魚は針を見せたら逃げる
前回、蒼真は文化祭の収支報告書に違和感を覚えました。
数字は嘘をつきません。
ですが、その数字を扱うのは人間です。
今回は蒼真が実際に生徒会へ乗り込み、その違和感の正体を探っていきます。
果たして、それは単なる記入ミスなのか。
それとも――。
第4話をお楽しみください。
翌日
俺は生徒会室の前に立っていた
文化祭を改革すると宣言した以上、まず見るべきは現場だ
人の話<数字
感情<記録
それが一番信用できる
「なぁ桃香」
「どうしたの?」
「人は何のために働くと思う?」
「朝からその話?」
桃香が露骨に嫌そうな顔をする。
「真面目な話だ」
「知らないわよ」
「金を得るためだ」
「自分で答えるなら聞くな」
俺は首を横に振る。
「正確には生活するためだ。だが面白いことに、世の中は働くこと自体が目的になっている」
「また始まった……」
桃香が額を押さえた。
俺は気にしない。
「だから赤字の文化祭が何年も続く」
「どういう理屈よ」
「後で分かる」
そう言って生徒会室の扉に手をかけた。
前世では国家予算を握り、何百人もの貴族や官僚を相手にしてきた。
文化祭の会計確認など朝飯前だ。
ガラッ!
勢いよく扉を開く。
室内にいた生徒達の視線が一斉にこちらへ向いた。
だが気にしない。
俺は堂々と中へ入る。
「失礼する」
そして不敵に笑った。
「文化祭の赤字を潰しに来た」
「帰れ」
即答だった。
⸻
数十分後。
何だかんだ資料を見る許可を得た俺は、机に積まれた書類を眺めていた。
収支報告書・領収書・発注記録
去年・一昨年・その前の年
数字を追っていく。
そして――
「なるほどな」
俺は一枚の資料を持ち上げた
焼きそば店の材料費
領収書は十万円
だが収支報告書には十五万円と書かれている。
数字が合わない。
「何かあった?」
ナナが覗き込む。
「五万円が消えている」
生徒会室の空気が止まった。
「は?」
「いや、そんなはずは……」
「記入ミスじゃないのか?」
反論が飛ぶ。
当然だ。
普通ならそう考える。
だが。
「一年だけなら、そうも言えるが...」
俺は別の資料を机に置く。
一昨年
さらにその前
同じような誤差
そして、同じような不自然さ
偶然にしては出来過ぎている。
「誰かが間違えたか」
俺は資料を閉じる。
紙の音が静かに響いた。
「あるいは誰かが嘘をついているかだ」
⸻
その時だった。
「そんな訳ないだろ」
声が響く。
会計担当の男子生徒。
相沢修司。
彼は不機嫌そうに俺を睨んでいた。
「素人が数字を見ただけで分かった気になるな」
「文化祭運営はそんな簡単じゃない」
「お前みたいな外野が口を出すな」
随分と強い否定だ。
普通なら笑って流せばいい。
それなのに。
面白い...
実に面白い
⸻
生徒会室を出た後。
桃香が聞いてきた。
「本当に誰かが着服してると思ってるの?」
「知らん」
「じゃあ何であんなこと言ったの?」
俺は肩をすくめた。
「魚釣りは知っているか?」
「は?」
「魚は針を見せたら逃げる」
桃香が嫌そうな顔をした。
嫌な予感がしているのだろう。
正解だ。
「だから餌を食わせる」
「まさか……」
「今は泳がせる」
俺は小さく笑った。
もし本当に不正があるなら。
焦る必要はない。
むしろ焦るのは向こうだ。
⸻
その頃。
校舎の窓から一人の男が生徒会室を見下ろしていた。
「ふーん」
小さな声。
興味を持ったように試すようなそんな声だった。
男は静かに踵を返す。
まだ早い...
だが、確実に
盤面は動き始めていた。
⸻
蒼真はまだ知らない
この文化祭の裏にいる存在が、自分の前世と繋がっていることを。
そして――
それが、自分を殺した相手かもしれないことを...
第4話を読んでいただきありがとうございました。
今回は蒼真が本格的に文化祭へ介入し始めました。
違和感を見つけた瞬間に動くのではなく、あえて泳がせる。
その辺りは前世で国家運営をしていた蒼真らしい考え方かもしれません
そして、相沢の強い否定
遠くから蒼真を見つめる謎の人物。
文化祭の裏で何が起きているのか、少しずつ明らかになっていきます。
次回は蒼真がさらに深く調査を進めていく予定です。
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それでは、また次回




