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第7話 最強ボス対有象無象の小悪党ども

 

「うわぁ。蟻みたい。気持ち悪。どこに向かってるんだろう。」


 どうやらこの大量のプレイヤーたちは森の中央を目指しているみたいだ。


 何の意図をもって森の中央に向かうのか気になったメアリーはとりあえずこの群れの最前列に向かおうとした。

 

「姿は……夜血の羽衣着ているしばれないか。」


 夜血の羽衣の1つ目のスキルは夜の時間帯には自分より格下の存在は視認することができないというものだ。この場合の格下はレベル差が50以上のことを指しているらしく差が50を下回れば下回るほど効果が薄れていく。それと注意点として、1度視認されればこの効果はなくなって視認できるらしい。

 

 今のプレイヤーにばれる心配はないといっても、万が一のことを考えて、メアリーは最前列に向かうまで、一切の音を出さないようにして移動していった。


 しばらく進んでいくとようやく最前線らしきところに合流し、その先頭にいるものが何やら他のプレイヤーに指示を飛ばしていることに気づいた。


 メアリーは少し離れたところに着地をして、何食わぬ顔で最前列に紛れ込んだ。

 

 「なるほど、執行者とプレイヤーの戦闘跡を見つけたと。そこに居なくとも付近には必ずいるだろ。戦闘は避けて、付近にいないか探せ。」


 なるほど、私を探しているのは間違いないか。ならもうちょっと近づいて……


 ――パキッ


 やっば思いっ切り木の枝踏んじゃった。ばれてない、よね?


 恐る恐る顔を上げて周りを確認するとリーダーらしき人物がこちらを見ているようだった。


 ひやりとメアリーの首筋に冷たい汗が流れる。

 

「この人数じゃあ意味ねぇがそれでも足元には気をつけろ。いつ執行者が攻めてくるかはわからんからな。」


「す、すいません!」


 どうやら一番近くにいたプレイヤーが踏んだと勘違いしたみたいだ。すぐに前を向くと再び歩きだした。


 あっぶな!足元には気を付けないと。ばれてないみたいでよかった。あ、おいてかれてる。待って~!


「…………どく消耗している。かなりいい勝負だったと報告に上がってるからな。そこを数でドカンとやりゃあカスでも勝てるだろ。」


 なるほど。疲れ切ったところを大人数でボコボコにするということか。人の心とかないんか?


「さすがリーダーですね。卑怯です。それにしてもどうやら執行者は敵を作りすぎたようですね。もともとここまで増える予定まではなかったのですが……。やはり最前線の覇王ギルドと対執行者を掲げる退魔ギルドの協力を仰げたのが一番効果ありましたね。」


「やっぱ言ってみるものです!さすがにギルマスや副ギルマスまでは出てきませんでしたがそれでも十分です!」


 横にいる髪色の似た2人、兄妹なのかな?中心の男と仲良くしゃべっているようだね。


「そうだな。特にゴミクズプレイヤーも釣れたのはありがてぇ。」


「うへぇ。どうします?処分します?」


「別にわざわざ手を下す必要もねぇだろ。折角ばれずにやってんのにこれでばれたら元も子もねえ。それよりそろそろ中央だ。これを使うから邪魔がはいらねぇようにしろ。」


「了解です。」


「は~い。」


 リーダー格の男は、丸い玉を取り出すとそれを地面に置いた。それをみた2人は周りのプレイヤーたちに周りを囲むように指示を出した。


 メアリーは円の中に入り込んで特等席でそれを鑑賞しようとする。周りが囲み終わったのを確認した男は玉を使った儀式のようなものを始めた。


「<ユニークボスエネミー>執行者メアリーの在処を示せ。」


 男がそういうとたちまち辺りが騒がしくなった。すぐにアナウンスも入り、メアリーが現れたことに全員が気づいた。

 

「まさかこんな近くに居やがるとは驚きだ。だが油断したようだな。この数のプレイヤーたちが相手だ。一筋縄でいくと思うなよ?」


 男はそう言うと後退し、己の武器である銃を装備した。


「このゲーム銃なんてものもあるんだ。つくづく自由度の高いゲームだね。」


「あん?その物言いお前NPCじゃなくて人間か?」


「あれ、知らなかった?結構みんな知ってると思ったのに。」


 別に隠すものでもないし会話できてる時点である程度予想できてたと思ってたんだけどな。


「まあなんでもいい。とりあえず死んどけ。『消音(サイレント)』」

 

 男は銃を構えると即座に発泡した。音のない弾は正確にメアリーの頭と心臓を狙い撃つ。


「剣技『血車』」


 メアリーはその場を動かず剣技を使って弾を切り捨てる。今まで100発100中、狙った獲物を確実に仕留めることをモットーにしてきた男のプライドをひどく傷つける行為であった。

 

 メアリーはそんなことなどいざ知らずに、男を無視して、後ろの方から攻めてきた数人のプレイヤーを迎え撃つ。


 「どけどけてめぇら!切り殺すぞ!執行者の手柄は俺たちのもんだ!」


 その声に追従するように、プレイヤーたちが一斉にメアリーの元に向かってくる。たちまちメアリーは空を飛ぶ間もないほど追い詰められる。


「死にさらせぇ!」


 一人のプレイヤーがメアリーの首を狙って刀を振るう。しかし、メアリーは刃が当たる寸前まで避けることをしなかった。


 「夜血の羽衣『夜纏』。」


 メアリーの姿は陰に染まり、メアリーを狙った刃は当たらず、そのままの勢いで地面に突き刺さる。


 これは夜血の羽衣の2つ目のスキル。このスキルは自分を夜と同化させて一切の物理攻撃を無効化する技。欠点としてはこれを発動するとメアリーからも攻撃できなくなることくらい。ちなみに自由オンオフが可能なので慣れればそこまで気にならないものだ。


「剣技『血車』」


 メアリーは隙だらけのプレイヤーと一緒に、付近にいたプレイヤーを武器もろとも切り裂き、まとめて討伐した。


 さらにプレイヤーを一掃しようとメアリーは畳みかける。


「血刀『紅下黒』よ。血を吸い本来の力を取り戻しなさい。」


 一瞬にして倒したプレイヤーから血を吸収すると、血刀は黒色がかった刀身から鮮血に染まっていった。


「スキル『串刺地獄』」


 メアリーは自らの刀を地面に突き刺すと、それに呼応するように無数の刃が辺りを無造作に貫く。周辺にいたプレイヤーはみなやられ、メアリーとの間にさらに距離が生まれる。


「バ、バケモノ……。」


 範囲外にいたプレイヤーは執行者の恐ろしさを目の当たりにし、次々とそう口を漏らした。近づこうにも血で作られた針山が邪魔をしてうかつに近づけず、半端な攻撃では血の刃に傷すらつけることができない。


「血刀『紅下黒』よ。再び血を吸いなさい。」


 八方ふさがりのプレイヤーたちにとっては悪魔のような声が再び響き渡る。


 さらに広範囲にわたって刃は地面から現れ、プレイヤーたちは成すすべなくやられてしまう。2度、3度。血が流れる限り、メアリーは刃を出し続け、討伐隊が全滅するのに時間はかからなかった。


「さすが最強の執行者っていうところか。」


 始め、先頭に居て姿をくらませた銃使いのプレイヤーと他2人が血の刃をかいくぐってメアリーの前に現れた。一見戦いの続きのようにも思えるが、メアリーには明らかに戦闘とは別の目的があるように感じた。


「あら、もしかして私に用事?」

 

「そんな大層なものじゃあねぇけどな。今回は挨拶みたいなもんだ。」

 

「挨拶?」


 全く話が読めないメアリーであるがとりあえず攻撃の意思はないらしいので話を聞くことにした。

 

「執行者様!わ、私、憧れなのです!」


「メイ、話を端折りすぎ、リーダーも、もったいぶっていないで早く言ったらどう?僕たちは仲間ですって。あっ、僕の名前はトーマと申します。種族は鬼。こっちはメイで、おんなじ鬼族です。」


 「俺はクロイ。種族は悪魔だ。よろしく。」


 トーマ、メイ、そしてクロイと名乗ったプレイヤーにはこれまでの経緯を簡単に話してもらった。


 どうやら特定の手順を踏むことで敵陣営の仲間になることができるらしく3人ともたまたま別陣営になってしまったらしい。


「俺たちは種族を隠してプレイヤーたちを大勢暗殺してきた。んで今日はたまたまトーマ、メイの2人が執行者、お前を見つけてな。挨拶の手見上げとして大量のプレイヤーを連れて来たってわけさ。」



「そんなんですね。あれ、でも一戦交えたとき私のことNPCだと思ってませんでした?」


「最強のラスボスの中身がプレイヤーなんていわれても信じるわけないだろ。とりあえず目的は達したわけだ。じゃあな。」


 クロイは後ろを振り向くとそのまま1人で歩き去っていった。


「困ることなんてないと思いますが、一応何かあればこちらに連絡をください。すぐに駆け付けますので。」


「あら、ありがとう。頼りにしてもらうわね。」


「ハグしてください!」


 脈絡もなくメイはいきなりとんでもないことを口走った。慌てて制止しようとするトーマを無視しながらメアリーはメイのことをハグしてあげた。


「私、執行者様がすごい憧れなんです!また今度、ゆっくりお話しさせてください!ありがとうございます!」


「ええ、その時はメアリーって呼んでくださいね。」


 メイは上機嫌に悶え、そのまま全速力で走り去ってしまった。トーマはそんなメイのことを急いで追いかけに行く。


「妹のわがままを聞いてくださりありがとうございました!」


 トーマは最後にお礼を言うと走り去っていった。


 1人取り残されたメアリーは仲間がいるという事実に後から驚きながら、今までで一番忙しかった1日に幕を閉じた。

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