↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日、あなたの背中を見上げていた  作者: わた雲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/13

第1話 駅前に立つ、あの人

 その日、私はいつものように駅へ向かっていた。

 学校帰り。特に予定もない、普通の放課後。

 なのに、駅前まで来たところで、いつもと違う光景に足が止まった。

「……何だろ?」

 人が集まっている。

 何かのイベントかなと思って、少しだけ近づいてみる。

 すると、その人だかりの中心に――ひとりの男性が立っていた。

 スーツ姿。

 背が高くて、姿勢がきれいで。

 そして、何より。

「……え」

 思わず、声が出た。

「……なに、この人。めちゃくちゃかっこいい……」

 それが、私と桐生恒一の最初の出会いだった。

 どうやら街頭演説をしているらしい。

 政治家。

 たぶん、そういう人。

 正直に言えば、私は政治にものすごく詳しいわけじゃない。

 演説の内容だって、全部理解できたわけじゃなかった。

 難しい言葉も出てくるし、途中で「今の話、どういう意味だろう」と思ったところもある。

 なのに。

 なぜか、帰ろうとは思わなかった。

 桐生さんは、大きな声で人を煽るような話し方をしなかった。

 ただ、落ち着いた声で、自分がこの街をどうしたいのかを話していた。

「……ちゃんとしてる」

 気づけば、私はその場で聞き入っていた。

 顔が好みだったから。

 もちろん、それは大きい。

 ものすごく大きい。

 でも、それだけじゃなくて。

 この人が何を考えているのか、もう少し知りたい。

 そんな気持ちが、ほんの少しだけ生まれていた。

 ――そして、演説の途中。

 桐生さんがふと顔を上げた。

 目が合った。

「……!」

 私は固まった。

 え。

 今、こっち見た?

 見たよね?

 まさか……私?

 心臓が、急に忙しくなる。

 一方の桐生は、前方に立つ女子高生の姿を見ていた。

 制服姿。

 真剣な顔で、最後まで話を聞いている。

「……若い人も、聞いてくれているんだな」

 それだけだった。

 けれど、演説が終わり、人が少しずつ散っていっても、私はその場からすぐには動けなかった。

 もう一度、桐生さんを見る。

 スタッフと話をしている。

 さっきまで大勢の人の前に立っていた人なのに、今は少しだけ普通の人に見えた。

 ……いや。

 普通の人にしては、やっぱりかっこいい。

「……また、会えるかな」

 口にしてから、自分で恥ずかしくなった。

「なに考えてるの、私……」

 でも。

 その日の帰り道、私の頭の中には、ずっとあの人がいた。

 一方、駅前に残った桐生も、ふとさっきの女子高生を思い出していた。

「……あの子、最後まで聞いていたな」

 それだけ。

 まだ、それだけだった。

 ――少なくとも、桐生にとっては。

 私にとっては。

 もう、始まりかけていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。