巡る巡るダンスパーティー
ユリアーノはリシェラに近くにはどうしたらよいかと考えた。
この人気では一緒にダンスできるかすら怪しかった。もともと国賓で招待され、そのままバカンスを楽しむ予定だった。
王宮に滞在中に、じっくりと口説こうか。
リシェラを観察していると、ダンスの合間に甲斐甲斐しく世話をしている女性が3人いたので、ベビーピンクの髪色をした女性に話しかけることにした。
「はじめまして。お嬢様。私はセルリアンブルーの海のユリアーノです。よろしければ踊ってくださいませんか。」
「わっわたくしでしょうか。失礼ながら、リシェラ様ではなく?」
「リシェラ様とは確かに踊りたいのですが・・・すごく人気のようなので・・・」
ユリアーノは困った顔で、相手の瞳をじっと見つめた。これで女性相手に承諾をもらえなかったことはない。
「承知しました。では曲が変わるまで、私と踊っていただけますでしょうか。」
情熱的なメロディがフロアに流れている。身体を擦り合わせるようにダンスする曲だ。たくさんの尾びれを縫って踊りだす。
ユリアーノは耳元で「お名前は?」「リシェラ様のそば付きなのですか?」「ベビーピンクの髪がよく似合って可愛らしい」などと囁く。
ミーナは「名前はミーナです」「そば付きです」「そんなことないです」と一問一答で返事をするので精一杯の様子だった。
曲が終わったので、ばっとユリアーノから離れて、ミーナはリシェラのところへ泳いでゆく。次の曲でユリアーノと踊ってほしいと言いにいったのだろう。慌てていたのでブレスレットが外れてしまったのも気付かなかったようだ。ユリアーノはブレスレットを自分の懐にしまう。
今度はゆったりとしたメロディが流れだした。
「リシェラ様、本日はおめでとうございます。」
「ありがとうございます、ユリアーノ王子。しばらくご滞在されると伺いました」
「そうなのです。本日見たところだけでも王宮の絢爛さに魅了されてしまいました」
「まぁ!そうでしたの。もし機会があれば王族の庭を案内しますわ」
ユリアーノが思い描いた通りに会話が進んだ。あとはこの時間を堪能すれば良い。
本当に麗しい姫君で、ぷくっとした口から発せられる声も鈴が転がるようだ。
ゆったりとした曲なのに、尾びれがたっぷりとしているからユリアーノの尾びれに当たってしまっている。
本来なら相手を誘う行為だが、この純粋そうなお姫様に限ってそんなことはないだろう。
ユリアーノは素知らぬ顔をして尾びれを当て返す。それだけで少年のようにときめいてしまうのだった。
ミーナは突然自分に当たったスポットライトにドクンとした。パーティー初日に初対面の男性に声をかけられたのだ。しかもイケメンである。この場にいるということは、外国の貴族であろうか。まさか自分目当てではないだろうと思ったが、ダンスを申し込まれてしまった。
あわわわ、どうしよう
一緒にフロアに出た。扇情的な曲がかかっている。なぜ今この曲なのか。ミーナは必死に相手に失礼のないように、くねくねと器用に尾びれを動かした。
ユリアーノは涼しげな目元をしながら長い尾びれで踊っている。線の通った鼻筋と、薄い唇が弧を描いていて、余裕そうだ。
音楽が止まり一礼をしたらぴゅんっと鉄砲魚のようにリシェラのところへいき、ユリアーノと踊ってほしい旨を伝えた。順番待ちの人がいたが、頭がいっぱいで見えていなかった。
リシェラはミーナのお願いなので、快く次の曲はユリアーノと踊った。
マリオンと第一王子のトリオンは、横目でリシェラの様子を見つつ話をしていた。リシェラは次々とダンスを申し込まれて、待機の列ができているようだった。
そりゃ、そうだよな・・・
幸福な花婿は冷静にそれを見つめた。ほとんどの外国の使節団は今日初めてリシェラの顔を知っただろう。国に連れて帰れないならせめて一緒に踊りたいというのは理解できる。
マリオンがプレゼントした衣装は似合っていた。もちろんリシェラの美しさを引き立てる要素でしかないが。
幼かった妹が、1人の女性としてマリオンの恋心を熟れさせていく。
「放っておくと、持って行かれてしまうかもしれないぞ」
「分かっている」
ダンスパーティーは3日間続くが、今日はここでリシェラと退散して、あとは2人で部屋に閉じこもっているつもりだった。もうひとかけらも周りに見せたくない。
ダンスの待機者の列は無視して、リシェラの手を取って退場した。




