第21話. 戦士の瞳に刻まれし場違いな力
無機質で、弾けるような音が響き渡り、冷たい闇に溶ける──
クリス・オーヴァス病院の前にいたのは、負傷した兵士──
そして、彼が片手で介抱するのはおそらく彼をここまで連れて来ようとしたが、何者かに正体不明の武器により胸部を撃たれ、創部より多量の血を流す騎士ナスタジオ。
その心肺は既に停止していた。
カミーノは懸命に処置を行うも反応はなく……どうやら彼は心臓を貫かれており、即死だった。
魔導士の中には、治療に活用できる魔法を用いる者も存在する
それには“いたわる意思”による傷口の浄化、毒を消すものであったり、あるいは“想像の意思”による生体に適した構造物を生み出し傷口を塞ぐ、あるいは覆い補強するといった手段がある。
しかし、そういった魔法を使用出来る人物は極めて限られている上に、個人が原動力とする意思──感情は成人の場合、原則として1人一種類に絞られる。すなわち複数種類の意思を用いた魔法を使うには、成人になる前に習得しておかねばならない。
カミーノは、強くはないが魔法に適性があり、“いたわる意思”の使い手であった。彼は成人になる前からの修練や、アストリア13国のひとつ"医と癒しの国 ラピオス"で修行を積んだこともあり、ある程度であれば傷口にも対応はできる魔法を有していた。
──が、ナスタジオに対する傷は瞬間的で当たりどころが致命的だった。
失われた生命を再生する魔法は、存在しない。
院内の、寝台がならぶ一室。
そこは幾つかある処置スペースのひとつだ。そこは丁度正面からの魔物の侵入に対応することができ、奥で処置を終えた他の負傷した兵士を守り対応することのできる位置にある。ただし、銀の焔は施設の確保で使い果たし、消えてしまっていた。
帷幕で仕切られた薄暗い部屋の中、事切れた騎士をカミーノ、そして2人の女性騎士が囲み、突然の別れ、悲しみに暮れていた。彼をここに連れた寝台に横たわる兵士もその様相に目を伏せる
「・・・ナスタジオさん・・・そんな、急すぎます・・・」
"騎士戦闘ランク21位 疾風の刃 フーカ" フーカ=ストレリシア
黒髪のショートボブをした軽装の女性が涙ぐむ。その腰には投げナイフの一種、スローイングダガーが携えられている。
「残念です・・・。彼がいてくれたおかげで、私たちは互いを信じ、まっすぐに繋がり、共に戦ってこられたのに」
"騎士戦闘ランク4位 青き胡蝶 ミレイア=ロズレーン
オレンジゴールドの長髪の女性は悔やんだ。その身は機能性を重視した白と金が混ざる流線型のメイルに包まれ、蛇のように蛇行した片手剣を携えている。
偲ぶ二人、カミーノはかねてからの疑問を覚えていた。
命を奪った瞬間を目撃したわけではない。が、その主、仮面の男が逃げる様は目にしており——あれはどう見ても戦闘をするタイプではなかった。ナスタジオと真正面から戦って、勝てる様な者ではない。
そして、この殺され方はこれまで経験したものとは異なった異様さを放っていた。
(しかし、この傷・・・凶器は何だ)
(撃ち抜かれた痕・・・だが弓の様なものは持っていなかった。そしてあの男……どこかで見覚えがあるような気がする)
「すまない・・・」
負傷した兵士がカミーノに声をかける。左の手と腕、そして右脚には処置が施されていた。
武と剣の国シルベニアより妻子と共に訪れた歴戦の戦士 フィリベルト=グラム。剣技の名家だけありその武勲は輝かしく、40代半ばにして騎士にも負けず劣らずの実績があった。
「彼は、私をここまで連れるために・・・助けようとしてくれたんだ。私のせいで、こんな・・・」
(・・・)
「……気に病むことはない、フィリベルト。よく、ここまで来てくれた」
「……手足はやられたが、私はまだ、ここで果てるわけにはいかない。あなたのおかげでいくらか楽になった・・・」
「そうか……」
(フィリベルト……彼も、負傷の仕方がただ事ではない。尋ねなければ)
カミーノは処置の最中、その様相に異様さを感じとっていた。
激痛で細かく聞き取ることはできていなかったが、折られ腫れあがった手足、しかしその表面には何も傷がなかったのだ。
「もし話せそうならば、教えてほしい。君自身が見たことを。彼は、ナスタジオは決して弱くはない……いったい何があった」
「・・・」
フィリベルトは天井を見つめながら話す。
「見たことのない武器だった・・・逃げる様子をあなたも見ていたように思うが・・・あの手に握っていた、小さな筒の様なものがついたモノだ」
「なっ・・・!」
(あれが・・・!あの小さなものがナスタジオの命を奪ったというのか!?)
(大砲を手に収まるようにしたような武器・・・あれは確実に、この国のものではない)
「奴は……何か端末の様なものを手にしながら、彼にこう言っていた……『みつけたぞ、"ナスタジオ"』——と。知っているようだった……互いの名前も」
「名前だと!?」
「たしかナスタジオ様が撃たれる前、あの男のことを『ペレトルド』、と呼んでいたような——私がシルベニアから家族と共にこの地に来る前に居た男なのだろうか……」
「!!?」
(思い出した・・・!あいつか!!あの貴族司祭が何故今になって!?)
仮面の奥は見えなかったが、その者の名前を聞き、外観と様相からカミーノの脳裏に記憶が結ばれ、合致する。
「彼は、かつてこの国にいた司祭だ。悍ましいの悪事を働き、騎士団長によって追放された筈だが・・・」
「そうなのか……団長によって……」
フィリベルトは、どこか遠い目をする。
「・・・」
そして、低い声で力強く、こう言った。
「みんな、気を付けてくれ」
「フィリベルト……」
「アヴィオール様……私たちの騎士団長の姿と顔を奪った化け物が、この城下町まで下りてきている」
「なに!?」
「私は・・・それに出会い、やられたんだ・・・。アイツは愉しんでいる、この国が壊れる様を」
由々しき出来事。決死の城の防衛、そして王女の警護の際に団長と同じ姿をした得体の知れない化け物の存在は、騎士であれば知っていた。焔を失った彼らが今遭遇すれば、抗う手立てはない。気づけばフーカ、ミレイアも共に聞き入っていた。
AI非使用




