67
乙女先生が来たのは。
2時を過ぎたぐらいで。
アイコが漫画の下書きをしてて。
私とカナは読書をしてて。
天気が良くて、日差しが気持ちよくて。
なんだかうとうとしてお昼寝をしたくなってた時だった。
乙女先生はぼさぼさ髪と開いてるのかよく分からない目が特徴的。
英語の先生だけどだらっとした感じの授業。
いつも眠そうでよく欠伸をしてる。
髪型とか服装とか色々無頓着な感じ。
乙女って名字だけどあんまり乙女って感じじゃないって思う。
あと……先生として評判がいいってわけじゃない。
質問をしにいく人に露骨に面倒くさそうな表情するし……。
でも、私は嫌いじゃなかった。
あんまり話したことないかもだけど。
でも……。
だから……。
何だか緊張する……。
「ここが天分部?」
「はっ、はいっ!」
思わず私は大きな声を出す。
いきなりの来訪だったのと。
来たのがとっても意外な人だったから。
「カナ……」
私は小声でカナに言う。
乙女先生は興味深いのかそうじゃないのか。
よく分からない感じで部室を見ている。
「もしかして乙女先生が顧問になってくれた人?」
「そうだよっ」
嬉しそうな表情のカナ。
私の驚き姿が見れて満足だったみたい。
私が驚くのを見たくて黙ってたのか……。
「アイコも知ってたの?」
アイコは乙女先生が入ってきたのを見た後。
何事もなかったかのように漫画を書くのを再開。
私のようにびっくりとか全然なかった。
「そんなことはないって思うけどな」
言いながら。
ちらっとカナはアイコを見る。
「あんまり興味ないとかじゃないかな?」
「そうかもね」
そもそもアイコは天文部じゃないし。
もしかしたら……。
アイコが天文部の人でもあんな感じかもだけど。
アイコって人見知りで無愛想だから。
「座っていい?」
一通り部室を見たのかもしれない。
乙女先生はカナを見ながら言った。
「もちろんですよっ!」
って笑顔で答えるカナ。
乙女先生は欠伸をしながら椅子に座る。
いつもの感じのように見えた。
あんまり緊張とか気負いがなさそうな感じ。
やる気がなさそうっても言えるけど……。
今もぼんやりした感じで……。
あっ、スマートフォンをいじりだした。
何をやってるのかは分からないけど。
でも……。
私が想像する先生の行動からはかけ離れてる。
それにこうやって見ると顔立ちも幼くて。
本当に化粧っ気とかなくて。
あんまり先生って感じがしない。
本当に顧問になってくれたのかな?
騙されてないよね?
そんなことを考えてしまう。
何かを話しかけなくちゃいけないと思うけど。
その前にしなくちゃいけないことがあると思うけど。
何だか乙女先生が悪い意味で馴染みすぎて……。
初めて来る場所で緊張とかしないでくつろげるのは素直に凄いって思った。
「あの……」
私が感心してたら。
カナが乙女先生に声をかける。
「どうかしたの?」
乙女先生は顔を上げてカナを見た。
何だか面倒くさいオーラを出してる。
「自己紹介とかした方がいいと思うんですけど」
「自己紹介?」
頭の上にはてながある感じ。
「はい。一応、天文部の顧問になって貰ったんだし……」
「そっか」
言いながらスマートフォンを置く。
「そいえばそういうのもしなくちゃいけないよね」
そしてのんびりした感じで言った。
何だかカナの方が先生っぽい……。
「わたしは乙女小百合……です」
こほんと小さくせきをする。
あんまりこういうのに慣れてないみたい。
「カナさんに頼まれて顧問になりました」
言いながら小さく頭を下げる。
「これでいい?」
そしてカナに言った。
何だか本当に先生なのかって思う。
カナもちょっと動揺してるみたい。
「ありがとうございます」
それでも冷静に言った。
本当にカナが大人っぽく見える。
ちなみにアイコは相変わらず漫画を書いてる。
我関せずって感じで。
「わたしはカナです。部長をしてます」
「私はいつきです。えっと……よろしくお願いします」
私とカナはそれぞれ自己紹介。
本当に簡単にって感じだけど……。
「カナさんといつきさんね……」
言いながら視線を動かす。
その先にはアイコがいた。
「あれが飛び入り参加で合宿だけの人?」
「はい。アイコさんです」
「ふーん」
興味あるのかないのかよく分からない。
本当に不思議な人だなって思う。
「流れで顧問になったんだけどね」
「はい」
「忙しくないよね?」
「そうですね」
「いつもこんな感じ?」
「はい。こんな雰囲気です」
カナの言葉に乙女先生は表情を変える。
何だかちょっと嬉しそう。
「良かった。こんなのなら続けれるかも」
言いながら机にべたりとくっつく。
さらっとこんなのって言われたけど……。
「でも顧問になってくださって嬉しいです」
「そう?」
「はいっ!」
って言ったのは私。
「えっと……。おかげで合宿もすることができましたし」
「合宿ねー。夜に天体観測するんでしょ?」
「そのつもりです」
「わたしもいなくちゃいけないよね?」
あからさまに面倒くさそうな乙女先生。
厳しい先生じゃなくて良かったって思ってる。
けどここまでやる気がないのもどうなんだろうって思う。
「……いないと駄目なの?」
私はカナに聞く。
カナは少し考えて言った。
「はい。同伴していただかないと屋上にいけませんし……」
「見回りとか絶対にあるよね」
はぁってため息をつく。
「わたしってあんまり信用なさそうだからなー」
職員室でもこんな感じなのかな?
流石に違うよねって思いたい。
何だか凄く心配になってくる。
「でも星見るだけなら楽でいいか」
「あまり迷惑はかけないと思います」
「うん。よろしくね」
言いながら。
またスマートフォンを握る。
そして操作を始めた。
「何をしてるんですか?」
私は言った。
これから顧問になってくれる人。
できるだけ話した方がいいって思った。
「ソシャゲ」
「楽しいですか?」
「まぁまぁかな」
言いながらぽちぽちと操作する。
画面が見えないから。
どんなのかは分からない。
「カナさんとかいつきさんはやってる?」
「やってないです」
「私もあんまりゲームは」
「へー。それじゃ連絡先交換しよう」
よく分からない流れだった。
自己紹介の後なら分かるけど……。
「いいですけど……」
カナも同じように思ったみたい。
でもスマートフォンを出して連絡先を交換。
メッセージアプリに乙女先生の名前が表示される。
アイコンは可愛い女の子。
もしかしたらこの女の子が出るゲームをやってるのかもしれない。
先生と連絡先を交換したのは初めてだ。
ちょっとうれ‥…
「あっ……」
すぐに先生からメッセージ。
何だろうって思ってると……。
「先生……」
静かに。
呆れたようにカナは言う。
「いきなりゲームの勧誘メッセージを送らないでください」
私にも同じのがきてた。
パズルゲームのお誘いメッセージ。
「2人が登録してくれたら石がもらえるんだ」
「…………」
「石がもらえたらわたしがガチャできるんだ」
「…………」
「顧問になってあげたんだしそれぐらいいいよね?」
「それぐらいなら……」
根負けした私はメッセージを押した。
すぐにゲームの登録画面が表示された。
「いっちゃんがするなら……」
カナも操作をする。
本当に不満そうっていうか……。
「やった!」
そんな中、無邪気に喜ぶ乙女先生。
何だか先生って呼ぶのも疲れる気がする……。
「面白いからやってみるのもおすすめ」
「そうですね……」
でもちょっとはやってもいいかなって思う。
せっかくの機会だしって。
「えっと……アイコさんだっけ?」
まだ石が欲しいのかもしれない。
今度はアイコに声をかけるけど……。
「アタシはガラゲーだから」
一刀両断的に言った。
とっても棘がある言葉だった。
「珍しいね」
「安いし」
「ふーん。でも連絡先、一応交換しよう」
「……分かったわ」
意外だなって思った。
てっきり断るかもって思ったから。
でも考えたらアイオが合宿できる恩人。
だから断りにくかったのかもしれない。
「本当にガラゲーだー」
アイコの携帯電話を見て言う。
そういえば私もアイコの携帯電話を見るのは初めて。
「何だか懐かしいね」
「アタシにとっては現在進行だけどね」
言いながらぽちぽちと操作する。
っていうかアイコ、先生に敬語使ってないんだけど……。
でも乙女先生は気にしてなさそう。
だからいいかもしれないって思った。
もちろん私は真似出来ないけど。
「思ったんだけどそれ漫画かいてるの?」
「そうよ」
「職員室で話題になってたからね」
「話題になってたんですか?」
思わず聞いてしまった。
アイコの漫画が話題に?
何でだろう?
そう思ってると……
「アイコさんが進学しないって話題」
そっちだったのかって思った。
でも話題になるよねって思う。
私とかが進学しないのとは訳が違うから。
「どうやって説得しようとか話してたよ」
そんな話を本人にしていいのかな?
何だかちょっと怖くなってくる。
乙女先生は本当に何も考えてなさそうだから。
「進路をどうしようとアタシの勝手でしょ」
「そりゃそうだよね」
あっさりとした感じだった。
「自分の人生の責任は自分で取るしかないからね」
あっ。
って思った。
何だか先生っぽいって。
「2人は進路とか考えてるの?」
「わたしはまだ何も……」
「私は司書の先生になりたいなって」
「へー。そうなんだ」
意味ありげに廊下の方を見る乙女先生。
すぐに視線を戻して私を見る。
「それって杉森先生の影響?」
「そうです」
「あの先生は凄くいい人だよね」
「はい。とっても」
私の進路にとっても影響するぐらい。
「飲み会の時とかよく家まで連れてってもらってるし」
「迷惑かけてるんですね」
って言ったのはカナ。
何だか冷ややかな感じ。
私は羨ましいって思った。
杉森先生と一緒にご飯とか食べて。
それに家に送ってもらえるなんてって。
「乙女先生は何で先生になられたんですか?」
「うーん。楽そうだったから?」
「楽そう?」
「だって学校って休み長いじゃない」
「夏休みとか冬休みとかですか?」
「そう。だからたくさん休めるって思ったんだけど……」
はぁって深々とため息をつく。
「でも先生は休めないんだよ。色々やることが多くて……」
「それはそうですよ……」
それぐらいは私だって知ってた。
「何だか詐欺にあった気分」
乙女先生は冗談を言ってる。
そう思いたかったけど。
でも真面目な声と表情だった。
「他の先生からとっても怒られるし」
やっぱり怒られてるんだ……。
「想像以上に大変だなって思う」
「想像と違って辞めようって思わないんですか?」
「辞めたいって思ったことはあるけど……」
「あるけど?」
「他の仕事も同じぐらい大変なんだろうなーって」
「それは……そうですね」
「それなら先生がいいかなって。教えるのは嫌いじゃないし」
ちょうどその時だった。
放送のチャイムが鳴って……。
「乙女先生、今すぐ職員室へ来てください。繰り返します……」
乙女先生が呼び出しをくらった。
とってもげんなりした表情。
行きたくないってすぐに分かった。
「部活の顔見せってことで会議をさぼってたんだよね」
時計を見ると。
乙女先生が来て思った以上に時間が経過してる。
もしかしたらサボってるのがばれたのかもしれない。
そもそも会議の時間にわざわざ来る必要もないんだし……。
「さすがに行った方がいいと思いますよ」
カナに言われて乙女先生はゆっくりと立ち上がる。
「行かなかったらもの凄く怒られそうだしね……」
言いながらのろのろと扉へ向かう。
「あ、夕方にまた来るから」
「分かりました」
「よろしくお願いします」
私とカナは同時に言った。
アイコは何も言わなかった。
そして乙女先生は扉を開けて部室を出る。
「……あの人でいいわけ?」
すぐにアイコは言った。
「頼りなさそうってレベルじゃないけど」
「……わたしも何だか想像以上だったよ」
「何であの人に頼んだの?」
「他に人がいなかったし……」
「それでも選び方ってものがあるでしょ」
「私は乙女先生でいいって思う」
少なくとも悪い先生じゃない。
そりゃいい先生ってわけじゃないけど。
でも。
いい人だってのは何となく分かった。
「変にやる気出されるより良さそうだしね」
何だか私は思い出す。
顧問が変わって雰囲気も変わった吹奏楽部のこと。
私はこの天文部の雰囲気が好き。
だからここに馴染んでくれる乙女先生で良かったって思う。
それに……。
少しの時間話しただけだけど。
乙女先生は色々と駄目なところがたくさんある。
でもって思う。
私はアイコを見ながら言った。
「乙女先生のおかげで一緒に星が見れるんだからね」
それだけで私にとってはとってもいい先生だ。




