数字は嘘をつかない
文化祭というと青春の象徴みたいなイベントですが、実際は予算や運営など結構リアルな問題もあります。
もし蒼真のように「そもそもそのやり方は正しいのか?」と考える人がいたらどうなるのか。
そんなことを考えながら書きました。
それでは第3話をお楽しみください。
放課後
校舎は元気な野球部の声出しで満たされているはずなのに、この一角だけは音が抜け落ちたように静かだった。
生徒会室前の掲示板
そこには文化祭の収支報告書が、何年分も並べられている。
去年・一昨年・その前の年
数字はただの記録
だが俺には、それが“癖”のように歪んで見えた
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「……やはりな」
背後から声がした。
「何してるのよ」
振り返ると桃香が立っている。
その顔には、呆れと諦めが混ざっていた。
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「本当に文化祭に首を突っ込む気?」
「もう突っ込んでいる」
「え?」
「昨日の時点で、過去三年分の収支報告書はすべて目を通した。問題は多いが、最も単純なのは一つだ。誰も数字を見ていない」
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桃香は言葉を失う。
「……あんた何者なの?」
「元王子だ」
「はいはい」
「事実だ」
「はいはい」
「何故信じようとしない?」
「信じる要素がどこにあるのよ」
「証拠ならある」
「どこ?」
俺は桃香を真っ直ぐ見た。
「この完璧な顔だ」
桃香の眉がピクリと動く。
「ムカつくから殴っていい?」
「顔だけは勘弁してくれ。将来の資産価値に関わる」
「そう」
次の瞬間だった。
グハッ!
桃香の右ストレートが俺の鳩尾を正確に捉える。
肺の中の空気が一気に押し出された。
「ぐっ……!」
俺はその場に膝をつく。
「顔は殴ってないわよ」
「そういう問題じゃない……」
桃香の右ストレートを受けながら、俺は小さく笑った。
不思議なものだ。
この痛みには覚えがないはずなのに、どこか懐かしい。
まるで昔から知っている相手に殴られたような――そんな感覚だった。
「殴られて笑ってるなんてドMなの?」
「断じて違う」
「じゃあ何よ」
「お前に殴られるのが妙に懐かしかった」
「気持ち悪いこと言わないでくれる?」
「そうか...」
桃香は呆れたようにため息を吐いた
だが俺は、どうしても気になっていた
今の感覚は何だったのか
ただの勘違い
そう片付けるには、妙に引っ掛かるものがあった。
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痛みが収まってから俺は再び資料へ視線を戻した。
数字というものは、嘘をつかない。
だが人間は、その数字の“扱い方”でいくらでも嘘をつく。
そのことを、俺はかつて嫌というほど見てきた。
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その時だった
「ふーん」
声がどこか遠い。
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確かに誰かが見ている。
だが、それが誰なのかはまだ輪郭を持たない。
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「へぇ」
再び別の声。
空気がわずかに揺れた。
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振り返ると吉村ナナが立っている。
「また変なことしてるのね」
「変かどうかは知らない。ただ数字を見ているだけだ」
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ナナの視線は掲示板ではなく俺を見ていた。
観察するような目だった。
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「で、何が分かったの?」
俺は資料の一部に指を置く。
「前提として、この文化祭は毎年赤字だ。だが改善は一度も入らない。普通ならどこかで歪みが修正されるはずだが、それが起きていない」
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「それってつまりどういう事?」
「単純な話だ」
俺は文化祭資料を閉じる。
紙の音が、やけに冷たく響いた。
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「誰も管理していないか、あるいは意図的に見ていない」
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桃香が小さく息を吐く。
ナナは何も言わないまま数字を見ている。
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「おかしいのは赤字じゃない」
「赤字が続いているのに、それを“問題として扱っていない”ことだ」
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ナナが顔を上げる。
「気づいたことはそれだけなの?」
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俺は少しだけ間を置いた。
「もう一つある」
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桃香が眉をひそめる。
「それ、言わないやつ?」
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「今はまだ言うべきではない」
「材料が揃っていない段階で結論を出せば、真実ではなく“誤差”になる」
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ナナの目が細くなる。
「随分、慎重なのね」
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「慎重ではない」
俺は静かに言う。
「あれが俺の考え過ぎならそれでいい」
「だが、もし違うならこの文化祭は思った以上に面白いことになる」
「数字は嘘をつかない。でも、人間は数字で嘘をつく」
今回書きたかったのはこの部分でした。
文化祭という身近な題材ですが、蒼真から見れば立派な経営案件です。
さて、彼が見つけた違和感は本当に勘違いなのか。
それとも――。
次回から文化祭の裏側に少しずつ踏み込んでいきます。
また読んでいただけたら嬉しいです。




