


「どうせ教頭とかに怒られたんでしょ」


って厳しく言ったのはアイコ。

私は読んでた本を閉じただけ。

何も言わなかった。

カナと同じになっちゃうから。

今日の放課後の部室は3人で……さっき4人になった。


「聞いてよっ! 超理不尽なことを言われたんだっ!」


乙女先生の声が珍しく大きい。

よっぽど理不尽な目にあったのかもしれない。

少し可愛そうかもって思った。

でも……。


「わたしに担任になれって言ってくるって酷いと思わないっ!」


「…………」


3人全員何も言えなかった。


「絶対に嫌なのに。絶対に大変なのに。絶対に面倒くさいのに。絶対に不良がいるのに。絶対にみんな言うこと聞かないのに。絶対にモンペが怒鳴り込んでくるのに。絶対に……」


「どんだけ嫌なのよ……」


呆れ顔のアイコ。


「教師になったんだからいずれ担任を受け持つのは当然だと思うわ」


「乙女先生なら大丈夫ですよっ!」


カナは励ましの言葉を言う。


「私は乙女先生が担任の先生だったら嬉しいけどな」


って私は言った。

それは本当に思ってること。


「それにここはそこそこ偏差値高いから不良なんていないわよ」


「真面目な人が多いよねっ!」


「本当にそうかな?」


「顧問もなんとかなってるし大丈夫じゃないですか?」


「なんとかなってるって言うの?」


「アイコはちょっと黙ってて」


「はいはい」


「何か顧問を受け持つようにって言われた時も最悪ーって思ったけど……」


「でも今は楽しいですよね」


カナが言う。

何だか小さい子供をあやしてるみたいだなって思う。


「そうだね。今は職員室よりこっちの方が居心地の良い」


「だから担任もやってみると案外楽しいかもしれないですよ」


「うーん、2人がいるクラスならいいんだけどなー」


「今さらっとアタシのことを省いたわよね?」


乙女先生は名前を出さなかったけど。

でも何となく雰囲気で私も分かった。


「だってアイコさんはわたしのこといじめるんだもん」


「いじめてないわよっ!」


「ほらー。今だっていじめられてるー」


「アイコの愛情表現ですよ」


「それもないけど」


「ツンデレってやつー? いつデレを見せてくれるのー?」


「そんなのあるわけ無いでしょっ!」」


こんなやり取りを見てると。

やっぱり乙女先生はみんなに好かれそうって思う。

授業はちゃんと分かりやすいし。

でも……。

怒られる量も倍ぐらいになりそう。

クラスの担任を受け持って自覚が芽生えてしっかりしてくれればいいけど……。


「でもクラスのみんなに登録してもらったらたくさんガチャできるなー」


にやりと微笑む乙女先生。


「それだけは絶対に辞めといた方がいいと思います」


カナがため息をつく。


「ある意味あたしも担任になって欲しいと思えてきたわ」


アイコはしみじみと言う。


「とりあえず頑張ってください」


って私は言った。


……

…………

………………


ある日の出来事。


移動教室からの帰り廊下。

たまこと美香と話しながら歩いてた。

美香がいると愛姫は別のところに行く。

藍姫がいると遠慮して美香は話しかけてこない。

みんな仲良くするのってなかなか難しいよねって思う。


「あ……」


階段の近く。

一三屋先輩がいた。

今までも何度かすれ違ったりこうやって見たりしてた。

話しかけたりはしなかった。

あまり話したことないし、迷惑かもって思うから。

でも……。

今は当たり前に姿が見える一三屋先輩だけど、すぐに当たり前じゃなくなる。

3年生は2月ぐらいから学校に来なくなるって聞いた。

一三屋先輩は用事がないと学校に来ないかもって思う。

だからもしかしたらこれが最後なのかもしれない。

後は卒業式以外見ないかもしれない。

卒業式は新聞部とかで集まるだろうし……。

と思うと今話しかけないと駄目な気がした。


「先いってて」


そう言い残して私は走った。

階段を降りていくところを見て……。

今はもう姿が見えない。

追いつけるかな?

急いで階段を降りると、ちょうど1番最後の階段を降りてるところだった。


「一三屋先輩っ!」


私は大きな声で呼んだ。

恥ずかしいとか言ってる場合じゃなかった。

一三屋先輩は立ち止まりゆっくりと振り向く。

私の姿を確認すると、ちょっと驚いた表情。


「どうかしたの……」


ぼそぼそって声が聞こえた。

なんだか懐かしい感じ。


「ちょっと姿が見えたから……」


「何か……用?」


「用ってわけじゃ……」


普段話さない人がいきなり話しかけてきたんだから。

そりゃびっくりするよね。

でも……。

何か言う言葉は……。

そう考えると言わなくちゃいけない言葉があった。


「あのっ! ありがとうございますっ!」


「あ……ありがとうって?」


「だって一三屋先輩が私の書いた小説を読んで新聞部にコラムをかかせてもらって……」


そして今も新聞部との関係は続いてる。

くるると一緒に記事を作ってる。

全部、一三屋先輩のおかげ。


「だからすっごく一三屋先輩には感謝してるんです」


「お礼を言うのは……私……」


「一三屋先輩が?」


こくりと頷く。


「だって……あなたの文章をもっと読みたいって思って……頼んだから」


それは凄く嬉しい言葉だった。


「だから毎月あなたの書いた文章を読めて……幸せだった……」


「そんな……」


「今もずっと読んでる……。この前の文化祭のも去年のも全部大事にしてる」


「本当にありがとうございます」


「だからお礼を言うのは私の方……」


「……一三屋先輩の進路は?」


「私は……」


そう言って一三屋先輩はとある大学名を言った。

推薦で合格済みたい。


「それって私の第一志望です」


「本当……?」


「はいっ!」


といっても志望。

学力的にはちょっと厳し目。


「また先輩、後輩になれるかもですね」


「うん……。そうなってくれると……嬉しい」


「そうなれるように勉強頑張りますねっ!」


「頑張って……。応援してるから……」


「はいっ!」


「次は……同じサークルに……入ろうね」


「はいっ!」


「文芸サークルとか……いいかも……」


「一三屋先輩ってそんな感じですよね」


本当に何で新聞部にいたんだろうって思う。

誰に誘われたのかな?


「あなたが同じ大学になるのは……嬉しいから……本当に頑張ってね……」


「もちろんですっ!」


第一志望って言っても迷ってる中の1つだった。

受からなくても他のところでも……ぐらいの。

でも。

何だか本当にそこに絶対に行きたいって気持ちが強くなる。


「それじゃ……またね……」


「はいっ!」


もうすぐ次の授業。

私は嬉しい気分で階段を登る。

今度の進路調査は堂々と書けそうだなって思った。

それにもっともっとしっかり勉強しなくちゃって。

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