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「いい天気だね」


思わずそう呟く。

そんな天気模様。

満点の星空ってわけじゃないけど。

月も出てて光があるけど。

でも星も星座もしっかり見える。

寒いけど。

でもその寒さも何だか心地が良い感じ……。


「かなり寒いわね」


「本当……。わたしもう部屋でぬくぬくしたいんだけど」


アイコは寒いって言う。

それに乙女先生はもう帰りたいって言う。


「少しでいいから星を見ようっ!」


って言ってくれるのはカナ。

2人を引っ張って真ん中の方へ。


「ほらっ! とっても綺麗に見えるでしょっ!」


去年まではカナも天体観測をしたことがないって言ってた。

でも去年に行った星野村の時から。

たまに1人でもするようになったみたい。

そして今日は。

アイコと乙女先生を2人に積極的に見てもらおうってしてる。

見ていてなんだか嬉しいって思った。


「……こうやって見ると」


アイコは夜空を見ながら言う。


「確かに綺麗……とえいば綺麗だわ」


「……明るいけど眩しくない気がする」


って乙女先生は言った。

立つのが疲れたからなのかもしれない。

座って星を見てる。

そっちの方が何だか寒そうだけど……


「本当にたくさんの星があるのね」


「うん。でも今見えてるのはほんの1部だよ」


屋上。

空に近い場所。

といってもやっぱり街中じゃ限界がある。

街の明かりは夜空にとって天敵。


「去年にいっちゃんと言ったところは本当にたくさん見えたよっ!」


「そうだね。本当にいい日を選んで行ったしね」


「わたしはこれだけの星を見るのも初めてだけどなー」


ぼけっとした感じの乙女先生。

星座とか探すわけじゃなく、本当にただ見てるだけみたい。

でもそのゆっくりとした感じも。

なんだかいいなって思う。

その点、アイコは何だか真剣な感じ。


「あのエムっぽい星座は何か知ってるわ」


「カシオペア座だねっ!」


って私が答える前にカナが言った。


「1年中見える星座で真ん中の星をたどると北極星があるよっ!」


「真ん中っていうと……あれ?」


「んっと……そうだよ」


「あれが北極星……」


感心した感じでアイコは言う。


「船に乗ってた人たちはあれを基準に航海してたのね」


「そうだね」


私も北極星を見る。

もちろん、すぐに見るけることができた。


「他の星座とかはさっぱりだけど」


「わたしが教えてあげる」


カナがアイコの隣に移動する。


「あそこに……」


って感じで説明を始めた。

私が去年にカナに教えたのと同じような内容。

でもきっと。

私よりカナの方が上手に教えるんだろうなって思う。

カナに勉強をずっと教わってきたから。

そのことはすっごく分かってる。


「乙女先生」


カナはアイコと話をしてる。

だから私は乙女先生に声をかけた。


「その……楽しいですか?」


乙女先生はやっぱりぼんやりって感じで。

星空を見ていた。

出てきてすぐに戻りたいって言ってたから。

星を見たらすぐに帰りそうだなって思ってた。

でも……違った。


「楽しいっていうか、よく分からないって感じかなー」


何だかとっても。

乙女先生らしい言葉。

でも……


「退屈じゃないですか?」


って質問にはきっぱりと答えてくれた。


「退屈ではないね」


って。


「夜空って思ったより暗くて、でも星は想像よりも眩しくなくて」


乙女先生の吐く息。

白くなってるのが分かる。

今日も寒い1日。

普通の人は外でじっとしたりなんかしない日。

家の中でぬくぬくする日

夜空が好きな人以外は。


「何だか凄く吸い込まれそうな感じがするね」


「何だか変な感覚ですよね」


「うん。でも嫌いじゃないかな」


へくしょん。

っていう可愛いくしゃみ。

乙女先生が鼻と口を抑えてる。


「寒いですか?」


「当たり前じゃない」


そう言いつつも乙女先生は夜空を見ている。

その場から動く気配はなかった。


「でもたまにはこういうのもいいかなって思う」


「ありがとうございます」


思わず出る言葉。

私の吐いた息も白くなる。

カナは空を指差してる。

アイコは何か話しながらそれを見る。


「何でお礼を言うの?」


不思議そうな声。


「お礼を言うならわたしの方じゃないかな?」


「だって乙女先生のおかげですからね」


「ん?」


って首を傾ける。

その仕草はとても子供っぽくて。

でも不思議と似合っていた。


「乙女先生が顧問になってくれたおかげじゃないですか」


私の言葉に。

乙女先生は納得した表情。


「それは確かにそーだね」


って嬉しそうに微笑む。


「あの時にわたしが断ってたら今日という日はなかったわけだねー」


「そうですね」


もしかしたら。

乙女先生が顧問を引き受けてくれてなくても。

別の先生が引き受けてくれたかもしれない。

でも……。

隣でボケっと空を見上げてる乙女先生を見ると。

他のどの先生でもなく。

乙女先生で良かったなって思う。


「どうかしたの?」


視線が夜空から私の方へ動く。


「何かついてる?」


多分、私が乙女先生を見てたからだって思う。


「いえっ! 何でもないですっ!」


思わず見てた乙女先生の顔から。

また夜空の方を見る。

でも。

何だかまだ乙女先生の顔が思い浮かんでしまう。


「星を見ながらお湯割りで焼酎を飲むのも良さそうだねー」


はぁって息を吐きながら言う。

もしかしたらそんな自分を想像してるのかも。


「お酒は分かりませんけどカップラーメンとか食べながらとか凄くいいですよ」


凄くいいけど。

自重してる。

だって太っちゃうから。


「あー。それも良さそうだね。鍋とかしたら怒られるかな?」


「どうでしょうね」


凄く楽しそうだし、凄く面白そう。

凄く怒られそうでもあるけど。


「今度、合宿する時はそうしよっか」


「ですね」


自然と乙女先生が次の合宿の話をする。

あんなに面倒くさそうだったのに。

天文部の顧問を続けてくれるってことかな。


「春は乙女座がよく見えますしね」


「それはいいね。どんな星座かよく知らないけど」


「自分の苗字なのにですか?」


「そういえばそうだね」


「乙女座はスピカって星があって好きな星座です」


「乙女座のスピカ……何か可愛い響きだね」


「そうですね」


「わたしぐらい可愛いかもしれないねー」


言いながらにへらと笑う。

その笑顔は。

本当に幼く見えて。

……可愛いって思ってしまった。

年上の女性を可愛いって思うのは初めてかも。


「あっ! 流れ星っ!」


アイコの声ではっとする。

私は恥ずかしいのを誤魔化すのも合わせて。

アイコが見てる空に視線を動かした。

当たり前だけど流れ星はもう見えない。


「凄いっ! アタシ、流れ星初めて見たわっ!」


「わたしは何度かあるよ」


ってカナは自慢げに言う。


「意外と流れ星って見れるからね」


「本当っ!」


って大きな声を出したのは乙女先生。


「わたしも見たいっ! 流れ星っ!」


ばって立ち上がって真剣な表情で空を見つめる。


「そんなに真剣に見たって見れるものでもないと思いますけど……」


願い事をしようって思ったら。

それぐらい真剣じゃないと駄目かもしれないけど。

でも見るぐらいならぼんやり見るぐらいに。


「でももうあんまり時間ないですよ」


ってカナは言う。

画面を暗くしたスマートフォン。

確かにもうすぐ10時。

いつの間にか終わる時間が近づいている。


「流れ星を見るのは難しいかもしれないですね」


意外と見れるって言っても。

それは長い時間、星を見ているって条件だから。


「えー。わたしは流れ星みたいのにっ!」


「そうふくれっ面にならないでくださいよ……」


それこそ何歳だって言いたくなる。


「もう少し時間はあるからきっと大丈夫ですよ」


さっきは難しいかもしれない。

そう言ったのと同じ口で。

そんなことを言ってしまう私。

でも、何だか本当に見れそうな気がした。

それから私達はじっと夜空を見た。

少しずつ過ぎていく時間。

乙女先生は凄く子供っぽい目で星を探してる。

でも……。

やっぱり難しいかも。

そう思った時だった。

不意に空に1つの光が輝いた。

それはほんの一瞬のことで。

でも目にはしっかりと残ってて。

どんなに見慣れていても。

すぐには理解できない。

少しして。

やっと何だったのか分かる。


「流れ星っ!」


って乙女先生は言う。


「見えたっ! みんなも見えたでしょっ!」


飛び跳ねんばかりに言う。

子供みたいにはしゃ乙女先生。

そんな先生を少し呆れた目で見る私達。

でも。

きっとみんな先生と同じぐらい幸せな気分に浸ってる。


「凄いっ! 本当に合宿してよかったねっ!」


本当にそうだよね。

って私も思う。

だってこんなに喜んでいる人がいるんだから。


……

…………

………………


日差しが教室に入ってきてる。

すっかり朝……。

じゃなくて昼っぽい雰囲気。

昨日は天体観測を終えて……。

お風呂代わりのシャワーを浴びて……。

着替えて……。

少しお喋りをして……。

いつの間にか寝てた。


「なんか頭痛いんだけど……」


痛いっていうか凄くぼんやりする。

思わず出る欠伸。

呆れためで私を見るアイコ。


「風邪引いたかな」


「ただの寝すぎよ」


「……今は何時だっけ?」


「10時30分」


「もうそんな時間なんだ」


「たっぷり10時間も寝たわよ」


「……なんだかまだ寝たいんだけど……」


「どれだけ寝れば気がすむのよっ!」


「分かんない」


私が言うとはぁってアイコはため息をつく。


「あんたはぐーすか寝てたけど大変だったんだから」


「何かあったの?」


「あれよ! あの先生っ!」


何故かぷりぷり怒りながら言う。


「あの先生って……乙女先生?」


「それよっ! それっ!」


それ呼ばわり。

昨日は一緒に流れ星を見て感動を分かち合ってたのに。

少し好感度が上がってるみたいだったのに。

もうもとに戻ってるみたい。

……あの時以下になってるかも。


「お酒飲んできて絡んでくるし泣くし大変だったんだからっ!」


「……大変だったんだね」


寝てて良かったって思った。

でも。

そんな姿の乙女先生もちょっと見てみたいって思った。


「2人で相手するのが大変だからいっきを起こそうとしたら……」


「したら?」


「寝顔が可愛いから起こさないでいいとか言い出すしっ!」


今日一番の怒りを込めた言葉だった。

何だか絡まれたり泣かれたというのより怒ってるみたい。


「それで寝るのが遅くなったの?」


「3時ぐらいに開放されたから寝たわ」


「大変だったんだね」


「あれも壮大に寝坊してたから今頃罰を受けてるんじゃないかしら」


意地悪そうに微笑むアイコ。

きっと時間になっても。

乙女先生を起こさなかったに違いなって思う。


「私ももう少し早く起こしてくれたらよかったのに」


言いながらまた欠伸が出る。

寝すぎて頭が凄く重い。


「どれだけ寝るか見たかったのよ」


「何それ……」


「カナは幸せそうに寝てるから起こしたくないって」


「それはカナらしいね」


言いながら私は部室を見回す。


「そういえばカナは?」


「今頃、気がついたの……」


呆れた感じで言う。


「8時頃に用事があるって言って出ていったわ」


「帰ったの?」


「そういうわけじゃないっぽいわ」


「そうなんだ」


「あの料理部の……」


「たまこ?」


「それ。それが部室まで来てた」


「たまこと何か用事があるんだ」


「そうみたいね」


言いながらアイコはため息をつく。


「一緒にあの人がいたけど……」


「あの人?」


料理部の誰かかな。

そう思ってると……


「いっきと同じクラスの演劇部の不良の……」


「あー、美香か」


きっとたまこと美香が話してて。

それからたまこが用事だって天文部の部室まで来て。

それについてきたんだろうって思う。


「アタシはあの人は嫌いだわ」


「むしろアイコが好きな人の方が少なそうだけど」


「いっきは仲がいいの?」


「うーん。話すときは話すけどそんなにって感じかな」


あくまでたまこを挟んだ関係。

友達の友達ってところ。


「来年、同じクラスになりたくなわ」


「美香は別に何もないと思うけどね」


今は教室ですることといったら。

寝るか、たまこと話すか、台本を読むかって感じだから。

積極的に誰かと話すってタイプじゃないし。


「もしかして美香が怖いの?」


「怖いわけないでしょっ!」


ってすぐに反応してるところが何か怪しい。


「でもまだ先の話だし運頼みだし考えてもしょうがないでしょ」


「それもそうね」


「私はアイコと同じクラスがいいなって思ってるよ」


クラスでアイコがどんな風なのか気になるし。


「いっきはアタシのこと大好きだからねっ!」


「うん。大好きだよ」


「……っ!」


「自分で言い出してそんなに恥ずかしがらないでよ」


「うるさいわねっ!」


そんな時だった。

がちゃりって扉が開いたのは。

ケーキを持ったカナだった。

とっても美味しそうなショートケーキ。


「あっ! いっちゃん起きたんだっ!」


「うん。おはよう」


「おはようっ!」


カナはケーキを落とさなように扉をしめて中に入ってくる。


「そのケーキどうしたの?」


「作ったんだっ!」


「作ったって……朝に?」


「うんっ!」


言いながらショートケーキを机に置く。


「たまこさんに頼んで調理室を使わせてもらったんだっ!」


「だから昨日、あんなことを言ってたんだね」


「うんっ!」


昨日は嬉しくて楽しい日だった。

そして今日。

のんびり過ごすだけだと思ってた今日。

こんなに嬉しいサプライズがあるって思ってなかった。


「カナ、ありがとうっ!」


「ううん。みんなに食べてほしくて作ったからっ!」


「……こんなに上手に作れるものなのね」


感心したようにアイコは言う。


「今から食べるの?」


「そのつもり。もう4等分に切ってきたからね」


「それじゃあれも呼んでこないと行けないわね」


言いながらアイコが立ち上がる。


「私が行ってもいいんだけど……」


「いっきの寝ぼけ頭で行っても時間がかかるでしょ」


言いながら部室を出る。

すぐに乙女先生も一緒に食べるって気がついて。

そして自分から呼びに行くなんて……。

あれって呼んでるけど最初よりずっと好きになってるんだなって分かった。

私もそう。

今じゃ乙女先生以外の人は考えられないって思う。


「本当に合宿してよかったねっ!」


「うん。そうだね」


「またしようね」


「うんっ!」


次できるのは……きっと夏休み。

新入部員を入れて。

もっとたくさんの人で合宿できたら。

もっともっと楽しんだろうな。

今年はやらなかった新入部員勧誘。

来年はやってみようかなって気持ちが凄く大きくなった。

そしてずっとずっと天文部が残ってくれるといいなって思った。

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