隣国の王子様と街デート
爽やかな光が海の中まで降り注いでいた。絶好のデート日和である。
ミーナは、リシェラと侍女仲間たちにおめかしされて、尾びれが品良く見えるバンドゥと、桃色珊瑚とラピスラズリのチョーカー・ピアスという服装だ。
髪の毛がベビーピンクなので、普段ならピンクの装飾品をつけると子供っぽくなってしまうだが、今回はリシェラから借りたものなので、グンと大人びて見える。
侍女の仕事は明日の朝までない。
リシェラたちの魂胆はみえみえだった。
ユリアーノは待ち合わせの沈没した時計台に早めに着いていた。普段なら少し遅れるくらいがスマートと思っていたのに、予想以上に自分が浮かれているのが分かった。
「ユリアーノ様。お待たせしてしまい、申し訳ございません」
ユリアーノが声の方を見ると、エキゾチックな美女がいた。
あれ?ミーナか?あのふわふわはどこにいったんだ?というか痩せた?
「コホン。やぁミーナ。君は可愛いだけじゃなくて綺麗だったんだね」
ユリアーノがいつもの調子で言う。
「いえっそんなことないです!」
ミーナが頬を真っ赤にして否定するが、よほど照れてしまったのだろう。ツンとしたものが服越しにも分かる。
・・・うん、いつものミーナだな
「では、さっそく散策しようか」
「はいっご案内します!」
ミーナはまだ緊張しているのが、尾びれがユリアーノにぴしぴしと当たっている。まったく活きが良い。
ユリアーノは普段のご令嬢とのデートとは違い、調子が狂うなぁと思っていた。
ミーナとの散策はユリアーノの中で非常に面白い体験となった。
なぜかミーナは強い海流に煽られてユリアーノの顔に抱きついてきたり(まな板だったが抱き心地は中々)、チンピラに絡まれて服が破られてしまったり(ユリアーノが新しいものをプレゼントした)、乙女エビのカリカリ揚げが熱くて、唇を火傷して泣いていたが(しょうがないのでキスした)、心からリラックスして笑えるデートだった。
恋多き人魚だから分かる。
ユリアーノはミーナに恋している。
それも、朝焼けの海のように鮮やかで情熱的な恋になりそうだ。
キスをしたらお地蔵さんのように固まってしまったミーナの手を引き、ベンチに座る。まわりのベンチは恋人たちが座っているので、そういうスポットなのだろう。
「ミーナ、キスが嫌だったのかい?」
「っそんなことっ!そんなこと、ないです」
「じゃあなんでずっと黙っているの?」
ミーナはユリアーノにずばりと指摘され、焦った。
王子の案内役という立場なのに、迷惑ばかりかけて、そのうえダンマリは失礼過ぎる。
でも、あんなに自然にキスされたら、ミーナだって考えてしまう。
ユリアーノと付き合えたらどんなによいか
「ユリアーノ様。今までの無礼をお詫びいたします。そして、一つ質問してもよいでしょうか?」
「うん、よいよ」
「ユリアーノ様は、どんな時にキスするのですか?」
「うーーん、可愛いと思った時かな」
「可愛い人ならば、キスすると?」
「今まではそうだったよ。でも、今後はミーナしか可愛いって思えないかも」
えっっっっ
ミーナが発した言葉は、音にはなっていなかったが、波紋として周囲に伝わった。
周りのカップルたちが、なにごとかと2人を見る。
「ミーナ、これ君のブレスレットだろう」
そこには、ミーナが大切にしていたが、無くしてしまったはずのものがあった。
「大きなダンスフロアに、小さく縮こまりながら拾ってもらうのを待っていたから、拾っちゃった」
ユリアーノはミーナの手を優しく取り、ブレスレットをつけた。
「このブレスレット、わたしのです。わたしの大切な・・」
ミーナは言葉にならない熱い思いが込み上げてきた。いつかリシェラが言っていた。砂漠に落ちた一粒の真珠を見つけてくれた人が初恋の人だと。ミーナもそうだ。
「わたし、ユリアーノ様のことが」
「ストップ。僕から言わせてくれ。ミーナ、好きだよ。世界で一番可愛く見える。僕のラッキーの女神様」
「わたしもっ、好きですっ!」
ラッキーの女神様というのは謎だったが、ミーナはさきほど感じた想いが恋だと分かった。
さぁっとユリアーノが2人きりになって甘い時間を過ごそうと腰を上げると、周りで見ていたカップルたちが寄ってきた。
「お2人とも!おめでとうございます!!今日はパーティーですね!!」
えっっっっ
ユリアーノの言葉は声にならず、また波紋にもならずに誰にも伝わらなかった。
おめでたい日は夜通しダンスパーティーが人魚の醍醐味である。周りのカップルたちを巻き込んで(巻き込まれて)、朝方まで踊ったのは、ユリアーノにとって予想外のいい思い出だった。
宮殿に帰ったミーナは、行きと洋服が違うし、へろへろだしでリシェラたちに事情聴取されたのはご愛嬌である。
次回の投稿は12/15(金)です。
よろしくお願いします!




