第23話 最強ボス育成計画(明かされる絶望編)
ミネルヴァから師事を受けて2日目の午後。メアリーはミネルヴァから出された『なぜゆっくりと刃を下ろしただけの刀はお前が斬りたくても斬れなかった人形を斬るに至ったのか。』という課題に頭を悩まされていた。
メアリーは最初の1回以降、人形を斬ることができていない。何度ゆっくり振っても、半分ほどまでしか斬れなかった。当然ゆっくり斬ろうとすれば人形が再生する速度に追いついてしまうので、すでに何回かは抜けなくなった刀をミネルヴァに抜いてもらっていた。
「遅く斬ってもダメ。早く斬ってもダメ。後は剣筋をどうにかするしか……」
一度休憩をとってからというもの、メアリーはぶつぶつと独り言を話している。そうして30分くらいが経って、ようやく1つの仮説にたどり着いた。
「よし、やってみよう!」
メアリーは刀を縦に構えると勢いよく、真っすぐに振りぬいた。残念ながら人形を2つに分けることこそはできなかったが、今までで一番良い頭から胸のあたりにまで1度に切り裂くことができた。
この1振りで、自分の仮説が間違いでないと確信したメアリーは、人形ではなく、少し後ろにあった2本の木に向かって刀を振った。
メアリーは今までのように力任せの一撃で木を斬り落とした後に、もう1本の木を剣筋がブレないように意識をして同じように木を斬り落とす。そうして切り落とした木の断面をメアリーはじっくりと観察した。
「なるほど、剣のブレをなくしたらその分キレイに斬れるんだね。当たり前だけど、いざ意識して斬ってみるとなかなかに違いがあるなあ。」
「そうだ。お前はやみくもに刀を振っているだけだったからな。今のようにしっかりと刀を振るだけでも何倍もの攻撃力を発揮できるんだ。伝えたはずなんだがな。まあ、2つのコツを見つけたなら、『音斬り』を成功させるのに時間はかからないだろう。」
ミネルヴァの質問の答えが分かり、コツを完全に理解することができたメアリーは今までが雑な剣技とは比べものにならないほどの剣技を放った。空気の流れを正確に読んで、その流れの方向に完ぺきに合わせる。少し息を吸い込むと半歩足を前に出して一閃。
「剣技『音斬り』。」
音のない斬撃が人形の体を真っ二つにした。メアリーはようやく成功した『音斬り』に歓喜していた。ミネルヴァも若干の心残りはあるものの概ね成功といえる『音斬り』に満足そうな顔をしている。
「80点だな。音はかなり小さくなっているがまだ私には聞こえるレベルだ。まあ、後は実践を交えてさらに剣技を磨いていけばいいだろう。ひとまず、『音斬り』の習得おめでとう。1日2日でここまで習得できたことは自信をもっていいぞ。」
ミネルヴァの言葉の終わりとともにスキル『音斬り』を習得することができたメアリー。しばらくの間喜び続けていたのだが、すぐに絶望へと変わっていった。
「え!?この技そんなに使い道ないの!?こんなに頑張ったのに!?」
メアリーに明かされる衝撃の事実。しかし、ミネルヴァはそんなメアリーを無視して淡々と理由を述べていった。
「ああ、そもそも欠点が大きすぎる。『音斬り』は不意打ちに長けた剣技なのだが、まず完全な不意打ちを狙うには刀よりも自分の気配を完全に消さなければならない。しかもそっちの方が技術的には難しい。」
「なるほど。でも私完全に消せますよ?」
「お前はな。だがこの技を習得するやつらはほとんどが魔法の適性のない奴らだ。それにもう1つ、空気の流れに合わせなければ成功しない。必然的に狙える箇所が限定されるこの技は使えても弱いんだ。」
まさか苦労してとったスキルがこんなにも使えないものだったとは思ってもおらず、メアリーは少し落胆したが、すぐになぜ師匠はそんな技を自分に教えたのかが気になった。
「この技を教えた理由って何ですか?正直使えないなら他の剣技を教えたくれる方がいいんじゃ?」
「剣技としては使えないが、『音斬り』には成長で欠かせない重要な技術がいくつも取り込まれている。その最たる例がブレない刀身と流れを読む力なんだ。これを理解できた時点で『音斬り』なんざどうでもいい。お前は単純な剣技を手に入れるよりも遥かに強くなったといえるんだ。」
まさかのどうでもいいと根も葉もないことをいうミネルヴァだが、実際にメアリーの剣技はどれもは数日前と比べても格段に動きがよくなっている。そんなに使い道がないのは残念だが、それ以上のものを手に入れることができたメアリーは十分すぎる結果を得たと考えた。
「それじゃあ次を教えてもらってもいいですか?」
「まあ待てそう慌てるんじゃない。次教えるのも決まっている。」
キラキラと目を輝かせるメアリー。その目を待っていましたと言わんばかりに、ミネルヴァはあくどい顔をした。
「これを完ぺきに理解すればお前は『剣舞』を扱えるようになるだろう!」
「本当ですか!」
「そうだ!当然『音斬り』よりもはるかに使い勝手がいいものだぞ!」
「なんと!私は何をすればいいんですか!」
「走れ。」
「え?」
キラキラと輝いていたメアリーの顔は見る見るうちに青ざめていった。過去の訓練でも信じられないほど走らされたのに、今回も走ることになるなんて思っても居なかったメアリーは、次第に体が倒れていった。
「当然ただ走るだけじゃあないぞ。刀を持ち、剣技を使い続けながら走るんだ。ひとまずは……この周りを10周だな。1周あたりに剣技を100本以上、5分以内で周るんだ。超えなかったらその周はなかったことになるから気をつけろよ。」
「ひえ。」
「さあ走れ、死んでも魂の状態で走れ。安心しろ。私は魂の状態のお前を観測できるしついて行きながら数も数えてやる。存分に刀を振って存分に走ってくれ。」
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