第23話 最強ボス育成計画(足を止めることは許されない)
「……ぜぇ……はぁ……おぇ。け……剣技『血車』」
「ほら何息切れしている。まだ半分も行ってないぞ!」
「いや……だって……もう……何時間も……」
「んなわけないだろ。ほら、まだ60回しかしてないぞ!手を動かせ、足も動かせ!時間もあと2分切ってるぞ!」
「もうむりぃぃぃいい!」
『音斬り』を無事に習得したメアリーはかれこれ1時間ほど休憩なしで走り続けている。今はまだ6週目の途中、失敗を含めるとすでに15週は走っている。
1周は大体500メートル。普通に走れば2分くらいで回れるのだが、この1周の中で100回も剣技を使わなければならないのがとてもつらい。極めつけは5分という時間だ。時間に余裕があるように設定してくれていると思っていたのだが、師匠に限ってそんなことを考えているわけがなく、幾度も時間切れを起こしてしまっている。
「し、師匠。1回休憩を……。」
「休憩するとまた1からすることになるがいいのか?」
「……続行で。」
結局この周を時間切れで失敗してしまったメアリーはここからさらに1時間かけて目標である10周を達成することとなった。
「よし、ウォーミングアップは終わりだな。今から本格的な剣舞を扱うよう指導してやるぞ。」
「……え?」
走り終わってその場で仰向けとなったメアリーに、ミネルヴァはさらに追い打ちをかけるように言った。
「ほら立て。蹴り飛ばすぞ。」
「あ~。すいませんすいません!」
「っふ。半分冗談だ。座ったままでも問題ない。横、失礼するぞ。」
そういうとミネルヴァはメアリーの横にあぐらをかいて座った。そうして木の棒を手に持ったミネルヴァは地面にいろいろと何かを書いていった。
「まずは剣舞についてしっかりと教えてやろう。お前が私と模擬戦したときに使ったものは剣舞であって剣舞ではない。」
「え、そうなんですか?」
「そうだ。お前が使っている剣舞はただ剣技をちぐはぐに組み合わせて扱っているだけ。一応最低限の剣舞は保っているが、威力は落ちるし、無理に扱えば思わぬ一撃を食らうこともある。」
ミネルヴァがそこまで言ったところで、メアリーは苦い過去を思いだした。過去の宝玉争奪戦でアルバートとKarinに敗北することとなった最後の一撃。あれは、無理に剣舞を使ったせいで避けることができずに食らうこととなってしまったと今ながらに気付くことができた。
「なら、私はどうすればいいんですか?私が使える剣舞は『血廻乱歩』だけ。後は『血車』『血突』『紅』の3段攻撃くらいですかね?」
「後者は見たが、前者は知らんな。よし、ちょっとその剣舞を見せてくれ。」
メアリーは息を整え、剣舞を目の前で披露した。縦横無尽に、どんな体勢からでも、宙に浮いたとしても刀を振るった。
「悪くはないな。おそらくだが剣筋も前に比べてもよくなっている。ただ、それがゆえにお前の欠点が大きく目立ってしまっているのが残念だ。」
ミネルヴァは一息つくと、その場から立ち上がった。
「お前は『足さばき』がなっていない。そのせいで、刀と手の感覚に身をゆだねすぎており、自身の才能すらそのカバーに扱っているのが現状だ。」
刀を抜くと、ミネルヴァは左足を半歩下げ、剣を構えた。
「剣舞『千嶽霧足』。敵を翻弄し、剣を振る。極めれば何人もの人から同時に剣を斬られたかのように感じさせることができる有用な剣舞だ。まずは私の手本から、特に足に注目してみていてくれ。」
そういうとミネルヴァは人形を中心に四方八方から攻撃を仕掛けていった。全体で見てみると次々と瞬間移動をして切り刻んでいるように見えるが、いざ足に注目してみると足を少し上げ着地をするという動作を無駄なく最速で行うことで、すぐに人形の背後に回ったり、横から攻撃をしたりしていた。
「基本の形はこれになる。今日はこれを習得してもらう。その次に応用として、自身の剣技を織り交ぜながら剣舞を行ってもらう。」
ミネルヴァはそういうとメアリーが斬った切り株の上に座った。メアリーは師匠が見せてくれた剣舞を頭の中で反芻しながら、ひとまず刀を振らずに足だけを動かす。ミネルヴァほどではないにしろ、見よう見まねである程度はできたので次に刀を振りながら『千嶽霧足』を行う。
「剣舞『千嶽霧足』。あれ?」
メアリーは刀を振り始めた途端、足はうまく動かせなくなり最終的に足がもつれてこけてしまった。立ち上がって何度も練習を続けると倒れることはなくなったがそれでもミネルヴァの剣舞に大きく劣ってしまう。それではだめだと感じているメアリーはミネルヴァが見せてくれた剣舞の細部まで思い出しながら試行錯誤を重ねながら練習を続ける。
「剣舞『千嶽霧足』。よし、最低限の形にはなった気がする。」
練習を始めてから大体4時間ほどでメアリーは剣舞をそれなりの形で行うことができた。人形にはいくつもの切り傷ができており、地面は人形の周りだけ草が禿げてしまっている。メアリーがどれほど激しく何度も剣舞を扱えるように練習したのか十分に分かった。
「よし、そこまでできるのなら及第点だろう。最後に私とちょっとした遊びでもしよう。」
「遊び、ですか?」
『千嶽霧足』がそれなりのものになったと判断したミネルヴァは立ち上がって、メアリーのほうへ向かっていった。
「よく騎士を目指す子供とするものなんだが、これがなかなかに奥が深くてな。ルールは簡単、私の腰辺りに取り付けたこのしっぽを奪うだけだ。私は逃げるだけ、範囲はそうだな……このくらいにしておこう。空をとんだり、魔法を使うのはなしだからな。」
そういうとミネルヴァは木の棒で軽く円を描いた。円は直径5メートルくらいでそこまで大きくない円。その狭い円の中でメアリーから逃げ切って見せるとミネルヴァは自信満々に言いたげであった。当然なめられてばかりでいられないメアリーは、ここらで師匠に一矢報いようと全力で師匠につけられたしっぽを狙う。
「当然ですよ。今日習ったことだけで師匠に買って見せますよ。」
「ははっ。楽しみにしておくよ。用意ができたら攻めに来てくれて構わない。制限時間は1分、お前は私をこの円から出すかこのしっぽを奪えば勝ちとなる。もし勝てたらそうだな……私の奥義を1つ、お前に伝授しよう。」
「その言葉覚えておいてくださいよ!」
メアリーは一瞬で間合いを詰めると『千嶽霧足』で培った足さばきを使ってミネルヴァの後ろに回り込む。
「とった!……あでっ!」
「甘いな。ほら、早くしないと明日のウォーミングアップが2倍になるぞ。」
「そんなの聞いてない!」
「お前が聞く前に始めたからな。ほらもう10秒経ったぞ。頑張れがんばれ。」
メアリーはしっぽをとることから円の中から引きずり出そうと飛び込んでも、お見通しといわんばかりにミネルヴァは華麗に避ける。そんなこんなで残り時間は30秒を切るところまで来てしまった。メアリーはむやみに突っ込むのではなく、チャンスが来るまで足さばきでミネルヴァの背後をとろうとしたり、距離を詰めたりして翻弄していった。
残り10秒。ミネルヴァがそういった瞬間、メアリーはチャンスといわんばかりに突っ込んでいった。何度も同じ手とミネルヴァは思っても口に出さず、決して油断をしない。6秒、5秒と刻々と制限時間まで迫っていく。
「ここ!剣舞『千嶽霧足』!」
残された時間をみてもメアリーにとって、これが最後の攻めになる。メアリーは『千嶽霧足』を使って背後ではなくミネルヴァの横へと移動する。読んでいるミネルヴァはメアリーと向かいあう形をとろうとする。
「……1。」
一瞬振りむいたところを狙い、メアリーはさらに背後を取ろうとする。当然ただの『千嶽霧足』がミネルヴァに通用するわけがなく、時間切れでミネルヴァの勝利でこの戦いは終わり――そう思われていた。
「とった!」
最後のこの一瞬、メアリーは一度だけ見せたミネルヴァの完璧な剣舞と同等なレベルにまで達し、ミネルヴァが振り向くよりも早く頭上に移動した。そのままの流れでしっぽをつかみ、見事、ミネルヴァとの勝負に勝つことができた。
「さすが私の弟子だな。まさか私をも超えるとは。いいだろうお前の勝ちだ。約束通り、お前に私の奥義を教えてやろう。」
「……やっった~~~!」
まさか負けるとは思っていなかったミネルヴァは悔しそうな顔をしながらも、メアリーとの約束をしっかりと果たしていった。




