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「忘れ物はないの?」
「大丈夫っ!」
「ちゃんと確認した?」
「したってばっ!」
「本当?」
「忘れてたら戻ってくるから大丈夫っ!」
「それって大丈夫って言うのかしら……」
言いながらお母さんがため息をつく。
本当に心配症だなって思う。
本当に大事なものはすでに部室に置いてる。
今日必要なものは着替えとかそういうの。
だからそこまで心配する必要はないって思う。
でも、私は小言っぽいことにも動じない。
だって今日は待ちに待った合宿日和!
一泊二日で夜に屋上で星を見る!
天気もバッチリ。
顧問の先生も無事、引き受けてもらえた。
まだ誰かは分からない。
優しい先生だといいなって思ってる。
私は時計を見る。
待ち合わせ時間には少し早いぐらい。
でも……。
もう出ようって思った。
何だかそわそわしすぎて落ち着かないから。
「そろそろ行くねっ!」
「そうなの? お弁当忘れないでね」
「うんっ! ありがとうっ!」
お昼はお弁当。
夜は料理部が作ってくれるご馳走っ!
昼はいつも通り過ごして。
夕ご飯に美味しいものを食べて。
ゆったり過ごして。
屋上で天体観測をして。
お風呂に入って。
部室で眠る。
何だか日常的な非日常みたいで。
想像しただけで胸がいっぱいになる!
「行ってきますっ!」
今すぐ駆け出したいっ!
そんな気持ちを抑えつつ。
私は家を出た。
「お土産よろしくねー」
そんな気が抜けた言葉が聞こえる。
とびっきりの思い出話を持って帰ろうって思った。
……
…………
………………
早く家を出過ぎたから。
珍しく私の方が待ち合わせ場所に早く着いた。
なんだか新鮮な感じ。
いつもはカナがいるけど、そうじゃないから。
少し前と違って。
カナが来てくれるっていうわくわくがあるから。
私を見下ろす空はとっても快晴。
いいお天気。
夏と違って日差しが気持ちいい。
適度にある雲がなんだかいい雰囲気を作ってる。
何だかこのまま眠ってもいいぐらいに。
気持ちいいって思った。
「お待たせっ!」
そんな時に聞こえた声。
もちろん、カナの声。
「いっちゃんより遅くなっちゃったね」
「私が早く着きすぎただけだからね」
実際、時計を見ると。
今の時間は待ち合わせ時間よりずっと早い。
「わくわくして早く家を出たんだ」
「いっちゃんってうきうきが抑えられないタイプだよね」
「うん。そうかも」
「わたしもそういうところあるんだけどねっ!」
「うん。そうっぽい」
「このいい天気を見たら……」
カナは空を見上げる。
私も一緒に見た。
「なんだかわくわくしてくるよね」
「うん。いい天気でよかったよね」
「てるてる坊主作ってお願いしてたからっ!」
「私もだよっ!」
そんなの意味ないのにって。
お母さんには馬鹿にされたけど。
でもお父さんは一緒に作ってくれた。
青くて、綺麗な空。
しばらくしたら。
太陽が沈んで。
暗くなって。
そしてたくさんの星が見れるようになる。
「いい合宿になるといいねっ!」
笑顔でカナが言う。
「うんっ!」
私も笑顔で言った。
そんな感じで笑い合いながら。
私とカナは学校へ向かう。
合宿への第一歩!
合宿っていっても。
メインは屋上での天体観測。
だから昼間はあんまりやることはない。
だけど。
早く学校に行きたいな。
そんな風に思ってる。
私は並んで歩くカナを見る。
うきうきが伝わってくる表情。
きっとカナも私と同じなんだなって思った。
……
…………
………………
「遅いわよっ!」
部室の入って飛んできた言葉。
天文部の部室。
なぜかアイコがいて漫画を書いてた。
そしてなぜか私達に文句を飛ばしてくる。
「もう昼じゃないっ! 合宿なのにのんびりしすぎじゃないっ!」
なぜかぷりぷりってしてる。
もしかしたら。
私達が早くくると思って待ってたのかも。
寂しかったのかもしれない。
だから思わず私達の姿を見て。
大きな声を出してしまった……。
って思うことにした。
それなら何だか怒る気にもなれないから。
「アイコ、漫研は?」
「あっちは今ごたごたしてるから」
「ごたごた?」
って聞いたのはカナ。
前なら黙って私とアイコのお喋りを聞いてた。
でも今は。
積極的にお喋りに入ってきてくれる。
本当はそういうこと苦手かもだけど。
ちょっと無理して色々な人とコミュニケーション取ろうとしてる。
「何か喧嘩みたいなことしたの?」
「あー」
カナの言葉にアイコは言う。
「そんなんじゃないわよ」
「そうなんだ」
って言ったのは私。
また揉め事かと思って心配だった。
「コスプレ衣装作りでしっちゃかめっちゃかなのよ」
「コスプレ……」
「なんかそういうイベントとかあったっけ?」
文化祭はずっと前に終わったし……。
新入生勧誘はずっと後だし……。
「コミケよ。コミケ」
「コミケ?」
カナは何なのか分からないって感じだった。
私は一応、知識として知ってる。
アニメとかでもたまに出る。
それにナツミが行きたいって凄く言ってたから覚えてる。
「色々な漫画とか売ってる市場みたいなのだよ」
私はカナに説明した。
多分、色々と足りない説明だって分かってる。
でもあんまり詳しく言わなくていいとも思ってる。
「そう。色々なものが売ってるわ」
言いながら意地悪そうに微笑むアイコ。
「その……コミケっていうのに漫研で行くの?」
「全員じゃないけどね」
「アイコは行かなさそう」
「行かないわ」
はぁってため息をつきながらアイコは言う。
「行くわけないでしょ」
「何で?」
って思わず聞いた。
アイコなら売る方でも参加しそうだって思うけど……。
だからアイコが行かないのはちょっと不思議。
そう思ってると。
「人がたくさんいるから」
単刀直入な答えが返ってきた。
「20万人以上の人が集まるのよ。ぞっとするわ」
そう言われたら。
アイコは行かないよねって素直に思えた。
アイコは私と同じ……ううん。
私以上に大人数が苦手みたい。
「愛姫はうざいぐらいに誘ってきたけど」
「愛姫は行くんだ」
「うんざりするぐらいにテンション高いわよ」
「テンションが高い藍姫さんって想像できない……」
そうカナはつぶやく。
きっとカナはあんまり藍姫と話さないから。
そう考えてしまうんだって思う。
私とアイコはテンションが高い藍姫を簡単に想像できる。
藍姫はああ見えて意外とうるさいタイプ。
周りに苦手な人がいると途端に黙り込むけど。
「でも今からそんなテンションで大丈夫なの?」
コミケは確か年末にある。
もうすぐといえばもうすぐだけど……。
「テンションが高すぎて深夜バスで迷惑をかけないかが心配だわ」
「深夜バスで行くんだっ!」
ってカナは驚く。
「東京までは遠いしお金もないしね」
「大変そうだね」
「そういうのも楽しいらしわ」
大変なのが楽しい。
その気持は分かる。
けど私もあんまりコミケには行こうと思わない。
深夜バスはきつそうだし。
東京とかにあんまり憧れもないし。
それにやっぱり人が多いのは苦手だし。
「来年の夏と冬は受験だから今のうちにってこと」
「もう受験勉強してる人もいるしね」
私もそろそろしっかり考えないといけない。
でも、やりたいことは決まってる。
やっぱり図書室の先生になりたい。
お母さんとお父さんにも話した。
お父さんは立派な夢だなって言ってくれた。
お母さんはあんまり興味なさそうだった。
でも、反対とかはなかった。
だから今は先生と話しながら大学か短大を選んでるところ。
「わたしはまだどうしようかって悩んでるところ」
そういえばって思う。
カアが将来したいこととか聞いたことが無いって。
何だかなカナは。
ずっと今を生きてきたような感じだった。
「カナなら大抵のところなら行けるでしょ」
ってアイコは言う。
何だか意地悪な感じがした。
「アイコだって難しい大学に行くの?」
アイコはとっても頭がいいから。
きっと私じゃ受験もできないようなところに行くって思った。
でも……。
「は?」
アイコは言った。
何言ってるのみたいな感じで。
「アタシは大学行かないわよ」
その言葉に。
何だか私とカナはびっくりしてしまった。
「それじゃ専門学校とか?」
ってカナはいう。
私もそれが頭に浮かんだ。
漫画とかかく専門学校……。
そういうのもあるって知ってたから。
「そんなの行くわけ無いでしょ」
でもそれも違った。
「行くだけ無駄とまでは言わないけど、払う金額のリターンがないと思うわ」
「それじゃ……」
「フリーターしながら漫画を投稿する」
宣言するようにアイコは言った。
「理想は今書いてるのでデビューできることなんだけど」
言いながら原稿を私とカナに見せる。
今書いてるのは応募用だったんだ……。
本気で夢のために書いてるんだ。
「そんなに甘いものでも自分に才能があるわけでもないって思うわ」
「でも漫画なら大学行きながら……」
「アタシの家は貧乏なのよ」
カナの言葉が終わる前にアイコは言った。
きっとそう言われるだろうって予想してたんだって思う。
「片親だしね。そこらへんはしょーがないわ」
さばさばとした感じでアイコは言った。
「親とか先生は行くべきだっていうけどね」
「それはそうだろうね」
私だって。
行ったほうがいいとか説得するべきじゃないかな?
そうちょっとだけ思ってる。
でもアイコは本気だってことも分かってる。
それに頑固だってことも。
「大学は行きたくなったら自分のお金で行くって決めてるの」
言いながらアイコは鉛筆を持つ。
今は下書きみたい。
「だからしばらくは漫画に集中するわ」
「アイコさんも色々考えてるんだね」
つぶやくような。
カナの言葉。
「考えなきゃいけないってのも多いわ」
そうアイコは笑いながら言う。
「でも貧乏だから真っ直ぐしかみれない。それはいいことだって思ってる」
視線の先にいるのは。
いつものアイコ。
でも何だか普段と違って見えた。
「そういうわけで部室が静かになるまで」
部室は漫研部の部室のこと。
今もきっと騒がしい部屋。
「ここで漫画を書かせてもらうわ」
「うん」
私がいうより早く。
カナは言った。
「好きなだけいていいと思うよ」
「ありがと」
何ってことない会話かもしれない。
でも。
何だか凄く嬉しかった。
「そういえば私達は今日、合宿なんだけど……」
「そうだっけ?」
「うん。言ってたよね……」
私の言葉にアイコは考え込む。
「聞いてたけど今日だってことは忘れてたわ」
そしてあっさりと言った。
「でも昼間は関係ないでしょ?」
「そうだけど……」
「アイコさんもどうかな?」
私が言おうとした言葉。
それをカナが言ってくれた。
ちょっと前なら。
カナがアイコを合宿に誘おうなんて。
絶対に考えられなかったことだって思う。
「アイコさんは一緒に部誌を作ったしよく部室に来るし……」
「一緒に星を見て一緒に泊まろうってこと?」
「うん。先生に確認とか行かなくちゃいけないけど……」
「アタシもいていいの?」
「うん。アイコさんがいたいっていうなら……」
「…………」
ちょっとした沈黙時間。
アイコがどうしようか迷ってるんだって思う。
「分かったわ」
そして言った。
「カナにそう言われたら断れないでしょ」
「ありがとうっ!」
カナは嬉しそうに微笑む。
私も凄く嬉しい。
「それじゃ先生に聞いてみるねっ!」
言いながらカナは教室を出た。
先生っていうのは担任になってくれた先生だって思う。
まだ誰なのか分からないけど。
どんな先生だろう。
改めて気になってると……
「ねぇ」
アイコの声がした。
「どうかしたの?」
「カナ、なんか無理してるんじゃない?」
カナはもう部室から離れてて。
普通に話しても聞こえないって思う。
でもなぜかアイコは小声で話をする。
「無理してるって?」
だから私の声も自然と小さくなる。
「だって本当はいっきと2人がいいに決まってるじゃない」
「そうかな?」
「そうよっ!」
なぜかアイコが怒ったように言う。
「でもアイコとも合宿したいって思ってるんじゃない?」
そうじゃないと。
あんな風に誘わないって思う。
あんなに早く先生に相談にいかないと思う。
「そうかもしれないわ」
ため息をつきながら言う。
「人は他人の本当の気持ちは分からないしね」
「……そうだね」
何だか寂しい言葉。
でも。
だからちゃんと話したりしないといけないって分かってる。
そこをちゃんとしないと。
大変なことになるって。
「でもカナが無理してるのもいいことだって思う」
「いっきは本当にそう思うの?」
「うん」
嫌いなものを好きになる。
きっととっても大変なことだって分かる。
「カナは頑張ってる」
みんなに謝って。
みんなと友達になって。
みんなと仲良くなる。
今までカナがしてこなかったこと。
「だから私はそれを応援、手助けしたいって」
「それならいいわ」
アイコの声が普通に戻った。
「カナが誘ってくれるのは嬉しいけど……」
「嬉しいけど?」
「またいつ爆発するか怖くてね」
「そうだね」
「笑い事じゃないわよ」
「分かってる」
「……天体観測するって言ってたわよね?」
「うん」
「アタシ初めてかも」
「そうなの?」
「何となく星を見たことはあるけどね」
「そうなんだ」
「だからちょっと楽しみ」
「私もっ!」
今日はアイコとも天体観測ができる。
まだ誰か分からないけど顧問の先生とも。
「もっとも先生に許可がもらえたらだけどね」
「そうだね」
まだアイコが合宿に参加できるか決まってない。
でもきっと大丈夫だって思う。
だって今日はとってもいい天気なんだから。




