第20話 最強ボス、新たな姿を得る
2日後、メアリーは約束通り姿を隠したまま目的の場所へと足を運んでいった。
指定された場所はいつもメアリーが散歩をしている森ではなく、ちょうど真反対の位置にある平原の先に進んだ山脈の麓の一角だった。クロイは拡大されたマップに丸の目印だけというかなり難しい不親切な伝え方をしていたが、1年間ずっと遊んでいたメアリーはほとんどの場所を覚えているため、むしろありがたいと思いながら目的の場所にたどり着いた。
「ちょっと早く約束の時間に来ちゃったけどまあいいか。」
メアリーは適当に時間をつぶそうと姿を隠したまま木の上に上って待っていると少し遠くから草を踏み荒らす足音が聞こえてきた。姿は見えないようになっているはずなので、メアリーはそのままの状態で足音の主を確認しようとする。男がすぐ下までやってきたときに、メアリーは見覚えのある顔であることに気が付いた。
「時間よりも早いね。」
メアリーは木の枝に足を引っかけ逆さ中吊りのまま姿を現し、足音の主――クロイの目の前にいきなり現れた。
クロイは一瞬少しだけ目を開き驚いたような表情をしたがすぐにいつもの無表情に戻った。
「びっくりした?」
「うるせえ。今すぐ金もらって消えてもいいんだぞ?」
「ごめんって~。はいこれ、約束のもの。」
華麗に着地したメアリーは服を少しはたくと大きな袋を取り出し、クロイに渡した。もらった袋の中身を確認したクロイは袋を直すとメアリーについて行くよう促した。
「ここからは姿を隠そうと隠さまいと関係ないが余計なことだけは言うなよ?」
クロイはそういうと奥の方へ向かっていった。メアリーはついて行きながら、この付近のマップを思い出す。メアリーは詳しいことまでは覚えていないが奇妙な洞窟があることだけは覚えていた。何かあるかもしれないと思っていたがまさかこんなことになると思ってもみなかったメアリーははやる気持ちを抑えて静かにクロイの後ろをついて行く。
メアリーの記憶通りに洞窟があり、クロイは再び手で合図をして洞窟の中に入っていった。
「うわっ。なんか変なものでいっぱいだ。」
「余計なこというなって言ったろ。この奥だ。足元に気を付けながらついてこい。」
洞窟の中には昔メアリーが入ったときとは別次元のような世界が広がっていた。洞窟の壁面にはあらゆる仮面が飾られており、地面には何かを模した土偶や銅像、数は少ないが鉄で作られた像も丁寧に置かれている。うっすらとだが明かりもついており、明らかに人が住んでいるという印象を受けた。
「よおじいさん。客を連れてきたぞ。」
クロイがそう言った目の前には深くフードを被って顔のよく見えない老人が座っていた。あたりには様々な像が置いてあり、一番近くには私、いや吸血鬼種の像が作りかけで置かれていた。
メアリーは、その老人が人の形をしてはいるものの人ではない別の種族だと一瞬で見抜いた。その目に気付いたのか老人はフードの奥からこちらを覗くと、にやりと笑った。
「久しいのうクロイ。なんじゃ、今回はそこの可愛らしい嬢ちゃんに渡せばいいんじゃな?」
「話が早くて助かる。金なら十分あるはずだ。」
どうやらクロイはこのおじいさん?と何回もあったことがあるようだ。クロイはメアリーからもらったお金が入っている袋を取り出すとそのまま老人に渡した。
「これが俺とガキ2人分の金だ。足りると思うが一応確認してくれ。」
渡された袋から硬貨を取り出すと、そのすべてを1つの玉に丸めていった。
「ふむ。金は手に入ることが少ないからな。多少上下していても構わんだろう。よし、お前との取引は成立としよう。ご苦労じゃ。なら次は、そこの吸血鬼の王の話に入るとするかの。」
満足そうな老人は硬貨だったものを捏ね繰り回しながらメアリーのほうを向いた。
「まずはあいさつからじゃな。儂は不死族のレコルディオスという。ただの趣味に明け暮れている老人じゃよ。」
レコルディオスと名乗った老人はフードをとると、メアリーの傍へ近づいてきた。
「貴殿が先代の吸血鬼の王、それに龍族も扱いに困っておった呪王龍などを撃ち滅ぼしたのは耳にしておる。こうして会うことができて幸運といえよう。」
「私もよ。私は吸血族のメアリー。今は執行者という役割を担っているわね。よろしく。」
レコルディオスはメアリーに手を差し出し、メアリーは差し出された手に素直に応じた。一通りの挨拶を済ませてからメアリーは本題に入ることとした。
「彼、クロイからの紹介できたのだけれど、あなたが町に入れない亜人種を町に入れるようにできる術を持っていると考えていいのよね。」
「そうじゃ。おそらくこの世界を探してそんな芸当をできるものはおらんじゃろな。」
レコルディオスは自慢げにそう答えた。
「ならその方法を教えてくれるかしら?」
メアリーがレコルディオスにそう言うと、待っていましたと言わんばかりに条件を提示してきた。
「わしが貴殿に望むのは生前、名を世界に轟かせた強者の遺物じゃ。そこのクロイのおかげで金属は困らんからな、後は儂の作った作品に命を灯すだけじゃ。」
名を世界に轟かせた強者の遺物。これが指すものは間違いなくユニークアイテムだろう。まだ7つしかもっていない貴重なアイテム。さらにどれもが強力なものばかりのものをこの老人に渡さなければならない。
しかし、メアリーの成長のためには師匠の存在が必要不可欠である。暫く悩んだ結果、メアリーは『呪龍の瞳』呪王龍の遺物をレコルディオスに渡すこととした。
「いい選択じゃ。少し待っておれ。貴殿に最高のものを渡してやろう。」
レコルディオスは近くに置いてあった本を取り出すと何やら呪文を言い始めた。
「禁術『黙示録の書』。」
レコルディオスがそういうとメアリーの体にとある変化が訪れた。
【ステータス】
名前:リリー(憑依)
Lv359
種族:人間
称号:執行者⋯⋯悪を討つべく使命を与えられた。任意の相手の善悪を確認することができる。善に寄れば寄るほど獲得経験値や与えるダメージが減少し、悪に寄れば寄るほど獲得経験値や与えるダメージが増加する。
魔王⋯⋯種族:魔族と敵対しない。他種族の好感度が最低値となり、敵対状態となる。また、MPに2倍の補正がかかり、消費MPが半減する。
裏切り者⋯⋯友好種族を裏切った者に贈られる称号。種族:魔族に準ずる者を討伐した際EXP(経験値)が得られない。他種族を討伐した際に一定量のEXP(経験値)を奪うことが出来る。
創造主からの贈り物⋯⋯特別な存在に対し、贈られる物。また本人の意思が存在しない場合、自動で敵を殲滅する。
龍殺し⋯⋯大いなる存在を打ち滅ぼした者に贈られる称号。任意の敵対種族に対して状態異常『恐怖』を付与することができる。
ユニークボスエネミー……唯一の存在であり、その種族の頂点に君臨するモンスターに対して与えられる称号。固有の武器、装備を生成できる。
HP(体力):359,000
MP(魔力):718,000
STR(攻撃力):179,500
VIT(防御力):17,950
LUX(幸運): 718,000
INT(知力): 718,000
武器:嬢王の鎖針(装備中)
防具:夜王の外套(装備中)
パッシブスキル:MP自動回復(極大)、HP自動回復(極大)、状態異常耐性(大)、夜王の眼、執行者の責務、他
アクティブスキル:吸血女王の飛翔、吸血女王の夜、黙示録の書:『リリー』、他
称号、ステータスに変化はない。しかし、名前と種族、さらに姿ですら元のメアリーとはかけ離れたものとなっていた。
「これですべてが終わった。貴殿は『リリー』という名前と姿を継承した。好きなタイミングで元の名である『メアリー』に戻ることもできるぞ。」
メアリーは別の顔に変装するくらいだと思っていたのだがまさか別の体そのものを手に入れるとは思っておらず、このとんでもない出来事に驚くことしかできなかった。
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