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第22話 最強ボス育成計画(終わらない地獄編)


 翌日、メアリーがログインしてすぐに訓練場に向かうとミネルヴァは素振りをして時間をつぶしていた。メアリーはミネルヴァの一振り一振りをじっと眺めているとその視線に気づいたのか一度手を止め、メアリーのほうを向いた。

 

「おお、メアリー。随分と早いんだな。」


「師匠こそ、剣聖の席を譲ってもまだ日課を続けてるんですね。となり失礼します。」


 メアリーとミネルヴァは互いに相手のことは一切見ず、己の武器を振りながら会話を続ける。

 

 「剣聖をやめて1日だけ素振りをしなかったらその日の午後に調子崩したからな。それ以来日課を続けてるんだ。」


「なんかすごく怖いですねそれ。まあそんなことは置いておいて、今日は何をするんですか?」


 メアリーが素振りをしながら聞くと、横から素振りをする音が聞こえなくなった。メアリーは不思議に思って横のミネルヴァのほうを向くと、ちょうど剣を振り下ろしているところだった。


「剣技『音斬り』。無音の一撃だ。戦闘でかなり役に立つし、何より汎用性が高い。慣れてくるとこんなこともできるぞ。剣技『遅の太刀』。」


 ミネルヴァが剣を振ると後から剣を振る音が遅れて聞こえてきた。じっとミネルヴァの太刀筋を見ていたメアリーはなぜそうなるのか一切わからなかった。


「まあまずは『音斬り』からだな。弟子よ、今しがた見せた私の『音斬り』を見て、刀を振ってみよ。1度ではできんがなぜできないのかは分かるはずだ。」


 ミネルヴァの言うとおりにメアリーは、ミネルヴァの『音斬り』の動きを完ぺきに模倣することができた。しかし、音は消えることなく、静かな空間に空を斬る高めの音が響いた。


「ダメだな。」


「ダメでしたね。」


 2人揃って同じ言葉を口にする。ミネルヴァにはなぜできないのかがわかっているようでニヤニヤしながらメアリーのほうを見つめている。


「よし、今度は左の上……もう少し横に、そうだ。そこから同じように刀を振ってみろ。必ずはっきりとした違いがあるはずだ。」


「はい!」


 ミネルヴァに言われるがまま、メアリーは教えられた位置から刀を振る。同じように空を斬る音が響いたが、1回目と比べて明らかに違う感触があった。


「少しだけ音が小さくなった?」


 メアリーがそういうとミネルヴァは正解だといわんばかりに大きくうなずいた。メアリーは刀を振る音に注意しながら振ったため気づくことができたが通常では絶対に気付くことのできない僅かな違いであった。


 さっきと違うのは刀を振った位置のみ。そうなると刀を振る位置が重要に思えてくるが、当然そんな魔法みたいな場所は存在しない。今の2振りと刀を振ったミネルヴァの1振りでメアリーは『音斬り』において何が重要か、その答えの1つに辿りついた。


 「『空気の流れ』ですか?」


「そうだ。だが、もちろん空気の流れを読むだけでは『音斬り』は完成しない。あと1つ、完成させるうえで重要な欠片が存在する。まあ、これは空気の流れを自力で見つけるようになればいずれ分かることだ。さあ、コツをつかむためにひたすらに刀を振れ。」


「はい!」


 教えてもらったコツを意識しながら何百と刀を振り続けるメアリー。しかし、空気の流れを感じられず、いつまでたっても『音斬り』を出せずにいた。


「すいません。空気の流れがつかめないんですけど。」


「まあ通常の眼では見ることができんからな。わたしも流れが掴むのに苦労したものだ。」


「師匠でも大変なものだったんですね。」


「ああ、そもそも私は一般的にスキルと呼ばれるものが取れない身体らしいからな。スキルで覚えてからという方法ができないんだよ。最終的には剣技としてすべての物体から『流れ』を読む術を身に着けたがな。」


「相変わらずとんでもないですね。それより、スキルですか。『夜王の眼』で行けるかな?」


 メアリーが『夜王の眼』を発動し、空気の流れを読もうとすると、うっすらと何か靄のようなものを知覚することができた。ただ夜でも視界が明るくなる便利なスキルとしてでしか認識していなかったメアリーは、新たなスキルの可能性を広げるとともに、『音斬り』の習得へ大きな一歩を踏み出すことができた。


 「この向きかな。よし!なるようになれ!『音斬り』!」


 メアリーが振った刀は完全に無音ではないものの、明らかに音が小さくなっていた。コツがわかり、何度も刀を振ると、1振目より2振目が、2振目より3振目と次第に音が小さくなっていった。完全に『音斬り』の習得に王手をかけたメアリーにミネルヴァは完全なる習得をさせるために次なる試練を与える。


「もう使いこなせるとは、さすが私の弟子だな。なら次はこいつを斬ってもらおうか。」


「人型の、木でできた人形ですか?」

 

 ミネルヴァが持ってきたのは人の上半身を模した木の人形。よく見る訓練で扱われそうなものだ。


「今からやってもらうのはほかでもないこの超強化された人形を真っ二つにすることだ。反撃もしてこないから全力で斬ってくれ。」


「わかりました。」


 メアリーはミネルヴァに言われた通り、『夜王の眼』を使いながら目の前に置かれた人形に斬りかかる。メアリーは人形の右肩から左の腰まで通り抜ける勢いで振りぬいたにもかかわらず、実際は少し傷がついただけであった。


「自動修復がついてあるから思う存分斬りかかっていいぞ。」


「はい!」


 何度刀を振っても人形は少し傷がつくだけですぐに修復してしまう。ムキになったメアリーは出せる力を全力で出して目の前の人形を斬り刻もうとした。しかし、人形に当たった瞬間はじかれ、その衝撃で刀を落としてしまった。


「単純な斬り方じゃ斬れないの?」


 全力で放った1振りよりも『音斬り』を意識した1振りのほうがまだ深く傷をつけていることからメアリーはただがむしゃらに刀を振るだけではダメだと気づいた。しかし、ただ気づいただけで結局どうすればこの憎たらしい人形を斬ることができるのか思いつかなかった。


「別にやり方は間違ってないと思うんだけどなぁ。こういう感じで音が出ないようにさって着るかんじで……え?」

 

 メアリーは何となく人形に刀をあて、ゆっくりと刀を振って人形を斬るイメージトレーニングをしていた。一切力も斬ろうとも思っていなかったはずなのに、メアリーが持っている刀はなぜか人形の体を貫通していってそのまま左の腰まで到達した。


 力なく倒れる人形にメアリーがあっけにとられていると、ミネルヴァは笑いながら人形のほうへ向かった。


「くっつかせれば勝手に戻るから安心するといい。にしてもまさか私と同じことをするとはな。ここまでしたのなら後は分かるはずだ。なぜ全力で振った刀は刃すら届かず、『音斬り』を意識した1振りは少し傷がつき、ただあててゆっくり振っただけの刀が斬るに至ったのか。その答えを知ったとき、お前は初めて完全な『音斬り』を使うことができるだろう。」

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