表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

23:竜殺しの貧乳

 ここは、剣と魔法の国・ルミナス王国。その中流家庭に生まれたソフィーリアは、王国騎士団長の秘書官である。トルト冒険者ギルドで数多の苦難を乗り越えた後、王都に戻り、誇り高き重大な職務に着いて……いるのであるが。


「いい加減、とっとと決めて下さい!ほら、このロザリー様なんてどうですか?この中じゃ一番見目麗しく、かつ淑やかそうですよ?……っていうか、何であたしがこんなことしなくちゃいけないんですか!」


 王国騎士団長の執務室で、ソフィーリアは上司に対し罵声を浴びせている。机の上には、何枚もの女性の肖像画。上司である騎士団長・カイルは、うんざりした顔で自らの金髪をもてあそんでいる。


「あ、ソフィーリアが決めてくれてもいいですよ。むしろ、決めて下さい。適当でいいですから」

「ダメです!騎士団長のお見合い相手なんですよ?あたしが選んでどうするんですか!それに、これはあたしの仕事じゃないと思うんですけど!」


 秘書官の仕事は、上司の職務の補佐やスケジュール管理である。次のお見合い相手を決める、などという私用を任されているのは、ソフィーリアくらいだろう。しかも、その内容が面白くない。メリッサをはじめ、同期たちが次々と結婚していく。さらに、妹のアリシアまで、婚約が決まってしまったのだ。当のソフィーリアといえば、恋の予感はこれっぽっちもない。男ばかりの王国騎士団に配属されたのだから、ロマンスの一つや二つもあるのかと思っていたのだが。


(騎士のみんなが、あたしに対してよそよそしいのって、騎士団長と踊ったせいなんだろうな……)


 ソフィーリアに近づく男性がいないのは、絶対にそのせいだと彼女は考えている。身分が違うので、結婚はできないが、彼女は騎士団長の女だと思われている、と。ソフィーリア自身は、たとえ身分の障害がなくても、騎士団長とだけは恋仲になりたくないと思っている。


「だいたい、騎士団長が言いだしたんですからね。私は次男だから家を継がなくていい、だから結婚相手も自分で決めるって!」

「いやあ、それなんですけど、今思うと面倒ですよね……。やっぱり父に選んでもらった方がいいですよねえ」

「ああもう、シュレンジア伯爵にそう伝えておきます!」


 ソフィーリアは、ぷりぷりと蒸気を発しながら執務室を出る。働き出してすぐにわかったのだが、彼女の上司は仕事以外のことがけっこうルーズだった。特に、自分の家に関してのことはからっきし興味がない。伯爵家の行事を忘れて、勝手に他の約束を入れていることもあり、秘書官としては頭の痛い相手である。


「ったく、騎士団長ったらホントにだらしない……」


 そう呟きながら、ソフィーリアは王宮の廊下を歩いていく。今月は、国王の誕生日があり、式典の準備もしなくてはならない。息つく暇もないほど忙しい毎日だが、ソフィーリアの心は満たされている。一時は、トルトを離れたくないとギルド長に駄々をこねたが――あの時平手打ちをくらって、本当に良かったと思う。あの一発が無ければ、自分はこんな日々を過ごせなかっただろう。

 ミースからは、たまに手紙が来る。ドラゴンの一件があってから、トルト周辺の環境に影響が出たようで、モンスターの生息域に変化があったらしい。しかし、それは大したことはないという。今問題になっているのは、トルトがちょっとした観光地になってしまったということで、ドラゴンの出たクフルの森には観光客が大勢詰めかけているらしい。国から兵士が派遣されているので、人手は何とかなっているようだ。ネフも元気だし、ギルド長も……まあ、相変わらずだということだ。


「騎士団長も、もうちょっと真面目に働いてくれれば、あたしの仕事も減るのになあ。顔ばっかり綺麗で、ちっとも役に立たないんだから……」


 悪態をつきながらも、その顔は嬉しそうだ。


「うっわあ、すげえ度胸だな、エステリオス秘書官って」

「ああ、噂通りだな」


 そんな彼女の後ろ姿を見ながら、新米の騎士たちがコソコソと話しだす。


「騎士団長にあんな口のきき方できるのって、王様とあの秘書官だけらしいぜ」

「見た目は普通の女の子なのに、おっかねえなあ」

「何しろ竜殺しの……アレだもんな」

「そうそう、竜殺しの貧乳」


 いつの頃からか、ソフィーリアはそう呼ばれるようになっていた。噂にはいくつもの尾ひれがついていて、禁じられた魔法の使い手だとか、彼女に目をつけられると呪い殺されるとか、王国騎士団を陰で牛耳っているとか、有り難くないものもある。そんなわけで、彼女が結婚できるのは、まだまだ先の話である。


(さてと、もう一仕事しますか!)


 空は突き抜けるような青。麗らかな風が、ルミナス王国を駆け巡る。王宮の外に出たソフィーリアは、両腕を天に伸ばし、大きく深呼吸をする。その平らな胸には、未だに持ち続けている玉の輿の野望と、トルト冒険者ギルドでの思い出がたくさん詰まっているのであった。

 拙作を読んでいただき、誠にありがとうございました。このサイトでは、「喪女のVRMMORPG日記」に続き二作目となります。今作の主人公は、結局モテないまま終わりますが(笑)、いつかは結婚できると思います。

 次回作は未定ですが、いつかお会いできるかもしれません。その時はよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても読みやすく、あっという間に読み終わりました。 [一言] 短い小説なのですが、つい感情移入してしまい、涙が出る場面もありました。 登場人物のキャラもわかりやすく書かれていて、とても読…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ