第21話 最強ボス、師との邂逅
「すっご~い!こんなことできるんだ!ありがとうレコルディオスさん!」
メアリーは一度元の自分に戻った後、再び『リリー』へと変身する。まだ体を動かすのには違和感がぬぐえないが戦闘用に使うことはないので問題はないだろう。
「ふぉっほっほ。十分な対価を払ってくれたんじゃから当たり前じゃよ。その姿で善行をなすも悪行をなすも貴殿次第。自由に新たな体を使っておくれ。」
レコルディオスはそういうと作りかけの金属像を手に取って作業を再開した。メアリーとクロイは一言お礼を言うと、洞窟の中から出た。
「じゃあ私は都市セセラモルフィスに向かうから。ありがとね。」
「そうかい。ならここでお別れだな。ああ、そうだ。鬼の2人にはこのことは伏せてもらっていいか?」
意外過ぎるお願いにメアリーは面を食らってしまった。クロイとトーマ、メイの関係性は詳しく知らないが少なくともクロイからすれば何か思い入れがある2人なのだろう。
「りょーかい。またね!」
「……感謝する。」
クロイはメアリーに感謝を伝えると足早に来た道を戻っていった。メアリーは姿が見えなくなるまでお見送りをすると山脈のほうへ目を移した。
「さてと向かいますか。」
この山脈は頂上に近づけば近づくほど勾配が急になり、霧も濃くなる。頂上付近なんて壁としか掲揚できないほどの斜面なので当然プレイヤーはおろかモンスターでさえも住むことができないような過酷な場所となっている。
「スキル『吸血女王の飛翔』。ああ~久々に使う~。便利~!」
空を飛びながら山脈を軽く超えたメアリーは宝玉争奪戦で空を飛べなかったことを思い出し、しみじみと『吸血女王の飛翔』のありがたみを実感していた。
山を越えればそこには海が広がっており、都市セセラモルフィスはその海の上に存在している。メアリーが住処にしていた森の付近の町――辺境都市アルセラモルフィスと比べても数十倍は栄えているといってもいいだろう。
山を越えたメアリーは麓のほうで降り立ち、そのまま『リリー』へと姿を変えた。
「さて、ここからは歩いて行かないと。もし空を飛んでるところを聖騎士に見つかったりしたら師匠に会うどころの話じゃなくなっちゃうもんね。」
聖騎士とは巨大な水上都市の秩序を保ち続けている者たちのこと。強さはもちろんのことだが、誠実さを最重要視している故、個としても、群としても、素晴らしい強さを誇っている。
「多分Karinさんもここにいるんだよねえ。太刀筋とかもろここの聖騎士のものだったし。」
過去に戦ったメアリーよりも優れた刀の才能を持った少女。もう1人、口と態度と性格の悪いアルバートというプレイヤーと一緒に私を倒した唯一無二のプレイヤー。
特にわだかまりとかはないがもしあったら盛大に驚かしてやろうとメアリーは心に誓った。そんなしょうもないことを考えながら、歩き続けると、ようやく水上都市へと続く橋と門の入り口がみえてきた。
入り口が見えてくると何が起こるか、そう、憲兵たちによる検問が行われるのだ。『偽装』すらたやすく看破する彼らの眼を欺くことは困難であるが、今の私ならば余裕綽々なのである。
こうしてメアリーは憲兵に怪しまれることなく都市セセラモルフィスへと足を踏み入れた。
門をくぐった先、第一に見えるのが巨大なお城である。そこには『聖女』と呼ばれる大変麗しい女性が住んでいるらしく、聖騎士団はその聖女の護衛もかねて常日頃からお城で稽古をしている。そして、お城の下、城下町はここに住んでいる者たちが生活するために必要なものが十分すぎるほど充実した品ぞろいで置いてある。プレイヤーも買うことができ、値段交渉や店からのサービスを受けたりと現実世界のような感じとなっている。
「へえ!プレイヤーも店を開いてるんだ。」
特に何か食べようとか買おうとかはないが都市の雰囲気自体が久々なメアリーはふらふらと都市の観光をしている。特に大きく変化しているような場所は見当たらないがそれでもプレイヤーとNPCが行き来しており、多くの人で賑わっている状況はとても新鮮だ。メアリーは観光も程ほどにして目的のお城の方向へ向かった。
城の前についたメアリーはまず最初に横で見張りをしている聖騎士の人に尋ねることにした。
「剣聖ミネルヴァはいるのかしら?」
「剣聖ミネルヴァ。ああ、先代剣聖ルミナス・ミネルヴァ様ですね。お城にいらっしゃるにはいらっしゃるのですが今の時間は他の騎士見習いの稽古をつけているはずですよ。」
「いるのならいいわ。案内してくれないかしら?彼から剣を教わりに来たの。」
至極当然にものをいうメアリーだが、聖騎士からしてみれば不信感を得るのに十分な言葉であった。
「剣聖様から剣を習いたいという者はたくさんいます。もし剣を習いたいのであれば我が聖騎士団に正式に入団することをお勧めします。申し訳ないのですが身元不明のあなたを通すわけにはいきません。」
門番は武器を抜くと、メアリーに向けて刃を向けた。メアリーは剣を抜くことはしなかったが、次第に何の騒ぎかと人が集まってきて、最終的にそれなりの騒ぎとなってしまった。
「おとなしく引き下がってください。出ないとあなたを処罰することになります。」
門番の再三の注意にメアリーは耳を傾けることはなかった。ただ黙って、じっと己に刃を向ける門番を眺めていた。
一触即発となった空間に、集まった衆人観衆は固唾をのんで見守っていた。そんな居心地の悪い空間は1人の女性が現れたことによって一気に消え去り、更なる騒ぎを呼ぶことになった。
「なんだお前ら。余計な騒ぎ起こしやがって。双方の話を聞いたうえでボコボコにしごいてやるから覚悟しとけよ。」
剣聖ルミナス・ミネルヴァの威圧感のある声が、静まり返った空間に響き渡った。善悪関係なくぶっ飛ばす喧嘩両成敗主義者。自らの間違いは何であろうと指摘すれば許さない暴君。メアリーはこの理不尽な言動に懐かしさを覚えながらじっとルミナス・ミネルヴァを眺めた。
「久しぶりですね師匠。戻ってきましたよ。」
メアリーがとある『証』を見せながらそう言うと、ミネルヴァは大きく目を見開き、続けて目にもとまらぬ速さでメアリーに斬りかかった。
「この馬鹿弟子が。お前は現れるたびにひと騒ぎを起こさんと気が済まんやつなのか?」
ミネルヴァは威圧の籠った声でそう言ったが、メアリーはその中に再会を喜んでいるのが分かっていた。
「それが私ですから。」
武器を交えたまま、2人はにやりと笑った。
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