第24話 最強ボスと師匠と決闘
「おはようございます、師匠!」
「おお、おはよう弟子よ。今日も早いな。」
「もちろん!なんせ今日は師匠のとっておきを教えてくれるんですから!」
ミネルヴァから師事を受けて3日目の朝。メアリーは、今日も早起きをして素振りをしているミネルヴァの元へと駆け付けた。
「そうだったな。だが教えるとしても、まずはウォーミングアップと今日の分の稽古からだ。」
「頑張ります!すぐ終わらせてみます!」
死ぬほどきついものではあるが、ミネルヴァの奥義を見せてもらえるという、ただそれだけの理由でメアリーは前回1時間以上かかった地獄のウォーミングアップを、ものの40分程度で終わらせることができた。
メアリーはやる気がかつてないほどにありふれているのもそうだが、ミネルヴァの教えがとんでもない成長を促しているとそう自覚できるほどに、数日前と比べて恐ろしいほどに成長を果たしている。
「まさかこんなに早く終わらせるとはな。今日からの稽古は毛色を変えたものになるぞ。さあ、武器をとれ。自分のをな。」
そういうとミネルヴァはいつも使う剣ではなく、己が敵を屠るために使う愛剣を抜いて、構えた。メアリーも、特に何も言わずに自分を象徴する刀である、血刀『紅下黒』を装備して、ミネルヴァの前に相対した。
「今までの指導とこの2日間を見て、お前を成長させるには実践が一番良いと判断した。今日を含め残りの5日間。私はいくつもの剣技、剣舞を使ってお前を倒しに行く。もちろん寸止めはするがな。」
「なるほど。確かにその方が私の性に合っていますね。あれ、もしかして師匠も実践でいろいろ試していったんですか。」
「そうだ。お前は私に似ているからな。私が一番、私の力になった方法を試してみようということだ。はじめの合図はこのコインが地面に落ちてから。お前は私を殺す気で来い。出ないと勝負にならないからな。」
「もちろん!」
メアリーの言葉を聞いたミネルヴァはコインを弾いた。空高くまで飛んでいったコインはようやく落下をはじめ、ちょうどメアリーとミネルヴァの中心地点に落ちていった。戦いが始まるその瞬間を注視する両者はコインが完全に地面へ着いたところでほぼ同時に動き出した。
「剣舞『千嶽霧足』!」
「剣技『穿ち渦』。」
メアリーは音を極限までなくし、四方からミネルヴァを狙うのに対し、ミネルヴァは体を回転させ、メアリーの剣舞をいともたやすくねじ伏せた。
「剣技『天撃』」
2撃目の始まりはミネルヴァからだった。刀を弾かれ、体制が崩れたメアリーに対し、無慈悲に振り下ろされる剣。今までのメアリーならばそのまま振り下ろされ終わりであったのだが今日の稽古はそんな生易しいものではない。
メアリーは意地でも当たるまいと体を動かし、何とかミネルヴァの攻撃を避けるに至った。しかし、当然避けられたままで終われないミネルヴァはさらに何度もメアリーに攻撃を仕掛けていく。
縦から。横から。後ろに回ったかと思えばメアリーの真上に移動して刀を振り下ろしたりと、剣聖らしからぬ自由さをもってメアリーをどんどん追い込んでいく。
2撃目を凌いだメアリーはミネルヴァの攻撃を簡単に防ぐ。しかし、間隙を縫って攻撃をしても、ことごとく弾かれ、さらに反撃まで許してしまう始末だ。
「今日はここまでだ。」
「……はい。」
日が暮れるまで、メアリーとミネルヴァは戦いを続けていた。手加減をされているとは言え、メアリーとミネルヴァは一進一退の攻防を見せていた。しかし最後の一撃、ミネルヴァが急に消え、メアリーは即座に守りの体制に入ったにもかかわらず、首筋には剣先が添えられていたのだ。
ミネルヴァは種明かしをすることなく「明日も同じ時間に。」とだけ言い残して、早々に稽古の時間を切り上げてどこかへ行ってしまった。
おそらくこんなに早く切り上げたのは「自分自身で今日の反省点を見つけろ」という師匠の思いと「最後の攻撃を見極めてみろ」という2つの思いがあるのだろう。証拠にミネルヴァはメアリーに何も言わずに自分の部屋と真逆の場所へ歩いて行った。
「師匠も師匠で何か作戦を立てるんだろうな。」
これは稽古であって稽古ではないし、修行であって修行でもない。ただ、互いに殺しあう試合、もしくは決闘といったほうが正しいだろう。
メアリーは明日からはさらに攻めに来ると考えている。最後の一撃を攻略しなければそれこそ負け続けることになるだろう。
「とりあえず師匠が使った剣技を思い出してその対策を練ろう。」
今日の戦いでミネルヴァが使った剣技は、メアリーの剣舞を弾いた『穿ち渦』。メアリーに攻撃を仕掛けるときに使った振り下ろしの『天撃』と横薙ぎの『地撃』、タイミングをずらすために音を遅れさせた『音斬り』の4種類。
「あとは最後の『点滅』か。あれはいったいどうやってるんだろう。」
一切の油断も瞬きもしていなかった中で私の背後に回り込み、一瞬で首筋に剣をあてられる状況まで持ち込んだ剣技。正直今のメアリーですら何が起きたのか一切合切わからないものだ。
「『剣技には必ず技を振る理論がある』。師匠の言ったことが正しいのなら最後の『点滅』にも必ず方法があるはず!考えられる方法としては瞬間移動、もしくは『音斬り』みたいな足音をなくして近づいた。それとも何か見たことのある技術?」
ミネルヴァが実践で使って見せたということは少なくともメアリーが一度は見たことのある技術。そうなってくると、おのずと点滅の正体が見えてくる。
「正体がわかってもこの技、あまりにも理想論過ぎるんですけど。」
いくら理想論だとしても実際にミネルヴァが使っているのならばその方法しかありえない。メアリーは、己の師匠が無茶苦茶な人間だと理解しているつもりだったが、どうやらメアリーの想像のはるか上を行く存在だと思い知らされた。
「もしそうだとしたら、残り3日間でどう戦うか。考えないとね。」
7日目の朝、ミネルヴァよりも早く訓練場へとやってきたメアリーは目をつむり、師匠が来るその時まで待ち続けていた。遠くから足音が聞こえ、師匠が来たと気づいたメアリーは目をあけ、静かに刀を構えた。
「……言葉はいらんな。今日が最終日だ。私にすべてをぶつけてみよ。」
この3日間、メアリーは何度も刀を交え、何度も『点滅』に敗れ、何度も敗北を味わった。それでも、この絶対的な壁を乗り越えようと試合が終わった後もずっとミネルヴァとの戦いのことばかりを考えていた。
「剣技『血車』。」
今までの『血車』とは思えないほどの威力を持った剣技がミネルヴァに向かっていった。
「『点滅』」
ミネルヴァはいつも戦いの終わりでしか使ってこなかった『点滅』をあえて初撃に使ってきた。それはメアリーの意表を突く攻撃であったはずなのだが、メアリーは後ろを向いたかと思えばミネルヴァ横腹へ完ぺきな『蹴り』を入れた。
「これでようやく一撃。もう、負けませんよ。」
吹き飛ばされ、木に激突したミネルヴァは素直に感心した。『点滅』を1回だけとはいえ防ぎ、その上今までかなわなかった反撃までしたのだから。
当然やられたばっかりで終われないミネルヴァは目の前の敵を全力で迎え撃とうとする。
「……剣舞『点滅』。」
1度では終わらない、何度も姿を消し、敵の前に現れる、100%の剣舞としての『点滅』。威力も段違いのはずなのだが、メアリーは1撃1撃を見極め、冷静に対処をする。
「剣技『渦枯血刀』。」
メアリーはこの3日間、ミネルヴァが使った剣技全てを自分流にアレンジして、ものにするにまで至った。『渦枯血刀』は『穿ち渦』の応用であり、根幹は似ていても、『穿ち渦』よりも武器を弾くことに特化させたオリジナルの剣技である。
魔法主体のプレイヤーには通用しないが、ミネルヴァのような剣を扱う者にとっては相性のいい技となっている。特に初見の相手に強く、たとえミネルヴァが剣舞を扱おうとも刀を弾くことで強制的に剣舞を終わらせるに至るほどである。
「……っく。いい技だな。剣舞『天地開闢』」
「剣技『渦枯血刀』。」
同じように刀を弾こうとしたメアリーだが、同じ技は2度と食らわないミネルヴァはメアリーの剣技をうまくいなして縦に真っすぐ剣を振るう。
いつものように真っすぐ剣を振るだけのはずだがメアリーにはその行いが危険と判断して受けることよりも避けることに全力を注いだ。
当然ミネルヴァは避けたメアリーに追撃を行うのだがメアリーは反撃どころの話ではなくなった。
「ちょっと地面抉れてるんですけど!?」
「今のお前は弟子ではなく私と対等な相手だ。ほら、避けてるだけじゃいつかは当たるぞ?」
縦に振れば地面は抉れ、横に振れば木々は折れていく。人間業でない攻撃をメアリーは全力で避けていく。
ミネルヴァはめちゃくちゃに振っているように見えても正確にメアリーだけを狙い、隙も最小限にして動いている。足音も剣を振る音も最小で今まで見せたすべての技術のみでただ威力だけが並外れたものに変化している。
当たれば冗談抜きでメアリーのPFO人生の幕は下りてしまう。そんな状況を理解してもメアリーは笑顔で、目の前の敵と相対する。
「剣技『点滅』。」
師匠が使った『点滅』と全く同じの剣技。即座に背後へと回ったメアリーは己の師の首筋に刃を添える。
剣士同士の長きにわたる決闘。実際の時間は短くとも2人の体感時間としては数時間を超えるように感じた。
「勝った~!」
ようやくミネルヴァとの戦いで勝利を得たメアリー。ミネルヴァも悔しそうな顔をしているが弟子の成長を素直にほめていった。
「メアリーよ。この1週間よく頑張ったな。間違いなくお前の剣は私の首に届いた。誇っていい。数多の戦場で生き残った剣聖の首を取ったようなものなのだからな。これからは1人の剣士としてお前を成長を祈っておこう。」
ミネルヴァは剣をしまい。疲れて呼吸を整えるのに必死なメアリーへ手を差し伸べる。メアリーは師匠に勝った喜びと師匠と別れてしまう悲しみでいっぱいになってしまった。
「何、また暇なときにでもここへ来ればいいだろう。お前は私の弟子なのだ。いつでも待ってるぞ!」
「はい!」
再び戻った弟子と師匠という関係は固く結ばれた手によって過去のものへと変わっていった。
メアリーがこれからどうしようかと考えながら歩いているとミネルヴァに声後ろから声をかけられた。
「メアリー。お前に私の奥義を見せるという約束を忘れていたからな。今見せてやろう。」
「本当ですか!」
「もちろんだ。といっても似たようなものは何度も見せているがな。」
「それでもみたいですお願いします。」
後のことを放り出してメアリーはミネルヴァの元へと駆け出した。木人形を置いたミネルヴァは軽く息を吐くと恐ろしく早い1撃を人形に向けて放った。
「奥義『瞬天』。点滅を私なりに改良し、さらに早い1撃へと進化させた技だ。この技を耐えられたものは私が知る限るでは存在しない。まあこの技を扱えるものが他にいないからな。お前なら私のこの技を完ぺきに扱えるようになるだろう。ぜひ、その時は私の元へ戻ってきてほしい。じゃあな。」
今度こそお別れだといわんばかりにミネルヴァ後ろを向くと手をひらひらさせるだけで振り向くことをせず、自分の家へと戻っていった。メアリーはその背中をじっと眺め、ポツリと言った。
「必ず師匠を超えて戻ってきますから、待っててくださいね。」
お読み下さりありがとうございます!
下にある(☆☆☆☆☆)←これ
押してくれると一番うれしいのでもし面白いと思っていただけたら少しスクロールしていただいてついでにいいねやブックマーク、感想、などお願いしたいです!




