宰相補佐殿の嫉妬
最近爪を噛んでしまう
宰相補佐室で、この数ヶ月は働き詰めだった。屋敷にも戻らず、仕事机と添い寝の日々だ。
リシェラとマリオンの結婚は想定の範囲だったが、他国の王族が残ってリシェラに色目を使っているのがシエルの癇に障った。
どんなに仕事が忙しくても、リシェラに関する情報は事欠かないようにしている。
ユリアーノは自国で来るもの拒まず去るもの追わずの自由恋愛をしていた男だ。そんな軽率な男がリシェラの周りにいるのが気に触る。
考えるだけ無駄だ。まだ自分のものではないし、そもそも世間が追っておくわけがないのだ。美貌の花嫁を。
カリっと爪を噛み、傍の石板を読んでいく。
人々から愛され、彩られた日常を送り、体の中に宝石を秘めたように麗しい姫君が恋しかった。
石板は一定の速度で右から左へと処理されていった。
「あら、爪が欠けちゃってますね」
リシェラと城内でばったり会ったのは、仕事をひと段落させて、体を動かしに庭園にでた時だった。
シエルはいつも爪を短く揃えている。そこからさらに噛んでほんのわずかに短くなったことにリシェラは気づいたのだ。
あなたは残酷だ
私の爪のひとかけらすら見ているのに、この渦のように大きくなった気持ちを見てもくれないのだから
仕事で疲れているのか、暗いもやがシエルの心にわいてきた。いや、リシェラのことを考える時はいつも暗い影のような気持ちが付きまとう。崇拝する光が明るいほどに影は濃いのだ。
それは表情にもでていたのか、珊瑚の影になっているベンチへと連れて行かれた。心配そうな表情とは裏腹に、日陰でも分かるほど頭の先から尾の先まで艶めいている。
シエルの中の暗いもやはいっそう濃くなった。だからこそ、離すわけがなかった。
リシェラを優しく額から頬にかけてなぞる。拒絶はなかった。そのことが、どれだけシエルを救っていることだろうか。豊かな髪に口付けして、この一房でさえも愛しいといったようにぐっと眉根を寄せる。海に磨かれた、キメの細かい肌を尾びれにむかってそっと撫でていく。
なんて心地よいのだろう
そのままぬばたまの夢に2人で迷い込んでゆく。




