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あの日、あなたの背中を見上げていた  作者: わた雲


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第2話 政治事務所に、女子高生が来た

 それから数日後。

 私は、学校帰りの道で足を止めた。

「……あ」

 駅前の掲示板に貼られた、一枚のポスター。

 そこに写っていたのは――あの人だった。

 桐生恒一。

「桐生……恒一さん」

 初めて、名前を知った。

 有名な政党にいる人らしい。

 ……らしい、というのが正しい。

 私は政治に詳しくない。

 党のことだって、名前を聞けば「ああ、知ってる」と言える程度。公認候補って何? と言われたら、たぶんちゃんと説明できない。

 でも。

 桐生さんの顔なら、もう知っている。

 そして私は、ポスターをじっと見つめた。

「…………」

 数秒後。

「……写真写り、悪くない?」

 思わず眉間にしわが寄る。

 いや、悪い。

 絶対、実物のほうがかっこいい。

 駅前で見たときは、もっとこう……シュッとしていて、目も真剣で。

 なのに、この写真だと妙に硬い。

「盛れてない……」

 政治家の選挙ポスターを見て、女子高生が最初に考えることじゃない。

 それはわかっている。

 でも、

(実物、もっとかっこいいんだから♡)

 と、なぜか私は勝手に悔しくなっていた。

 そのとき、ポスターの下に小さな案内を見つけた。

 桐生恒一選挙事務所。

「……事務所」

 私は、その文字を見つめた。

 政治家って、ここで仕事をしてるんだ。

 そう思ったら。

「……行ってみようかな」

 口から、そんな言葉が出ていた。

 いやいや。

 何しに行くの。

 自分で自分に突っ込む。

 でも、もし何かお手伝いできることがあるなら。

 政治のことも、少しはわかるかもしれない。

 それに――。

 もう一度、桐生さんに会えるかもしれない。

 ……うん。

 最後の理由が、一番大きかった。

 そして数日後。

 本当に私は、事務所の前に立っていた。

「……来ちゃった」

 帰ろうかと思った。

 でも、ここまで来てしまった。

 私は小さく息を吸って、扉を開けた。

「あの……私、桐生さんの演説を聞いて……」

 スタッフの人が振り向く。

「政治に興味があるの?」

「……はい!」

 一瞬考えて、

「……たぶん!」

 正直すぎる返事に、自分でも笑ってしまう。

 しばらくして。

「君は、この前の駅前の……」

「!」

 出てきた桐生さんと、目が合った。

 覚えてる。

 私のこと、覚えてる!

 それだけで、胸の中が一気に明るくなる。

「私、何かお手伝いできます!」

 勢いで言った。

 桐生さんは少し驚いた顔をした。

「君が?」

「はい! チラシ配りとか、整理とか、お茶出しとか……高校生でもできます!」

 そんな私を見て、桐生さんは少し笑った。

「そうか。でも、学校を疎かにしないようにね」

「はい!」

 思っていたより、ずっと普通に話せる。

 もっと怖い人だと思っていた。

 だから、つい口にしてしまった。

「私、政治家って、もっと怖い人ばっかりだと思ってました」

「怖い?」

 桐生さんが笑う。

「私だって普通の人間だよ」

「……普通の人間」

 私は桐生さんを見る。

 背が高い。

 スーツが似合っている。

 顔も、やっぱりかっこいい。

 そして、話し方は穏やか。

(普通の人間……?)

 心の中で、そっと首を傾げる。

(いや、普通にしては格好良すぎるんだけど)

 そのとき、横にいたスタッフさんが私を見て笑った。

「じゃあ、ももちゃん。無理しない範囲でお願いね」

「……ももちゃん?」

 なんだか、ちょっと嬉しい。

 その呼び方を聞いた桐生さんが、ほんの一瞬だけ私を見る。

 でも、

「白石さん、学校もあるんだから、無理はしないように」

「はい!」

 ――白石さん。

 名前で呼ばれた。

 いや、名字だけど。

 でも。

(……認識されてる♡)

 それだけで、その日の私は十分すぎるほど幸せだった。

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